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No.9 死に至る病
File:2 遭遇
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二日後。昨日一日ですっかり元気になったジョセフ君の様子を見て、協会の退魔師も『もう問題は無い』と判断したらしく、私達は無事、日本観光……と言うよりは、京都観光の旅へ繰り出した。
「ジョセフ君。なんか『SAMURAI』って書かれたシャツが売ってるよ」
「……迷うな」
「『買おう』って言ってる訳じゃないからね?」
「じゃあスルーだ。予算は限られてる」
私の中で、日本の観光地と言えば京都だ。勿論人によって違うだろうが、ここは日本古来の文化が感じられる建物が多い。日本のわびさびなる美を鑑賞するのには良い場所だろう。
「次は……銀閣見に行くか?」
「そうだね。あそこは是非一度行きたかったんだ」
「予算だけじゃなく時間も限られてるしな……行先は後悔の無いよう選ぼう」
「土産物を買う余裕は無いか……」
「誰に渡すんだよ」
渡したい相手なら居るんだが……まぁ、暫くは渡せないか。まさしく断腸の思いだが、今の所は諦めよう。全部終わった後私がまだ生きてるようなら、その時に買うでもまだ遅くはないだろう。
休日の観光地というだけはあり、人はそこそこ多い。大型連休と重なっている訳でもないんだろうが……しかしまぁ、思ったよりは外国人の姿がある。人が多いのは面倒だが、私達が外国人という特徴の為に目立たないのは、多少嬉しい側面もある。
「バスはいつ出るんだい?」
「時刻表を見る限り、多少の余裕はある。時間も丁度良いし、軽く昼食でも買うか?」
「まだ早いかな。それよりこの辺りを少し歩いてみようじゃないか。面白い物が無いとも限らない」
「そうだな。じゃあ取り敢えず……」
そうジョセフ君が話し始めた時、私は何故か、見覚えのある誰かを見掛けた……ような気がした。人混みの向こう側に、見覚えのある色の髪を見た。しかし振り返ると、直ぐに観光客で視界が遮られ、直ぐに何も見えなくなる。
「……ソフィア?どうした?」
「いや、今あそこに……」
ジョセフ君の問いに答えながら、先程まで視線を向けていた場所を指差そうとした時には、既にその場所から、見覚えのある人影は消えていた。周囲を見回してみても、どこにもその後ろ姿は無い。
「……大丈夫か?」
「うぅむ……どうやらただの見間違いのようだ。気にしないでくれ」
「そうか?それなら良いんだが……」
「済まなかったね。じゃあ気を取り直して、京都観光の続きと行こう」
夜。無事に休日を堪能した私達は、一日の締め括りにと訪れた伏見稲荷大社を歩いていた。無数の鳥居という独特な景観に、夜の静けさと暗さが相まって、何やら不気味な雰囲気を醸し出している。
「圧巻の景色だな……」
「どっちの意味でかな?」
「多分両方だ」
「心霊系ホラー映画の世界に飛び込んだ気分だよ」
「そろそろ黒い長髪に白い着物の女が出て来る頃合いか?」
「異様に背の高い女性かも」
「冗談じゃねぇな」
「全くだ」
どうせなら一番上までと思っていたが、ここら辺で引き返すのも良いかも知れない。と言うかそろそろ引き返したい。ただの人間の私の体力では、丸一日歩き回った後にこの上り坂は中々厳しい物がある。行きたかった所に一通り行けたのは良いが、流石に疲れてしまった。
しかし、本当に静かだ。この時間じゃ当たり前かも知れないが、それにしても静か過ぎる気がしてしまう。いくら夜中と言っても、有名な観光地だ。私達以外誰も居ないというのは、些か……
その瞬間、視界の端にまたも、見覚えのある色の髪が現れた。振り返ると、その人影は既に走り出していた。
「ソフィア!?」
「済まない!すぐ戻るから!」
「はぁ!?ちょっと待てって……!」
その人物が私が思う人物かも分からないまま、私は走り出した。私の遥か前を走るその人影は、こちらを振り向く事もなく、ただ走り続けている。
「待ってくれ!」
呼び掛けるが、返事は来ない。どころか、反応すらしない。『捕まえてみろ』という事だろうか。
しかしその考えはどうやら外れていたらしく、一分程追いかけっこを続けた後、その人影は足を止めた。私も同じように足を止め、呼吸を整えてから、その人影の肩に手を置く。その人影は振り返り、私と目を合わせる。
あぁやはり、私が思っていた人間だ。見間違える筈も無い。数え始めるのすら億劫な程の回数の休日を、共に過ごして来た無二の友なのだから。そうだろう?
