Two Runner

マシュウ

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ウエスタンな異世界

黄金列車

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「どこ行ってたんですか?」

「いや、あそこに光が見えてんでもしかしたらと思ってたんでしたけど、違ったみたいです」

「そっか、あんまり離れると危ないぞ?」

「ありがとうございますっ」

 兄は軽く会釈すると、小走りで先頭の弟とロキの元へ戻った。

「……お帰り」

「おう、で、なんかわかりました?」

「……この先に洞窟があるって事ぐらいだな」

 ロキは杖を宙に浮きながらグリグリと手に押し付けながらそう言った。

「そっすか……」

 兄はそういうと、手に大剣を携えた。

「お前の筋力でそれを振り回せんのか?」

「それ言われるとキツいっすけど、まぁこいつで防御と攻撃できますしね?」

 そう言って、肩に大剣を担ぐようなそぶりを見せて、大剣をまた服の下のアーマーに戻した。

「……思ったより重かってんな?」

「……」

 兄は図星を突かれたのか、ふいっとそっぽを向いた。

「図星かぁ?」

 弟は追い討ちをかけた。

「そやで、重かったんや」

「アホやなぁ」

「せやで」

「アホアホアホアホ!」

「うっさいわボケ!」

 兄は拳を横に突き出した。

 弟は兄それをギリギリでかわした。

「っぶな!何すんねん!」

「当たらへんかったやろ?」

「にーちゃんのパンチが遅すぎてな!」

「へいへい」

 兄はテキトーに弟をあしらっていると、肩に何かがすごい勢いでぶつかってきた。

「!攻撃されました!」

 兄はアーマーを張っていたおかげで何とか無傷で済んでいた。

「あそこだ!あそこも元鉱山の入り口だ!」

 と、街の人が叫んだ。

 その場所に目をやると、ゴブリンたちが弓を構えていた。

 兄はそれを細目で見ると、六本の触手を二本に纏めて、入り口までの木々をなぎ倒した。

 一気に視界が開けると、なぎ倒した木の下から血が出てきていた。

 おそらくゴブリンが待ち伏せていたのだろう。

「とっちー!行け!」

 兄の返事をするよりも先に弟は入り口のゴブリンたちを蹴り倒していた。

「終わり!」

「よーやった、さて、ほかに被害者がおらんか探すで」

 兄はロキを見ると、ロキは肩をすくめて杖を振った。

「……中にいくつか女の反応あり……まぁ後は察せ」

 兄は顔をしかめると、同時に脳裏にスパークが閃いた。

『これは僕からの特別サービスだよ?』

 そして、シルヴィの声が聞こえた。

『さぁ!祝おう!正しさを胸に戦い続けた魔物狩りの魂の継承を!』

 そして、兄は内から力が湧いてくるのを感じた。

「行こっか、変身」

 兄は弟を見て、アーマーを服の上に装着して手に籠手を作った。

「エヴォル、エヴォル、エヴォリューション!」  

 そして、兄は暗い洞窟の中に足を進めた。

 暗い洞窟の中は初めて入った洞窟と同じように獣の匂いで満ちていた。

 その中でも兄は道を迷う事なく、洞窟の中を進んだ。

 そして、一際大きなところに出ると、そこには何人かの女性と何匹かのゴブリンと、一匹の巨大な王冠をして座っているゴブリンがいた。

 兄は足を止める事なく、王冠ゴブリンに近づいた。

 それを見てゴブリンたちが剣や弓を構え、兄に向けたが、全て弾かれ、折れ、物の見事に役に立っていなかった。

「にーちゃん!」

 弟は叫んだが、兄は振り返ってふざけたピースサインを弟に向けた。

「さて、お前がここのボスか、じゃあお前に特に言うことは無いわ」

 そう言って兄はゴブリンに拳を振りかざし、殴ろうとして、吹き飛ばされた。

 壁に激突する前に触手を展開して衝撃を吸収した。

「……」

 ゴブリンはその場から動くことなく拳を突き出していた。

「やるなぁ……とっちー、女の人達連れて外でぇ……」

「……わかった」

 弟は頷くと、周りのゴブリンたちを蹴散らして女の人達を担いぎ、急いで入り口までかけて行った。

「じゃあ、私はお前を見ておけばいいのか?」

「ロキさんも、女の人達を連れてお願いします」

「はいよ」

 ロキはため息を吐くと、杖を振って残った女の人達を浮かせてふわふわと入り口の方へと戻って行った。

「ふぅ……」

 兄は一つ息を吐くと、立て続けに王冠ゴブリンに殴りかかった。

 何発か命中したらしく、ゴブリンの顔から血が出てきていた。

 ゴブリンは立ち上がると、椅子に置いていた棍棒を手に取った。

「あーあ……」

 兄はゆっくりと触手で地面に体を下ろすと、手を握った。

 そして、回り込むようにゴブリンの頭を殴った。

 それにひるむことなく、ゴブリンは振り向きざまに棍棒を振ったが、兄はそれを殴り折った。

 そして、防御を捨てて右手の籠手を巨大化し、ゴブリンを下から殴った。

 そして、ゴブリンは天井に叩きつけられた。

 すると、天井に亀裂が入り、それが床まで広がって……。

 広間の床が抜けた。

 兄は触手を展開して、同時に頭を守るため触手の一本を盾に変換させた。

「うっ!」

 兄は衝撃に顔を顰めながらも、何とか落石に耐えきった。

「……あ"あ"!!」

 兄は叫びながら岩を退かすと、目の前にゴブリンが立って拳を頭に振り下ろした。

