Two Runner

マシュウ

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ウエスタンな異世界

ノヴァ

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「……チッ」

 俊明は一人舌打ちをしながら肩を揺らしてお祭りで賑わっている通りを歩いていた。

 与一とは違い何一つ独り言を喋ることなくただ黙々と歩いていた。

「……」

 すると、何やら人だかりができている店見えた。

 俊明は背後から背伸びをしたが、周りが高くて何も見えなかった。

 俊明はすこしその場でジャンプしてその奥を覗いた。

 すると、そこでポンポンと弾ける白色のワタのようなものがあった。

「……」

 俊明は黙ってそれに並び、会計を済ませた後、適当な肉屋で焼肉を買って兄、与一が待つ屋敷へと戻った。

 戻ったのだが……

「死ね!死んでしまええええええ!!」

「嫌やし!そんな照れんなや!」

「くたばれえええええ!!」

 俊明は兄が龍の少女を挑発しているのを見て溜息をついた。

「にーちゃん何してん」

「おっ、俊明!飯サンキュー」

 そう言って与一は俊明から肉とポップコーンを受け取ると、ハムハムと食べ始めた。

「いやな?あの子の服が似合ってたからさ、『かわええやん』って言ったねんな、そしたらな、顔真っ赤にしてこっち向かって殴りかかってきてん」

 与一は俊明にヒソヒソと聞こえるか聞こえないぐらいの声でそう言った。

「……はぁ、にーちゃんまたおちょくったん?」

「おちょくってへんよ!ほんまやって!」

「はいはい」

 俊明は兄を適当にあしらうと少女を見た。

「名前、なんていうん?」

「……貴様らに名乗るなどない」

「……」

 弟は冷たい目で少女を見ると、与一に、

「あいつクズやな」

 と、少女に聞こえるか聞こえないぐらいの声でそう言った。

「お前なぁ……」

 与一は呆れつつも、

「じゃあ俺が名前決めるわ」

「……えっ?ちょっ」

「お前今日からノヴァな」

 そう言った瞬間、少女の体が光った。

「め、目がぁぁぁぁ!!」

 与一はその光をもろに受けてしまい、その場でのたうち回った。

「な、何してんバカ!」

 それは弟俊明も例外ではなかった。

「っくぅ~~~!」

 与一と俊明はゆっくりと瞼を開けた。

 そして、目の前に角を生やした美しい龍の女性がプルプルと震えてそこにいた。

「「………」」

「戻ったぞ、ん?」

 ちょうどそこで帰って来たワールドが、その女性を見て、

「こやつ、覚醒しおったか、うむ、どうだ?我の嫁に……」

 と、まで言ったところでワールドは天井に突き刺さった。

「………」

 一切息を乱すことなく、おそらく自分の倍の体重があるであろうワールドを天井に突き刺した女性は、キッと地面にヘタリ込む兄弟を睨みつけた。

「なんて事を……なんて事をしてくれたのだ!」

 女性は怒りながら与一の襟を掴んで引き起こした。

「貴様……きさまぁぁぁぁ……!!」

 女性は目に涙を浮かべながらブンブンと、与一の首を揺すった。

 そして、与一は自分の身に危険感じ部屋の隙間を覆い尽くした。

「ロキー!助けてー!!」

「なっさけねぇ声出すんじゃねぇ!」

 ぬっと影から姿を現したロキは女性の腕を掴んで呪文を呟いた。

 すると、徐々に女性の体は小さくなっていき、龍の少女の姿になった。

「全く……まぁ、今回は事故だな」

「事故で済むかぁ!」

 少女は涙目になりながらロキに掴みかかろうとした。

 ロキはパチンと指を鳴らした。

 すると、周りから兄弟やワールドが消えた。

 その場にはノヴァと名付けられた少女とロキだけが残った。

「……おまえ、一目惚れか?」

「イヤーーーーーー!!!」

 少女は頭を抱えて転がりまわった。

「あんなくそデブに?」

「……違う……違うの……!」

 少女は顔どころか身体中を真っ赤にして手で顔を抑えながら呟いた。

「なーにが違うか説明してくれなぁかなぁ?」

 ロキは呆れながらフワフワと宙に浮かびそう言った。

「……兄弟たちには言わないでくれる?」

「まかせろ、秘密を守るのは名前からはわからんと思うが、いっぱしの自信はあるぞ?」

 そう言ってロキは少女に悪戯っぽく笑った。















「………という事です……」

「な、なるほどなぁ……不憫だなぁおまえ」

 少女は俯いたまま少し頷いた。

「ふぅーん、成る程、じゃあ戻る……」

 すると、少女はロキの手をガッと掴んだ。

「な、なんだよ……」

「不公平だ……」

「な、何がだよ」

「私だけ秘密を喋るのは不公平よ!」

「し、しらねぇよ!おまえが勝手に喋り始めたんだろ!?」

「そんなの知ったこっちゃないわ!さぁ!貴様も喋れ!」

「ねぇよ!ねぇってば!」

 ロキはしがみつく少女を離そうと頑張っていたが、存外力が強く中々離せずにいた。

「あー!わかったわかった!はなす!はなすから!」

「よし!」

 少女はガッツポーズをして、その場に座った。

「………」


















 兄弟は目の前で一瞬二人が消えたかのように見えた。

「……ん?」

 そして、与一は全く大人しくなっている少女を不思議に思った。

「……」

 が、また何か言われそうなので黙っておくことにした。

