Two Runner

マシュウ

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ウエスタンな異世界

旅路の支度

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「……ぐっ!」

 与一は徐々に明るくなっていく視界に目を細めながらも、ユックリと目をならして周りを見渡した、そこは見慣れた自分の部屋ではなくカーテンのない窓と木製の棚と、木製の椅子と自分が寝ているベッドがあるの部屋だった。

「……そうだ」

 与一は重いようでやけに軽いような体を起こして、ゆっくりとベッドから降りた。

 そして、ふらふらとしながら部屋の扉を開けて、その先にある空間を覗き込んだ。

 そこにあるのは少しばかり長めの廊下で、向こうの方から何やら話し声が聞こえた。

 与一はそういえば異世界に来たんだっけ、と思い出しながらゆっくりと声が聞こえる方に近寄って行った。

「全員は捕まらんかったが、大体の奴らは捕まったようじゃ」

「そうか……残りの奴らがこの街で少数で活動するということは……」

「無いじゃろう、ここはあやつらにとってとても動きにくい所じゃ、恐らく大元に報告にでも戻ったじゃろう」

「ふむ……や、起きたかヨイチ」

「おう……おはよ……」

「寝起きは貴様弱いのか?」

「……どうも……な」

 与一は目をショボショボさせながら、バリバリと頭をかいてガラガラ声でそう言った。

「ほれ、水を飲め目がさめるだろう」

「サンキュ……」

「トシアキとリーチェ達は近くの線路の点検に行ってる」

「……あっそ……」

 未だ眠そうにしながら与一は水を飲んだ。

「貴様随分と眠ってたな」

「そう?どれぐらい寝てたん?」

「まぁ、1日だな」

「そんな人って寝れるもんやねんね」

「まぁ、体の殆どが吹き飛んで回復するまで時間がかかるのも仕方がないとは思うがな」

「……まって、俺の体殆ど吹っ飛んだの?」

「うむ、手足が原型を留めないぐらいには」

「オゥ……」

 そう言って与一はキョロキョロと周りを見回した。

「何を探しているのか?」

「服」

 与一はそれだけ言うとフラフラとしながら部屋の外に出た。

「翁、すまぬが奴に似合う服を用意してやってくれんか?」

 そう言うとワールドはボロボロになった与一の服を引っ張り出した。

「ロキの奴が言うておったぞ『どんな使い方したらこんなボロボロに出来るんだ』とな」

「あー……」

 与一は目頭を押さえると少しそのまま固まった。

「まぁ、気にすることもなかろう、ロキも半笑いでそう言っておったしな」

 そう言いながらワールドはそのボロボロになった服をポイっと旅行鞄の中に突っ込んだ。

 そして、空を閉じて与一に投げ渡した。

「うっ」

「受け取れ、街の者達からの贈り物だ」

 茶色の皮で作られた鞄はズッシリと重そうに与一の手の中に収まっていた。

「それとお主……一度鏡を見てこい、寝癖がひどいぞ」

 と、ワールドはそう言うとおじいさんに向き直って再び話し始めた。

 与一はそれを見ると自分の部屋に戻ることにした。

 部屋に戻ると鞄を優しく地面に置いて、与一は鏡に向いた。

「……誰?」

 と、思わず声を漏らした与一は鏡に写っている自分の姿に目を見開いた。

 前と変わって余分な肉は落とされて筋肉質な部分だけ残された与一の体は、全盛期の体以上の発達を果たしていた。

「顔もほっそり……デブじゃ無くなった……」

 服を捲り上げてポヨポヨだった腹を見ようとしたが、そこにあったのは六つに割れていない腹筋と皮だけだった。

「……何があって痩せたんや?」

 すると、部屋の中が突然真っ暗になった。

「お前の体が吹き飛ばされた時に、足りないところに変わって余分な物脂肪が消費されたんだよ」

 与一は声のする方を振り返った。

 しかし、部屋の中は真っ暗で何も見えなかった。

「はいはい、明かりつけますよ」

 そう言ってロキはパチンと指を鳴らした。

「で?どうだ?ひさびさに細くなった気分は」

「……まぁ、信じられへんわなぁ、かっるいかるい」

 与一はぴょんぴょん飛び跳ねながらそう言った。

「だがお前はもともとなかった体力はないままだぞ」

「まぁ、これでも十分すぎるぐらいやけどな」

 自分の手を眺めながら与一はロキにそう言った。

「はぁ、で、出発は今晩だ用意しとけよ、あと服」

「あ……」

