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向かうは世界の果て
セイレーンの泉2
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「………で?お前らは何か知ってそうだが?」
「……はぁ、白状する」
そう言ってフォールは手を挙げると、食堂車の椅子に座ると脚を組んでどかっと座った。
「お嬢……」
「なんだ」
「中見えてやっせ」
「…………!!」
サッとフォールはスカートの裾を掴むとバーゲンを涙目に睨んだ。
そして、見えそうなことを察した与一は顔を逸らしていたことに気づき、
「見たか?」
「見てへんわ、ってかなに?話の続きよ」
「………私達のギルドは商人とのつながりもあってな、そう言う類の商人もいるのだ」
「へぇ……スポンサー的な奴?それって?」
「よくそんな言葉出てきたなおい」
ロキは目をうっすらと細めながらもスルメを齧っていた。
「……まぁ、後ろ盾と言うのならそうだろう」
「……んで、自分らの勝手でそいつらの邪魔できへんと」
「あぁ、もしその商人が我々のバックにいる商人だと面倒なことになるんでな」
「そう言うことワイナ」
「世知辛いなぁ」
与一はしみじみと呟くと、コーラを飲んだ。
「………わぁった、じゃあ今回はお前らの手伝いなしやな?」
「すまん……」
フォールは本当に済まなさそうに頭を下げると、立ち上がった。
「……では私達は寝る」
「え?お風呂は?」
「?朝に入ればよくないか?」
「臭くない?」
「?」
「?????」
「与一、多分文化の違いだ」
「あ、成る程、ごめん、大丈夫やで」
「?」
フォールは首を傾げながらも自分の部屋に戻っていった。
「私はお風呂使わせてもらおうかな?」
「私も」
「グガゲ」
「ワイは明日にするワイナ」
「俺も明日だな」
そう言うとユウラビとリーシャはコソコソとお風呂に向かっていった。
「………で、まだ起きる気配なしと」
「しゃーないで、なんか大変そうやったし」
「……でも与一、こいつら起きんかったら親の場所わからんで?」
「たしかに………」
「よし、起こすか」
「「「やめろ、やめなさい」」」
ワールドが二人を起こそうと手を伸ばしたのを見て、与一とノヴァ、ロキは同時に声を出した。
「なぜだ?」
「ちっちゃい子らは寝てる時が一番育つねん、寝る子は育つやで?」
「今ぐらいは寝かしといてあげなさい」
「こいつらに全部言われちまった」
ロキは若干膨れると、杖を取り出した。
「だけど時間がないのもたしかだ、ちょっと記憶を拝見させてもらおうか」
「「「「………」」」」
「な、なんだよ、大丈夫だ、記憶を直接いじるわけじゃない、ちょっと覗くだけだ」
その場の全員からの目線に少しオドオドしつつも、ロキはキホシィと呼ばれていた女の子の頭に杖を置いた。
すると、杖の反対の持ち手のところから霧が噴出して雲のようになった。
「どれだ?………あっ、これだな」
ロキは目をつぶりながらなにが呟くと、雲になにか映像を流し始めた。
『いただきまーす!!』
『こらこら、手は洗ったの?』
『洗ったよー!』
『うそはダメよ、メレニィ』
『あら?嘘つきはどこだい?』
『はーい洗ってきまーす』
『キホシィあなたもよ』
『げっ、バレた?』
『ほら、早く行ってきなさ……隠れて!』
微笑ましい食卓の光景だったがいきなり画面の端で光が炸裂した。
『キャァァァ!』
『二人とも!走りなさい!』
『おかーさーん!』
『行きなさい!』
『お父さん!』
『っ!行くわよ!走りなさい!』
『でも……』
『死にたいの!?』
『ううっ………!』
そして、視界が反転して洞窟の奥の方に走って行く様子が映し出された。
そして映像は消えた。
「「「「………」」」」
「……子を守る親か……」
ワールドはそう呟くと、二人の少女の頭を優しく撫でた。
「おまえ、そんなことする奴だったんだな」
「我は子は絶対に蔑ろにしたりなどはせん、子は未来への希望だからな」
「貴方の場合他の意味も含まれてそうね」
ノヴァはそう言って鼻で笑うと、与一が作った余りのサンドイッチにかじりついた。
「……場所は特定できへんのか?」
