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向かうは世界の果て
イエティの洞窟
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揺れる列車の窓から光が入り、与一の顔を照らしていた。
すると、列車内でアナウンスが流れ始めた
『起きろー、そろそろ着くぞー、飯は作ってあるから食堂車で食うんだったら食えよー』
と、ロキの声がスピーカーから流されると、与一は寝返りを打ってスマホの時間を見た。
「5時………はっやぁ……」
そう言って与一はベッドの上で伸びをすると、布団を蹴っ飛ばして起き上がった。
そしてスマホをポケットに突っ込むと廊下に出た。
左右を見たが誰もまだ出てきていないようだった。
与一は頭を掻いて廊下をペタペタと音を鳴らしながら食堂車に向かった。
ウィーンと自動ドアが開くと食堂車の机の上にはすでに作られていたバイキング式の料理が広げられていた。
「………贅沢やなぁ……」
と、そう言いながら与一はサンドイッチとスクランブルエッグ、ソーセージ、コーンスープを取ってコップにオレンジジュースを入れると、手を合わせて、
「いただきます」
と言うと、パンを頬張った。
「おや、与一が一番であったか」
すると、ワールドが食堂車に入ってきて、辺りを見回すと、手当たり次第に皿に食べ物を乗せて机いっぱいになる程乗せると、上品に、だが大きな口で凄まじいスピードで食べ始めた。
与一は黙ってそれを見ていると、食堂車の窓に黒幕が降りてきて、電気がついた。
「美味いか?」
「ありがたい話っすよ、ロキさん」
「たまにお前敬語もどきが混じるけど、一体何なんだそれ?」
与一は厨房から綺麗な身だしなみで出てきたロキに首をかしげると、
「わからねぇっす」
と、首をひねった。
「あっそ、どっちにするかお前の自由だけどよ、私達はこれからだ旅を同じにする仲間なんだから、そこは無礼講ということでいこうじゃないか?」
「ウィ」
そう言って与一はコーンスープを飲むと、食器を重ねて食器を洗いに厨房に入った。
「で?何か策はあるのかな?」
「え?ロキも来てくれるんちゃうん?」
「じゃあ洞窟の入り口塞げよ?そのかわり窒息してもしらねぇけどな」
「……そんな狭いん?」
「いーやそこそこあるけどな、中で暴れて落盤したらどうする?」
「……そこを何とか調節できん?」
「言ってくれやがるなぁ、あのな、私は魔法を使えるっつってもぶっ壊したりするよりもどちらかと言うと物を運んだり人の力を強くしたりする程度のものしか使えないんだぞ?」
「レイピアは?」
「アレは別だが……アレはただ単に魔力っていうエネルギーをぶちかましてるだけだからな、細かい操作がきかん」
「うえ……じゃあ……俊明に狙撃させるか……」
「洞窟の中は暗いし、風が吹いてるぞ?」
「まだ銃持ちたての俊明にはキツイか……」
「……ノヴァとかワールドには聞かないのかな?」
ロキは与一を煽るようにそう言ったが、
「ワールドはともかく、ノヴァの奴は正直まだ信用できへんし、俺より強いのがいざ向かってきたら四人でも勝てるかどうかだな……」
「数あれば勝てるんじゃねぇのか?」
「……多分ノヴァはかなりつよいで?多分ロキ、お前よりも」
「………まぁ、その点に関しては私も同意見だな」
「おいおい……」
「だが、一つ言っておくとしたらだな……お前はもう少し信じてみろよな?」
「……一番胡散臭い名前のやつに言われてもやで……」
「アハハハハハ!そうだったなぁ!ハハハハハ!」
そう言ってロキは目元を拭うと、ふわりと浮かび上がって与一の顎をクイっと上げた。
「じゃあ……化かされてみるか?」
「やめちくり……さ、俺は今から着替えに戻るからどいてーや」
そう言って与一は溜息を吐きながらコーラを一本手に取ると、食堂車から出て行った。
「……さっすがぁ」
そう言ってロキはクルリとその場から消え去った。
そして、与一は食堂車からの出際にフォール達とすれ違った。
「おはよーさん」
「む、もう来ていたのか、っておお……これはまた贅沢だな」
「ええ、すごく多いわね……」
