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向かうは世界の果て
セイレーンの泉1
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「よいちー、どおー?」
「ん、問題なく順調って感じやなぁ」
「あーそ、あとどれぐらい?」
「んー……あと一時間もせんとつかんちゃうん?」
「おっけー」
そう言って俊明は運転室から飛び出ると寝台車に入った。
「与一が一時間もせんと着くやろやって」
「うむ、わかった、野営の準備をしておこう」
「野営て……バーベキューするだけやん」
「何だそれは?」
「外で網使って肉とか焼くやつ」
「野営では無いのか?」
「ちゃうねん」
「ふむ………」
フォールは首を傾げながらもフォール達が使っている部屋に入っていった。
すると、食堂車に続く扉からワールドがお酒とツマミの干し肉を持ってやってきた。
「……これから部屋で『エイガ』とやらを鑑賞しようと思ってな、もしかするとその中に使える技があるかもしれん、まぁただ見るだけではつまらんからこれを貰うぞ」
「……何も聞いてへんねんけどなぁ……にーちゃんがあと一時間もせんと着くってさ」
「一時間……ああ、あれが一周分か」
「そ、何見るか知らんけど途中になると思うで?」
「ぬう、まぁ良いそれはまたたのしみに取っておくとする」
「あそ」
そう言うと俊明は自分の部屋に行こうとして、思い出したようなノヴァの部屋の扉をノックした。
「誰?」
「俊明やでー」
ガチャリと扉が開くと、目を充血させメガネをかけたノヴァが顔を出した。
「……にーちゃんがあと一時間もせんと着くってさ」
「そう……それだけ?」
「……一つ質問ええ?」
「何?」
「……何してたん?」
「あぁ、これ?」
ノヴァは目を拭うと部屋の中のもう一人の人に目を向けた。
「リーシャとゲームをしてたんだけど……あの子を負けず嫌いなのか、ずっとやっててね……」
「にーちゃんみたいに目ぇ悪しなや」
「わかってるわよ……流石にあそこまで廃人化しないわ……いや、廃人なのかしらアレ?」
「さぁ?じゃあそゆことで、よろしくー」
俊明はそう言うとノヴァの部屋の隣のドアを開けて中に入ると、靴を脱いで間髪入れず床に上がってベッドに寝転がった。
「………何であいつらもしれっとついてきたんや……」
フォールらは『大市場』にギルドを構えているらしくそこまでついでに乗っけてくれとロキに交渉した結果、フォール達が貰った報酬の4割をもらう代わりに乗せることを許可したのだった。
「………」
だがやはり俊明にしてみれば命を狙ってきた連中を中に入れるのは、不快らしい。
朝からずっとこのように不機嫌だ。
「…………」
これはしばらく治りそうにないだろう。
「……………………」
「さてぇ、これをこうしてっと……」
与一は色々なレバーなどを引いて列車を止めた。
冬場なのにかく汗をタオルで拭うと、水筒を持ってキンキンに冷えた水を飲むと最後の確認をして、窯にかける鍵をしっかりとかけてポケットに鍵を突っ込んだ。
声が後ろの方から聞こえ、皆んなが降りて来るのを確認すると運転室から地面に飛び降りるとグッと伸びをした。
「お疲れワイナ」
「いえいえ、これぐらいなんとも無いっすよ」
与一は笑顔でそう言うと、周りを見回した。
「ここが『セイレーンの湖』……かぁ……」
「ワイナ」
「ふわぁーーーーー!キレーーーイ!」
「ここにこんなところがあったなんてな……」
この世界の住人であるはずのフォール達達ですら驚くほど綺麗な湖を与一はゆっくりと見渡し、少し妙なことに気がついた。
「ちょっと待って?……知らんかったん?」
「……私に言っているのか?」
「俺が向いてる方向にはフォールしかおらんねんけどなぁ」
「喧嘩なら買うぞ?」
「ちゃうわ」
フォールは与一を睨んだが、溜息を吐いた。
「その言い方は誤解を招くから今度から気をつけてた方がいいぞ……」
