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神章
神三十一章 世界に色を垂らす魔女
私は何を見ている?先程まで無敵かのように感じられた怪物が、今はまるで蟻か何かのように弄ばれている。腕をもがれ、足を潰され、地面に倒れていたそれの頭の上で、押さない子供が楽しそうに足元のそれを指で突いている。
「ふ~ん。再生にも限界があるんだ……やっぱり面白い生き物だね」
何が起こったか理解できない。ライラが虚空へ手を伸ばすだけで怪物の動きが止まり、握るだけで怪物の足が、腕が潰れる。あの子がこの世の全てを規定するような現象が起こり続ける。
だが……不味い。もう直ぐ十分経つ。その後ライラがあのような力を行使できるとも限らない。
「ライラ!早く殺せ!」
「えぇ~もう少しだけ遊ばせてよお姉さ~ん」
これだから子供は苦手なんだ!話し方に大きな変化が見られないせいで勘違いしそうになるが、この子の中身は見た目通りの五歳児という訳か。
「ダメだ!早く……!」
「うるさいなぁ」
苛立ったライラが口の前に人差し指を立てると、言葉が出て来なくなった。口を噤まされた訳でもなく、喉を潰された訳でもない。ただ、私の周囲から一切の音が消えただけだ。
懐中時計を見る。のこり十秒も無い。やるしかない。私はすぐさま魔術を展開する。魔術で合成した鉛等の合金を、膨らみのある細長い円錐に形成。風、炎で回転、加速させる。
「え~メンド……」
『面倒臭い』。そう言い掛けただろう瞬間に、ライラの様子が変わった。魔力の膜……いや、繭に近い物に包まれた。そして同時に、私の周囲へ音が帰って来る。十分経った……!不味い。まだ怪物が生きている。ライラが元に戻った後、先程までと同じように怪物を圧倒できる保証は無い。
「『ブレイト』!」
先程の工程を五秒掛けて終わらせ、発射する。私が開発した中で最も貫通力のある魔術。人の形をとっているんだ。心臓の位置は大体想像がつく。消耗した今なら攻撃が通る望みも無くはない。再生もほぼ消えてる。これで突破口を作り出す。
「エイギル!キース!」
放たれた弾丸は狙い通り、体表に穴を開けた。二人はその穴へ向けて突撃して行く。
こういう硬くて巨大な奴の相手をする時は、体内から攻めるのが王道だ。体表が固い鱗に覆われていようと魔術で防御していようと、内臓まで硬い奴はほぼ居ない。一度体内に入り込んでから、心臓を潰す。再生が無くなった今、コイツはその王道で殺せる相手……だった。
エイギルとキースが傷口へ追撃する、その直前の事だった。怪物の傷口が塞がり始めた。それに怯んだ一瞬で、怪物は起き上がり、同時に触手で周囲を薙ぎ払う。当然、避けようの無い二人はそれぞれ吹き飛ばされ、壁に激突する。
「がっ……!」「く……っ!」
コイツは消耗し、再生できなくなった訳ではなかった。油断を誘い、隙を突く為に、わざと再生しなかったのか。さっきのが心臓まで到達しなかった以上、私たちではコイツを殺せない。この部屋から伸びる通路も見当たらない。逃げられない。
ならば時間稼ぎ……と、そう判断するのすら遅かった。怪物は先程までよりも数段速く動き、私の体を壁まで弾き飛ばした。咄嗟に構築しら防御魔術によって致命傷こそ免れたが、それでも次の怪物の行動に対応できない程の隙が生まれる。
何度目かも分からない走馬灯が思考を埋め尽くす。私の体はひとりでに防御用の魔術を展開し始めるが、その壁すらも突き破り、怪物の追撃が眼前へ迫る。
「あぁダメだよ。この人殺すのは」
しかしそれが私へ届く寸前で、触手はまたも消え去った。その断面はやはり、何かに食いちぎられたように歯型が付いている。そして私の眼前には、消し飛んだ触手の代わりに一人の少女が……ライラが空中に佇んでいた。
「遅い。十分で戻るという話だったろう」
「いやごめんね。感覚を調律してたら遅くなっちゃった。でもこれで、私も戦えるよ」
「……次はちゃんと殺してくれよ」
「ごめんて。傷と消費した魔力治しとくから許して。他の二人の分も」
そうライラが行った瞬間に、全身の痛みが消えた。確認すると、先程までの攻撃で負った傷が全て消えていた。魔力も万全の状態まで回復している。これが本来この子が使う魔法なのか……
「じゃ、自衛とかはよろしく」
そうライラが呟くのと、その姿が煙のように消えたのはほぼ同時の事だった。驚き、怪物の方へ焦点を合わせた頃には、既にライラは怪物の胸の前に移動していた。そして次の瞬間、怪物の胸が抉れ始める。
怪物は何とも形容しがたい断末魔を放ちながら、自身の胸を抉る少女を殺そうと攻撃する。しかしそれらが少女の体を捉える事は無く、ただ食いちぎられるように消えて行く。
そこから二秒も経たない内に、怪物の胸に大きく穴が空いた。怪物の亡骸は力なく地面に倒れ、高く土煙を上げる。そしてそれを意に介さず、ライラは空中で淡く光を放っている。
「ははっ……」
