Two Runner

マシュウ

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ウエスタンな異世界

龍の少女

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「……うっし!じゃあ遊ぶでぇ!」

「はしゃぎすぎんなよ、与一」

「ふむ、祭りなるもの、如何程なものか、非常に興味深い」

 三人は昨晩、リーチェに、

「俺らの仲間やねん」

 と説明して、ワールドと共に泊まらせてもらっていた。


「じゃあ私行ってくるね!そろそろ最終点検しないと!」

 そう言って朝早くからお爺さんと共に整備室に駆け込んで行ったリーチェを、三人は見送ると祭りの様子を見るために外に出る事となった。

「さて、レースは昼からやからそれまで俺らは自由にできるわけやけど……」

「人多っ!多すぎん!?にーちゃん!」

「これが人の繁殖能力……もっと増やしておくべきだったか……」

「お前は黙っとれ」

 兄はふざけたことをぬかしだしたワールドを叱りつけると、懐に入れていた袋を取り出し、三人が平等になるように分けた。 

「おい、袋がもう一つあるだろ?」

 ワールドはまだ与一の懐が膨らんでいる事に気がつき、そう言った。

「これはロキが多分俺らが寝てるときにこっそり置いていったやつなんや、『これで旅行用の食料とか買っとけ』やってさ」

 そう言って与一はワールドにその紙をパラパラと見せた。

「……成る程、ではまずやらなければならないことをしようでは無いか?与一が自分の為に使うとは限らんからな」
 
「たしかに」

 ワールドと俊明は意見があったらしく、与一の方をジロリと見た。

「はいはい、まぁ、たしかにその方がええかもな?」

 そう言って兄は紙を懐に直すと、

「まぁ、どっちにしろ今日は祭りで、出店とかが出てるんじゃなくて値段が安くなってるとかだろ?」

 と、そう言って階段を降りて商い通りに向かい始めた。

 ワールドと俊明はそれに黙ってついて来た。

 街ゆく人たちは兄弟とワールドを物珍しげな目で見た。

 中には声をかけて来て、

「どこから来たんだい?」

 とまで聞いてくる人までいた。

「てっきりもう町中の人達には知られてると思ってたんやけどなぁ」

「にーちゃんそれは無いわ、せめて半分ぐらいの人達だけやわ」

「貴様ら、その言いよう何があったのだ?」

「あーね、……」

 与一はこの街に来るまでの経緯を軽くワールドに説明した。

「成る程な、我の所に来る前にもゴブリンを既に何匹も屠っていたと……」

「まぁ、そうやな」

「ふむ……」

「気ぃ悪したならごめんやで」

「いや、弱肉強食は当たり前、弱い奴は頭を使わなければ勝てん、それぐらいは分かっておる、ただ……」

 ワールドは考えるようなそぶりをした。

「ただなんや?」

「ソウヤ?一体そいつは何者なのだ?」

「……分からん……ただ、そいつとはあんまり関わらん方がええような気がするねんなぁ……」

「なんでまた?」

「勘」

「「勘」」

 与一の返事に二人は目を丸くして繰り返した。

「まぁ、勘ほど自分を助けてくれるものは無い、我がそうだったようにな」

 ワールドは成る程と頷くと、店に出ている焼肉に目を止めた。

「店主、それをくれ」

「あいよ!にーちゃんえらくでかいねぇ!オマケしといてやるよ!」

「感謝する」

 ワールドは自分のお金を払うと、焼肉を食べながら再び歩き始めた。

「お前、意外と礼儀正しいねんな」

「生産するものには敬意を払う、これは当たり前だ」

「……のくせして、女の人達に酷い扱いしてた癖に」

「それは奴らが抵抗したからだ、抵抗しなかったものたちは丁寧に扱った、勿論抵抗した奴らにも食い物は与えたし、体を洞窟内の泉で清める事も許可していた」

「……へぇ」

 与一は少しの間時間を開けて、

「敬意を払うんやったら彼女達の自由も尊重したらなあかんかったんちゃう?」

「それは我らに危険が及ぶ可能性があった、それが無ければ我らもそうしていたさ」

