Two Runner

マシュウ

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ウエスタンな異世界

ゴールドアーマー

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「で?何なんや?これは?」

「うむ、お主らが映し出されているものがあったのでな、それを見ていると何やらエルフどもに襲われていたので少し先回りして助けてやろうと思っていたのだが、それよりも早くに此奴らが居たからな、この体の試運転として少し遊んだまでよ」

「なる……ほど……」

 与一は少し先で混乱して停止した列車の方に目をやりながら、

「で?全員殺したのか?」

「いやいや、全員生きとるよ、ただ虫の息だがな」

 と、笑いながら手に持っていたエルフを離して血をそのエルフの服で拭った。

「……強いなぁ……」

「何を言う、貴様我に勝ったではないか……いやだが待てよ、アレは貴様がその服を使ったからで……同じならどうだ?」

 と、ワールドはこちらを見た。

「……しゃーない、俊明、ちょっと待っといてもらって?」

「なんて言えばええん?」

「おー、『エルフ達を縛るの手伝っていただけませんか?』って」

「成る程」

 そう言って俊明は列車の方へと走って行った。

「……さてと、やるか」

「手加減してくれよ?」

「ほざけ……」

 そして、与一は服を変形させて、箱の形に戻してその場に置いた。

「「……」」

 そして、ワールドは履いているズボンのポケットに手をしまった。

「……」

 与一はそれに対して何も言わなかった。

 そして、ゴロリと一つの石ころが鉱山から落ちてきて、二人の間を転がりパカっと真っ二つに分かれた。

 その瞬間、二人は動き出した。

 ワールドは居合斬りの様に地面すれすれから手を出して首元めがけて、

 与一は何のひねりもなく大きく踏み込んで右フック。

 ビシィッ!

「……ウンヌァ!」

 先に攻撃が命中したのは与一だった。

 首に強烈な手刀をくらったが、右手の威力は落ちる事は無かった。

 ワールドの顔の前まで行った右手は唐突に行き場を地面へと変えた。

「!?」

 正確にはワールドが左手で与一の右手を持って、そのまま屈んで後ろに投げ飛ばしたのである。

 前への力は損なわれる事なく、与一はワールドの後ろへと跳んだ。

 ゴッ!

