Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

ワイバーンの巣1

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 思ったような形ではなかったにしろ外国の温泉に入って満足した与一達は、ある程度の新たな食料と衣服を購入すると、列車で次の目的地に向かった。

「次の目的地は『ワイバーンの巣』だ」

 そう言ってロキは机の上に置いた紙に杖をポンと置くと、紙から3Dのマップが飛び出してきた。

「…………!」

 それに対してビートはたいそう驚いたようで、目を大きく見開いていた。

「あぁ、これはちょっと特別だからな」

 そう言ってロキはもう一度杖を振ると、地図が回転しながら拡大された。

「ここが私達のいる場所だ、ここから北に渓谷沿いに進んで行ってこのワイバーンの巣に向かう」

「思っててんけどさ、大丈夫なん?そこ」

「全くもって問題ない、なんせワイバーンの繁殖期間でもない限り大丈夫だ、それにワイバーンの繁殖期間は100年に一回だしな」

「フラグ全力で立ててる?」

 与一はそう突っ込むとフォールの方を向いた。

「そこら辺なんか知らんの?」

「うむ……ほうはははぁ~」

「口の中にあるもん飲み込んでからでええで」

「んっ………そうだな、その辺の話は大丈夫だ……前の時期から大体80年目ぐらいだから……ちょっと水をくれ」

「はいよ」

「んぐっんぐっ……ぷはぁ~……問題ないはずだ」

「もう、フォールったら……でもフォールの言った通りだから大丈夫だよ」

 ユウラビがフォールの口元についたソースをナプキンで拭いながらため息をついてそう言った。

「ほーん……で、なしてそこで一旦降りるわけ?」

「理由としてはこの先の長い旅路において、ドラゴンを一匹飼ってみないか?」

「それ、竜人の前で言うかしら?」

 ノヴァはナイフで上品に肉を切って口に運びながら、フォークでロキを指した。

「行儀悪いでノヴァ」

「はいはい、悪かったわね」

「はぁ……ノヴァは嫌なん?」

 与一はため息をついて、続けた。

「いえ?別にドラゴンと私達は別だからいいわよ。どっちかというと貴方達から言わせれば猿に近い存在だからかしら?でも気をつけなさい?猿と一緒に考えていると魅入られるわよ」

「いいんかーい、てか魅入られるてどういう意味やねーん」

 そう俊明が間の抜けたツッコミをするとロキと与一は揃ってため息をついた。

「……まぁ、それもあるがもう一つ、その近くにまた街があるんだがそこでお前らの防具を買おうと思ってな、いかんせん銃とファンタジーが融合した世界だ、防弾チョッキの代わりに竜の鱗のチョッキを着ることも珍しくないからな」

「そうなん?」

 与一はノヴァに尋ねた。

「そうね、龍の鱗はそこんじょそこらの職人が作るチョッキとかよりも十分硬いわ。だからそういう使い方をするのも珍しくないみたいね」

 そう言ってノヴァはさらに追加で大きな肉を食べ始めた。

「そっかぁ……じゃあとりあえずそれまでゆっくりしよっか……」

 そうしてロキ達は夜の鉄道を蒸気を吹き上げながら進む列車の中で優雅な夕食を食べながら過ごしていた。

 一方その頃『ワイバーンの巣』では……。















「くそっ!あれだけの犠牲を出しておきながらゴブリン達を仕掛けるのも失敗してしまったし、技術を盗むために仕掛けた精鋭達もことごとく返り討ちにあうし!なんなんだ!?あいつらは!」

