Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

イエティの洞窟2

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 ロキ達はゆっくりとモンスターから距離を取ると、それぞれのファイティングポーズをとった。

 先に動いたのはモンスターだった。

 モンスターはロキめがけて突っ込むと長い手を振りかざした。

「舐めんな!!」

 ロキはその叫び声とともにレイピアを打ち付けたが、おかしなことに金属音を発してレイピアとモンスターの手が競り合う形となった。

「なっ!」

 ロキは驚いたような顔をしたが、それも束の間に     与一、俊明、ワールド、ノヴァの四人が一斉に殴りかかった。

 凄まじい音がなり与一達は怪物が倒れるのを予想したが、怪物は全くひるむことなく与一達の方を向いた。

「かったすぎん!?」

 与一はそう言って飛び下がると、先ほどいたところにモンスターと長い腕が伸びて地面を抉り取った。

「対魔性に対物性、強すぎんか!?」

「にーちゃんどーにかならん!?」

「無茶言うなやアホ!」

「変身はよしーや!」

「まっもう!」

 与一はポケットからチケットと切符鋏を取り出すとそれをカチリと切った。

 いつも通り眩い光とともに列車が飛び出してきて、モンスターを軽く吹っ飛ばした。

「かんりょーや」

「よーし、お前ら叩け!」

「おう!」

「わかったわ!」

「りょーかい!」

「ウィ!」

 そして、四人はモンスターに飛びかかった。

 与一は起き上がったモンスターに大股で近づくと顎にめがけてガチガチに握った拳を振り上げた。

 拳はモンスターの顎をかすって、ブォンと音を出してモンスターの横を通り過ぎた。

 モンスターはその隙に与一に両手を握ってそれを振り下ろそうとしたが、それよりも早く俊明がモンスターの懐に入り込んで脛に蹴りを何度も高速で叩き込んだ。

 しかし、モンスターはさらに怯むことなく与一に両手を振り下ろした。

 与一はそれに潰されるようにうつ伏せに地面に叩きつけられた。

「与一!」

 ノヴァがそう言って手に炎を纏ってモンスターに殴りかかった。

 が、モンスターは飛び上がったノヴァの足を掴むと壁に叩きつけた。

「がっ!!!」

 そして、続けてたたきつけようとしているところにワールドがモンスターの首を後ろから締め上げた。

 流石のモンスターも呼吸ができないのかノヴァを離してワールドを引き剥がそうと暴れ始めた。

「ノヴァ!与一!」

「これぐらいじゃ竜は殺せないわよ……!」

「ウィィ………強過ぎん?」

 ロキは二人を横目に無事に立ち上がるのを確認するとレイピアをモンスターに突き立てたが、硬い皮膚に阻まれて致命傷までには至らなかった。

「ロキ!同じ神ならもう少し楽勝に倒せるだろう!?」

「うるさい!この洞窟に生き埋めになりたく無いだろ!?」

「コントロール出来んのか!?」

「これでギリギリだ!」

 ロキとワールドは互いに叫び合いながら洞窟の中で暴れるモンスターに攻撃を加えていた。

「ほんま!とっととくたばれやボケが!」

「口が悪いわよ」

 二人が一緒のタイミングでモンスターに攻撃を加えたが、それでもモンスターは暴れ続けついにワールドが吹っ飛ばされた。

「…………はぁ、はぁ、こやついつになったら倒れるんだ!?」

「ありえへん……強すぎん?」

「どうやら攻撃が効いてい無いみたいね」

「癪でしかないな……まったく」

「やばぁ……どーすん?」

「倒れるまでしばき続けるしか無いだろ……」

 そう言ってロキは襲いかかってくるモンスターの手をレイピアで何とかさばきながら反撃する隙を見つけようとしていた。

「…………」

 すると、唐突にモンスターは与一の方を見ると他には目もくれず与一に向かって掴みかかり始めた。

「うっ!?わっ!?ちょっ!?」

 与一は危なっかしくそれを避けていたが、モンスターが二、三回手を伸ばすと捕まったしまった。

『与一!』

 怪物は与一を引きちぎろうとしていたが、与一もそれに負けていなかった。

「うおおおおおおおおおお!!ちぎられてたまるかぁぁぁぁ!!」

 が、それは10秒だけの話だった。

 ベキン!