「……また今度私達に似合う服をおまえが見繕え、それでチャラにしてやる」

「ほっ……達?」

 安心したように一息ついた与一だったが、引っかかった言葉を繰り返した。

「達だ」

 すると、コンコンと部屋のドアが開くノックされた。

「にーちゃん、ロキ、はいるでー」

 と、ドアの向こうから呑気な声が聞こえてきて俊明が色々な物を抱えて部屋に入ってきた。

「……で?どれだけお楽しみで?」

「「は?」」

 与一とロキは声を揃えて眉間に皺を寄せた。

「……何もないわ……でぇ?今晩でええ?」

「おう、今晩だ」

「はいはい、じゃあリーチェ悪いけど今晩出発って言っといてくれん?」

「はいはーい、任せて」

 俊明はリーチェに荷物をそこに置いといてと言うと、部屋の中の一つしかない椅子に座った。

「なんだ、死んだんじゃなかったのね」

 そう言ってノヴァもクルリと何もない空間から回転して出てきた。

「……おまえは世界びっくり選手権覇者か……」

 与一はそう小さく呟くとベットに腰かけた。

 リーチェは軽くノヴァに目配せすると部屋から出て行った。

「……この部屋直射日光が窓からしか入らないってのはそれなりに不便かもなぁ」

「まぁ、私にとっては好都合だったがな」

「おしゃべりはそろそろ終わりにしろ、我が来た」

 そう言って最後にワールドが部屋に入ってきた。

「うっし、これで全員だな」

 そう言ってロキは全員を見回すようにクルリと空中で回った。

「じゃあ、予定を告げる、全員しっかり聞けよ」

 そう言ってロキは杖を貫頭衣の間から取り出して一振りした。

 すると、3Dの地図が地面から浮き上がってきた。

「これが今回の旅路だ」

 そう言ってロキは光る曲がりくねった線を杖で指した。

「先ずはそう『セイレーンの大泉』」

 大きな湖を指して、

「次に『イエティの洞窟』」

 山の一部に空いている巨大な穴を指して、

「そして、『ワイバーンの巣』

 山の上に草が生えているようなところを指して、

「更に寄り道で『大市場』に」

 城壁で囲まれた巨大な街を指して、

「最後に『白領』を超えて」

 白い山々が連なる地域を指して、

「最後に……」

 真っ黒な壁がそびえ立つ所にオーロラのようなものが波打って文字のような形に変わり……、

「「「「『妖精がいた所』」」」」

 ロキのぞく四人は同時に呟いた。

「そう、ここらへんは別名『ワールドエンド』とも呼ばれている」

 そう言ってニヤリとロキは笑った。

「そこに私たちの探す『落し物』があるはずだ」

 そして、ロキは杖を地図に突き刺した。

 すると地図は乱れ霧のように消えて無くなった。

「さて、何か質問は?」

「……これで『落し物』を見つけたら全員サヨウナラ?」

 ノヴァが挑発するようにロキにそう言った。

「何だ?嫌か?」

「い、嫌に決まってるじゃない!」

「なぁ、にーちゃん?」

「ん?」

「口調変わってへん?」

「……気のせいちゃう?」

「そぉ?」

「そこ聞こえてるぞ……!」

 ノヴァはピクピクとしながらそう言った。

「まぁまぁ、そういじめてやるな、なぁ?」

 と、言いつつもロキは非常にいい顔でノヴァにそういった。

「おまえらぁ………」

 フルフルと震えているノヴァだったが、唐突に頬を膨らませて腕を組んで壁にもたれかかった。

「……さて、さっきの質問の答えだ……ノーだ」

 すると、何処からともなく男の声が聞こえた。

「ソ、ソウヤ!」

 ロキは驚いたように目を見開いた。

「さて、なぜここに俺がいると……あと本名ばらすなよ」

 そう言っては与一を見た。

「さて、俺が先日お前らに手に入れてもらった『黄金列車』を分析しているとだ、急に起動状態になって行方不明になった」

 そう続けながらソウヤは部屋の中をぐるぐると回った。

「そこでどこに行ったか調べてみたんだ……するとどうだ反応が与一からしたんだな」

 そして、ソウヤは立ち止まって与一の方を見た。

 ロキはソウヤと与一の間に遮るように入ってきた。

「……で、ここにきて分かった、ソレだ」

 そう言ってソウヤは与一のポケットに何か入っているのを指差した。

 与一は恐る恐るポケットの中に手を突っ込むと、そこにはあの切符を切る器具が入っていた。

「そうソレ、ソレ使った時何か起こらなかったか?」

「……変身……した」

「変身……!なるほど……」

 ソウヤは考え込むように顎に手を置くと、唐突に与一に、