「……弱肉強食なら、油断したから仕方なし……か」

 与一は腕を組みながら、

「かぁー!世知辛いなぁ」

 と、半笑いでそう言った。

「にーちゃん世知辛いってどういう意味?」

「その手に持ってるスマホで調べろバカ」

 与一は俊明を軽くいなすと、ワールドに振り向いて、

「今は……人として生きろよな?」

 と、そう言った。

「……わかった、約束しよう、我はこれから人として生きていくということを」

 そう言って、ワールドは手を胸の前に置いた。

「な、何しとんねん!人がみとるやろ!」

 与一はそれを見て焦ったようにワールドを止めた。

「……ふっ、さぁ、買い物を再開しようでは無いか?」

 と、与一にしてやったりとワールドは笑いかけた。

「お、おぅ……」

 与一は少し笑いながらそう言った。

「あっ、成る程なぁ!」

 そして、今更世知辛いの意味を調べ終わった俊明はウンウンと首を振っていた。

「何しとんねん、行くぞー」

「ちょっ!それはないやろぉ!?」

 と、俊明は後ろから二人を追いかけた。

 そして、ある程度買い物も済ませて、そろそろ昼になろうかという頃、三人は何やら人通りが少ないが、裕福そうな人達が何かを見ているのを見つけた。

「なんなんや?」

「行ってみるか?」

「にーちゃん行こ」

 三人はその人だかりに集まってみると、一人の角を生やした尻尾の生えた少女が、ほぼ裸で鎖で繋がれていた。

「えっ?」

「かわいそ……」

「ほれ、人間も、いや、下手すると我らより酷いかもしれやぞ?」

「まぁ、否定はせんわぁ……」

 与一は顔をしかめてその場を離れようとした。

 すると、少女は鎖を引きちぎって裕福な人々の一人に襲いかかったが、その人の護衛の騎士に伸ばした腕を切り飛ばされた。

「っ!ギャァァァァ!!」

 少女はその場でのたうち回った。

 裕福な人は売人らしき人に何やら怒鳴ると、プンスコと去って行ってしまった。

 それを見た他の人達もやれやれと、去って行ってしまった。

 その間、少女は雇われ兵士らしき人達に、もう一度鎖を付けられていた。

 周りに人がいなくなって、少女の姿がはっきりと見えた。

 少女は路地に並ぶ商品と同じように檻に入れられ、腕を掴み、力なく横たわっていた。

「あのままでは時期死ぬな」

 ワールドはそう言うと、与一をチラと見た。

 俊明もどうするのかと、与一を見た。

「……はぁ」

 与一はバリバリと頭を掻くと、商人に近づいた。

「なんだいにーちゃん、あぁ、こいつかい?……」

 商人は与一の視線に気が付いたらしく、与一のことを暫く見つめると、

「あんたの持ってる金貨全部とこいつ、交換しねぇかい?」

 と、そう言った。

 兄は祭りで使う予定だった金貨を見つめると、

「じゃあお願いします」
 
 と、そう言って金貨を商人に手渡した。

「ありがとさん、おら、起きろ、ご主人様が決まったぞ」

 商人は檻を剣の鞘でバンと叩いた。

 が、少女は起きようとしなかった。

「こいつ……すいませんね、今機嫌が悪いみたいで……連れてってくれませんかね?」

 商人はそう言うと、書類を与一に渡して檻を開いた。

 檻は開かれたが少女は自分の腕を持ったまま動こうとしなかった。

 兄は恐る恐る少女に触ると、ピクリと動いたが、それ以上の反応は無かった。

「悪い、持ち上げるで……」

 そう言って、兄は少女をお姫様ダッコの要領で持ち上げた。

 そのまま檻から出て、ワールドに書類を持たせた。

「まいどー」

 後ろから聞こえる店主のやる気のなさげな、声を聞きながら三人は無言でその場を去った。

「……さて、そいつを貰ったのはいいが、どうするつもりだ?将来の嫁の実践練習台にでもするか?」

「ワールド、余計なことは言わんとってくれ……」

 与一は溜息をつきながら、人の目を引きつけているのを自覚しながら、リーチェの家の隣の調整室に入った。

「リーチェさん!?」

 与一は声を張り上げた。

「はーい……何?……うわっ!」

