Two Runner

マシュウ

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ハロー!異世界!

異世界での始めて

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「すいませんでした!」

「いえ……いいえですよ」

「いえいえ!この通り!すみませんでしたぁぁぁぁ!!」

「あうぅぅ……」

「馬鹿な兄がすみませんでしたぁぁぁぁ!!」

「すいませんでしたぁぁぁぁ!」

 と、兄の上着を貸して着させられた少女はオロオロとしていた。

「いいですよ……私も勘違いしてたんだから……」

「「……ありがとうございまっす!」」

 二人は頭を深々と下がると、

「さて……それはそうと……彼女たちを一体どうするべきか……」

 兄はそう言って虚ろな目をこちらに向ける女性たちに身を向けた。

「安楽死……がオッケーなら、かいしゃくぐらいするんだけど……俺としては生きてて欲しいしなぁ……」

「いや、どっちやねん」

 兄の頭を軽く叩きながら弟は突っ込んだ。

「うーむ、一人一人聞いていくしかなキョーーン!」

 ブオン!

 と、音がして兄がついさっきそこに立っていたところから消えた。

「にーちゃん!?いつの間にそんな技を!?」

「馬鹿野郎!後ろ後ろ!」

 兄はそう言って弟の後ろから大剣を振り下ろそうとしている、巨大なゴブリンの剣を拳で叩き折った。

「おわっちゃー!あっぶねー!サンキューにーちゃん!?」

「気をつけろ!馬鹿野郎!二人でチャオるぞ!」

「にーちゃんガノンで俺スネクるな!」

「リモコンミサイルは使えねぇからソレしかねぇよ!」

「じゃあデップー行きまーす!」

「しょーみーゆあむーぶす!」

 そう言って兄弟は巨大ゴブリン達に立ち向かった。

「貴方はどこか安全な場所へ!彼女達を連れて!」

「は、はい!」

 そう言って彼女は自分と同じようにされていた女性達の手枷を外した。

「歩ける人はこちらへ!」

 だが、殆ど皆んな長い間ここにいたせいか、立てるような人は少なかった。

「どうしよう……」

 少女は考えた。

「……動ける人は出来る限り動けない人たちに手を貸してあげてください!みんなでここから出ましょう!」

 そして、できるがぎりの事をしようと、近くにいた女性に肩を貸して立ち上がらせた。

「あの二人が頑張ってくれている間に!早く!」

 そうして、彼女達はゆっくりながらもその場から逃げ出した。

 そんな光景を尻目に見ていた兄は、

「かっこいいなぁ……あーゆーのにーちゃん好き!」

「キモい!しゅーちゅーしろ!」

「へいへい!あっ」

 そして兄はゴブリンが自分に巨大なハンマーを振り下ろそうとしているところを見た。

「……だから人生は面白い!」

 そう言って兄は振り下ろされたハンマーを蹴りくだいた。

「にーちゃん俺より蹴り技強ない!?」

「ガノンやから」

「いや、ただのデブやろ?」

「よし殺す」

「ゴブリンをな!?」

「チャーオー!!」

「クリティカルクルセド!」

兄弟は互いに背を合わせて、兄は口元を笑いで歪めて、弟は必死の形相で、ゴブリンと戦っていた。

 そして、最後らしきゴブリンが倒れるのを見ると、

「本日二度目のアディオスアミーゴ」

「同じく永遠に……アデュー」

 そして、二人はハイタッチをしようと……。

「「エビッ!」」

「「………カニ!タコ!フゥー!」」

 そして、ひとしきり笑いあった後、兄が周りを確認しだした。

「うしうし……もう誰もおらんな?……む?」

 そして、兄は分かりにくく作られた洞穴を見つけた。

 そこにはゴブリンどもの子供がいた。

 外見は意外とバラバラだった。

 猫耳が生えていたり、耳が尖っていたり、人みたいな形をしていたり。

「子供も殺すん……?」

 弟は兄にそう聞いた。

「うーん……二次被害を出さないために殺しとくのが一番だと思うんだけどなぁ……」

「……仲良く暮らせへんのかなぁ……」

「さぁ……でもそれは今解決できる問題じゃないだろうなぁ……」

 そう言って兄はゴブリンの子供達を一人一人丁寧に首を折って殺した。

「うっ……おええええ」

 そして吐いた。

「無理するからやで……ホンマはやりたくないくせに……」

「……じゃあ変わるか?「いやいい」……即答かよ……まぁ、そうなるやろ?ここで誰かやらんかったらあかんやろ?……全く……とーさんみたいな鋼のメンタルが欲しいもんだよ……」

 兄はそう言って逃げようとしているゴブリンの子供の首をへし折った。

「無茶は体に悪いで」

「ありがとさん、でも、これだけはやりきる」

 そして、最後の一人の絶叫が洞窟内に響き渡ると、兄はその場にへたり込んだ。

「つっかれた……精神的に…-」

「ほら!休んだら暇ないで!あの子どーすんの!?まだここに生き残りおったら襲われるで!?」

「っっっっくぅー!!コーラが飲みてぇ!」

「早よ動けデブ!」

「あいあい、デブにあんまり無茶させるもんじゃないよ全く……」

 そう言って兄は立ち上がって、少女達が向かった方に走りはじめた。

「にしてもさぁ……にーちゃん」

「なんよ?」

「何で真っ暗な洞窟の中をさぁ、俺らこうしてふつーに見えるわけ?」

「身体能力が強化される際に視力も強化されたんじゃね?」

「じゃあ嗅覚は?」

「………さぁ?俺はいらね」

「俺も……おっ、あそこ明るくなってるな」

「あの子達かな?」

 ダッ!