「……ごめんやん」
与一は素直に謝るともう一度フォールに尋ねた。
「んでやけど、ここのこと知らんかったん?」
「あぁ、私達もこの線路は初めて通るからな、ここの線路一体いつからあったんだ?」
「そいつぁ、50年前ぐらいだなぁ」
すると、バーゲンが二人の後ろから声をかけた。
「バーゲンか、知っているのか?」
「まぁ、俺が生まれる前の話っすけどね、親父がよくここの線の話をしてやした」
「ほう?」
「噂によると、なんとここには絶世の美女達が集うとか……」
「………」
「あー………多分実際は湖付近に生息するセイレーン達の事なんだろうっすけど、まぁ、そんなのが居たら物好き達が集まるのも当然、全員奴隷にされて今はここにセイレーンはいないって話っすよ?」
「はぁ………本当に………」
フォールは溜息を吐いて首を振ると、
「では、野営の準備をしよう」
と、気分を切り替えるようにパンと手を叩いてみんなにそう言った。
「はーい」
「グガギギグ」
「ワイナ」
「わかったわ」
与一は皆んなが動くのをみると、洗濯車で干していた変形する服を取りに列車の後方に向かった。
「………」
その間与一は何を考えているのか、ぼーっとしたように歩いていると、近くの茂みがガサガサとなるのを聞いて身構えた。
そして、服を変形させて身に纏わせると触手を伸ばして先にあるカメラで、茂みの様子を確認した。
すると、そこには何やら肌色のものがあった。
「?????????」
一瞬遅れて理解した与一は二本の触手を伸ばして茂みに突っ込んだが、その触手の上を伝って二人の少女が与一に向かってあられもない姿の格好で突進してきた。
「あぇ!?」
与一は目が飛び出そうなほど目を見開くと、触手を更に枝分かれさせて二人の足を縛って逆さまに吊るした。
「………お前ら何?」
「ね、ねえ?取引しなさい?」
「そ、そうね、い、いいことしない?お兄さん?」
「…………はぁ」
与一は残った部分を椅子にしてそこに座った。
そして、
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」
と、少女二人が目を回すほど大きな声で叫んだ。
すると、しばらくするとフォール達が走ってやってきた。
「ど、どうした………は?」
フォール達はあられもない姿の少女二人を見て剣を構えた。
「まってまって?」
与一は椅子から立ち上がると、手を上にあげた。
「貴様ぁ!こんな少女をいたぶりおって!信頼できるやつだと思っておったのに!」
「待って待って!与一は違うって!よく考えて!?与一は理由なくこんなことすると思う!?」
「知らん!多分劣情が働いたんだろう!しかもこんな少女達に!」
「「その考え方はどうやったら出て来るの、ん!?」」
ユウラビと与一はそう叫んだ瞬間フォールは与一に突っ込んだ。
「ちょ………!」
与一がガードしようとしてチケットを切ろうとしたが、
「甘い!」
カチッとフォールは大剣のスイッチを押した。
すると、大剣から爆発が巻き起こり更にスピードが加速した。
そして、剣先が与一に触れると思った瞬間にガキン!と音がして剣が止まった。
「はぁ……ちょっと貴方頭に血登りすぎじゃないかしら?」
そう言ってノヴァはフォールを軽く吹っ飛ばすと、与一を立たせた。
「あのね、流石に言わせてもらうわ、バカなの?」
「っっっ!貴様ぁぁぁぁ!」
「フォール!!!!」
ふると、ユウラビが怒鳴った。
その場にいる全員ユウラビに目を向けて、驚いたように目を見開いた。
「あのねぇ……いい加減にしてよフォール………」
ツカツカとフォールの方に歩いて人差し指を自分より背の高いフォールの胸の装甲に突き立てると、
「いつもいつも!君が暴走して!誰が損すると思ってるの!?私達は百歩譲っていいよ!でもね!いっつもいっつもゴジガジ達に迷惑かけて!なんとも思わないの!?なんとも思わないから何度もそうするんだね!?」
と、目を釣り上げバチバチと体に電流のようなものを流してグリグリと指を突きつけると、最後に、