これが魔法使い……古い資料に残るそれよりもよっぽど無法だ。アレを殺そうと考えていた頃を嘲るように笑いを零しながら、私は自分がいかに無力かを悟った。
「ふ~ん。再生にも限界があるんだ……やっぱり面白い生き物だね」
何が起こったか理解できない。ライラが虚空へ手を伸ばすだけで怪物の動きが止まり、握るだけで怪物の足が、腕が潰れる。あの子がこの世の全てを規定するような現象が起こり続ける。
だが……不味い。もう直ぐ十分経つ。その後ライラがあのような力を行使できるとも限らない。
「ライラ!早く殺せ!」
「えぇ~もう少しだけ遊ばせてよお姉さ~ん」
これだから子供は苦手なんだ!話し方に大きな変化が見られないせいで勘違いしそうになるが、この子の中身は見た目通りの五歳児という訳か。
「ダメだ!早く……!」
「うるさいなぁ」
苛立ったライラが口の前に人差し指を立てると、言葉が出て来なくなった。口を噤まされた訳でもなく、喉を潰された訳でもない。ただ、私の周囲から一切の音が消えただけだ。
懐中時計を見る。のこり十秒も無い。やるしかない。私はすぐさま魔術を展開する。魔術で合成した鉛等の合金を、膨らみのある細長い円錐に形成。風、炎で回転、加速させる。
「え~メンド……」
『面倒臭い』。そう言い掛けただろう瞬間に、ライラの様子が変わった。魔力の膜……いや、繭に近い物に包まれた。そして同時に、私の周囲へ音が帰って来る。十分経った……!不味い。まだ怪物が生きている。ライラが元に戻った後、先程までと同じように怪物を圧倒できる保証は無い。
「『ブレイト』!」
先程の工程を五秒掛けて終わらせ、発射する。私が開発した中で最も貫通力のある魔術。人の形をとっているんだ。心臓の位置は大体想像がつく。消耗した今なら攻撃が通る望みも無くはない。再生もほぼ消えてる。これで突破口を作り出す。
「エイギル!キース!」
放たれた弾丸は狙い通り、体表に穴を開けた。二人はその穴へ向けて突撃して行く。
こういう硬くて巨大な奴の相手をする時は、体内から攻めるのが王道だ。体表が固い鱗に覆われていようと魔術で防御していようと、内臓まで硬い奴はほぼ居ない。一度体内に入り込んでから、心臓を潰す。再生が無くなった今、コイツはその王道で殺せる相手……だった。
エイギルとキースが傷口へ追撃する、その直前の事だった。怪物の傷口が塞がり始めた。それに怯んだ一瞬で、怪物は起き上がり、同時に触手で周囲を薙ぎ払う。当然、避けようの無い二人はそれぞれ吹き飛ばされ、壁に激突する。
「がっ……!」「く……っ!」
コイツは消耗し、再生できなくなった訳ではなかった。油断を誘い、隙を突く為に、わざと再生しなかったのか。さっきのが心臓まで到達しなかった以上、私たちではコイツを殺せない。この部屋から伸びる通路も見当たらない。逃げられない。
ならば時間稼ぎ……と、そう判断するのすら遅かった。怪物は先程までよりも数段速く動き、私の体を壁まで弾き飛ばした。咄嗟に構築しら防御魔術によって致命傷こそ免れたが、それでも次の怪物の行動に対応できない程の隙が生まれる。
何度目かも分からない走馬灯が思考を埋め尽くす。私の体はひとりでに防御用の魔術を展開し始めるが、その壁すらも突き破り、怪物の追撃が眼前へ迫る。
「あぁダメだよ。この人殺すのは」
しかしそれが私へ届く寸前で、触手はまたも消え去った。その断面はやはり、何かに食いちぎられたように歯型が付いている。そして私の眼前には、消し飛んだ触手の代わりに一人の少女が……ライラが空中に佇んでいた。
「遅い。十分で戻るという話だったろう」
「いやごめんね。感覚を調律してたら遅くなっちゃった。でもこれで、私も戦えるよ」
「……次はちゃんと殺してくれよ」
「ごめんて。傷と消費した魔力治しとくから許して。他の二人の分も」
そうライラが行った瞬間に、全身の痛みが消えた。確認すると、先程までの攻撃で負った傷が全て消えていた。魔力も万全の状態まで回復している。これが本来この子が使う魔法なのか……
「じゃ、自衛とかはよろしく」
そうライラが呟くのと、その姿が煙のように消えたのはほぼ同時の事だった。驚き、怪物の方へ焦点を合わせた頃には、既にライラは怪物の胸の前に移動していた。そして次の瞬間、怪物の胸が抉れ始める。
怪物は何とも形容しがたい断末魔を放ちながら、自身の胸を抉る少女を殺そうと攻撃する。しかしそれらが少女の体を捉える事は無く、ただ食いちぎられるように消えて行く。
そこから二秒も経たない内に、怪物の胸に大きく穴が空いた。怪物の亡骸は力なく地面に倒れ、高く土煙を上げる。そしてそれを意に介さず、ライラは空中で淡く光を放っている。
「ははっ……」
これが魔法使い……古い資料に残るそれよりもよっぽど無法だ。アレを殺そうと考えていた頃を嘲るように笑いを零しながら、私は自分がいかに無力かを悟った。
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