「リーダー、あんまり怒るのは体に良くないカナ?」

「そうカモ?怒ると体にあまり良くないカモ?」

「そ、そんなこと言ったらまたリーダーの胃がマッハだよぉ……」

「お前らは本当に…………!!」

 リーダーと呼ばれたエルフの後ろに他のエルフが三人、金魚の糞のごとく張り付いていた。

「今度は何をするカモ?」

「奴らが進むルートはもう分かっている、次はおそらくここに来るだろう、そこでこいつらだ」

 と言って男はポンポンとワイバーンの卵を叩いた。

「こいつをあの列車にぶん投げて割る」

「ひぃっ!」

「うるさいカナ!!」

 ドゴッと語尾がカナの女はヒョロヒョロの気の弱そうな別の女を殴った。

「うぅっ……打たないでよぉ……」

「……アイツらは今頃卵を必死に探してるだろうからな、割った後も匂いはいくら拭ったって残るから割ったってのを知ったら……あの数のワイバーンいくらアイツらが強かろうと無理だ」

「その前にわざわざワイバーン達を起こしてきてあげた私達のことも褒めて欲しいカナ?こいつ抜きで」

「あうぅ……」

「………」

 男はそれに反応することなく歩き始めた。

「……仕方ないカナ、ほら!しっかり運ぶカナ!」

「ひ、一人じゃあ無理だよぅ……」

「さっさと運ぶカモ!」

「は、はいぃ!!」

 女は涙ながらに大きな卵をフラフラと担ぎ上げると一人でそれを運び始めた。

 そして、その卵に少しヒビが入ったのには誰も気づかなかった。















 そして翌日、与一達はそろそろ慣れてきたバイキン式の朝食を済ますと一同は座ってロキの登場を待った。

 すると、室内が暗くなって明かりがつくとロキがクルリと回りながら登場した。

「さて諸君、もうじき到着だ、向こうに忘れ物のないように降りてくれ、私も今回は出るからな」

「えっ?太陽さんさんやで?」

 ロキがそう与一が驚くのを見据えていたかのように、自分に杖を振ると服装が変わって黒い長袖のワンピースにサングラスとマスクをして帽子をかぶってさらに日よけ傘を装備した。