「何度もいきなり悪いな、水と布を持ってきてくれんか?」

「う、うん!すぐ来るから待ってて!」

 リーチェは手に持っていた工具を放り出して、屋敷の中にかけて行った。

「おお、お前さんらか……やっ!その子は……!」

「まぁ、色々ありまして……」

「ふむ、細かいことはまた後ほど……今はその子の安全が一番じゃ」

 おじさんはそう言うと、部屋の一つを使うといいと言った。

「ありがとうございます、何度も……」

「いや、構わんよ……」

 おじさんはそう言うと、屋敷の中に入って行った。

「行くか……」

「うん」

「おう」

 三人は無言で屋敷の中に入って、案内された部屋の一つに入ってベットに少女を寝かせた。

「ふむ、失血が酷いな、まぁ、まずは止血せねばな」

 ワールドそう言ったが、既に止血されていた腕を見て驚いた。

「これは……」

 与一はは服の一部をガチャガチャと変形させた。

「成る程、運んでいるときに止血したのか」

「まぁ、痕が残るぐらいキツくしたからな……あとで殺されても文句言われへんよなぁ……」

 与一はそう言ってガッカリと肩を落とした。

「まぁ、そう気を落とすな、我は正直貴様がこいつを買うと言ったとき」

「買うとは言ってへんけどなぁ」

「なんでも良いではないか、そう言ったとき我は正直嬉しかったぞ?」

「なして?」

「良い人間に巡り会えたとな」

「だったら良いんやけどなぁ……」

 与一はそう言って、少女が掴んでいる腕を見た。

「俊明、くっつかれそうか?」

「無理無理、やったことないねんで?まぁ、失敗しても文句言わへんねやったらええで?」

 与一は深々と溜息を吐くと、

「どーしたもんか……あっ」

 と、呟いて服を変形させて、部屋の光が出る隙間という隙間を塞がせた。

「ロキ、今ちょっとええか?」

 と、言った。

「成る程」

「お前らなんもすんなよ、ロキ呼びたいから、この部屋太陽光入らんようにするから」

「は?にーちゃん何言ってん?」

 俊明は意味不明な顔をして、塞いだ箇所をひっぺがそうとした。

「ばかばかばかばかばかばか!」

 与一はそう言って俊明を殴って引き剥がした。

「いった!なにすんねん!」

 「それはこっちのセリフじゃボケ!聞いとらんかったか!?ロキは……」

「太陽の光のない暗闇ならどこにでも出てこれる、その判断は正しかったぞ、ヨイチ」

 気がつくと、ロキが部屋の中心にフワフワと浮かんでいた。

「今回はトシアキ、お前がバカだった、殴ってでも止めたヨイチお前が正しい」

 と、ロキがそう言いながら少女の腕に杖を振った。

 すると、腕がひとりでに浮かび上がって切れた箇所と引っ付いた。

「……これでよし」

「そんな、でも殴らんでもよかったんちゃうん!?」

「たしかに殴らなくても良かった」

「ほれみろ!バー……」

「ただし!そこでやり返すお前もバカなんだよ!」

 びくっと俊明は動きを止めた。

「し、知ったこっちゃ無いわ!兄弟の話に首突っ込まんといてくれますかー!?」

「……お前だけもう帰れ」

 そう言って、ロキは杖を俊明に向けた。

「は?ちょちょちょ!は!?選ばれてんやろ!?俺!?なんで消さらやなあかんの!?」

「良い加減うざいよ、お前」

 そして、ロキの杖が光って……、

「もうええよ」

 与一はロキの杖を下に降ろさせた。

「あのなぁ、俊明、お前強がんのはええけど」

「強がってないし!だまれボケ!」

「はいはい、そういうのは勝手やけど、俺になんて言うのも勝手やわ、そらそやわ、お前の自由やもんな?うん、でもな、それ聞いて不快になったら奴らもおんねん、それわかっとんのか?」

「は?そんなん知らんし、勝手に不快にでもなっとけや!」

 そして、その瞬間与一は俊明の顔面を殴った。

「ええかげんにせぇよ!お前なぁ!お前中心に世界が回っとるわけちゃうねん!俺とお前だけのことやったら俺が我慢すればええだけや!やけどなぁ!他の人がおんのにそんな口聞くな!みんながみんな我慢出来るわけちゃうんやぞ!?お前そう言う態度とり続けて殺されても良かったんか!?」