「……多分この先にある『イエティの洞窟』よ……」
「起こしてしまったようだな」
キホシィと呼ばれていた女の子は身を起こすと、胸の前で手を握った。
「……お願い、お父さんとお母さんを助けて!」
「あいわかった」
「任しとき、絶対にまた会わせたるわ」
「まぁ、夜のうちなら大丈夫だが」
「………安心なさい、私が助けるわ」
「………はっ」
五人それぞれの反応をしてどうやら助ける方針と、次の目的地が決まったらしい。
「では我々『ロキと愉快な仲間達』はキホシィ達の親を商人から奪還するべく、次の目的地、『イエティの洞窟』に向かって出発する!」
と、ロキは与一達に向かって真顔でそう言った。
「いや、ネーミングセンスよ」
「もっとこう……なんか無いかしら?」
「たしかにそれは威厳にかけるな」
「じゃあ何だよ言ってみろよ」
若干涙目になったロキを与一は宥めつつも、
「漢字で読むのは嫌いやから……『トラベラーズ』は?」
「まんまね」
「まんまやなぁ」
「ほらみろ」
「ここは我の名をとって『ワールド・トラベラーズ』はどうだ?」
「うーん、おまえの名前からとったかは別として中々いいなぁそれ」
「ん?どういうことだ?」
「じゃあ略して『WTs』ってのは?」
「……はぁ、じゃあそれでいい、我々は今日から『ワイティーズ』だな?」
「そうね」
「まぁ、厨二くさいけどええんちゃう?」
「まぁ、問題なかろう」
皆んながそういうと、ロキはため息をついて、杖を振った。
「では出発だ!」
すると、列車の前方から汽笛の音が聞こえ、列車がゆっくりと動き始めた。
「さて、ここから『イエティの洞窟』まで半日になるそれまで来るべき戦いに備えて英気を養ってくれ」
そういうと、ロキはくるりと回って消えてしまった。
「………という訳だ、キホシィ達も風呂に入ってくるけ?」
「そうね、もう泥だらけだもの……ほら、メレニィ、起きて」
「う……にゅ?」
メレニィは目をこすりながら起き上がると寝ぼけ眼のまま、キホシィに連れられてまだユウラビ達が入っているであろうお風呂へと向かっていった。
「……で?それまで何するんよ?」
「にーちゃんはトレーニングルームに行ってくるわ」
「そんなんあんの!?」
「あるでぇ、俺がロキに頼んで作ってもーてん」
「なんで?」
「腹の肉を減らすため……やってんけどまぁ、それは解消されたとして、筋肉つけるためやな」
「修練室か?我も行こう」
すると、隣で話を聞いていたワールドが少し乗り気なのかすっと会話に入ってきた。
「ん、ええよ、でもどつきあったりはせぇへんで?」
「そうか……」
ワールドは少し残念そうにすると先に行っておく、と言って後方にあるトレーニング車に向かった。
「おまえはどーすん?」
与一は俊明にそう尋ねた。
「寝とく」
「そか、ノヴァは?」
「リーシャ達がゲームのリベンジをって張り切ってるから、娯楽室にいると思うわでも早めに寝るように勧めるわ」
「ん、りょーかい」
与一はそう言って頷くと、タオルを持ってワールドの向かった方に続いた。
「………寝るか」
その後ろ姿を最後まで見ることなく俊明は自分の部屋のある列車に向かった。
「…………」
そして、それを見届けたノヴァは少し走って与一に追いついた。
「ん?どーしたん?」
「娯楽車はこっちでしょ?」
「確かに、せやな」
「………」
「………」
二人の間に気まずい空気がしばらくの間流れた。
「そう言えばゲームに興味あるみたいなこと言うとったけど、どんな?」
「そうね……あのどつきあうやつ?」
「あー、あれか、またやろか」
「ええ、でもまだあんまり上手く無いわよ?」
「んー、まぁ、せやな一回ぐらいやったらええやろ?」
「そうね……その時はまた頼もうかしら?」
「ウィ、そん時は頼むわ」
そう言っていると、二人は娯楽車に着いた。
「じゃあ俺はベンチプレスでもしてくるわ」
「怪我しないようにしなさいよ」
「はいよ」
そう言うと与一はワールドが先に入っているトレーニング車に入った。
「………」
そして、娯楽室には一人ノヴァだけがポツンと残された。
「おお、来たか」
「………しれっとすげぇなお前」
ワールドは背中に50キロの重りを乗せて腕立て伏せを軽々とやっていた。