「いい加減にしろーーーーーーーーーー!」
と、怒鳴ってフォールを電流で吹っ飛ばした。
「はぁ……はぁ………あっ」
すると、ユウラビは我に帰ったのか吹っ飛んだフォールが目を回しているのを見て顔を手で覆った。
「やっちゃったぁ…………」
そして、フォールに近づくとちょんちょんと突っついた。
「ごめんね?フォール」
「う……私もすまない……頭に……血が上って……」
そう言ってフォールはガックリと気を失った。
「………はぁ」
ユウラビはそう言ってフォールに手をかざすと、緑色の波紋を手から出した。
すると、その波紋はフォールの体に伝わってフォールの傷を癒した。
「……これで起きれるはずなんだけど……」
そういうと、いきなりフォールは目を覚ましてガバッと体を起こした。
「………あー、こ、コホン」
そう言って気まずそうに咳払いすると、
「とりあえず下ろしてやろうじゃないか」
と、与一に向かって言った。
「はぁ……」
与一は小さく溜息を吐くと二人の少女を下にゆっくりと下ろした。
すると、二人は脇目も振らず一目散に逃げて行った。
「………何やってん、ほんま」
与一はイラつきながら服の一部に持って来させていたコーラを開けると、一気に半分ほどまで飲んだ。
「………まぁ、何はともあれ野営を始めようじゃないか」
と、フォールは額に冷や汗を流しながら手を叩いてBBQの準備を再開しに戻った。
「……お嬢がすまねぇな……アレでも正義のために頑張ってるつもりみてぇだしな」
「わぁってますよ、あい、フォールさんに悪気が無いて……わぁってますっすよ」
「そうか……すまねぇな」
そうバーゲンが与一の肩をポンと叩いてフォールの後をついて行った。
「………」
与一はその背中を暫くボゥっと見つめると、残り半分になったコーラを一気に飲み干した。
そして、波一つ立たない湖面に美しい月が出る頃、ロキがヒュンと音を立てて現れた。
「おう、無事着けたみたいだな」
そして、すでに焼き始められている肉達を見てニヤリと笑った。
「いいじゃ無いかぁ、さぁ、楽しもうか」
そう言って与一からコーラを受け取ると、乾杯とコップを上にあげた。
そして、それぞれ楽しげに会話をする中、与一はそれに加わらず大きなコーラを持って一人で湖の周りを歩いていた。
「………」
チビっと飲んでは口を離し、チビっと飲んでは口を離し干し肉を口の中に放り込む。
これを繰り返しながら、与一は珍しくゆっくりと歩くとふと、木の上から物音がするのに気がついた。
それはまるで息をするかのような…………。
どういうことか理解した与一は木を思いっきり蹴り倒した。
すると、木の上から昼間見た二人の少女が落ちてきた。
「今度は何やねん……」
与一はうんざりしながらも出来る限り優しい声でそう言い、スマホをこっそりと取り出して胸ポケットに突っ込んだ。
「あ、あの……」
「貴方と交渉よ!」
すると、鳥類のような羽のあるどちらかと言えば悪魔のような翼を持った少女がビシッと指を突き立てた。
「は?」
「貴方は今から私たちを襲うわ!それが弱みとなって私達の言うことを聞かなければならないようになるわ!これは必ず起こることよ!」
そういうと、少女の目が赤く光ったが、与一は何が起こったのか理解出来なかった。
「さぁ、命令よ!私を襲って大声を上げなさい!」
「は?」
与一はそろそろ我慢の限界なのか、コーラを一気に飲んだ。
「は?ってなによ、私に反抗する気?」
「何言うとんねん、一体全体話が見えんぞ?俺に話がわかるように話してくれ、それとも何や?君ら人違いでもしてんのか?」
「ね、ねぇ……キホシィ……もしかして……」
「うるさいわね!お母さん達を助けるためなの!仕方ないのよ!私が抱かれるから貴方は黙ってそこで見てて!」
「ねぇってば!」
「………」
与一はそろそろ雲行きが怪しくなってきたのを感じてポケットに手を突っ込んだ。
「何勝手に動いてるのよ!私が命令したことをしなさい!」
与一は素早くチケットを切ると黄金の鎧を着た。