「………」
与一は早く食えよと言って、六人とすれ違おうとしたが、一人足りないのに気がついたが誰かは分からなかったのか、そのまま部屋に戻った。
部屋の扉を開いて中に入ってコーラをテーブルに置いて、旅行バックを開けようと振り向いた瞬間真後ろに立っていたユウラビに驚いて飛び退いてへたり込んだ。
「ユ、ユウラビ!?」
「………」
「どうやってこの部屋に入ってきたん!?」
「今はそんなことは問題じゃないよ、それよりも」
そう言うとユウラビはゆらりと与一の前に立った。
「君、トキシンって言う人知ってる?」
「あー、あるアメコミの……まぁ、知ってるっちゃあ知ってる」
「……その人は女の人かい?」
「ちゃう」
「………そっか……あっれぇ?」
ユウラビは盛大に首をひねったが一つ頷くと、
「うん、まぁいっか」
と言って、与一を振り返ることなく部屋から出て行った。
「な、何やってん……」
与一は立ち上がって椅子に座るとコーラを開けた。
それをチビっと飲むと、机に置いて服を脱ぎ始めた。
「………痩せたなぁ」
前までまにまにだった腹が殆ど皮だけになっているのを見て与一は感慨深げに呟いた。
そして、ロキが用意してくれた服を着ると、椅子に座ってスマホの画面を開いて、コーラを片手に持った。
「朝から豪遊だね」
「ぶっ………ごほっごほっ!」
「ふっ……だ、大丈夫かい?」
口元まで運んだコーラをギリギリで吹くことなく飲み込んだが気管に入ってしまったのか、涙ぐみながら咳き込むと唐突に部屋に現れたシルヴィの方を向いた。
「そんな目で見ないでくれよ、いきなり声をかけたのは悪かったよ」
シルヴィは申し訳なさそうに首を振った。
「大丈夫っすよ、で、何の用っすか?」
「そんなかしこまらなくてもいいよ、軽く聞いておいてくれ、いやね、そろそろ君のそれにも慣れてきただろ?」
そう言ってシルヴィは与一の羽織っていた機械の服を指差した。
「まぁ」
与一はそう言っての一部を触手に変形させた。
「うん、君のそれをアップグレード、もとい増量しに来たんだ」
そう言ってシルヴィは与一にかつて渡した時と同じ箱を四つ与一の前に置いた。
「これだけあればあんな薄っぺらい鎧じゃなくて本格的な鎧が作れるだろう?」
「けど多分今あるやつともう二つぐらいでできると思いますけど……」
「後の二つは予備だよ、まぁ、使うことが無いんだったらこの部屋に置いておくといいよ」
そう言ってシルヴィは指で丸を描いた。
すると、シルヴィの前に白い空間が現れた。
「あぁ、あと、一つ申し訳ないんだけど、この旅は恐らく険しいものになるよ、その際に役に立つのは人と人との繋がりだよ、それを大切にね?」
と、謎の発言をしてシルヴィは消えてしまった。
「………」
与一は溜息をついて、シルヴィが置いて行ったうちの二つを起動して、身にまとった。
動作を確認するように与一は腕や脚を動かした。
すると、スピーカーからロキの声が聞こえた。
『そろそろ着くぞ、与一らは戦闘用意をして先頭車両に集合だ』
与一は無言でコーラを一気に飲み干すと、空の瓶を持って部屋を出た。
「よし、全員……じゃ無いがきたな」
ロキは与一、俊明、ノヴァ、ワールドを順に見て頷いた。
「さて、今回の件だが、キホシィとメレニィの家族の救出、それが今回の依頼だ、そして追加で、フォール達から『できれば商人達を殺さないでほしい』だそうだ」
「なんと自分勝手な……」
「ほんと、これだからお嬢様方は……」
「まじでカスやな」
「まぁまぁ、お前ら……」
与一は憤慨する三人を宥めつつロキの次を待った。
「じゃあまず作戦だ、これが『イエティの洞窟』の地図だ」
そう言ってロキは机の上に地図を広げた。
「ひっろいなぁ」
「先ずは俊明」
「はい」
「お前がその早え脚を生かして中の様子を見てこい」
「見つけたらついでにお父さん達連れて帰ってきてええ?」
「まだだ、恐らくほかのやつらも捕まってるぞ、そいつら一気に連れてこれるか?」
「……あかんなその前に多分バレるわ」
「だろ?だからまずはどこに誰が捕まってるからどれぐらい捕まってるか確認してこい、紙かなんか持ってな」
「任しとき」