「なに、貴様もこれぐらい出来るだろう?」
「……この部屋では俺ロキに頼んでヘボヘボ状態にしてもらってんねん」
「ヘボベボ状態……つまり力が出せないと?」
「そ」
それだけ言うと与一はベンチプレスの準備を始めた。
「じゃあまずは久々に50キロから始めるか」
「無理はするなよ」
「わかっとるって」
そう笑って与一はベンチプレスを上げた。
ある程度体をほぐした後なんだかんだ言いつつも、ワールドとボクシングをやって鍛えた後、与一は走る列車の上にコーラを片手に座っていた。
「……カントリーロード、テイクミーホーム……」
そう歌いつつも、コーラを一口飲んで空を見上げた。
「……今夜は月が綺麗や……」
そう言ってまた呟くと、コーラを飲んだ。
そして、ポケットからスマホを出して時間を見ると、コーラを一気に飲み干した。
そして、連結部分に降りようと立ち上がると、
「ひょわぁ!」
「グゲェ!」
「うおわぁ!」
ユウラビとゴジガジが与一の後ろに立っていて、思いっきりバランスを崩した。
「あぶっ!」
与一は二人の足を掴んで列車の屋根に服を変形させて、固定させた。
「はーっ、はーっ」
「コヒュー、コヒュー」
二人は目を見開いて深呼吸をすると、与一の前に無言で座った。
「……な、なんよ?」
すると、ユウラビバンバンと自分の前を叩いた。
「は、はい」
与一はそこに座ると、固定していたユウラビ達を解放した。
「ヨイチ君、君にお話があります」
「グゲギ」
「は、はい」
与一はドギマギしながら次の言葉を待った。
「君、一度私達と会ったことない?」
「………は?」
「私達の中でね、ヨイチ君、君に会ったことあるんじゃないかって話し合われてるんだよ」
「な、ないないないない!」
与一は全力で首を横に振ると、驚いたようにユウラビを見た。
「なんで!?なんで会ったことあるって!?」
「………私達ね、小さい頃の事はよく覚えてないんだけど……私達三人、私とリーシャ、そしてフォールもヨイチみたいな人に出会ったことがあるって……」
「待って待って、知らんで?」
「ほんと?」
「マジマジ!」
与一は全力で否定すると、部屋に戻ってから飲もうと思っていたコーラを飲んだ。
「ほら、それも」
「えっ?」
ユウラビは与一の飲んでいるコーラを指差した。
「見たことあるし、飲んだことあるなぁって思ってたんだ……」
「え?え?」
与一は困惑していると、そこにロキが音もなく現れた。
「ユウラビ、もしかしてお前ら……」
「ロキ……姉ちゃん?だよねやっぱり……」
「???????」
与一は一人話について行けず終始困惑顔だった。
「いや、私はお前らの知ってるロキじゃあない」
「なんで?」
「……確証が持てないからまだなんとも言えん」
「そんな……」
「だが保証する、私達のこの度の先に絶対にその答えがある」
「なにそれ?」
与一は呆れたように呟くと、コーラを飲んだ。
「与一」
「なんすか?」
「……今日は風呂に入ってもう寝ろ、明日は忙しくなるぞ」
「………わぁっした、じゃあおやすみなさいっす」
そう言うと、与一は連結部分に飛び降りて風呂に向かった。
「……ロキ姉ちゃん……」
「今はロキと呼べ……」
「ロキ……本当に教えてくれるの?」
「いつかな……」
「……わかった、ゴジガジ、行こ」
「……グギ」
そう言ってユウラビ達は連結部分に飛び降りて、寝室に戻っていった。
「………どー言うことっすか?シルヴィさん」
「……正直ボクにも分からないよ、だけどもしかすると、『神様の落し物』案件かもしれないね」
「現実改変系の?」
「うーん、今回はそれとはまた別のもののような気がするんだ、例えば……歴史改変とか?」
「ありえそうっすね」
「でも『神様の落し物』にそんな能力持ったものなんてリストには無かったよ?」
「例外かもしれないっすね、失敗作とか」
「だとしたらゾッとしないね、それを誰かが使ったと言うことなんだから」
「何か致命的なバグが起こっていないのを見ると、まだ失敗と断定するのは早いみたいだけどな」
「テンドウ……」
「悪いね、今回はゾウヤだよ」
シルヴィと二人で屋根の上で話していると、黒い穴が開いてそこから、機械の仮面を被った人が出てきてそういった。