そして、大股で二人に近寄ると、手からガスを出して二人を眠らせた。
そして、縛り上げてみんなのところに戻ると、先ほどの経緯をスマホで撮ったカメラを使って説明した。
「……成る程、便利な機械だなこれは」
「フォールは反省してるの?」
「し、してるさ!」
髪を少し逆だたせたユウラビに少し怯え気味にそう言うフォールに与一は呆れつつも、ロキの方を見た。
「何のことがわかる?」
「お前正直予想はついてるんだろ?」
「………わからん」
ロキは与一をジト目で見て、与一はそれに耐えきれなかったのか、
「親が捕まってどっかに連れていかれてる……」
「だろうな」
ロキはフンと鼻を鳴らして笑うと二人に杖を振った。
「………ん、な、何よ貴方達!」
「ふ、ふぇぇぇぇ……………」
見事にプルプルと震える二人の縄を解くと二人は観念したように目を瞑った。
「あのなぁ、俺らはお前らにそんな事せぇへんわ」
「そうだ、何があったか話してくれないか?」
フォールはそう頷いて二人に手を差し伸べた。
だが二人は手を出そうとしなかった。
「………ほら、一旦落ち着けや」
そう言って与一は冷たい水を台所から触手を伸ばして取ると、コップに注いで二人に差し出した。
二人は恐る恐るそのコップを手に取ると少し飲んだ。
「美味しい!だけどちょっと酸っぱい?」
「ねぇ!何だろこれ!キホシィ?」
「美味しいわ!………はっ!」
キホシィと呼ばれた少女は与一が少し笑っているのに気がついた。
「な、なによ、田舎者だからこんなのあるって知らないのよ!」
すると、二人のお腹からクゥーと言う音が聞こえ、
「あそ、飯食うか?」
と与一はそれを適当に苦笑してあしらうと、
「あー、飯は食い終わっちゃったからなぁーテキトーに作ったもんでええ?」
そういうと、与一は冷蔵庫から卵とハムを取り出すと、卵は茹でて、ハムは薄切りにしてピクルスとマヨネーズと少しのコショウを茹でた卵を潰して混ぜ奴と一緒に挟んで更にレタスも乗っけて挟んだ奴を二人の前に差し出した。
二人は先ほどと同じようにだが、先ほどよりは手を伸ばす速度は速く大きく口を開けてかぶりついた。
そしてしばらく咀嚼していると、二人はボロボロと涙をこぼし始めた。
「おいしい……おいしい……」
「うん……おいしいねぇ………」
二人は泣きながらもそれを完食すると与一達の方に改まって座り直した。
「まだいい人って決まったわけじゃないけど、ありがとう」
「ありがとうございました」
二人は揃って頭を下げた。
「やめてぇ!?俺悪者みたいやん!?頭上げてあげて!?」
与一は慌てふためいて二人の脇に手を突っ込んで立たせると、少し残った涙を伸ばした触手でとったタオルを使って二人の涙を拭った。
そして、ポンポンと二人の頭を撫でると、
「まぁ、俺もいきなり捕まえるようなことしたからなぁごめんやで」
と、謝った。
「「………」」
二人は顔を見合わせていたが、
「……助けてくれる?」
と、口調の強い女の子は与一達の方を向いてそう聞いた。
「まぁ、できる限りは」
「与一に同じく」
「夜中なら手伝ってやれるな……ってかまたお前ら面倒ごとに首突っ込むよな」
「ぐっ」
それまで黙って見ていたロキはニヤニヤと笑いながらも、嬉しそうにそう言った。
「まぁ、『旅は道連れ世は情け』とは言ったものだろう?」
「どこで覚えたのよその言葉」
ワールドは腕を組んで頷きながら、ノヴァはそんなワールドに呆れて首を振りつつも、どこか懐かしそうな雰囲気だった。
そして、フォール達はと言うと、
「……お嬢?」
「わかってる、多分我々の世話になっている商業のものだろう」
と、なにかコソコソと話していた。
「おいおい、手伝わへんつもり?」
俊明はそろそろ鬱憤がたまってきたのかそう苛立たちげにそう言った。
「いや、そんなことは……」
「悪いけどこれは手伝えないワイナ」
ユウラビが何かを言おうとすると、ワイナワイナがそれを遮った。
「俊明、そいつらは置いとけ、とりあえず話を聞くぞ」
ロキはそう言うと、二人の方を見た。