 と、凄まじい音がなり、与一の殴った地面が裂け、そこ一体が少し沈んだ。

 そして、拳を上げるよりも先にワールドが与一の頭に膝を入れた。

 だが、与一は少しよろめきながらも、ワールドの反対の足を掴んだ。

 そして、

 ワールドを赤ん坊がおもちゃの人形を地面に叩きつける様に、地面に何度も何度も叩きつけた。

 そして、しばらく叩きつけた後、ブンブンと振り回して遠心力をつけて最後にダメ出しとばかりに少しばかり飛び上がって地面にそのまま垂直に叩きつけた。

「ゼェ……ゼェ……」

 与一は息を切らし鼻から血を流しながらも立っていた。

 そして、ワールドは完全に気を失っていた。

 だが、その体に外傷を見つける事は出来なかった。

「おい、起きれんねやったら早起きやな俺の勝ちになんで……」

 与一は少し距離を取りながらワールドを突っついた。

「……むん!」

 すると、突っついていた手を持ってワールドは起き上がって少し縦に振った。

「なっ!?」

 すると、与一は力が抜けた様に地面に膝をついた。

「……いつかの爺がやった技だ、まぁ、そいつは数に押されて殺されたがな……」

 そう言って地面に膝をついた与一を蹴り上げると、連続で蹴りと拳を叩き込んだ。

「……この技はいつかの女が使っていたなぁ……まぁ、その女は貴様に解放されたが……気が強く我好みの抱きごこちだった……」

 そして、少し吹っ飛んだ与一を更に蹴りで上に蹴飛ばし、指を一度鳴らして空を蹴って同じ高さまで跳んだ。

「これも、いつかの我らを退治しにやってきた男連れの女が使っていたなぁ、男の前で抱いてやった時、あの顔は良かった……」

 そして、脚に力を込める様に力むと、脚が充血した様に黒くなった。

 それだけでなく青い炎の様な物も脚を包んでいた。

「そしてこれは一番の幸せを我にくれた、一番我の子供を産んでくれた女が使っていた技だった……あぁ、いまは誰に抱かれているのだろうか……」

 そして、ワールドは与一にかかと落としを決めた。

 ゴキャリと、音がして与一は地面にめり込む様に叩きつけられた。

 スタッと降り立ったワールドは懐かしむ様に目を閉じた。

「あぁ、あの頃の女らは皆元気にしているだろうか……」

 すると、与一はユックリと頭や身体中から血を流し真っ赤になりながらゆらりと立ち上がって、ワールドを指差した。

「てめぇ……お前はまだ教えてもらわなあかんなあかん事……多いなぁ……」

 そう言って、ユックリと顔を上げた。

 そして、その額には鬼の様に赤黒い炎が渦巻いていた。

「……レッツトラァイ……」

 と、呟くとゆっくりと与一はワールドに歩み寄った。

「さぁ祝おう!」

 すると、何処からともなくシルヴァの声が響いた。

「かつて最強と言われた、名無しの怪物!その光景がここにまた披露されるよ!」

 シルヴィは鉱山の入り口からゆっくりと歩み出ながら、与一の横に立った。

「そう……君は強くなる……でもね?」

「何の用なん……」

「いや……まぁいいや、頑張って!」

 と、肩をポンとシルヴィは叩いてその場に光の粒となって消えて行った。

「……何なのだアレは?」

「知らん、水刺されたけどよぉ、まぁ、ええやろ?」

 と、そう言って与一はもう一度ゆっくりと右の拳を引いた。

「その手は通用せんぞ」

 と、ワールドは余裕を持って反撃しようとしたが、

「う、何だこれは!?」

 動こうとしたワールドだったが、脚に何かまとわりつく様に、掴み掛かられる様に動けなくなったワールドは何事かと足元を見た。

「なっ!」

 そして、下を見たワールドは全身から冷や汗が止まらなくなった。

 そこには今まで女の目の前で殺してきた男の霊、見せしめに殺した女の霊、その他諸々が地面から這い出てきて、殺された時のままの姿でワールドの脚を掴んでいるのだった。

「くっ!離せ!今は彼奴と闘ってあるのだ!過去の貴様らは関わるな!」

 と、ワールドは振りほどこうとしたが、

「……いーや……お前は一回それ見て考え直せ……」

 と、いつのまにか目の前まで来ていた与一の姿を見て更に驚いた。

「き、……貴様が握っているその拳にいるのは何なのだ!」

「……さぁ?俺には見えへんからなぁ……」
 
 と、与一は一度大きく踏み込んだ。

「や、やめろ!その拳で我を……!」

「ふん!」

 踏み込んだ脚をそのままに与一は顔面に右フックをかました。

 それにはワールドには物凄く長く感じた。

 右の拳が引きに引かれた所から放たれる矢の如くこちらに向かってくる様を、スローモーションを再生するが如く、ゆっくり、ゆっくりと見つめることしかできずにいた。

 その長い時の間、ワールドは迫り来るあの拳に恐怖という感情を抱きながら終わりの時を待った。

 そして、長い様で一瞬の鋭い痛みをほほに受けて、10メーターは吹っ飛んで漸くワールドは気絶した。

 ドキャリ!