「そして残りは突入だな、それはお前ら四人でやってもらう、まずは俊明以外がばらけてそれぞれ捕まってるところに向かう、俊明はそれぞれのカバーだな」
「俺大活躍?」
「そうだ、この作戦の成功の有無はお前にかかってるぞ」
「やってにーちゃん、俺を敬え」
「くたばれ」
「そしてそれぞれ洞窟の入り口まで連れてきたら私が魔法で列車の中に連れ込む、そして同時に発進、お前らはまた魔法で連れ直すからできれば入り口付近で固まっておけ」
「了解」
「わかったわ」
「うむ、それが妥当だろうな」
「りょーかい」
そしてロキは頷くと同時に列車が止まった。
「よし、お前ら、作戦開始だ!」
「ウィィ!」
「おう!」
「っしゃぁ!」
そして、一人ノヴァはどこか懐かしそうに笑うと、
「わかったわ、完璧にこなして見せるわ、任せなさい」
と、不敵に笑った。
「……全く寒いのにこんなところで待たせやがって」
「そういうなよ相棒、その分給料はたけぇんだからよ」
「はっ、そう言っても元々低かった分が少し上がっただけだがな!」
「そんなこと言ってると給料減らされるぞ?」
「はっ!知ったことか!」
と、男達は二人洞窟の入り口で話し合っていた。
すると、片方の男の足をガシッと掴む手が伸びてきた。
「た、たすけ……ギャァァァァァ!!!!」
掴んだ手は血まみれで、その手はまた洞窟の奥に引きずり込まれて行った。
「「………」」
男二人は顔を見合わせると武器を投げ捨てて逃げ出した。
そして、それとすれ違うように俊明が凄まじい速度で洞窟の中に入って行った。
「さてさ………は?」
俊明は洞窟に入って兄からもらった暗視ゴーグルをつけながら走っていると立ち止まった。
「なんやねんこれ……」
そこには血まみれで倒れる男たちがいた。
俊明は与一に持たされた無線機で、
「洞窟の中がやばいことになっとる」
と、報告した。
「ヤバイこと?どうやばいんだ?」
「人が血まみれで倒れとる」
すると、無線の向こうからロキが唸る声が聞こえた。
「誰がやったかは見たか?」
「いーや、多分……モンスター?」
「その根拠は?いやだって……振り回されたような跡がある人がおんねんけど、血しぶきの中心から人の手の長さより長いところにあんねん」
「わかった、一応全員死んでるか確認してくれ」
「どうやって?」
「息があるか、あとは心臓が動いてるか」
「わかった」
「私たちも今から向かう、気をつけろよ」
「あいさー」
そして俊明は無線を切って周りを見渡した。
「さてと………」
そして場面は変わって列車内、
「よし、お前ら洞窟の中に謎のモンスターがいるかもしれん、中の奴らの容態はまだわからんが急ぎ救出に向かうぞ」
そう言ってロキは料理服からフォール達と戦った時のような装備に杖で変わると、与一とワールドを先頭にノヴァを後ろに洞窟に向かわせた。
「で、入り口には特に異常なしと」
「みたいね、でも中からすごい血の匂いがするわ」
「ん……俺には特に臭わへんけど?」
「あのね、わたし龍人なの、あとはわかるわよね?」
「あーはいはい」
与一は適当に相槌を打ってノヴァに後ろから軽い蹴りを食らってよろめいた。
「悪かったって……よし」
そして与一は俊明と同じように暗視ゴーグルをつけた。
そして、三人は与一の後ろについていくように洞窟の中を進んだ。
ある程度進むと与一は通信機に手を伸ばした。
すると、暗闇からそれを掴む手が出てきた。
「っっっ!」
叫ぼうとする与一の口を塞ぐように俊明が飛び出してきた。
すると、俊明はスマホの画面に文字を打ち込んで与一達に見せた。
『喋るな』
与一はそれに眉をひそめたが、同じくポケットからスマホを取り出すとロキにメールを送った。
すると、そこにロキが現れて与一の渡したスマホの画面に、
『状況を報告しろ』
と、打ち込んであるのを四人に見せた。
『ここの奥にあるモンスターはどうやら音に反応するみたや』
『んーで、さっき調べたけど奴隷売る人らはまだ無事みたいやったから一箇所に固めておいた』
『どこに?』
『入り口付近』
『与一?』
『見てへんで』
「「「「「…………………」」」」」
そして、五人はしばらくの間無言になるとゆっくりと入り口の方を振り向いた。