「旅は色々あれど順調にみたいだな」
「……いつも通りの口調で話さないんすか?」
「まぁ、今回はな、で、あれから落し物の様子は?」
「完全に与一がコントロールしてる……とは言えないっすね、あれが落し物の全力とはとても思えない」
「だよなぁ……」
「所でアンタらはなにやってんすか?」
「俺ちゃん達が『落し物』探したほうが早いって?まぁそうなんだけどさ、今ねバカどもの相手をしなきゃ行けなくてね」
「馬鹿ども?」
「そ、天文館にいきなり攻め入ってきて、『ここにいる神王は世界を支配している!自由になるため!私達は戦う!』とか言って触ってもない世界のくせして攻め込んできて、暴れまわった挙句怪我人が出たんだよ」
「えっ?今そんなに大変なの?」
「まぁね、だけどシルヴィはこのまま仕事を続けて欲しい、もしかすると一枚誰か噛んでるかもしれないからね」
「わかった、でもヤバくなったら呼んでね」
「わあってるって、そこら辺ソウヤもわかってるだろうからさ」
そう言うとゾウヤと呼ばれた男は腕についている機械を弄ると先ほどと同じような黒い穴を前方に開けた。
「じゃあ、そっちもヤバくなったら呼べよ」
と言って男は暗闇に消えていった。
「……大丈夫かなぁ……」
「……シルヴィさん、今の所はこんな感じっす」
「わかった、出来る限りフォローはするけど余り無茶しちゃダメだよ?特に『ワールドエンド』付近ではさ」
「了解です」
「じゃあ失礼するね、あっ、これ一本貰ってくね?」
「珍しいっすね」
「久々に飲みたくなったのさ」
そう言ってシルヴィは花びらとなって消えていった。
ロキは暫く目を瞑って考え事をするように黙ると、ヒュンと音を立てて消えた。
「……はぁ、白状する」
そう言ってフォールは手を挙げると、食堂車の椅子に座ると脚を組んでどかっと座った。
「お嬢……」
「なんだ」
「中見えてやっせ」
「…………!!」
サッとフォールはスカートの裾を掴むとバーゲンを涙目に睨んだ。
そして、見えそうなことを察した与一は顔を逸らしていたことに気づき、
「見たか?」
「見てへんわ、ってかなに?話の続きよ」
「………私達のギルドは商人とのつながりもあってな、そう言う類の商人もいるのだ」
「へぇ……スポンサー的な奴?それって?」
「よくそんな言葉出てきたなおい」
ロキは目をうっすらと細めながらもスルメを齧っていた。
「……まぁ、後ろ盾と言うのならそうだろう」
「……んで、自分らの勝手でそいつらの邪魔できへんと」
「あぁ、もしその商人が我々のバックにいる商人だと面倒なことになるんでな」
「そう言うことワイナ」
「世知辛いなぁ」
与一はしみじみと呟くと、コーラを飲んだ。
「………わぁった、じゃあ今回はお前らの手伝いなしやな?」
「すまん……」
フォールは本当に済まなさそうに頭を下げると、立ち上がった。
「……では私達は寝る」
「え?お風呂は?」
「?朝に入ればよくないか?」
「臭くない?」
「?」
「?????」
「与一、多分文化の違いだ」
「あ、成る程、ごめん、大丈夫やで」
「?」
フォールは首を傾げながらも自分の部屋に戻っていった。
「私はお風呂使わせてもらおうかな?」
「私も」
「グガゲ」
「ワイは明日にするワイナ」
「俺も明日だな」
そう言うとユウラビとリーシャはコソコソとお風呂に向かっていった。
「………で、まだ起きる気配なしと」
「しゃーないで、なんか大変そうやったし」
「……でも与一、こいつら起きんかったら親の場所わからんで?」
「たしかに………」
「よし、起こすか」
「「「やめろ、やめなさい」」」
ワールドが二人を起こそうと手を伸ばしたのを見て、与一とノヴァ、ロキは同時に声を出した。
「なぜだ?」
「ちっちゃい子らは寝てる時が一番育つねん、寝る子は育つやで?」
「今ぐらいは寝かしといてあげなさい」
「こいつらに全部言われちまった」
ロキは若干膨れると、杖を取り出した。
「だけど時間がないのもたしかだ、ちょっと記憶を拝見させてもらおうか」
「「「「………」」」」
「な、なんだよ、大丈夫だ、記憶を直接いじるわけじゃない、ちょっと覗くだけだ」
その場の全員からの目線に少しオドオドしつつも、ロキはキホシィと呼ばれていた女の子の頭に杖を置いた。