 と、音がしてワールドは地面に叩きつけられた。

「……終わった?」

「あいよ……ちょっと……ねみ……」

 倒れそうになる与一を蹴倒して俊明は魔法をかけた。

「あほ……負けたら立つなや……」

「やりすぎってか?」

 与一は体が回復するのを目を閉じてまった。

「いや、一回お前気ぃ失ったったやろ?」

「それ言うたらワールドもやん」

「まぁ、なるほど?」

 俊明は首を傾げながら与一を立ち上がらせた。

「どう?」

「んー、まぁ、健康一番って感じやな」

「何言うてん」

「しらね」

「あっそ」

 俊明は与一を呆れた目で見るとワールドに近寄って行った。

「……うーむ、ダメかぁ?」

「ピンピンしとるやん」

「いや、今の今まで気を失っておったぞ?ほら早く」

「へいへい」

 俊明は溜息をつきながら、その場に座り込んでワールドに回復魔法をかけた。

「いやぁ、ダメだったかぁ、いけると思ったんだがなぁ……」

 ワールドも兄と同じように目を瞑りながら独り言を何やら呟いていた。

 そして、回復が終わるとワールドは立ち上がり、くるりと与一の方を見た。

「うむ、お主は強い、ただなぜその体型でそれほど動けるのだ?」

 と、与一の弛んだ腹を指差した。

「しらん!」

 それに対して与一は即答だった。

「むぅ……お主のような奴がなぜ今まで出てこなかったのか不思議で仕方ないぞ?」

「だからしらんって」

「ふむ……まぁいい、彼奴らは我が連れて行っておく、なに、つまみ食いはせんさ」

 と、そう言っていると上から蒸気ヘリ(?)が降りてきてエルフたちを一斉に詰めた。

 それにワールドも飛び乗ると、バタバタとヘリは町の方は飛んで行った。

「全く……ほんま疲れるわ……」

 与一は肩を落として溜息を吐いていると、リーチェとユーリがやってきた。

「お祭りのレースは続行だって」

「マジか」

「ま、たしかに長年続いている伝統をここでこんな形で打ち切るわけには行かないからね」

 と、ユーリは肩をすくめながら兄弟にそう言った。

「あーそ、じゃあ行こっか」

「にー……いや、やっぱ何でもないわ……」

 俊明は真っ直ぐに列車に向かっていく兄を引き止めようとしたが、溜息を吐いて止めた。

 そして、俊明は渋々と列車に乗り込むと、石炭車の前で胡座をかいた。

「やってられんわ……」

 と、そんな小さな独り言は列車の汽笛にかき消され、再び列車は動き出した。

「うっさいなぁ……」

 俊明は溜息をさらに深々と吐いて俯いた。

 与一はそんな弟を見て、同じように座り込み肩を組んだ。

「つまらんか?なら笑え!ふはははは!」

「………はははは」

「フゥッハッハッハッハッハッハ!」

「ははははは」

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

「ははははは!」

「よろしい!ならば立て!前を見よ!尊敬すべき兄のように!」

「うん、くたばれ」

 そう言いながらも俊明は立ち上がって兄の尻を軽く蹴った。

「うっ!?」

 少し蹌踉めきながらも兄は石炭車の上に飛び乗った。