「……エラニ」
彼女は何も言わない。ただこちらを見つめているだけで、何も言おうとはしない。
「何で、ここに居るんだい?」
彼女は微笑みを浮かべ、肩に置かれた私の手に、自分の手を重ねる。そしてその瞬間、私は背筋が凍り、全身から血の気が引くような、それこそ、ホラー映画の世界に入り込んだような感覚を味わう事となった。
「エラニ……何故君が、魔力を持っているんだい?」
彼女は魔術師ではなかった筈だ。それは彼女と過ごした長い期間、一度も彼女から魔術師になれるだけの魔力を感じなかったからだ。だが事実、彼女は魔力を持っている。それも、ダイアモンドクラスの魔術師と遜色無い程の。まさか彼女も私と同じように、常日頃から魔力を隠して生活していたとでも言うのか?
声が出せない。喉の奥が渇くような、頭の奥で何かが叫んでいるような……エラニはただ一言、「ごめんね」とだけ言って、私の手を払った。
「エ……エラニ……」
「ごめんね。ソフィア。私ずっと隠してたんだ。私も、魔術師だったんだよ。一応有名だから、名前位は知ってるよね」
「私は魔術師『黒猫』。今日はソフィアを……『絵画泥棒』を殺しに来たんだ。覚悟してね」
私はようやく、私よりはるかに機敏に動ける筈のジョセフ君が、未だに追い付いて来ない事への違和感を覚えた。
「ジョセフ君。なんか『SAMURAI』って書かれたシャツが売ってるよ」
「……迷うな」
「『買おう』って言ってる訳じゃないからね?」
「じゃあスルーだ。予算は限られてる」
私の中で、日本の観光地と言えば京都だ。勿論人によって違うだろうが、ここは日本古来の文化が感じられる建物が多い。日本のわびさびなる美を鑑賞するのには良い場所だろう。
「次は……銀閣見に行くか?」
「そうだね。あそこは是非一度行きたかったんだ」
「予算だけじゃなく時間も限られてるしな……行先は後悔の無いよう選ぼう」
「土産物を買う余裕は無いか……」
「誰に渡すんだよ」
渡したい相手なら居るんだが……まぁ、暫くは渡せないか。まさしく断腸の思いだが、今の所は諦めよう。全部終わった後私がまだ生きてるようなら、その時に買うでもまだ遅くはないだろう。
休日の観光地というだけはあり、人はそこそこ多い。大型連休と重なっている訳でもないんだろうが……しかしまぁ、思ったよりは外国人の姿がある。人が多いのは面倒だが、私達が外国人という特徴の為に目立たないのは、多少嬉しい側面もある。
「バスはいつ出るんだい?」
「時刻表を見る限り、多少の余裕はある。時間も丁度良いし、軽く昼食でも買うか?」
「まだ早いかな。それよりこの辺りを少し歩いてみようじゃないか。面白い物が無いとも限らない」
「そうだな。じゃあ取り敢えず……」
そうジョセフ君が話し始めた時、私は何故か、見覚えのある誰かを見掛けた……ような気がした。人混みの向こう側に、見覚えのある色の髪を見た。しかし振り返ると、直ぐに観光客で視界が遮られ、直ぐに何も見えなくなる。
「……ソフィア?どうした?」
「いや、今あそこに……」
ジョセフ君の問いに答えながら、先程まで視線を向けていた場所を指差そうとした時には、既にその場所から、見覚えのある人影は消えていた。周囲を見回してみても、どこにもその後ろ姿は無い。
「……大丈夫か?」
「うぅむ……どうやらただの見間違いのようだ。気にしないでくれ」