すると、杖の反対の持ち手のところから霧が噴出して雲のようになった。
「どれだ?………あっ、これだな」
ロキは目をつぶりながらなにが呟くと、雲になにか映像を流し始めた。
『いただきまーす!!』
『こらこら、手は洗ったの?』
『洗ったよー!』
『うそはダメよ、メレニィ』
『あら?嘘つきはどこだい?』
『はーい洗ってきまーす』
『キホシィあなたもよ』
『げっ、バレた?』
『ほら、早く行ってきなさ……隠れて!』
微笑ましい食卓の光景だったがいきなり画面の端で光が炸裂した。
『キャァァァ!』
『二人とも!走りなさい!』
『おかーさーん!』
『行きなさい!』
『お父さん!』
『っ!行くわよ!走りなさい!』
『でも……』
『死にたいの!?』
『ううっ………!』
そして、視界が反転して洞窟の奥の方に走って行く様子が映し出された。
そして映像は消えた。
「「「「………」」」」
「……子を守る親か……」
ワールドはそう呟くと、二人の少女の頭を優しく撫でた。
「おまえ、そんなことする奴だったんだな」
「我は子は絶対に蔑ろにしたりなどはせん、子は未来への希望だからな」
「貴方の場合他の意味も含まれてそうね」
ノヴァはそう言って鼻で笑うと、与一が作った余りのサンドイッチにかじりついた。
「……場所は特定できへんのか?」
「……多分この先にある『イエティの洞窟』よ……」
「起こしてしまったようだな」
キホシィと呼ばれていた女の子は身を起こすと、胸の前で手を握った。
「……お願い、お父さんとお母さんを助けて!」
「あいわかった」
「任しとき、絶対にまた会わせたるわ」
「まぁ、夜のうちなら大丈夫だが」
「………安心なさい、私が助けるわ」
「………はっ」
五人それぞれの反応をしてどうやら助ける方針と、次の目的地が決まったらしい。
「では我々『ロキと愉快な仲間達』はキホシィ達の親を商人から奪還するべく、次の目的地、『イエティの洞窟』に向かって出発する!」
と、ロキは与一達に向かって真顔でそう言った。
「いや、ネーミングセンスよ」
「もっとこう……なんか無いかしら?」
「たしかにそれは威厳にかけるな」
「じゃあ何だよ言ってみろよ」
若干涙目になったロキを与一は宥めつつも、
「漢字で読むのは嫌いやから……『トラベラーズ』は?」
「まんまね」
「まんまやなぁ」
「ほらみろ」
「ここは我の名をとって『ワールド・トラベラーズ』はどうだ?」
「うーん、おまえの名前からとったかは別として中々いいなぁそれ」
「ん?どういうことだ?」
「じゃあ略して『WTs』ってのは?」
「……はぁ、じゃあそれでいい、我々は今日から『ワイティーズ』だな?」
「そうね」
「まぁ、厨二くさいけどええんちゃう?」
「まぁ、問題なかろう」
皆んながそういうと、ロキはため息をついて、杖を振った。
「では出発だ!」
すると、列車の前方から汽笛の音が聞こえ、列車がゆっくりと動き始めた。
「さて、ここから『イエティの洞窟』まで半日になるそれまで来るべき戦いに備えて英気を養ってくれ」
そういうと、ロキはくるりと回って消えてしまった。
「………という訳だ、キホシィ達も風呂に入ってくるけ?」
「そうね、もう泥だらけだもの……ほら、メレニィ、起きて」
「う……にゅ?」
メレニィは目をこすりながら起き上がると寝ぼけ眼のまま、キホシィに連れられてまだユウラビ達が入っているであろうお風呂へと向かっていった。
「……で?それまで何するんよ?」
「にーちゃんはトレーニングルームに行ってくるわ」
「そんなんあんの!?」
「あるでぇ、俺がロキに頼んで作ってもーてん」
「なんで?」
「腹の肉を減らすため……やってんけどまぁ、それは解消されたとして、筋肉つけるためやな」
「修練室か?我も行こう」
すると、隣で話を聞いていたワールドが少し乗り気なのかすっと会話に入ってきた。
「ん、ええよ、でもどつきあったりはせぇへんで?」
「そうか……」
ワールドは少し残念そうにすると先に行っておく、と言って後方にあるトレーニング車に向かった。
「おまえはどーすん?」
与一は俊明にそう尋ねた。
「寝とく」
「そか、ノヴァは?」