「ちょっと貸してくれないか?」

 と、手を差し伸べた。

「あ、あぁ……」

 与一はソウヤに器具を渡した。

 その瞬間ソウヤは力が抜けたようにその場に倒れこみそうになって、直ぐにソレを与一に返した。

「…………っ!成る程!」

 与一は起こったことに理解できずただ混乱していたが、ソウヤは満足したように頷いた。

「……ソレは与一、お前が待っといてくれ、それが一番安全だろう」

 そう言って手をさするソウヤは最後にクルリと部屋の中を見回した。

 そして、ノヴァに目を止めると、近寄って何やら耳打ちをしてそして、そこに居たのかと分からないぐらい急にパッと消えて無くなった。

「……あやつ何者だ?」

「知らん」

 与一は顔をしかめながらそう言った。

 そして、冷や汗をかいていたロキは一人安心したように溜息を吐くと、ノヴァも同じように……いや、尋常では無いぐら汗をかいていた。

「お、おい、大丈夫か?」

「え、ええ……大丈夫よ……」
 
 と、明らかに大丈夫では無いがロキは顔を曇らせると仕方なしと首を横に振った。

「水を差されたが、これでいいか?」

「構わん」

「ええよー」

「俺は全然構わへんで」

「わ……私も……」

(いや、絶対大丈夫じゃない)とみんなが目でそう言い合っていたが、さっきのこともありあまり口を出すことはなかった。

 気まずい沈黙が続く中、コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。

「ヨイチーお爺ちゃんが服を選んでくれるって言って……ありゃ、みんな勢ぞろいね?」

 と、何も知らないリーチェが部屋の中に入って来た。

「みんなの服も優勝祝いに買ってくれるってさ!」

 そう言ってリーチェは嬉しそうにみんなを見回した。

「……そーいえばこれ誰の服なん?」

 今更感がすごいが、与一が自分がきているヨレヨレのパジャマみたいな服を指した。

「それは僕のだよ」

 すると、リーチェのとなりにユーリが同じようにニコニコと部屋に入ってきた。

「ごめんね!多分ちっちゃいと思うけど!」

「僕がちっちゃいとでも言うのかい?リーチェ」

「そんなんで意地はってどうすんのよアンタは!」

「いや、まぁ、あはははは……」

 と、顔を近づけてくるリーチェから目をそらしてたじろぐユーリを与一は優しい顔で少し笑って部屋の外に出て行った。

「……何で笑ってたの?」

「さぁ?」

 そう言って不思議がる二人の横を俊明はどこか羨ましそうに見つめて、兄の後を早足で追いかけた。

「……何だったのかしら?」

「さ、さぁ……?」

 二人は首を傾げながら二人の後を歩いて行った。

「……ロキ」

「ん?」

「この世界じゃないと思う……でも」

「わかってら、もしもの時はテンドウ達がどーにかしてくれる」

「そのテンドウって人達が信用できないのよね」

「それは……」

 ロキはノヴァの言葉に黙った。

「胡散臭いのは確かだが……信用するしか出来ん」

「はぁ……最悪殺されそうになったら頼むわよ……」

「悪いが保証はしかねる……が、できる限りのことはするつもりだ」

 ロキはそう言いながら、腕を頭の後ろで組んだ。

「あーあ……めんどくせぇなぁ」

「頼むわよ……」

「へいへい、やりますよっと」

 そう言ってロキはノヴァをじっと見て、その場からクルリと消えた。

「……で、今の話を聞いても何も言わないのは何なの?ワールド」

「……我が話に突っ込む必要は無かったであろう?」

「はぁ……そうね、その通りね、聞いた私が悪かったわ、忘れて頂戴」

 そう言ってノヴァもクルリと変えようとしたが、ワールドにガシッと腕を掴まれた。

 ビクッと掴まれた腕に反応したが、ノヴァは冷たい目でワールドを見た。

「……何よ?」

「貴様の服も用意してもらえ、その服だけだと心もとないであろう」

「………はぁ、そうね、そうだったわね……わかったわ、私もついでだし服を貰いましょうか」

 ワールドは満足げに頷くと、手をノヴァの腕から離した。

 ノヴァはワールドが触っていたところをさすると、与一達の方に向かって歩き始めた。

「……やれやれ、世話の焼ける奴らだ」

 ワールドはそんな後ろ姿を見て、首を横に振って呆れたようにそう言った。

 そして、ワールドも与一達の方へ歩き出した。
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