しかし、二人は安心したのかお腹がいっぱいになったのか、スヤスヤと眠っていた。
「ん、問題なく順調って感じやなぁ」
「あーそ、あとどれぐらい?」
「んー……あと一時間もせんとつかんちゃうん?」
「おっけー」
そう言って俊明は運転室から飛び出ると寝台車に入った。
「与一が一時間もせんと着くやろやって」
「うむ、わかった、野営の準備をしておこう」
「野営て……バーベキューするだけやん」
「何だそれは?」
「外で網使って肉とか焼くやつ」
「野営では無いのか?」
「ちゃうねん」
「ふむ………」
フォールは首を傾げながらもフォール達が使っている部屋に入っていった。
すると、食堂車に続く扉からワールドがお酒とツマミの干し肉を持ってやってきた。
「……これから部屋で『エイガ』とやらを鑑賞しようと思ってな、もしかするとその中に使える技があるかもしれん、まぁただ見るだけではつまらんからこれを貰うぞ」
「……何も聞いてへんねんけどなぁ……にーちゃんがあと一時間もせんと着くってさ」
「一時間……ああ、あれが一周分か」
「そ、何見るか知らんけど途中になると思うで?」
「ぬう、まぁ良いそれはまたたのしみに取っておくとする」
「あそ」
そう言うと俊明は自分の部屋に行こうとして、思い出したようなノヴァの部屋の扉をノックした。
「誰?」
「俊明やでー」
ガチャリと扉が開くと、目を充血させメガネをかけたノヴァが顔を出した。
「……にーちゃんがあと一時間もせんと着くってさ」
「そう……それだけ?」
「……一つ質問ええ?」
「何?」
「……何してたん?」
「あぁ、これ?」
ノヴァは目を拭うと部屋の中のもう一人の人に目を向けた。
「リーシャとゲームをしてたんだけど……あの子を負けず嫌いなのか、ずっとやっててね……」
「にーちゃんみたいに目ぇ悪しなや」
「わかってるわよ……流石にあそこまで廃人化しないわ……いや、廃人なのかしらアレ?」
「さぁ?じゃあそゆことで、よろしくー」
俊明はそう言うとノヴァの部屋の隣のドアを開けて中に入ると、靴を脱いで間髪入れず床に上がってベッドに寝転がった。
「………何であいつらもしれっとついてきたんや……」
フォールらは『大市場』にギルドを構えているらしくそこまでついでに乗っけてくれとロキに交渉した結果、フォール達が貰った報酬の4割をもらう代わりに乗せることを許可したのだった。
「………」
だがやはり俊明にしてみれば命を狙ってきた連中を中に入れるのは、不快らしい。
朝からずっとこのように不機嫌だ。
「…………」
これはしばらく治りそうにないだろう。
「……………………」
「さてぇ、これをこうしてっと……」
与一は色々なレバーなどを引いて列車を止めた。
冬場なのにかく汗をタオルで拭うと、水筒を持ってキンキンに冷えた水を飲むと最後の確認をして、窯にかける鍵をしっかりとかけてポケットに鍵を突っ込んだ。
声が後ろの方から聞こえ、皆んなが降りて来るのを確認すると運転室から地面に飛び降りるとグッと伸びをした。
「お疲れワイナ」
「いえいえ、これぐらいなんとも無いっすよ」
与一は笑顔でそう言うと、周りを見回した。
「ここが『セイレーンの湖』……かぁ……」
「ワイナ」
「ふわぁーーーーー!キレーーーイ!」
「ここにこんなところがあったなんてな……」
この世界の住人であるはずのフォール達達ですら驚くほど綺麗な湖を与一はゆっくりと見渡し、少し妙なことに気がついた。
「ちょっと待って?……知らんかったん?」
「……私に言っているのか?」
「俺が向いてる方向にはフォールしかおらんねんけどなぁ」
「喧嘩なら買うぞ?」
「ちゃうわ」
フォールは与一を睨んだが、溜息を吐いた。
「その言い方は誤解を招くから今度から気をつけてた方がいいぞ……」
「……ごめんやん」
与一は素直に謝るともう一度フォールに尋ねた。
「んでやけど、ここのこと知らんかったん?」
「あぁ、私達もこの線路は初めて通るからな、ここの線路一体いつからあったんだ?」