するとそこには身長の高い手足が異様に長い肌の白く血に濡れた、人の形をした何かが白い瞳を光らせて与一達の方をじっと見つめていた。
すると、列車内でアナウンスが流れ始めた
『起きろー、そろそろ着くぞー、飯は作ってあるから食堂車で食うんだったら食えよー』
と、ロキの声がスピーカーから流されると、与一は寝返りを打ってスマホの時間を見た。
「5時………はっやぁ……」
そう言って与一はベッドの上で伸びをすると、布団を蹴っ飛ばして起き上がった。
そしてスマホをポケットに突っ込むと廊下に出た。
左右を見たが誰もまだ出てきていないようだった。
与一は頭を掻いて廊下をペタペタと音を鳴らしながら食堂車に向かった。
ウィーンと自動ドアが開くと食堂車の机の上にはすでに作られていたバイキング式の料理が広げられていた。
「………贅沢やなぁ……」
と、そう言いながら与一はサンドイッチとスクランブルエッグ、ソーセージ、コーンスープを取ってコップにオレンジジュースを入れると、手を合わせて、
「いただきます」
と言うと、パンを頬張った。
「おや、与一が一番であったか」
すると、ワールドが食堂車に入ってきて、辺りを見回すと、手当たり次第に皿に食べ物を乗せて机いっぱいになる程乗せると、上品に、だが大きな口で凄まじいスピードで食べ始めた。
与一は黙ってそれを見ていると、食堂車の窓に黒幕が降りてきて、電気がついた。
「美味いか?」
「ありがたい話っすよ、ロキさん」
「たまにお前敬語もどきが混じるけど、一体何なんだそれ?」
与一は厨房から綺麗な身だしなみで出てきたロキに首をかしげると、
「わからねぇっす」
と、首をひねった。
「あっそ、どっちにするかお前の自由だけどよ、私達はこれからだ旅を同じにする仲間なんだから、そこは無礼講ということでいこうじゃないか?」
「ウィ」
そう言って与一はコーンスープを飲むと、食器を重ねて食器を洗いに厨房に入った。
「で?何か策はあるのかな?」
「え?ロキも来てくれるんちゃうん?」
「じゃあ洞窟の入り口塞げよ?そのかわり窒息してもしらねぇけどな」
「……そんな狭いん?」
「いーやそこそこあるけどな、中で暴れて落盤したらどうする?」
「……そこを何とか調節できん?」
「言ってくれやがるなぁ、あのな、私は魔法を使えるっつってもぶっ壊したりするよりもどちらかと言うと物を運んだり人の力を強くしたりする程度のものしか使えないんだぞ?」
「レイピアは?」
「アレは別だが……アレはただ単に魔力っていうエネルギーをぶちかましてるだけだからな、細かい操作がきかん」
「うえ……じゃあ……俊明に狙撃させるか……」
「洞窟の中は暗いし、風が吹いてるぞ?」
「まだ銃持ちたての俊明にはキツイか……」
「……ノヴァとかワールドには聞かないのかな?」
ロキは与一を煽るようにそう言ったが、
「ワールドはともかく、ノヴァの奴は正直まだ信用できへんし、俺より強いのがいざ向かってきたら四人でも勝てるかどうかだな……」
「数あれば勝てるんじゃねぇのか?」
「……多分ノヴァはかなりつよいで?多分ロキ、お前よりも」
「………まぁ、その点に関しては私も同意見だな」
「おいおい……」
「だが、一つ言っておくとしたらだな……お前はもう少し信じてみろよな?」
「……一番胡散臭い名前のやつに言われてもやで……」
「アハハハハハ!そうだったなぁ!ハハハハハ!」
そう言ってロキは目元を拭うと、ふわりと浮かび上がって与一の顎をクイっと上げた。
「じゃあ……化かされてみるか?」
「やめちくり……さ、俺は今から着替えに戻るからどいてーや」
そう言って与一は溜息を吐きながらコーラを一本手に取ると、食堂車から出て行った。
「……さっすがぁ」
そう言ってロキはクルリとその場から消え去った。
そして、与一は食堂車からの出際にフォール達とすれ違った。
「おはよーさん」
「む、もう来ていたのか、っておお……これはまた贅沢だな」
「ええ、すごく多いわね……」
「………」
与一は早く食えよと言って、六人とすれ違おうとしたが、一人足りないのに気がついたが誰かは分からなかったのか、そのまま部屋に戻った。