「こ、こ?」

「今のやつロキ、殺すつもりやったで?」

「あ、い……」


「それでも良かったんけ!?おぉ!?」

「……離せよっ!」

 俊明はバッと服を引っ張るとヨイチの手から離れて、部屋の外に出ようとした。

「ロキ!」

 ヨイチは後ろを振り返ると既にロキの姿は無かった。

 バタン!と扉が閉まる音が聞こえ、部屋の中がまた照明の光だけになると、ロキはベットの下から這い出てきた。

「……ウチの弟がすまんなぁ……」

「お前も大変だな」

「我が彼奴に一言言ってくる」

「行かんでええよ、時期帰ってきおるわ」

「ふむ……」

 ワールドはそう言うと腕を組んで椅子に座った。

「……で、この子はもう大丈夫か?」

「ん……血が少し少なくなってっけど、しばらくの間貧血に悩まされるだけで大丈夫そうだ」

「よかった……」

 兄は地べたに座り込んだ。

「……で、この子をどうするつもりだ?」

 ワールドは机に置いてあったペンを手にとってクルクルと回しながらそう言った。

「連れて行く……しかなさそうやしなぁ……」

「考え無しかよ……」

「しゃーないやん……じゃ済まなそうやしなぁ……」

 本日何度目かの溜息を深々と吐くと、頭をバリバリと掻いた。

「わかってたはずやねんけどなぁ、最後まで面倒見られへんって……」

「いつかはお前らの旅も終わる、その時にはこいつとも離れなきゃならねぇ、でも、お前は考えすぎだ」

「?」

「お前みたいなクソデブスに、依存するわけねぇだろ?」

「ひっでぇ……」

「ふはははは!」

 与一は苦笑いしながらロキの肩を軽く叩いた。

「クックック!冗談だ!クックック!」

「たしかに!貴様の顔はそう整ってるとは言い難いからなぁ!ほら、殆ど丸じゃ無いか!」

「はいはい!痩せます!」

「クックック!」

「ふはははは!」

 と、三人は喧しく騒ぎながら、少女が起きるまで待った。

「……ん」

 少女が目を覚まそうとしている時、ちょうど部屋がノックされた。

「すまん!遅くなった!医者を……」

 扉を開けた際にはロキは既に影に入っていた。

「……治っているのかね?」

「はい、なんとか……」

「お、おお……すまんかった、わざわざ呼んで……」

「いえいえ!私の娘の恩人なんですから!せっかくですし見てみましょうか!」

 与一は医者の顔を見てピンとあまり来なかったが、恐らく多くの助けた人のうちの一人の親なのだろう。

「どれどれ……ふむ、かなり衰弱してますね……でも、ちゃんとご飯とお水をあげたらきっと良くなりますね」

 そう言って医者は物珍しそうに少女を見た。

「にしても龍人とは、またまた珍しい物を手に入れられましたね」

「物なぁ……」

「あっ、成る程そう言うことですか」

 医者は一人納得したように頷いた。

「いやはや、これは失礼いたしました。しかし、このご時世龍人は兎も角、人なども奴隷として競売にかけられる時代、これでそんな顔されましては生きて行くのがつらくなりますよ?」

「……せやなぁ」

「まぁ、早い話見えてないふりをするのが一番ですよ」

「……せやな」

「……では、私はこれで……」

「あっ、料金……」

「そうですね、一応受け取っておきますね……私も帰って来た娘の面倒を見なければいけないので……」

 そう言って医者は普通よりも少なめだが、しっかりとお金を握って外に出て行った。

 その間、龍人と呼ばれた少女は天井を見上げたまま動かなかった。

 そして、医者が出て行った音を確認すると、ムクリと体を起こした。

「おや、起きたようじゃ」

「ん、何処か悪い所はないか?」

 与一は少女にそう聞いた。

「……お前が……」

 その瞬間少女は目にも留まらぬ速さで、兄の首元めがけて爪を切りつけた。

 ドッ!

 と、音がして与一は切られたと思ったが、首元を触っても何もなかった。

 疑問に思い少女を見ると、少女は気を失っていた。

「……油断するからやで……」

「……悪いなぁ」

 与一は早くも帰って来て、少女を目にも留まらぬ速さで蹴り飛ばした俊明に軽く笑いかけながら、少女を覗き込んだ。

「おい、起きてっか?」

「……お前ら……何者?」

 決して片言ではない言葉に少し驚きつつも与一は更に、

「俺を殺そうとしたのは……聞くまでもないか」

「……フン」

 少女は目をそらした。

「……まぁ、好きにしたええと思うよ?」

 与一は頭をバリバリと掻くと、

「んじゃ最後の質問な、君自由にしたらどーする?」

「!?」

 少女は驚いたような顔をして、そして、すぐに警戒したような顔になった。

「……貴様らを殺す!」

「そっか……じゃあ自由に出来へんな」

 そう言って与一は、少しフリーズした後、服を一部変形させて少女の腕に輪っかを付けた。

「それはもう俺の操作から離れたやつやねん、なんかやろうと思ったらさらに仕掛けてる毒が君を……」

 しばらく貯めた後、

「動けなくする」

「……はは……なんと嘘の下手な男なんだお前は……」

「え、何のことかなぁ?」

 与一は冷や汗をダラッダラかきながら、そっぽを向いた。

「……こんなもの……!」

 少女は腕輪を外そうと手をかけたが、全くビクともしていなかった。

「……なぜだ!」

「いや、壊れへんような物使ってるからなぁ」

「ただの服だったのにか!?」

「うん」

 兄はそう言いながらソロソロとワールドの方に近寄った。

「……嘘だって分かった?」

「バレバレだ」

「にーちゃんは、分かるような嘘しか付かんからなぁ」

「うっそー……」

 与一はがっくり肩を落とした。

「……で?この意味のない腕輪をいつまで私に付け続けるつもり?」

「意味はなくないわ!多分……」

「「えぇ……」」

 俊明とワールドは呆れた目で与一のことを見た。

「……貴様、私の事をおちょくってるのか?」

「いや?いたって真面目ですが?」

(ふざけてるようにしか見えんねんなぁ……)