「そうか?それなら良いんだが……」
「済まなかったね。じゃあ気を取り直して、京都観光の続きと行こう」
夜。無事に休日を堪能した私達は、一日の締め括りにと訪れた伏見稲荷大社を歩いていた。無数の鳥居という独特な景観に、夜の静けさと暗さが相まって、何やら不気味な雰囲気を醸し出している。
「圧巻の景色だな……」
「どっちの意味でかな?」
「多分両方だ」
「心霊系ホラー映画の世界に飛び込んだ気分だよ」
「そろそろ黒い長髪に白い着物の女が出て来る頃合いか?」
「異様に背の高い女性かも」
「冗談じゃねぇな」
「全くだ」
どうせなら一番上までと思っていたが、ここら辺で引き返すのも良いかも知れない。と言うかそろそろ引き返したい。ただの人間の私の体力では、丸一日歩き回った後にこの上り坂は中々厳しい物がある。行きたかった所に一通り行けたのは良いが、流石に疲れてしまった。
しかし、本当に静かだ。この時間じゃ当たり前かも知れないが、それにしても静か過ぎる気がしてしまう。いくら夜中と言っても、有名な観光地だ。私達以外誰も居ないというのは、些か……
その瞬間、視界の端にまたも、見覚えのある色の髪が現れた。振り返ると、その人影は既に走り出していた。
「ソフィア!?」
「済まない!すぐ戻るから!」
「はぁ!?ちょっと待てって……!」
その人物が私が思う人物かも分からないまま、私は走り出した。私の遥か前を走るその人影は、こちらを振り向く事もなく、ただ走り続けている。
「待ってくれ!」
呼び掛けるが、返事は来ない。どころか、反応すらしない。『捕まえてみろ』という事だろうか。
しかしその考えはどうやら外れていたらしく、一分程追いかけっこを続けた後、その人影は足を止めた。私も同じように足を止め、呼吸を整えてから、その人影の肩に手を置く。その人影は振り返り、私と目を合わせる。
あぁやはり、私が思っていた人間だ。見間違える筈も無い。数え始めるのすら億劫な程の回数の休日を、共に過ごして来た無二の友なのだから。そうだろう?
「……エラニ」
彼女は何も言わない。ただこちらを見つめているだけで、何も言おうとはしない。
「何で、ここに居るんだい?」
彼女は微笑みを浮かべ、肩に置かれた私の手に、自分の手を重ねる。そしてその瞬間、私は背筋が凍り、全身から血の気が引くような、それこそ、ホラー映画の世界に入り込んだような感覚を味わう事となった。
「エラニ……何故君が、魔力を持っているんだい?」
彼女は魔術師ではなかった筈だ。それは彼女と過ごした長い期間、一度も彼女から魔術師になれるだけの魔力を感じなかったからだ。だが事実、彼女は魔力を持っている。それも、ダイアモンドクラスの魔術師と遜色無い程の。まさか彼女も私と同じように、常日頃から魔力を隠して生活していたとでも言うのか?
声が出せない。喉の奥が渇くような、頭の奥で何かが叫んでいるような……エラニはただ一言、「ごめんね」とだけ言って、私の手を払った。
「エ……エラニ……」
「ごめんね。ソフィア。私ずっと隠してたんだ。私も、魔術師だったんだよ。一応有名だから、名前位は知ってるよね」
「私は魔術師『黒猫』。今日はソフィアを……『絵画泥棒』を殺しに来たんだ。覚悟してね」
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