「そいつぁ、50年前ぐらいだなぁ」
すると、バーゲンが二人の後ろから声をかけた。
「バーゲンか、知っているのか?」
「まぁ、俺が生まれる前の話っすけどね、親父がよくここの線の話をしてやした」
「ほう?」
「噂によると、なんとここには絶世の美女達が集うとか……」
「………」
「あー………多分実際は湖付近に生息するセイレーン達の事なんだろうっすけど、まぁ、そんなのが居たら物好き達が集まるのも当然、全員奴隷にされて今はここにセイレーンはいないって話っすよ?」
「はぁ………本当に………」
フォールは溜息を吐いて首を振ると、
「では、野営の準備をしよう」
と、気分を切り替えるようにパンと手を叩いてみんなにそう言った。
「はーい」
「グガギギグ」
「ワイナ」
「わかったわ」
与一は皆んなが動くのをみると、洗濯車で干していた変形する服を取りに列車の後方に向かった。
「………」
その間与一は何を考えているのか、ぼーっとしたように歩いていると、近くの茂みがガサガサとなるのを聞いて身構えた。
そして、服を変形させて身に纏わせると触手を伸ばして先にあるカメラで、茂みの様子を確認した。
すると、そこには何やら肌色のものがあった。
「?????????」
一瞬遅れて理解した与一は二本の触手を伸ばして茂みに突っ込んだが、その触手の上を伝って二人の少女が与一に向かってあられもない姿の格好で突進してきた。
「あぇ!?」
与一は目が飛び出そうなほど目を見開くと、触手を更に枝分かれさせて二人の足を縛って逆さまに吊るした。
「………お前ら何?」
「ね、ねえ?取引しなさい?」
「そ、そうね、い、いいことしない?お兄さん?」
「…………はぁ」
与一は残った部分を椅子にしてそこに座った。
そして、
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」
と、少女二人が目を回すほど大きな声で叫んだ。
すると、しばらくするとフォール達が走ってやってきた。
「ど、どうした………は?」
フォール達はあられもない姿の少女二人を見て剣を構えた。
「まってまって?」
与一は椅子から立ち上がると、手を上にあげた。
「貴様ぁ!こんな少女をいたぶりおって!信頼できるやつだと思っておったのに!」
「待って待って!与一は違うって!よく考えて!?与一は理由なくこんなことすると思う!?」
「知らん!多分劣情が働いたんだろう!しかもこんな少女達に!」
「「その考え方はどうやったら出て来るの、ん!?」」
ユウラビと与一はそう叫んだ瞬間フォールは与一に突っ込んだ。
「ちょ………!」
与一がガードしようとしてチケットを切ろうとしたが、
「甘い!」
カチッとフォールは大剣のスイッチを押した。
すると、大剣から爆発が巻き起こり更にスピードが加速した。
そして、剣先が与一に触れると思った瞬間にガキン!と音がして剣が止まった。
「はぁ……ちょっと貴方頭に血登りすぎじゃないかしら?」
そう言ってノヴァはフォールを軽く吹っ飛ばすと、与一を立たせた。
「あのね、流石に言わせてもらうわ、バカなの?」
「っっっ!貴様ぁぁぁぁ!」
「フォール!!!!」
ふると、ユウラビが怒鳴った。
その場にいる全員ユウラビに目を向けて、驚いたように目を見開いた。
「あのねぇ……いい加減にしてよフォール………」
ツカツカとフォールの方に歩いて人差し指を自分より背の高いフォールの胸の装甲に突き立てると、
「いつもいつも!君が暴走して!誰が損すると思ってるの!?私達は百歩譲っていいよ!でもね!いっつもいっつもゴジガジ達に迷惑かけて!なんとも思わないの!?なんとも思わないから何度もそうするんだね!?」
と、目を釣り上げバチバチと体に電流のようなものを流してグリグリと指を突きつけると、最後に、
「いい加減にしろーーーーーーーーーー!」
と、怒鳴ってフォールを電流で吹っ飛ばした。
「はぁ……はぁ………あっ」
すると、ユウラビは我に帰ったのか吹っ飛んだフォールが目を回しているのを見て顔を手で覆った。