「よっしゃ!じゃあ行くで!」

「おっしゃこい!」

 そして、兄は弟に向けて石炭が入った袋を放り投げた。

「うぐっ!」

 弟はそれを受け止めると窯に投げ入れた。

「いいわよ!どんどんスピードが上がってきてるわ!」

「本当に彼ら不思議な人達だね?」

「まぁ、ね?」

 と、リーチェ達も少し笑いながら運転をして森を抜けようとしていた所、後ろの木々をなぎ倒して何かが近づいていていた。

「……うせやろ?」

 与一は小さく呟くとリーチェの方を向いた。

「分かってるわよ!皆んな!お客様がお見えよ!全く!」

 そう悪態をつきながらリーチェのはレバーを押し倒した。

「スピードを上げたいから私たちも手伝うわよ!」

「えっ?車輪は?」

「そんなの元々の保険みたいなもんよ!そんなちょっとやそっとで壊れるようなもの作ってないわよ!」

 と、リーチェはキレ気味にユーリに怒鳴った。

「わ、分かった分かった、そう怒らないでくれよ」

「与一!」

「はいよ!」

 与一はリーチェに呼ばれて木々から何が出て来るか見つめながら振り返らずに返事した。

「与一達はアレをどーにかして!石炭とかは私達でなんとかするから!」

「アレ結構大き……」

「お願いだからつべこべ言わずにやって!」

「あいよ!全く!異世界に来て美人な女の子にこき使われるとかサイコーやなぁ!」

 と、与一は返事をすると胸の前で腕をクロスさせた。

「変……身……!」

 そして、腕を広げると服を変形させて鎧にした。

「で?どうやって戦うん?」

「ゴリ押し」

「真正面から?」

「ぶん殴るでぇ」

「じゃあ俺にーちゃんごとぶっ飛ばすわ」

 と、肩に巨大なランチャーを掛けてすでに1発ぶっ放した俊明はそう言った。

「撃つんはやない?」

「知らんわ……ん、お前速なれへんかったっけ?」

「なれるけど?」

「どれぐらい?」

「……こんぐらい」

 そう言って俊明は一瞬目の前から消えると与一の目の前に、一人女のエルフを連れてきた。

「……お前どこいってたん?」

「………」




 俊明は兄から煽られるように速さの提示を求められ、一気に世界を遅くした。

「……あのアホが!」

 小さく呟きながら、ポケットから耳栓と目を守るプロテクターを取り出すと、それを付けてゆっくりと動く列車から飛び降り、木々を伝って獣の背中に乗った。

「……オラオラオラオラ!」

 背中に乗ってしばらく考えるように立ち止まると、唐突に俊明は獣の背中に向けて地団駄を踏んだ。

「………」

 小さく満足そうに頷くと、そのまま背中を伝って獣を操作している列車に乗り移った。

 列車は馬車を二つ繋げたような形をしており、俊明は一番偉そうな態度を取っている女のエルフを摘み、そのまま一度自分たちの列車の方へ向かって放り投げた。

 そして、それだけでは飽き足りなかったのか、エルフ達一人一人に閃光手榴弾を持たせようとして、やはり疲れたのか真ん中に十個ぐらい固めて栓を抜いて来たように獣の背中を伝って、木々を通り抜けて列車に再び飛び乗ってその際に投げた女エルフを掴んで兄の目の前に突き出した。