「リーシャ達がゲームのリベンジをって張り切ってるから、娯楽室にいると思うわでも早めに寝るように勧めるわ」
「ん、りょーかい」
与一はそう言って頷くと、タオルを持ってワールドの向かった方に続いた。
「………寝るか」
その後ろ姿を最後まで見ることなく俊明は自分の部屋のある列車に向かった。
「…………」
そして、それを見届けたノヴァは少し走って与一に追いついた。
「ん?どーしたん?」
「娯楽車はこっちでしょ?」
「確かに、せやな」
「………」
「………」
二人の間に気まずい空気がしばらくの間流れた。
「そう言えばゲームに興味あるみたいなこと言うとったけど、どんな?」
「そうね……あのどつきあうやつ?」
「あー、あれか、またやろか」
「ええ、でもまだあんまり上手く無いわよ?」
「んー、まぁ、せやな一回ぐらいやったらええやろ?」
「そうね……その時はまた頼もうかしら?」
「ウィ、そん時は頼むわ」
そう言っていると、二人は娯楽車に着いた。
「じゃあ俺はベンチプレスでもしてくるわ」
「怪我しないようにしなさいよ」
「はいよ」
そう言うと与一はワールドが先に入っているトレーニング車に入った。
「………」
そして、娯楽室には一人ノヴァだけがポツンと残された。
「おお、来たか」
「………しれっとすげぇなお前」
ワールドは背中に50キロの重りを乗せて腕立て伏せを軽々とやっていた。
「なに、貴様もこれぐらい出来るだろう?」
「……この部屋では俺ロキに頼んでヘボヘボ状態にしてもらってんねん」
「ヘボベボ状態……つまり力が出せないと?」
「そ」
それだけ言うと与一はベンチプレスの準備を始めた。
「じゃあまずは久々に50キロから始めるか」
「無理はするなよ」
「わかっとるって」
そう笑って与一はベンチプレスを上げた。
ある程度体をほぐした後なんだかんだ言いつつも、ワールドとボクシングをやって鍛えた後、与一は走る列車の上にコーラを片手に座っていた。
「……カントリーロード、テイクミーホーム……」
そう歌いつつも、コーラを一口飲んで空を見上げた。
「……今夜は月が綺麗や……」
そう言ってまた呟くと、コーラを飲んだ。
そして、ポケットからスマホを出して時間を見ると、コーラを一気に飲み干した。
そして、連結部分に降りようと立ち上がると、
「ひょわぁ!」
「グゲェ!」
「うおわぁ!」
ユウラビとゴジガジが与一の後ろに立っていて、思いっきりバランスを崩した。
「あぶっ!」
与一は二人の足を掴んで列車の屋根に服を変形させて、固定させた。
「はーっ、はーっ」
「コヒュー、コヒュー」
二人は目を見開いて深呼吸をすると、与一の前に無言で座った。
「……な、なんよ?」
すると、ユウラビバンバンと自分の前を叩いた。
「は、はい」
与一はそこに座ると、固定していたユウラビ達を解放した。
「ヨイチ君、君にお話があります」
「グゲギ」
「は、はい」
与一はドギマギしながら次の言葉を待った。
「君、一度私達と会ったことない?」
「………は?」
「私達の中でね、ヨイチ君、君に会ったことあるんじゃないかって話し合われてるんだよ」
「な、ないないないない!」
与一は全力で首を横に振ると、驚いたようにユウラビを見た。
「なんで!?なんで会ったことあるって!?」
「………私達ね、小さい頃の事はよく覚えてないんだけど……私達三人、私とリーシャ、そしてフォールもヨイチみたいな人に出会ったことがあるって……」
「待って待って、知らんで?」
「ほんと?」
「マジマジ!」
与一は全力で否定すると、部屋に戻ってから飲もうと思っていたコーラを飲んだ。
「ほら、それも」
「えっ?」
ユウラビは与一の飲んでいるコーラを指差した。
「見たことあるし、飲んだことあるなぁって思ってたんだ……」
「え?え?」
与一は困惑していると、そこにロキが音もなく現れた。
「ユウラビ、もしかしてお前ら……」
「ロキ……姉ちゃん?だよねやっぱり……」
「???????」
与一は一人話について行けず終始困惑顔だった。
「いや、私はお前らの知ってるロキじゃあない」
「なんで?」
「……確証が持てないからまだなんとも言えん」
「そんな……」
「だが保証する、私達のこの度の先に絶対にその答えがある」
「なにそれ?」