「やっ!」

 兄は籠手を頭上に掲げて防御したが、体が岩に食い込んだ。

「いぎっ!?」

 兄は膝に痛みを感じながら徐々にゆっくりと立ち上がった。

 そして、

「おぉら!」

 ゴブリンを弾き飛ばした。

 そして、ゴブリンの背後にあるものに目を奪われた。

「黄金の蒸気機関車!!」

 光がないのにもかかわらず、光り輝いているそれは、とても美しかった。

 そして、ゴブリンはそんなことは気にも止めず、兄に殴りかかった。

 兄はカウンターでゴブリンの鳩尾に1発殴りを入れた。

 そして、兄は全身の力を込めて、ゴブリンの顎を殴った。

 それをもろに食らったゴブリンはよろめいて、地面に倒れこんだ。

 兄は触手を一本作って、ゴブリンの喉を切り開き、脳に一突き入れた。

 兄はゴブリンの息が止まったことを確認して、蹌踉めきながら黄金の蒸気機関車に近づいた。

 すると、ポケットが震えているのに気がつき、何が震えているのかと、取り出した。

 それはロキが兄に渡した方位磁石だった。

 それは列車を指しては回り、止まっては回りを繰り返していた。

「もしかしてこれかぁ……?」

 兄は恐る恐るながらも近づき、列車の運転席に乗り込んだ。

「……ワンダスティスック……」

 そう独り言を零しながら、内装を見渡した。

 恐らく通常の蒸気機関車と何ら変わらない構造をしているのだろうが、全て金色に光っていた。

 すると、兄は目の前に場違いな木の机と、その上にある閉じられた本を見つけた。

 これほどこの黄金の中で存在感を放つこの机と本を最初に気がつかなかったのは疑問だが、兄は特に何も考えずに本を開いた。

 すると、本の最初のページに当たる所に、

『この本を見つけてくれた君に、この汽車をプレゼントしよう』

 と、書かれていた。

それ以外何か書かれていると思ったが、それ以外は全くの白紙だった。

 兄の心は踊った。

 これこそ冒険、これこそがワクワク!

 初めての異世界での緊張、彼は本を閉じて、黄金のシャベルを手にとって、後ろから来ている黄金の石炭らしき物を炉に放り込んだ。

 すると、炉に火がつきこの機関車がまだ生きていることを示した。

 兄は興奮で震える手をそのまま、ブレーキレバーを上げてブレーキを外した。

 その瞬間、車体がガコンと揺れて発車しだした。

「……アレ?」

 兄はブレーキレバーを下げると列車を止めた。

「……動いたは良いんやけど、どうやって出るんや?」

 兄はどうしたものかと思い、さっきの本をもう一度読もうと後ろを振り返ると褐色の男が殴りかかってきた。

「うわっ!」

 兄はギリギリで躱し、額を拭った。

「誰や?」

「フン!」

 男は質問に答える事なく、兄に殴りかかった。

「全く!」

 兄は反撃に出るために腕を振りかぶり、上から下に拳を振り下ろした。

 ガチャン!

 と、嫌な音を出して列車は再び動き出した。

「あ"っ!」

 兄は後ろを振り返ろうとしたが、中々それができなかった。

「ったくもう!」

 そう言いながら触手を展開して男を押しとどめた。

 兄はそのままブレーキレバーに手を伸ばした。

 だが、

「ぶつか………!」

 ぶつかると思ったのもつかの間、何と列車は前方にある岩などをどうやってか爆破しながら進んでいた。

 凄まじい衝撃と爆風で兄は触手の拘束を緩めてしまった。

「……!」

 男はその隙を逃さず、拘束から抜け出すと兄に殴りかかった。

 バギィ!

 と、音が聞こえて兄は石炭車に吹き飛ばされた。

 兄は盛大に黄金の石炭を撒き散らかして跳ね起きた。

「あのゴブリンか?」

「……!」

 男はピクリと反応するも、再び兄に殴りにかかった。

 兄は触手で男を天井にこすりつけたが、男は傷一つつかなかった。

「アホやろ!?」

 拳に一本の棘をつけて、兄は男を突き刺そうとしたがその瞬間、列車が外に出て触手によって男はさらにはじき出された。

「ほんまにぃ!!」

  兄は悪態をつきながら、触手で体を固定しながら列車の屋根に登った。

 一方弟はその頃………。

「にーちゃんまだかよ……ホンマ……カスやな……」

「お前そこまで言うかぁ?」

 弟達は町の人たちに女の人達を任せると(今回は特に何も無かった……と言うのは違うが、連れられて日が浅い人たちが多かった)、鉱山の少し離れたところで兄を待っていた。

「……ホンマカス」

「私に向けていったのかそれ?」

 と、少し険悪なムードになっていた所、鉱山の入り口から黄金の列車が飛び出してきた。

「「は??」」

 二人は拍子抜けな声を出して、そして、弟は次の瞬間に見えた兄が触手で屋根に登ろうとしているのを見て、弟はすぐに列車に追いつき列車の屋根に登った。

「にーちゃん何してんの!?」

「アイツが殴ってきたから遅なったわ」

「よっわぁ!」

「うっさいわボケ、手伝え」

「ハイハイ、さっさとやんで!」

「あいよぉ」

 そう言って兄は右の拳に籠手を作った。

 そして、瞬時に弟は男の後ろに回った。

「なっ!?」

 困惑する男だったが、

「合わせろよ!」

「えっ?えっ!?」

 兄の掛け声に一瞬遅れて反応した弟だったが、弟の蹴りと兄の拳が男の体に刺さったのは同時だった。
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