部屋の扉を開いて中に入ってコーラをテーブルに置いて、旅行バックを開けようと振り向いた瞬間真後ろに立っていたユウラビに驚いて飛び退いてへたり込んだ。
「ユ、ユウラビ!?」
「………」
「どうやってこの部屋に入ってきたん!?」
「今はそんなことは問題じゃないよ、それよりも」
そう言うとユウラビはゆらりと与一の前に立った。
「君、トキシンって言う人知ってる?」
「あー、あるアメコミの……まぁ、知ってるっちゃあ知ってる」
「……その人は女の人かい?」
「ちゃう」
「………そっか……あっれぇ?」
ユウラビは盛大に首をひねったが一つ頷くと、
「うん、まぁいっか」
と言って、与一を振り返ることなく部屋から出て行った。
「な、何やってん……」
与一は立ち上がって椅子に座るとコーラを開けた。
それをチビっと飲むと、机に置いて服を脱ぎ始めた。
「………痩せたなぁ」
前までまにまにだった腹が殆ど皮だけになっているのを見て与一は感慨深げに呟いた。
そして、ロキが用意してくれた服を着ると、椅子に座ってスマホの画面を開いて、コーラを片手に持った。
「朝から豪遊だね」
「ぶっ………ごほっごほっ!」
「ふっ……だ、大丈夫かい?」
口元まで運んだコーラをギリギリで吹くことなく飲み込んだが気管に入ってしまったのか、涙ぐみながら咳き込むと唐突に部屋に現れたシルヴィの方を向いた。
「そんな目で見ないでくれよ、いきなり声をかけたのは悪かったよ」
シルヴィは申し訳なさそうに首を振った。
「大丈夫っすよ、で、何の用っすか?」
「そんなかしこまらなくてもいいよ、軽く聞いておいてくれ、いやね、そろそろ君のそれにも慣れてきただろ?」
そう言ってシルヴィは与一の羽織っていた機械の服を指差した。
「まぁ」
与一はそう言っての一部を触手に変形させた。
「うん、君のそれをアップグレード、もとい増量しに来たんだ」
そう言ってシルヴィは与一にかつて渡した時と同じ箱を四つ与一の前に置いた。
「これだけあればあんな薄っぺらい鎧じゃなくて本格的な鎧が作れるだろう?」
「けど多分今あるやつともう二つぐらいでできると思いますけど……」
「後の二つは予備だよ、まぁ、使うことが無いんだったらこの部屋に置いておくといいよ」
そう言ってシルヴィは指で丸を描いた。
すると、シルヴィの前に白い空間が現れた。
「あぁ、あと、一つ申し訳ないんだけど、この旅は恐らく険しいものになるよ、その際に役に立つのは人と人との繋がりだよ、それを大切にね?」
と、謎の発言をしてシルヴィは消えてしまった。
「………」
与一は溜息をついて、シルヴィが置いて行ったうちの二つを起動して、身にまとった。
動作を確認するように与一は腕や脚を動かした。
すると、スピーカーからロキの声が聞こえた。
『そろそろ着くぞ、与一らは戦闘用意をして先頭車両に集合だ』
与一は無言でコーラを一気に飲み干すと、空の瓶を持って部屋を出た。
「よし、全員……じゃ無いがきたな」
ロキは与一、俊明、ノヴァ、ワールドを順に見て頷いた。
「さて、今回の件だが、キホシィとメレニィの家族の救出、それが今回の依頼だ、そして追加で、フォール達から『できれば商人達を殺さないでほしい』だそうだ」
「なんと自分勝手な……」
「ほんと、これだからお嬢様方は……」
「まじでカスやな」
「まぁまぁ、お前ら……」
与一は憤慨する三人を宥めつつロキの次を待った。
「じゃあまず作戦だ、これが『イエティの洞窟』の地図だ」
そう言ってロキは机の上に地図を広げた。
「ひっろいなぁ」
「先ずは俊明」
「はい」
「お前がその早え脚を生かして中の様子を見てこい」
「見つけたらついでにお父さん達連れて帰ってきてええ?」
「まだだ、恐らくほかのやつらも捕まってるぞ、そいつら一気に連れてこれるか?」
「……あかんなその前に多分バレるわ」
「だろ?だからまずはどこに誰が捕まってるからどれぐらい捕まってるか確認してこい、紙かなんか持ってな」
「任しとき」
「そして残りは突入だな、それはお前ら四人でやってもらう、まずは俊明以外がばらけてそれぞれ捕まってるところに向かう、俊明はそれぞれのカバーだな」
「俺大活躍?」
「そうだ、この作戦の成功の有無はお前にかかってるぞ」
「やってにーちゃん、俺を敬え」