「やっちゃったぁ…………」
そして、フォールに近づくとちょんちょんと突っついた。
「ごめんね?フォール」
「う……私もすまない……頭に……血が上って……」
そう言ってフォールはガックリと気を失った。
「………はぁ」
ユウラビはそう言ってフォールに手をかざすと、緑色の波紋を手から出した。
すると、その波紋はフォールの体に伝わってフォールの傷を癒した。
「……これで起きれるはずなんだけど……」
そういうと、いきなりフォールは目を覚ましてガバッと体を起こした。
「………あー、こ、コホン」
そう言って気まずそうに咳払いすると、
「とりあえず下ろしてやろうじゃないか」
と、与一に向かって言った。
「はぁ……」
与一は小さく溜息を吐くと二人の少女を下にゆっくりと下ろした。
すると、二人は脇目も振らず一目散に逃げて行った。
「………何やってん、ほんま」
与一はイラつきながら服の一部に持って来させていたコーラを開けると、一気に半分ほどまで飲んだ。
「………まぁ、何はともあれ野営を始めようじゃないか」
と、フォールは額に冷や汗を流しながら手を叩いてBBQの準備を再開しに戻った。
「……お嬢がすまねぇな……アレでも正義のために頑張ってるつもりみてぇだしな」
「わぁってますよ、あい、フォールさんに悪気が無いて……わぁってますっすよ」
「そうか……すまねぇな」
そうバーゲンが与一の肩をポンと叩いてフォールの後をついて行った。
「………」
与一はその背中を暫くボゥっと見つめると、残り半分になったコーラを一気に飲み干した。
そして、波一つ立たない湖面に美しい月が出る頃、ロキがヒュンと音を立てて現れた。
「おう、無事着けたみたいだな」
そして、すでに焼き始められている肉達を見てニヤリと笑った。
「いいじゃ無いかぁ、さぁ、楽しもうか」
そう言って与一からコーラを受け取ると、乾杯とコップを上にあげた。
そして、それぞれ楽しげに会話をする中、与一はそれに加わらず大きなコーラを持って一人で湖の周りを歩いていた。
「………」
チビっと飲んでは口を離し、チビっと飲んでは口を離し干し肉を口の中に放り込む。
これを繰り返しながら、与一は珍しくゆっくりと歩くとふと、木の上から物音がするのに気がついた。
それはまるで息をするかのような…………。
どういうことか理解した与一は木を思いっきり蹴り倒した。
すると、木の上から昼間見た二人の少女が落ちてきた。
「今度は何やねん……」
与一はうんざりしながらも出来る限り優しい声でそう言い、スマホをこっそりと取り出して胸ポケットに突っ込んだ。
「あ、あの……」
「貴方と交渉よ!」
すると、鳥類のような羽のあるどちらかと言えば悪魔のような翼を持った少女がビシッと指を突き立てた。
「は?」
「貴方は今から私たちを襲うわ!それが弱みとなって私達の言うことを聞かなければならないようになるわ!これは必ず起こることよ!」
そういうと、少女の目が赤く光ったが、与一は何が起こったのか理解出来なかった。
「さぁ、命令よ!私を襲って大声を上げなさい!」
「は?」
与一はそろそろ我慢の限界なのか、コーラを一気に飲んだ。
「は?ってなによ、私に反抗する気?」
「何言うとんねん、一体全体話が見えんぞ?俺に話がわかるように話してくれ、それとも何や?君ら人違いでもしてんのか?」
「ね、ねぇ……キホシィ……もしかして……」
「うるさいわね!お母さん達を助けるためなの!仕方ないのよ!私が抱かれるから貴方は黙ってそこで見てて!」
「ねぇってば!」
「………」
与一はそろそろ雲行きが怪しくなってきたのを感じてポケットに手を突っ込んだ。
「何勝手に動いてるのよ!私が命令したことをしなさい!」
与一は素早くチケットを切ると黄金の鎧を着た。
そして、大股で二人に近寄ると、手からガスを出して二人を眠らせた。
そして、縛り上げてみんなのところに戻ると、先ほどの経緯をスマホで撮ったカメラを使って説明した。
「……成る程、便利な機械だなこれは」