「ん?」

 そして俊明はロキが若干赤くなっているのに気がついた。

「……なぁ、なんかあったん?」

「「何もない!」」

 二人は揃ってハッキリと恐ろしいまでにそう言った。

「……下で何があったか知らんが、そろそろ下ろす許可を与えんでもないぞ?」

 すると、上の方から宙ぶらりんになったままのワールドがそう言った。

「……」

 ロキは無言で杖を振ってワールドを下に下ろして、天井を修復した。

「さて、こいつの名前だが、私が決める事にした」

 暫定だがな、と付け加えると、

「こいつの名前は、ティアマトだ、気軽にマーちゃんとでも呼んでやれ」

「!?」

 ティアマトと名付けられた少女は驚愕の目でロキの方を見た。

「待ってから、それはもういるから別のやつで頼む!」

「ん?そうか、じゃあファフニー……」

「もういい!ノヴァでいい!」

「えっ、名前嫌じゃなかったん?」

「……仕方なくだ……仕方なくなのだ……!」

 ロキからすでに名付けられている名前を言われ、掘り返されたくないところを与一に掘り返された少女ノヴァは膝を抱えて、部屋の隅でブツブツとつぶやき始めた。

「……まぁ、アイツは放っておくか、で?そろそろ時間じゃないのか?」

 そう言ってロキは彼女の懐から懐中時計を取り出した。

「それはどこから出しておるのだ?」

「「……」」

 兄弟達が今まで触れようとしなかったところに触れたワールドは、興味深そうにそう言った。

「これか?………まぁ、秘密だ、妄想なりなんなりしておいてくれ」

「ふーむ、下から……むぐっ!?」

「ちょっ!ワールド?おまえちょっと!?」

「なんなんだ?妄想なりなりなんなり自由にしてくれとロキは言ったではないか?」

 与一はワールドの口を塞ぐと、

「おまえ!女の人のデリカシーってもんを考えや!」

 と、小声で叫んだ。

「む?いや、我はただふつうに子供とか出てくる……」

「お前はゴブリンの時に何見てきたか知らんが、あまり女の人の体の話題には触れない方がいいんや!」

「むぅ、成る程これでまた一つ勉強になった」

「わかってくれたならええわ……」

「しかし……いや、これ以上はいい」

 そう言ってワールドはパンパンと体を払った。

「して、そろそろレースの始まる時間ではないかな?」

 そう言ってワールドは与一を見た。

 すると、ちょうどタイミングよくおじいさんが再び部屋の中に入ってきた。

「さて、皆話は終わったかの?ソロソロ出番じゃ」

 そう言ってお爺さんは与一と俊明を見た。

「はい、そろそろ観覧席の方に……」

「何を言うとるんじゃ!お主ら二人、孫一人、そしてギリギリで入れることのできた娘のコレ」

 そう言っておじいさんは小指を上げた。

「えっ」

「まぁ、言いたいことは分かるが勝つ為じゃ、我慢しとくれ」

 そう言ってお爺さんは兄弟に手を合わせた。

「ま、まぁ、僕達も泊めていただいているわけですし、それでお手伝いになるのなら……」

「おお!そう言ってくれると思ったったぞ!ささ!こちらじゃ!」

 与一がそう返すと、お爺さんは目にも留まらぬ速さで兄弟の手を握り連れ去って行ってしまった。

「……あの翁、ただものではないな」

「あっ、わかった?」

「……彼、私が寝てる時もいつ襲ってきてもいいように銃のホルダーに手を置いていた……」

 そう言ってその場に残された三人は顔を見合わせた。

「ところでロキ、お前部屋空いてるけどいて大丈夫なのか?」

「おう、陽の光が直接当たるわけじゃなかったら問題ない」

「じゃあヨイチが苦労して部屋を塞いだのは……」

「まあ、窓は塞がないとダメだから取り越し苦労ではなかったな」

「……俊明が損しただけではないか」

「あの時点で剥がされたら玄関の開けっぱなしになっていた光が入って来てたんだよ」

「何故そのことが?」

「説明するのがめんどくせぇよ」

 そう言ってロキは大きな欠伸をした。

「……ふむ、では我はそのレースとやらを見に行くとするか」

「私は戻って準備だな、あっ、買った備品はどれだ?」

「そこの袋にまとめおる」

「りょーかい、感想聞かしてくれよな」

「どうせ貴様も見えるのだろう?」

「さぁな?」

 ロキとワールドはしばし睨み合うと、

「では行ってくる」

 と言って、ワールドは歩き出した。

「……ノヴァ、お前さんはどーすん?」

「……さっきまで奴隷として売られてたの忘れてない?」

「そりゃ悪かった、まぁ、こっからでも見れるけどな」

 そう言ってロキは再び指をパチンと鳴らした。

「便利ね、それ」

「まぁな、空間神威は今の所あんまり人とかが使えるような物じゃないからな」

 そう言ってロキは杖を取り出して、宙に円を描いた。

 すると、そこに二台の列車と、湧く観客の姿が映し出された。

「ふぅん、いつもこうやって見てたの?」

 ロキはそれに答えることなく、杖を一振りして椅子二つと机を一つ用意した。

「まぁ座れよ?」

 そう言ってロキはノヴァに笑いかけた。

「……なるほど、いい思いしてたのね?」

「クックック」

 そうロキは笑うと再び映像に目を戻した。

「……貴方達の進んだ道、見せて貰います……」

 そして、そう言ってノヴァと映像に目を向けるのだった。
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