(ふざけとるなぁ……)

 俊明とワールドは最早どうにでもなれと、近くにあった椅子に座った。

「私を挑発するとは……貴様、その度胸だけは認めてやる……」

 プルプルと震えながら少女は俯いた。

 そして、

「だがあの世で後悔すんだな!」

 と、少女はバッと顔を上げた。

 見る見るうちに少女の体には鱗が生え、牙も鋭く尖り、体も徐々に大きくなって行っていたが……

「………………っ!!!!!」

「無理してへん?」

「……しておらぬ!」

 プルプルと中途半端な状態で徐々は止まっていた。

「……あー」

 俊明はドラゴンの腕がやけに細くなっていると思ったら、さっきの腕輪が取れないでいたのである。

「あれは痛いでぇ……」

「奴、この事が分かっていたのか……?」

 二人は顔を見合わせて与一を見たが、

「………!?」

 与一自身非常に驚いた顔をしていた。

「「無いな」」

 二人は同時に頷いた。

「くそぉ……くそぉ……こんなはずでは……」

「無理すんなよ?」

「くそぉう!」

 側から見ればただのできの悪いコントである。

「……はぁ、おい貴様」

 ワールドは腕を組みながら少女に話しかけた。

「コイツは見た目はアレだが、芯はそこらの奴らよりしっかりしてる、一度殺された我が保証する」

「は?」

「むぅ、最後のは余計だったが貴様が思っとるような事は出来んよ、コイツは」

 そう言ってワールドは与一の肩に手をポンと置いた。

「それ言われるとなんかしょげるわ……」

 がっくりと肩を落として溜息を与一は吐いた。

「……まぁ、自分で言うのも何やけど、優しくはするで?き……お前が敵対しないならやけどな?」

「………」

 少女は与一をじっと見つめた。

 与一はその目線をしっかりと受け止めていた。

「……分かった……今はお前らの言う通りにしてやろう……ただし、私に危害が加わると感じれば直ぐに殺す」

「うーん……まぁ、それでええわ」

 そう言って与一は、無愛想ながら少女を立ち上がらせようと手を差し出した。

「……ふん!」

 少女はその手をつかむ事なく自分で立ち上がった。

「……よろしくやでぇ?」

 兄は差し出した手を下ろすと、少女に向かって少し笑ってそう言った。

「馴れ合うつもりはない」

 少女はそう言って立ち上がった。

 兄はそっと目線を少女からそらした。

「ほれ……何や……服着いや……」

 そう言って与一は服の一部を変形させ、少女の服を作った。

「……スケベ……」

 少女は顔を赤らめながらそれを受け取った。

 少女の服はすでにボロボロだったが、俊明の蹴りを受けて立ち上がった時にはだけてしまったのだ。

 すると、医者を見送りに行っていたお爺さんが部屋に入ってきた。

「おや、服を持ってきたのだが、用意していたのか?」

「いえ、有難うございます、僕が着せた服がどうにも不服みたいで……」

 そう言って与一は未だ顔を赤らめてこちらを睨みつける少女を横目で見て、溜息をついた。

「そうか、ならリーチェ、お前が着せてやりなさい」
 
「うん、じゃあヨイチ達は外に出てね?」

 リーチェは与一達を部屋から押し出すと、バタンと扉を閉めた。

「………はぁぁぁぁ、つっかれた……」

 与一はスマホの時間を見ると、レースまでまだ少し時間があった。

「さて、お前らは遊んでこい、俺はアイツとロキともう少し話したいからな?」

「ええん?」

「いいのか?」

「いいって、行ってこい」

「……分かった、なんか欲しいもんある?」

「なんか美味そうなもんあったらそれで」

「ん」

「わりぃな」

「ええよ別に」

 そう言って俊明は部屋の外に出て行った。

「……さっきまで喧嘩をしていたと思ったら今度は、仲良しこよしか……貴様ら一体どーゆう兄弟なんだ?」

 ワールドは非常に興味深そうに与一にそう聞いた。

「知らんし、分からん!」

 与一は廊下を歩きながらワールドに向かって振り返る事なく、手を振りながらそう言った。
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