Two Runner

マシュウ

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ウエスタンな異世界

お婆さん

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「げっふ、いやージャーキーも捨てたもんじゃないなー?」

「うん、フツーに美味しい」

「おっ、コーラ無くなっとるやんけ、注いだるわ」

「サンキュー」

 ゴッキュゴッキュ………

「「うんま!」」

 2人は幸せそうにグラスに入っているコーラを一気に飲み干すと、メイドさんに聞いて買ってきた干し肉ことビーフジャーキーを噛み締めながら、今の幸せに浸っていた。

「いやーにしてもなしてコーラが売ってたんやろ?」

「さぁ?あのさ、アレ……えっと……ラーメンの……」

「あぁ、ラーメン屋が引っ張ってるみたいな屋台?」

「そうそれ!」

 このやり取りで理解し合えるのは、やはり馬鹿同士の波長が合うからだろうか。

「で、そこで仮面かぶった人がさ、売ってたから買ってんけど……にーちゃん見る限りダイジョーブそうやな」

「まって、確認せんと買ってきたん?」

 兄はグラスをテーブルに置くと、弟に足を組んで聞いた。

「おう、だって知らん人から貰ったやつって危ないやん?」

「馬鹿なの?」

「うん」

「このクソヤロウがー!!!」

 兄は弟に飛びかかると、コメカミにげんこつを当ててグリグリと締め上げた。

「痛い痛い!!にーちゃん加減して!?」

「むーりー!きょーひー!何でされてるか考えろー!!」

「いったたたた!!」

 弟は兄を背中に乗せたまま部屋の中を転がり回った。

 ガンッ!

 と、音がして兄がようやく離れ落ちて、弟は追撃をかけようと振り向くと、そこには頭を抱えて転がり回る兄がいた。

「………」

 弟は無言で兄に近づいて、腹をつねりあげた。

「いたっ!?」

「つままれたくなかったら痩せろや!クソデブ!」

「やだね!にーちゃんは美味しいもんを食べるために生きてるんだから、これ以上食える量減らしてたまるか!」

「何ゆーてるかわからんわ!」

「知るかぁぁぁぁ!!」

 と、兄が起き上がったところで部屋のドアが開いた。

「あの……少し大丈夫?」

「「はい」」

 兄はその場に正座して、弟は部屋の外に出ようとした。

「何してん?とっちー?」

「いや、今からついて行くねんけど?」

「は?」

「は?」

「「……………は?」」
















「与一ほんまお前アホやろ」

「……偏差値ひっくい高校行ったくせしやがって……」

「偏差値高い高校行ったくせに、勉強しやんと底辺大学に行った兄に言われたくないわ」

「へい」

「素直でよろしい」

 兄の盛大で馬鹿な勘違いの後、兄弟はリーチェの後ろを喋りながら歩いていた。

「そう言えばトシアキ達って、おばあちゃんに会ったことないよね?」

「おばあちゃんか……会ってへんかったよな?」

「エルフのメイドさんとかいうオチ?」

「違うよ、フツーの人だよ」

「じゃあ会ってない」

「ふーん?そっか……」

 何か引っ掛かりを覚えた兄は、それを必死に考えようとしたが、

「おばーちゃーん、お客さん連れてきたよー」

 と言って、中に入ったリーチェに続いて部屋に入った兄弟達は目の前のインパクトの強い光景で、考えていた事すべてが吹っ飛んだ。

「おや、来たみたいだねぇ?よっしょっと」

 ガチャガチャと銃の手入れをする老婆に完全に思考が一時停止した兄は、どうしたらいいのか分からなかった。

 そこで兄の思考内はこれまでにないほど高速に言葉が流れていた。

(何でお婆さんが銃を?その奥に見える毛皮は何?ってか今絶対アレ解体してたよな?何で?何が?どうなっ)