「……」

「なぁ、どこいってた……おわっ!」

 俊明は無言で与一に女エルフを放り投げた。

「?!?!?!?!?」

 女エルフはかなり混乱したように取り乱していた。

 そして一瞬遅れて何やら向こうで獣が暴れているような音がして……、

 速度を上げて獣はついにその姿を与一達の前に表した。

「う、馬ぁ!?」

 与一は叫び声をあげながら女エルフを拘束すると、その馬の顔面めがけて飛び上がった。

 そして、思いっきり殴った。

 ガチーン

 と、音がして与一は列車にはじき返された。

「アイターン!」

 石炭の入った袋の中に突っ込んだ与一は若干黒くなりながら袋の中から立ち上がった。

「かったぁ……」

 手をブンブンと振りながら弾かれたところを与一は見ていた。

「……全部やっつけてこよか?」

「行けんの?」

 珍しく乗り気になっている俊明に与一は困惑しながらもそのまま頼んだ。

「任せろ」

 そう言ってニッと与一に笑いかけて、俊明は世界を置いて列車から飛び出した。

 与一の体感時間にては約1秒、俊明の体感時間では約一時間、

 与一は一瞬の間に獣がひしゃげて、何故か飛び上がった列車が砕け散り、エルフ達が自分の列車に飛んでくるのを見た。

 そして、俊明は息切れ一つ起こさずにゴーグルをゆっくりと外して、

「どう?」

 と、爆散する馬車を背後にドヤ顔で与一にそういうのだった。

「お、おまえ……」

「さぁ!祝おう!」

 すると、またまた何処からともなくシルヴィの声が聞こえてきた。

 振り返ると、何人ものエルフ達が縛られている山の上にシルヴィが優雅に座っていた。

「全てを置いて抜き去るその速さ!かつては星間さえも渡り歩くことができたというその能力!」

 そして、エルフ達を踏みつけないようにフワフワと浮き上がりながら俊明の前に止まった。

「……それはもう君の能力だよ……ふふっ」

 そう言ってシルヴィはジッと俊明を見つめた。

「……で?」

 俊明はそう言ってポケットからスマホを取り出して、その場に座り込んだ。

「俺は頑張ったから後ヨロー」

 と、言ってゲームを始めた。

「……あっははははは!なるほど!君はそんなにもボクに興味が無いのかい!クックックックック!」

 そして、シルヴィは腹を抱えて笑った。

「いやいや!久々だね!こんなのは!うん!じゃあ引き続き良き旅を!」

 と、そう言ってシルヴィはまたまた光の粒になって消えて行った。

「……なんなんあれ?」

「さぁ?」

 と、二人は首を傾げていると、

「二人共!すごい音したけど……うわっ!もうやっつけたの!?」

 石炭車に山積みになったエルフ達を見てリーチェは飛び上がった。

「おう、終わらせてくれたみたいやわ、こいつがな」

 と、そう言って与一は俊明の肩を叩いた。

「……うっす」

 と、俊明は軽く会釈をすると、立ち上がって石炭の袋を持って窯に放り込みに行った。

「……もしかして彼シャイ?」

「……やろうなぁ」

 リーチェと与一は苦笑いしながら顔を見合わせて、そして、また列車を止めようと運転室に戻ると、一人で飛ばされてきた女エルフが、

「クックックックック」

 と、何故か笑っているのに気がついた。

「なんでわろてんの?」

 と、与一はそのエルフに座り込んで聞いた。

「貴様らは終わりだ!ふはははは!」

「教えてくれん?逃したらから」

 と、与一は真顔でそう言った。

「は?……罠だろ?」

「じゃあはい」

 与一は女エルフの拘束を解いた。

「……!?」

 エルフは信じられないと言った顔で与一を見た。

 そして、

「……間抜けめ!」

 と言って逃げ出そうと列車の外に飛び出したが、

「アホか!」

 と、与一が触手を伸ばしてエルフを捕まえた。

 エルフが飛び込んだ瞬間、景色は変わって殺風景な崖へと変わりエルフが落ちる地面は遥か下に変わった。

 それを与一はギリギリで掴むと列車内に引き戻した。

「あっぶなぁ、無事か!?」

 与一はエルフに心配そうに声をかけた。

「……お前一体何者なのだ!?」

「いや、どー見えるん?」

 と、言って与一は両腕を開けて首を傾げた。

「……分からん」

「あっそ、じゃあ俺も分からん」

 そう言って、与一は触手の拘束を解いた。

「……で?それとさっきの質問関係あるん?」

「……」

 エルフは無言を貫いていたが、

「この先のレールに爆発する薬物を仕掛けておいた、上を走れば爆発する魔法だ。たとえ列車が爆発に耐えてもそのまま列車は奈落の底だ」

「おぅ」

「……さて、我々はここで死んでも構わないと思って来ていたわけだが、救われてしまった……ヒトに貸し借りは作りたく無い……っておい!」

 女エルフは既に外に飛び出した与一に驚きの声を出した。

 そして、それまで黙って見ていた三人はエルフを囲んだ。

「「「………」」」

 そして三人は顔を見合わせると、急いで列車の外に顔を出した。

 女エルフもそれに続いて顔を出した。

 するとそこにはエイのようなものに乗ってホバリングしながら先に見える点のような物に列車よりも速いスピードで向かっていた。

「……あっ!あれ!」

 リーチェが指差した方にはもう一方の相手方の列車が走っていた。

 そして、何も知らない列車は徐々に近づいていき……、

「ダメ!」

 爆発……するかと思われたが、与一がすんでのところでそれをむしり取った。

「ふぅ……あれっ?私たちのところは?」

 四人は目を凝らして列車の先を見た。

「……あるじゃん!」

 四人は与一の方を向いた。

 与一は取った爆薬を抱えたまま向きを変えて同じように難なく取った。

 そして、それを触手で宙高く放り投げた。

 ドガァン!