与一は呆れたように呟くと、コーラを飲んだ。
「与一」
「なんすか?」
「……今日は風呂に入ってもう寝ろ、明日は忙しくなるぞ」
「………わぁっした、じゃあおやすみなさいっす」
そう言うと、与一は連結部分に飛び降りて風呂に向かった。
「……ロキ姉ちゃん……」
「今はロキと呼べ……」
「ロキ……本当に教えてくれるの?」
「いつかな……」
「……わかった、ゴジガジ、行こ」
「……グギ」
そう言ってユウラビ達は連結部分に飛び降りて、寝室に戻っていった。
「………どー言うことっすか?シルヴィさん」
「……正直ボクにも分からないよ、だけどもしかすると、『神様の落し物』案件かもしれないね」
「現実改変系の?」
「うーん、今回はそれとはまた別のもののような気がするんだ、例えば……歴史改変とか?」
「ありえそうっすね」
「でも『神様の落し物』にそんな能力持ったものなんてリストには無かったよ?」
「例外かもしれないっすね、失敗作とか」
「だとしたらゾッとしないね、それを誰かが使ったと言うことなんだから」
「何か致命的なバグが起こっていないのを見ると、まだ失敗と断定するのは早いみたいだけどな」
「テンドウ……」
「悪いね、今回はゾウヤだよ」
シルヴィと二人で屋根の上で話していると、黒い穴が開いてそこから、機械の仮面を被った人が出てきてそういった。
「旅は色々あれど順調にみたいだな」
「……いつも通りの口調で話さないんすか?」
「まぁ、今回はな、で、あれから落し物の様子は?」
「完全に与一がコントロールしてる……とは言えないっすね、あれが落し物の全力とはとても思えない」
「だよなぁ……」
「所でアンタらはなにやってんすか?」
「俺ちゃん達が『落し物』探したほうが早いって?まぁそうなんだけどさ、今ねバカどもの相手をしなきゃ行けなくてね」
「馬鹿ども?」
「そ、天文館にいきなり攻め入ってきて、『ここにいる神王は世界を支配している!自由になるため!私達は戦う!』とか言って触ってもない世界のくせして攻め込んできて、暴れまわった挙句怪我人が出たんだよ」
「えっ?今そんなに大変なの?」
「まぁね、だけどシルヴィはこのまま仕事を続けて欲しい、もしかすると一枚誰か噛んでるかもしれないからね」
「わかった、でもヤバくなったら呼んでね」
「わあってるって、そこら辺ソウヤもわかってるだろうからさ」
そう言うとゾウヤと呼ばれた男は腕についている機械を弄ると先ほどと同じような黒い穴を前方に開けた。
「じゃあ、そっちもヤバくなったら呼べよ」
と言って男は暗闇に消えていった。
「……大丈夫かなぁ……」
「……シルヴィさん、今の所はこんな感じっす」
「わかった、出来る限りフォローはするけど余り無茶しちゃダメだよ?特に『ワールドエンド』付近ではさ」
「了解です」
「じゃあ失礼するね、あっ、これ一本貰ってくね?」
「珍しいっすね」
「久々に飲みたくなったのさ」
そう言ってシルヴィは花びらとなって消えていった。
ロキは暫く目を瞑って考え事をするように黙ると、ヒュンと音を立てて消えた。
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弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
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主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
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安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
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初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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