「ヨイチ?」

 リーチェが固まっている与一に声をかけ、その言葉で与一はこの世界に戻ってきた。

「はっ!俊明?」

「………何?」

 意外と落ち着いている弟を見て自分の目を疑った兄は、一度目をこすってパチクリと瞬きをしてもう一度弟を見た。

「よう落ち着いてられんなぁ……」

「にーちゃんが一々オーバーリアクションすぎんねん」

「何を心外な……まぁいいや、はじめまして、僕達は世界を旅している途中の旅人です」

 と言って兄は、老婆の前でお辞儀をした。

 弟もそれに習ってお辞儀をした。

「………お前さん方……銃は?」

「俺は持って……」

 ジャキ

 と、老婆はどこから取り出したのか、銃を兄に向けた。

「今みたいにいきなり銃を向けられたらどうするつもりだったんだい?」

「あ、いや、それは……」

「ここらは治安がいい言っても、銃はまだまだ手放せない時代だからね……一丁ぐらい持っときな」

 そう言って老婆は兄に一丁のピストルをポーチごと投げ渡した。

「おっとっと!……あ、ありがとうございます……」

 兄は手に持った銃を物作りの能力を少し応用して、この銃の使い方を探った。

「……別に今の銃と殆ど変わらない……?」

 兄はボソリとそう呟くと、腰にそのポーチを付けて、位置を確認した。

「……まぁまぁじゃないかね?」

 老婆はフンと鼻を鳴らすと、次は弟の方を見て、

「お前さん、ちょっとこっち来な」

「え?」

 そう言って、老婆は自分が点検していた銃をテキパキと組み直して、それを担ぎ上げ部屋から出て行った。

「……」

 弟は黙ってそれについて行くと、後ろを歩いている兄に振り返る事なく、

「何やろ?」

 と聞いた。

 兄はそれに真顔で、

「銃を持ってたから腕前見るのに一億円」

 といい、弟の肩をポンと叩いた。

「やっぱり?俺もそう思うわ」

「まぁ、変に目ぇ付けられんように頑張り?」

「そーするわ」

 と、2人でため息を付いていると、後ろから、

「おばあちゃん……元々『三銃士』って言われるぐらいこの世で銃が上手い人なのよ?」

「「えっ?」」

 二人は振り向こうとしたが、玄関の前で腕を組んで待っている老婆に急かされ、二人は走った。

「ったく、あの子余計なこと言わなかったかい?」

「言ってませんでしたよ?」

「そうかい……じゃあアンタ」

「はい……」

 リーチェのお婆さんは、弟を指差して、

「アレに向かって撃ってみな」

 と言って、玄関から出て少しの所にある的に向かって弟の背中をどんと押した。

「………」

 弟は位置に着くと、どこからともなく拳銃を取り出して、マトに向かって打ち込んだ。

「……ふむ……」

 お婆さんはそう言うと、兄を指差して、

「アンタも撃ちな」

 と、そう言った。

 兄は小さく震える脚をそのままに、定位置に立った。

 すると、兄は深呼吸をして足の震えを止めた。

 そして、目をキッと細めて的に撃ち込んだ。

「……ふむ……じゃあ、結論から言わせてもらうと、両方カスだね」

「は?」

「ですよね……」

 思わず声を出してしまった弟と、ですよねと呟いた兄は、その続きの言葉を待った。

「でだ、明日は祭りなのはもう知ってるだろ?」

「は、はい」

「明日の祭り、コイツの助手として参加しな」

「は、はい……へ?」

 兄は返事をしない弟に変わって間抜けな声をあげた。

「ちょっ!お婆ちゃん!?」

「何だい、あんな腑抜けた男よりも、コイツらの方がまだ骨があるさねぇ」

「何で!」

「うるさいよ!アンタは黙ってコイツらに明日の詳細伝えな!」

「っ!わかった……」

 何やら色々とありそうな感じなので、どうするか考えている兄だったが、

「いやや」

 隣で弟がそうキッパリと言い切った。

「あん?」

「はい!すいませんね、ちょっと失礼しますねー」

 兄は弟の頭にヘッドロックをかけると、その場から離れた。

「ばか?」

「それはお前やにーちゃん、あのな、わざわざあのババアのいうこと聞く必要なくない?」

「まあ確かに」

「それに、俺ら以外にもなんか居たみたいやん、その人にも悪いしさ」

「確かに」

「そもそもあのババアが気に食わへんねん、なんなん?いきなり銃を撃てて、そんでクソとか訳わからんやん」

「確かに」

 兄は弟を離すと、うーんと顎に手を当てて考えた。

「俺は嫌やからな」

「そーゆーなって、じゃあこう考えようやないか?え?『俺達は旅行の途中、汽車を修理し、中々乗れない汽車に乗ることができるという体験が出来た』ってさ?」

「そうやな、すごいな、じゃあ頑張れ」

「お前もやるんじゃぁぁぁぁぁ!!」

「だからデブのくせになんでこういう時だけ、そんなに行動力がたけぇんだよぉ!」

「知るかぁぁぁぁ!!」

 そして、兄は弟を引きずってお婆さんの所に向かった。

「っていう事で、まあ、あくまでもサポートって事でならさせて頂きます」

「ふん、へっぴり腰だねぇ、そんなんじゃあ女もろくに釣れないね」

「うぐっ」

「にーちゃん抑えて」

 兄は弟にそう言われて馬鹿野郎と返した。

「まぁいいさね、あの子の事宜しく頼むよ」

 そう言ってお婆さんは家に戻って行ってしまった。

「なんなん?ほんまあのババア」

「………」

「にーちゃん?」

「明日の詳細聞きに行ってくるわ」

 と、弟を置いて兄はリーチェの所へ向かった。

「……ジャーキー全部食っといたるからな」

 一人残された弟はそう愚痴を呟くのだった。
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