「「………」」

「おい、何で無言でスピードあげんねん……」

「にーちゃんこそ……!」

「……フッ!」

「何くそ!」

 ダダダダダダダダダダダ!

 と、かけて行き、そして、光っている場所に入った瞬間、

「にーちゃんいっちばーん!?」

「うおりゃぁーー!!」

「ワッチャゲーム!?」

 フルスイングで放たれるピッケルの一撃が、兄の鼻先をかすめた。

「あっぶね!なになに!?何があったん!?」

「あっ!すすすす、すみません!」

「解説してあげよーか?にーちゃん?」

「おう!お願いしようかな!?おっとっじゃ!」

「おとじゃはやめろって……にーちゃんがここに入る、あの子がハンマーをバット振るみたいににーちゃんに振る、にーちゃんイナバウワーで避ける。以上!」

「マトリックスって言ってくれればよかったのに……」

「何それ?」

「また今度一緒に見よな?」

「オッケー」

 そう言って彼らは笑いあっていると、

「あ、あの……ゴブリン達は?」

「全員やっつけましたのでご安心を……えーっと、ここで何やってるんすか?」

「あっ!そうなんです!彼女達の一人が……」

 目線の先を追うと、一人の女性が仰向けになって息を乱していた。

「生まれそうだと……」

「はい……なんとか産むまいと踏ん張っているのですが……」

「生まれるのも時間の問題っぽいね」

「おう……産んだら後はまかしてくれればいいのだけど……」

「えっ?」

「っていう反応になりますよね、ええ、何とかしてみます」

 兄は少女の反応を見て、そう言った。

 少女は兄を警戒の目で見始めた。

「にーちゃん!」

「わーってるって……さてと……麻酔……メスはアレを直したら……ただ無菌室が……」

 兄はブツブツと呟きだした。

 そして、

「弟よ、ここは少し任せた」

 と言って出口の方へと駆け出した。

「ちょっ!にー……「待たせたな!」早っ!」

 兄はすぐに帰ってくると、手に酒と布といくつかの草を持ってきていた。

「先ずは麻酔をっと……」

「馬鹿!そんなんでいけるわけないやろ!?」

「じゃあどーしたらええねん!?」

「血もないし!菌がやばいし!何よりにーちゃん免許持ってへんやろ!?免許いったっけ!?どっちでもええわ!とりあえずにーちゃんがやんのはアホ!」

「否定はせーへんけども!」

 そう言ってギャーギャー騒いでいる間にも、女性のうめき声は大きくなっていくばかりだった。

「くっ!としあき!手ェ貸せ!」

「いや「やるっきゃねぇんだよ!」アホか!ここでやらんでも恨まれへんわ!」

「だけど……!」

「にーちゃんはアホ!ホンマに!全く……いや……待てよ?」

「どーした?」

 項垂れる兄に弟が閃いたとばかりに手をポンと叩いた。

「俺回復系の魔法使えたわ!」

「馬鹿野郎はどっちだよ!」

「両方やわ!」

「うっし!じゃあやるぞ!」

「おっす!」

 そう言って兄弟は腹からゴブリンの子供を取り出すの準備を始めた。

「先ずはこの剣から……」

 そう言って兄は岩に剣を叩きつけて、破片を飛ばした。

「うん……これでいいだろう……」

 弟は、兄の指示通りに麻酔の準備を、

「にーちゃん?多分俺痛くなくす魔法も使えるで?」

「それは保険だ!急げ!」

「りょーかいっ!」

 そして、最後に兄は体にゴブリン達が口をつけていない酒をぶちまけて、女性の方にもぶちまけた。

「とりあえずの消毒完了っと……出来るだけアルコール度数たかそうなやつにしたんやけど……やるか!」

「皆さんは向こうへ……」

 弟は兄に頼まれた通りに他の女性を洞窟の外に誘導しに行った。

「さて……先ずは……」




























「はぁ……はぁ……にーちゃん!」

 弟が走って兄がいるところまで戻ると、兄は丁度ゴブリンの子供を取り出した所だった。

「としあき!急げ!血が凄い!止血して、縫い合わせるから、お前は魔法で治せ!」

「りょーかい!」

 弟はそう言うと、女性に手をかざして魔法を使い始めた。

 兄は羊水まみれの赤ん坊ゴブリンを布で出来るだけ暖かくなるように包み込んだ。

「さて、こっちだな……」

 兄はそう言って、女性の方を向いたが既に切り開いた所の血は止まり、殆どみわけがつかないほど綺麗に傷口が塞がっていた。

「さっすが魔法……じゃあコイツだな……」

 兄は赤ん坊ゴブリンを持ち上げ、洞窟の奥に向かおうとして、足を止めた。

「…………!」

 その重さは、暖かさは、一二歳離れた弟を持ち上げた時と同じ感覚がした。

 そう、彼らにはもう一人弟がいたのである。

 その弟は父と母と旅行に行っており、彼等が異世界を冒険してるなど知る由は無かった。

 そして兄は、赤ん坊の頃の弟を抱いたことがあるのである。

「………もう無理や………流石にむりや………聞いてへんて……こんな………」

 兄は膝からゆっくり崩れ落ちた。

「殺されへん……!」

 涙をボロボロ零しながら、兄はそう言った。

「にーちゃん……」

 弟は居た堪れない様子で目をそらした。

 そして、そこに最初に助けた少女が走ってきた。

「お二人とも……はぁ……はぁ……無事でしたか!」

 少女は息を切らしながら走ってきた。

 服はどうやら弟が途中で見つけたらしく、作業服を着ていた。

「うぅ………なんですか?」

「あの……ゴブリンを引き取りたいって人が……!」

「「……は?」」

 二人は同時に声をあげた。
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