 と、盛大に爆発した爆薬はさらに綺麗な爪痕を残した。

「……ふぅ、やれやれって感じね……」

「待て待て!まだ有る!」

 リーチェは溜息を吐いて座っていたが、エルフは焦ったように与一の方を見た。

「おい!まだ先にも爆薬が……!」

 ボン!

 と、女の言葉を遮るように一瞬車体が宙に浮いた。

「おいおいおいおい!」

 与一は浮き上がった列車を何事かと近付こうとしたが、爆風によって吹き飛ばされてしまった。

「うぉぉぉ!!」

 きりもみ墜落しながら与一は体勢を立て直そうと体を捩った。

 何とか元に戻ると二つの列車が地の底に向けて落ちているところだった。

「まじか!!!!」

 貧相な頭の作りの与一は考えた。

 考えて考えて考えた。

 一瞬のうちに考えた。

 そして、

「……クッソ!」

 近くの岩棚にすぐさま降りると振り向きざまに、服の全部をを列車のレールに変形させた。

 それを空中で分解したレールと繋げて、地面に落ちるところにレールをもう一度宙に浮かぶように繋げ直した。

 そう、いわゆる空中ジェットコースターである。

 しかし、彼に精密な計算を行う脳などなく全て彼は勘で列車を飛ばしていた。

 ただ彼の頭にあったのは、

『列車同士をぶつけないで向こうのレールに飛ばす!』

 ということだけだった。

 汗だくになりながら列車を飛ばしては着地させ、飛ばしては着地させ、列車が走ったところからレールを崩して新しいレールを先に作る。

 そして、そろそろ良さげな高さになってくるのを確認すると、二つの列車を先の元の続いていたレールに飛ばした。

 着地した瞬間、基礎の部分である木がたわみミシミシと不安な音を立てた。

 そして、二つの列車は火花を散らしながら全力で車輪を回した。

「いっけぇぇぇぇ!!」

 与一はそう叫ぶと最後に木の部分を補強するように、レールの一部になった服を元に戻して縫い合わせた。

 そして、2両の列車は弾かれるように急発進すると走った所から崩れる橋の上を並列しながら走った。

 そして、地面の上に引かれているレールの上に乗ると、急停止して中からリーチェ達が降りてきた。

 が、与一は峡谷の陰からワラワラとエルフ達が出てきたのを見て、

「行け!早く行ってして応援を!」

 と、言って木を支えていた服を元に戻して鎧に変形させた。

 そして、拳を握って構えると、ポケットに何か光っていることに気がついた。

 それは与一は名前を知らなかったが、列車で切符を切るときに使う物と知っていた。

 そして、それと対になるように、

『GOLD』

 と書かれた薄汚れた紙が一枚出てきた。

 与一は躊躇うことなくその紙をその器具でカチンと、穴を開けた。

 すると、何処からともなく汽笛の音が聞こえ、白い穴から黄金列車が走って来た。

 そして、与一と衝突すると思われたが、与一をすり抜けて光粒となって消えた。

 そして、残った与一には変化があった。

 全身の鎧が煌びやかに黄金に染まり、肩の部分にはシリンダーとピストンが一揃いずつ付いていた。
 
 ガッシャガッシャ

 と、音を立てながら蒸気機関車のようにスチームとともに動いていた。

 与一は自身の体を眺めて、そして、

「『ゴールデンアーワー』……」

 と、呟いた。

 そして、徐々に近づきつつあるエルフ達を再び視認すると与一は軽くつま先をトントンとすると、エルフ達に向かって歩き始めた。

「何だあいつは……全員放てぇ!」

 エルフ達はそれを見て矢やら、魔法やらで対抗して来たが、