 と、何かが壊れる音がして与一の胴体と下半身がちぎれ………たようにみえた。

 鎧が砕け中から出てきた与一は地面に転がった。

 怪物の手から鎧は砂のように溶け落ちて、そして再び与一を守るように鎧となったが、仲間達が与一に駆け寄るも先にモンスターが与一の心臓部分に手を伸ばした。

 そして、どさっと音がして与一の服に手がめり込むとモンスターはそれを引きちぎった。

 そして、マンスターの持つ手の中にはコーラとジャーキーが握られていた。

 与一以外あっけにとられる中モンスターはモムモムムシャムシャと上機嫌そうにコーラとジャーキーを食べた。

 すると、食べ終わる頃には何故かムキムキの体になっていたモンスターは満足そうに洞窟の奥に戻っていった。

「……与一?」

「無事やけど……あれ何?」

 与一はくり抜かれた服の部分をさすりながらそうつぶやいた、

「……多分昔から伝わるイエティだと思う、おそらくここにきていた商人達はたまたま起きたばっかりな機嫌の悪いあいつに見つかったんだろう……」

 と、銃を構えながらバーゲンとワイナワイナ、ゴジガジが与一達の前に立った。

「そっか……ドンマイやな……いや、自業自得?因果応報?なんか知らんけど、せや、入り口付近に商人らみーへんかった?」

 バーゲンは縦に首を振って、

「今大急ぎで近くの町にユウラビが向かってる」

「ふーん……えっ?どうやって?」

「走ってだ、元よりユウラビはゴジガジよりも早いぞ?」

「えっ?」

「はっ?」

 その言葉に俊明も反応した。

 どうやら自分より早い人間が二人もいることが不服なのだろう、一気に目に見えて不機嫌になった。

「……成る程、そう言えばキホシィ達の両親が」

「わかってる、まだなんだろう?だから手伝いに来た」

「ん?フォールが手伝えないって……」

「商人達が傷つけられたのなら別だ」

「……あー」

 与一はそう言うと、納得したように頷いた。

「じゃあ本人達は?」

「今向かってきてるはずワイナ、女の子は準備に時間がかかるワイナ、そこは勘弁してやってほしいワイナ」

「はぁ……」

 と、ロキと与一はため息を吐くと、頭をバリバリと掻いて、

「じゃあ行くか」

「行くとしますかね?」

 と、歩き始めた。

「………」

 フォール達は肩をすくめると、二人の後ろに続いた。

「……まったく、どうなることやら……」

「どうにでもなるわよ」

「はぁ……やったらええけどな」

 と、残った三人もそのあとに続いて暗い洞窟を進んだ。

 しばらく進んでいると、壁際が水色に光っているのに気がついた与一は壁に手を当ててジィッと壁を見つめた。

「この洞窟には魔水晶が豊富にあってそれが自分で発光して、洞窟の中を照らすことからこの洞窟は別名『光の洞窟』とも呼ばれていて、さらにこの魔水晶には冷却の魔力があってだな、昔はここを冷蔵庫の代わりにして交易を行っていたこともあるらしい」