「くたばれ」
「そしてそれぞれ洞窟の入り口まで連れてきたら私が魔法で列車の中に連れ込む、そして同時に発進、お前らはまた魔法で連れ直すからできれば入り口付近で固まっておけ」
「了解」
「わかったわ」
「うむ、それが妥当だろうな」
「りょーかい」
そしてロキは頷くと同時に列車が止まった。
「よし、お前ら、作戦開始だ!」
「ウィィ!」
「おう!」
「っしゃぁ!」
そして、一人ノヴァはどこか懐かしそうに笑うと、
「わかったわ、完璧にこなして見せるわ、任せなさい」
と、不敵に笑った。
「……全く寒いのにこんなところで待たせやがって」
「そういうなよ相棒、その分給料はたけぇんだからよ」
「はっ、そう言っても元々低かった分が少し上がっただけだがな!」
「そんなこと言ってると給料減らされるぞ?」
「はっ!知ったことか!」
と、男達は二人洞窟の入り口で話し合っていた。
すると、片方の男の足をガシッと掴む手が伸びてきた。
「た、たすけ……ギャァァァァァ!!!!」
掴んだ手は血まみれで、その手はまた洞窟の奥に引きずり込まれて行った。
「「………」」
男二人は顔を見合わせると武器を投げ捨てて逃げ出した。
そして、それとすれ違うように俊明が凄まじい速度で洞窟の中に入って行った。
「さてさ………は?」
俊明は洞窟に入って兄からもらった暗視ゴーグルをつけながら走っていると立ち止まった。
「なんやねんこれ……」
そこには血まみれで倒れる男たちがいた。
俊明は与一に持たされた無線機で、
「洞窟の中がやばいことになっとる」
と、報告した。
「ヤバイこと?どうやばいんだ?」
「人が血まみれで倒れとる」
すると、無線の向こうからロキが唸る声が聞こえた。
「誰がやったかは見たか?」
「いーや、多分……モンスター?」
「その根拠は?いやだって……振り回されたような跡がある人がおんねんけど、血しぶきの中心から人の手の長さより長いところにあんねん」
「わかった、一応全員死んでるか確認してくれ」
「どうやって?」
「息があるか、あとは心臓が動いてるか」
「わかった」
「私たちも今から向かう、気をつけろよ」
「あいさー」
そして俊明は無線を切って周りを見渡した。
「さてと………」
そして場面は変わって列車内、
「よし、お前ら洞窟の中に謎のモンスターがいるかもしれん、中の奴らの容態はまだわからんが急ぎ救出に向かうぞ」
そう言ってロキは料理服からフォール達と戦った時のような装備に杖で変わると、与一とワールドを先頭にノヴァを後ろに洞窟に向かわせた。
「で、入り口には特に異常なしと」
「みたいね、でも中からすごい血の匂いがするわ」
「ん……俺には特に臭わへんけど?」
「あのね、わたし龍人なの、あとはわかるわよね?」
「あーはいはい」
与一は適当に相槌を打ってノヴァに後ろから軽い蹴りを食らってよろめいた。
「悪かったって……よし」
そして与一は俊明と同じように暗視ゴーグルをつけた。
そして、三人は与一の後ろについていくように洞窟の中を進んだ。
ある程度進むと与一は通信機に手を伸ばした。
すると、暗闇からそれを掴む手が出てきた。
「っっっ!」
叫ぼうとする与一の口を塞ぐように俊明が飛び出してきた。
すると、俊明はスマホの画面に文字を打ち込んで与一達に見せた。
『喋るな』
与一はそれに眉をひそめたが、同じくポケットからスマホを取り出すとロキにメールを送った。
すると、そこにロキが現れて与一の渡したスマホの画面に、
『状況を報告しろ』
と、打ち込んであるのを四人に見せた。
『ここの奥にあるモンスターはどうやら音に反応するみたや』
『んーで、さっき調べたけど奴隷売る人らはまだ無事みたいやったから一箇所に固めておいた』
『どこに?』
『入り口付近』
『与一?』
『見てへんで』
「「「「「…………………」」」」」
そして、五人はしばらくの間無言になるとゆっくりと入り口の方を振り向いた。
するとそこには身長の高い手足が異様に長い肌の白く血に濡れた、人の形をした何かが白い瞳を光らせて与一達の方をじっと見つめていた。
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