 煙が晴れて未だにユックリと歩み続ける与一の姿を見て、多少なりとも驚いたのか目を見開くものも少なくなかった。

 しかし、それでひるむことはなく、エルフ達は続けて攻撃し続けた。

 そして、上の方からエルフ達の何人かが岩を与一に落とした。

 シィン

 としたその場だったが、すぐになにかの破壊音が聞こえた。

 なにかを砕くような音と、地面を揺るがすほどの衝撃が何処からか響いて来た。

「な、何なんだ!?」

 地面が揺れるというはじめての体験にエルフ達はどよめいた。

 そして、地面がひび割れてそこから黄金と鎧の手が出てき、そしてそれに続いて体全体が地上に出てきた。

「あせったぁ……」

 与一はそうやって呟きながら一番偉そうなエルフ向けて一直線に歩いて行った。

「……」

 エルフ達はあまりの出来事に口を開けて地面にへたり込み、その様子を見ているだけしか出来なかった。

 そして、勇気ある(ここでは蛮勇とでも言うべきか)若いエルフが与一に向かって剣を振りかざした。

 そして、与一はそれを手で軽く防ごうとしたが、

 その若いエルフは何者かによって岩に叩きつけられた。

「……また強くなったのか?貴様」

「来るん早すぎん?ワールド」

 与一とワールドは互いに睨み合いながらジリジリと距離を詰めた。

 そして、

「もう終わりか」

「おう、あとこいつに話つけたら終わりや」

「つかなかったら?」

「つぶす」

「わかった」

 と、友達と話し合うように普通にそう話し合うと、ワールドは近くの岩に腰を下ろした。

「……さて、お偉いさん?」

 与一はへたり込んである男のエルフの前に正座をした。

「ここは引いて頂けないでしょうか?」

 と、あくまでも丁寧にそう言った。

「………くっ!」

 エルフはしばらくあっけに取られたような表情をした後、与一に素早い動きで短剣を突き刺した。

 筈だったが鎧にその短剣は突き刺さることはなかった。

「……ここは引いて頂けないでしょうか?」

 そして、与一はもう一度同じような口調でそう言った。

 が、男のエルフは続けて与一の首を絞めるように後ろに回った。

 が、鎧と鎧の間に腕が中々上手く入らず、そして、謎に動いているピストンが邪魔をして上手く首を絞めることが出来なかった。

 そして、苦しくも何ともない与一はもう一度、

「引いて頂けないでしょうか?」

 と、言った。

 男のエルフはヨロヨロとよろめいてそして、手から魔法を出した。

 が、与一の鎧はそれを受け付けなかった。

 そして、

「……じゃあ正当防衛と、あとは悪さしたから……」

 と、立ち上がり、それを見てワールドもコキコキと首を鳴らして立ち上がった。

「「つぶすか」」

 与一は一番身近にいたエルフの男を掴むと腕と足を縄で縛ろうと抑え込むと、

 周りのエルフ達が縄で与一の手足を投げ縄のようにして、拘束した。

 与一はあまりの事に驚き、そして、その隙に男は与一から逃げ出した。

「その鎧も案外大した事ないのかも知れぬな?」

 と、ワールドはエルフ達に囲まれながらも呑気にそんなことを言った。

「かなぁ?」

 与一は少し力を込めて縄を引っ張った。

 すると、縄を掴んでいたエルフ達が与一に向かって飛んで行って、与一の足元に転がった。

 与一はそれを見ると鎧を前と同じように変形させて、エルフ達を縛り上げた。

 そして、残りの遠いエルフ達はワールドが走って血祭りにあげていた。

「あんまりやりすぎるんじゃないぞ!」

「うむ、この体だとちと手加減が難しくてな……」

 と、顔をしかめるのを遠目で見た与一は溜息を吐きながらエルフ達を触手を使って空に打ち上げた。

