怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

文字の大きさ
117 / 153
No.9 死に至る病

File:2 遭遇

しおりを挟む
 二日後。昨日一日ですっかり元気になったジョセフ君の様子を見て、協会の退魔師も『もう問題は無い』と判断したらしく、私達は無事、日本観光……と言うよりは、京都観光の旅へ繰り出した。
「ジョセフ君。なんか『SAMURAI』って書かれたシャツが売ってるよ」
「……迷うな」
「『買おう』って言ってる訳じゃないからね?」
「じゃあスルーだ。予算は限られてる」
 私の中で、日本の観光地と言えば京都だ。勿論人によって違うだろうが、ここは日本古来の文化が感じられる建物が多い。日本のわびさびなる美を鑑賞するのには良い場所だろう。
「次は……銀閣見に行くか?」
「そうだね。あそこは是非一度行きたかったんだ」
「予算だけじゃなく時間も限られてるしな……行先は後悔の無いよう選ぼう」
「土産物を買う余裕は無いか……」
「誰に渡すんだよ」
 渡したい相手なら居るんだが……まぁ、暫くは渡せないか。まさしく断腸の思いだが、今の所は諦めよう。全部終わった後私がまだ生きてるようなら、その時に買うでもまだ遅くはないだろう。
 休日の観光地というだけはあり、人はそこそこ多い。大型連休と重なっている訳でもないんだろうが……しかしまぁ、思ったよりは外国人の姿がある。人が多いのは面倒だが、私達が外国人という特徴の為に目立たないのは、多少嬉しい側面もある。
「バスはいつ出るんだい?」
「時刻表を見る限り、多少の余裕はある。時間も丁度良いし、軽く昼食でも買うか?」
「まだ早いかな。それよりこの辺りを少し歩いてみようじゃないか。面白い物が無いとも限らない」
「そうだな。じゃあ取り敢えず……」
 そうジョセフ君が話し始めた時、私は何故か、見覚えのある誰かを見掛けた……ような気がした。人混みの向こう側に、見覚えのある色の髪を見た。しかし振り返ると、直ぐに観光客で視界が遮られ、直ぐに何も見えなくなる。
「……ソフィア?どうした?」
「いや、今あそこに……」
 ジョセフ君の問いに答えながら、先程まで視線を向けていた場所を指差そうとした時には、既にその場所から、見覚えのある人影は消えていた。周囲を見回してみても、どこにもその後ろ姿は無い。
「……大丈夫か?」
「うぅむ……どうやらただの見間違いのようだ。気にしないでくれ」
「そうか?それなら良いんだが……」
「済まなかったね。じゃあ気を取り直して、京都観光の続きと行こう」


 夜。無事に休日を堪能した私達は、一日の締め括りにと訪れた伏見稲荷大社を歩いていた。無数の鳥居という独特な景観に、夜の静けさと暗さが相まって、何やら不気味な雰囲気を醸し出している。
「圧巻の景色だな……」
「どっちの意味でかな?」
「多分両方だ」
「心霊系ホラー映画の世界に飛び込んだ気分だよ」
「そろそろ黒い長髪に白い着物の女が出て来る頃合いか?」
「異様に背の高い女性かも」
「冗談じゃねぇな」
「全くだ」
 どうせなら一番上までと思っていたが、ここら辺で引き返すのも良いかも知れない。と言うかそろそろ引き返したい。ただの人間の私の体力では、丸一日歩き回った後にこの上り坂は中々厳しい物がある。行きたかった所に一通り行けたのは良いが、流石に疲れてしまった。
 しかし、本当に静かだ。この時間じゃ当たり前かも知れないが、それにしても静か過ぎる気がしてしまう。いくら夜中と言っても、有名な観光地だ。私達以外誰も居ないというのは、些か……
 その瞬間、視界の端にまたも、見覚えのある色の髪が現れた。振り返ると、その人影は既に走り出していた。
「ソフィア!?」
「済まない!すぐ戻るから!」
「はぁ!?ちょっと待てって……!」
 その人物が私が思う人物かも分からないまま、私は走り出した。私の遥か前を走るその人影は、こちらを振り向く事もなく、ただ走り続けている。
「待ってくれ!」
 呼び掛けるが、返事は来ない。どころか、反応すらしない。『捕まえてみろ』という事だろうか。
 しかしその考えはどうやら外れていたらしく、一分程追いかけっこを続けた後、その人影は足を止めた。私も同じように足を止め、呼吸を整えてから、その人影の肩に手を置く。その人影は振り返り、私と目を合わせる。
 あぁやはり、私が思っていた人間だ。見間違える筈も無い。数え始めるのすら億劫な程の回数の休日を、共に過ごして来た無二の友なのだから。そうだろう?

「……エラニ」

 彼女は何も言わない。ただこちらを見つめているだけで、何も言おうとはしない。
「何で、ここに居るんだい?」
 彼女は微笑みを浮かべ、肩に置かれた私の手に、自分の手を重ねる。そしてその瞬間、私は背筋が凍り、全身から血の気が引くような、それこそ、ホラー映画の世界に入り込んだような感覚を味わう事となった。
「エラニ……何故君が、?」
 彼女は魔術師ではなかった筈だ。それは彼女と過ごした長い期間、一度も彼女から魔術師になれるだけの魔力を感じなかったからだ。だが事実、彼女は魔力を持っている。それも、ダイアモンドクラスの魔術師と遜色無い程の。まさか彼女も私と同じように、常日頃から魔力を隠して生活していたとでも言うのか?
 声が出せない。喉の奥が渇くような、頭の奥で何かが叫んでいるような……エラニはただ一言、「ごめんね」とだけ言って、私の手を払った。
「エ……エラニ……」
「ごめんね。ソフィア。私ずっと隠してたんだ。私も、魔術師だったんだよ。一応有名だから、名前位は知ってるよね」

「私は魔術師『黒猫』。今日はソフィアを……『絵画泥棒』を殺しに来たんだ。覚悟してね」

 私はようやく、私よりはるかに機敏に動ける筈のジョセフ君が、未だに追い付いて来ない事への違和感を覚えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

沢田くんはおしゃべり

ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!! 【あらすじ】 空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。 友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。 【佐藤さん、マジ天使】(心の声) 無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす! めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨ エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!) エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

処理中です...