「フォールは反省してるの?」
「し、してるさ!」
髪を少し逆だたせたユウラビに少し怯え気味にそう言うフォールに与一は呆れつつも、ロキの方を見た。
「何のことがわかる?」
「お前正直予想はついてるんだろ?」
「………わからん」
ロキは与一をジト目で見て、与一はそれに耐えきれなかったのか、
「親が捕まってどっかに連れていかれてる……」
「だろうな」
ロキはフンと鼻を鳴らして笑うと二人に杖を振った。
「………ん、な、何よ貴方達!」
「ふ、ふぇぇぇぇ……………」
見事にプルプルと震える二人の縄を解くと二人は観念したように目を瞑った。
「あのなぁ、俺らはお前らにそんな事せぇへんわ」
「そうだ、何があったか話してくれないか?」
フォールはそう頷いて二人に手を差し伸べた。
だが二人は手を出そうとしなかった。
「………ほら、一旦落ち着けや」
そう言って与一は冷たい水を台所から触手を伸ばして取ると、コップに注いで二人に差し出した。
二人は恐る恐るそのコップを手に取ると少し飲んだ。
「美味しい!だけどちょっと酸っぱい?」
「ねぇ!何だろこれ!キホシィ?」
「美味しいわ!………はっ!」
キホシィと呼ばれた少女は与一が少し笑っているのに気がついた。
「な、なによ、田舎者だからこんなのあるって知らないのよ!」
すると、二人のお腹からクゥーと言う音が聞こえ、
「あそ、飯食うか?」
と与一はそれを適当に苦笑してあしらうと、
「あー、飯は食い終わっちゃったからなぁーテキトーに作ったもんでええ?」
そういうと、与一は冷蔵庫から卵とハムを取り出すと、卵は茹でて、ハムは薄切りにしてピクルスとマヨネーズと少しのコショウを茹でた卵を潰して混ぜ奴と一緒に挟んで更にレタスも乗っけて挟んだ奴を二人の前に差し出した。
二人は先ほどと同じようにだが、先ほどよりは手を伸ばす速度は速く大きく口を開けてかぶりついた。
そしてしばらく咀嚼していると、二人はボロボロと涙をこぼし始めた。
「おいしい……おいしい……」
「うん……おいしいねぇ………」
二人は泣きながらもそれを完食すると与一達の方に改まって座り直した。
「まだいい人って決まったわけじゃないけど、ありがとう」
「ありがとうございました」
二人は揃って頭を下げた。
「やめてぇ!?俺悪者みたいやん!?頭上げてあげて!?」
与一は慌てふためいて二人の脇に手を突っ込んで立たせると、少し残った涙を伸ばした触手でとったタオルを使って二人の涙を拭った。
そして、ポンポンと二人の頭を撫でると、
「まぁ、俺もいきなり捕まえるようなことしたからなぁごめんやで」
と、謝った。
「「………」」
二人は顔を見合わせていたが、
「……助けてくれる?」
と、口調の強い女の子は与一達の方を向いてそう聞いた。
「まぁ、できる限りは」
「与一に同じく」
「夜中なら手伝ってやれるな……ってかまたお前ら面倒ごとに首突っ込むよな」
「ぐっ」
それまで黙って見ていたロキはニヤニヤと笑いながらも、嬉しそうにそう言った。
「まぁ、『旅は道連れ世は情け』とは言ったものだろう?」
「どこで覚えたのよその言葉」
ワールドは腕を組んで頷きながら、ノヴァはそんなワールドに呆れて首を振りつつも、どこか懐かしそうな雰囲気だった。
そして、フォール達はと言うと、
「……お嬢?」
「わかってる、多分我々の世話になっている商業のものだろう」
と、なにかコソコソと話していた。
「おいおい、手伝わへんつもり?」
俊明はそろそろ鬱憤がたまってきたのかそう苛立たちげにそう言った。
「いや、そんなことは……」
「悪いけどこれは手伝えないワイナ」
ユウラビが何かを言おうとすると、ワイナワイナがそれを遮った。
「俊明、そいつらは置いとけ、とりあえず話を聞くぞ」
ロキはそう言うと、二人の方を見た。
しかし、二人は安心したのかお腹がいっぱいになったのか、スヤスヤと眠っていた。
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