 と、ロキはふわふわと浮かびながら洞窟の先をまっすぐと見たままそう説明した。

「ふーん……その割には駅とかも無いねんな?」

「ここはあくまでも洞窟の中の一部だ、あとにまた通る事になるが駅も街も存在しているぞ」

「ふーん……じゃあなんでここはもう使われてへんの?」

「単純に新しいものが発明されて一箇所に固めなくても冷やしておくことができるようになったんだが、わかるよな?」

「冷蔵庫ねぇ……」

「正確には冷却庫だな、箱の中に仕掛けられた冷却の魔法を長時間長持ちさせることができるようになったのと、単純に保温の技術が発達した結果だな」

「へぇ……」

「ま、お陰でこのあと行く街はそれなりに人が出て行っちまって何にもないと思うがな」

「成る程」

 与一は感心しながら足を進めていると、明らかに水晶の放つ光では無い色の光が別の道に続くくぼみから出ていた。

「………」

 ロキは指で空中に『黙れよ?』と書くと、ちらりと中を覗き込んだ。

 そしてゆっくりとこちらを向くと、

『アイツと恐らく奴隷の人たちがいる』

 と、書いた。

 全員頷くと、ロキの次の指示を待った。

 ロキは暫く考えるそぶりをしていた。

 すると、のっそりとロキの背後からモンスターが白い顔をこちらに向けて人のような瞳でこちらをじっと見ていた。

『……………………っ!!!』

 ロキ除く全員顔を引きつらせて、ゆっくりと後退し始めた。

 与一はロキの方を見ると、こっちに来いと黙って手招きした。

 流石に感の悪いロキでは無い、ロキも顔を引きつらせながらゆっくりと前に足を踏み出そうと足を持ち上げると、

「……フゥゥゥゥゥ………」

 ビクッとロキは怪物の吐息に驚いたが、歩みを止めようとしなかった。

 そして、上げた足を前に出して下に下ろすと怪物はロキの肩をがっしりと掴んだ。

「…………………っ!このヤロウ!」

 そしてついに痺れの切れたロキが怪物の首元にレイピアを突き立てたがレイピアが刺さらずカチカチと震えるだけだった。

 ロキが振り返り攻撃をする瞬間に与一達も動き始めていた。

だが、それよりもモンスターが動くのが早かった。

 モンスターは、ロキの攻撃が当たると同時にくぼみの中に素早く戻っていった。

「くっそ!」

 与一は太ももの横と背中と肩の部分に鎧を変形させてスラスターを作ると、ジェットを噴射しながらスライディングでくぼみの中に入っていった。

 そして、怪物の姿が目に入り、そのままキックをかまそうとジェット速度を速めようと思ったその時、与一はギリギリで……いや、むりだった。

「はべぇん!」

 勢いのついた与一は怪物の横をギリギリで通り抜けると壁に亀裂を作って激突し、地面にふらふらと倒れた。

 与一よりも1秒遅く入って来たロキ達はあまりの展開に頭がついていかず一瞬その場でフリーズした。

 そして、ロキ達が動き出すよりも早くバーゲンがモンスターの様子に気がついた。

「……あっ!」

 一同はバーゲンの視線の先を見て驚いた。

 モンスターは激突した与一を横目に、恐らく大量の食料が入っている鍵のかかった木箱を持ってロキ達の方に差し出していた。

 恐らく開けろとのことらしい。

 ロキは恐る恐るモンスターの持っている木箱の近くまで近寄ると、レイピを杖に戻して軽く鍵を叩いた。

 すると、鍵はいともたやすく外れて木箱がの蓋が開いた。

 モンスターは満足そうに鼻を鳴らすと中に入っていた肉やら魚やらをバクバクとロキ達に目もくれずに食べ始めた。

 そして、モンスターは食べ物から目を離すことなくくぼみの奥にある布のかかった何かを指してから、今きたところとは別のところに続くくぼみの方をさした。

「持って行けってことか?」

「………」

 モンスターは何も喋らなかった。

 すると、伸びていた与一が起き上がって頭を抑えながら、何かにかけている布を引っ張って取った。

 すると、そこには色々な服や装飾品、そして、少し離して木箱に飲み物や食料があった。

「うう……クッソ、ヘマったわ……あぁ、ロキ?」

「な、なんだ?」

「俺の今してるアーマーの赤外線センサーにこの奥に沢山の熱反応があんねんけどな……」

「本気か?だとしたらこいつ……」

「こいつもしかして知性があるワイナ?」

「グゲギグゲゲ」

 モンスターは疑念の目をロキ達から向けられてもそれに対しての反応をすることはなく、ただひたすらに箱の中のものを食べていた。

「………成る程な」

 ロキは一人納得したように頷くと、

「与一、それを向こうの奴らに届けてからついでに開放してこい、んでもってお前らに一つ」

 そして、少し間をおいて、

「コイツを仲間にする」

 と、不敵な笑みを浮かべてそういった。
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