 そして、同じようにあらかた捕まえると、

「まだやるぅ?」

 と、残ったエルフ達ににそうきいた。

「………!!」

 エルフ達は顔を見合わせて、まとめて与一に突っ込んでいった。

 与一はなにかと、思って全員まとめて捕まえようと触手を広げたが、全員が手に持っているものを見て触手の先をエルフ達からその手に持っている物に変えた。

 そして、全員から白い光が放たれ……、

 チュドン!

 と、音がして爆風と黒煙が立ち上った。

「くっ!何事だ!」

 ワールドは黒煙が晴れるまで何がどうなったのかを理解することが出来なかった。

 そして、黒煙が晴れてようやくどうなっているのかが理解でき、そして、さらに混乱した。

 白い光を放ったエルフ達は全員気絶し、そして何故か与一が見るも無残な姿になっていた。

「よ、ヨイチィ!!!!」

 ワールドは与一に駆け寄ると、ギリギリ繋がっている腕と足をくっつくはずがないと分かっていながらもくっ付けようと、傷口同士をくっつけた。

 すると、驚いた事にその傷口同士がひっついて元と同じように戻った。

「な……」

 ワールドは言葉を失いながらも、神妙な顔つきで残りのパーツを与一の体に引っ付けた。

 すると例外なくパーツはすべてひっついて与一は元の体に戻った。

 変わった所といえば、余分な肉が消えたぐらいだろうか。

 すべてくっつけ終わるとワールドは与一に息があることを確認して、ふうとため息を一つ吐いた。

 そして、エルフ達も同じように気が付き始めたのに気づくと、全員を一箇所に縛って集めた。

「……」

 無言で一言も話さずワールドは気付き始めたエルフ達を見ていた。

「……ん、な、何が起こったんだ……何故我々は縛られているのか」

「何故誰も居ないんだ?」

 一人のエルフが目を覚ましたのをキッカケに次々と他のエルフ達も目を覚ましていった。

 そして、

「……何故我々は無事なのか……?」

 と、当然の如くの疑問に行き着いた。

 そして、ワールドはエルフ達に見えないように全員の背後に座って次の言葉を待った。

「……そうだ、思い出した!」

「………」

「爆発する寸前に、我々とあの爆薬との間に薄い壁ができて奴だけが吹っ飛んだのだ……」

「………」

「……我々は神に救われたのだ!」

「……愚かな……」

 そして、行き着いた答えにワールドは溜息をついた。

「!!」

 エルフ達は突然後ろから聞こえた声に固まった。

「愚かすぎて話にならん……」

 ユックリとエルフ達の前に回り込んだワールドは、エルフ達の前に胡座をかいて座って与一を指した。

「こやつが自身の身を守る鎧を変形させて、自分がどうなろうとも構いなしにお主らを救ったのだ……」

 そう言ってワールドは与一の金色の鎧に手を触れた。

 すると、飛び散っていた黄金の破片がサラサラと与一の体に再びまとわりつき、そして、エルフ達の前で薄いバリアに変形した。

「こやつが貴様らを殺すまいと身をズタズタにしてまで守ろうとしたかは知らぬが、貴様らは自分達の都合のいいように解釈しすぎだ、それではこいつの面目はどうなる」

 そして、バリアは与一の体を再び覆った。

「……我々をどうするつもりだ」

 エルフ達はワールドの話に対しては何も言うことなく、ただそう言った。

「殺しはせんよ……ただ、仲間になった奴の仇討ちぐらいはしても構わんよな?」

 と、そう言ってワールダは徐々に縛り上げたエルフ達に近づいた。
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