「……ガッチガチやな」

「当たり前だ」

 そういうとロキは今度は傘を一度振った。

 すると、そこにはいつものロキがいた。

「……まぁええわ、んでどうす……」

 んねん、と与一が言おうとしたところで列車は急停止した。

「な、なんや?」

 俊明は椅子から飛び上がると寮車の中央広間から走って別の車両に移っていった。

 他の全員も顔を見合わせるとバラバラに立ち上がると、俊明の後に続いた。

「……なんじゃこれ」

「岩……やな」

 俊明がそう呟いて与一がそう返したその二人の前には線路の上に、アニメにでも出てきそうな綺麗な丸い岩が崖と崖を綺麗に挟まるように転がっていた。

「誰かが落としたとしか思えねぇな」

「そうね、下がって、私が粉々にしてあげるわ」

 そう言ってコキコキと指を鳴らすノヴァを見て与一はふと、思ったことを言った。

「そういえばお前ビートと戦う時に本気出してた?」

「……そ、それは……ロキとおんなじでビートに戦う意思がないって分かってたからよ」

「あっ、そうなん?」

 と、何故か額に汗をかいているノヴァをよそにビートが肩をすくめながら、見ていても気持ちのいいぐらい綺麗なフォームで岩に拳を叩き込んだ。

 すると、岩は砕けるのではなくこの崖の道沿いの先の方まで破片を飛ばしながら飛んで行った。

 そして、落ちていって地面に接触するかと思われたがそのまま岩は与一達の視界から出て行ってしまった。

「……つっよ」

 ビートがパンパンと手を払いながら何事かと与一達を見て、列車の中に戻っていくのをみとどけると、ロキはとてもいいドヤ顔で、

「いったろ?」

 と、そういった。

「いやまぁそやけど」

 と、与一が呆れながらも突っ込んでいると、与一とロキの間に何か卵のようなものが落ちてきて、目の前で破片を飛び散らせながら砕け散った。

「「は?」」

 二人はあっけにとられたように一瞬フリーズしたが、ロキは頭上を見上げて、与一は卵の中身が何か視界を下に落とした。

 すると、そこには卵の殻を被った中型犬と同じぐらいの大きさの黒色の翼竜がクワァ~と口を開けてあくびをしていた。

「ド、ラゴン?」

「お前それよりも上だろ!?」

 と、ロキは敵を見つけたのか杖を振って光線を出したが、四つの人影は崖から顔を引っ込めてしまった。

「ちっ、逃したか」

 そう言ってロキは舌打ちをしてドラゴンの方を見た。

「なんだ、煤竜か」

 そう言ってロキは子供の竜に向けて杖を向けた。

「ちょちょちょちょちょ!何してん!?」

 そう言って与一はロキの腕を下ろさせた。

「私たちの目的はこの竜じゃないぞ?もっと強力な黒竜とか……」

「それでも生まれたばっかの命殺すことないっしょ!?」

「……はぁ、まぁ、一匹も二匹も変わらんか」

 そう言ってロキは『ススリュウ』と呼ばれた竜を抱き上げて、よしよしとあごの下をくすぐった。

 すると、ドラゴンはくすぐったそうにしながらもコロコロと喉を鳴らした。

「ん?まてよ?繁殖期でもないのに卵?」

 と、そこまで言ったところでロキはピタッと止まった。

「……ロキ?」

 与一はその言葉に固まるフォール達を見て不安になりながら声をかけた。

「………全員列車に戻れ!奴らが………!」

 と、言ったところでロキ達の上に大きな影ができた。

 全員上を見上げるとそこには多くの翼竜達がキシャーと声を出しながらこちらに急降下してきていた。

「こいつはここに置いていくぞ!」

 そう言ってロキは小ドラゴンを地面に優しくおくと、列車に向かって駆け出した。

 残った与一達もそれを見ると一斉に駆け出したが、最後まで残った与一の肩をドラゴンの一匹が鷲掴みにした。

「は!な!せ!」

 と、与一は思いっきり引き剥がすと列車の中に転がり込んだ。

「よ、ヨイチ!大丈夫か!?」

 フォールからそう心配されて与一は右手の親指をぐっとあげた。

「ノンプロブレーモーゥ」

「そうか、ならばよかった」

 と、フォールは地べたに座り込んだ与一に手を貸すと引っ張って起こした。

「わるいなぁ」

「きにするな」

 と、フォールはそう言って笑うと与一の肩をポンと叩いた。

「さて……翼竜達が怒りに怒っている訳だが……」

 と、ロキは天井を引っ掻く音を聞きながら首を捻らせた。

「しばらくしたらあの子見つけて戻るでしょ?」

「そのはずなんだが……」

 と、言っていると一際大きな叫び声が聞こえたかと思うと天井を引っ掻く音がやんで翼竜達の声が聞こえなくなった。

「……行ったか?」

「いや、まだよ」

 ワールドがそう呟くとノヴァがそう返した。

 と、その瞬間ひときわ大きく列車が揺れると、天井をノックするようにコンコンと誰かが叩く音がした。

「……私が行くわ」

「貴様我々を嵌めようなどと考えるなよ?」

「しないわよ!まぁ待ってて」

 と、そう言って列車から出ようとノヴァは扉を開けた。

 するとそこにはびっしりと地面が見えないぐらいに人の大きさぐらいの翼竜達が並んでいた。

 ゴクリと喉を鳴らしたノヴァはゆっくりと階段を降りて、その中でもひときわ大きな傷の多い翼竜に近づいた。

「卵を奪ったのは私達じゃないわ」

「……それぐらい分かっている」

「………じゃあなんで攻撃したの?」

 翼竜は流暢に言葉を話していたがノヴァはそれに対してなんの反応も示さなかった。

「今さっき妙なエルフ四人組が目撃されてな……」

「それをわざわざ言いに来たわけ?」

「……警告と謝罪だ」

「……謝罪は私じゃなくて彼らにして」

「……あのエルフ四人組だが…………………」

「……………分かったわ肝に命じておくわ」

「うむ、ではまた会うことになるかもしれんな」

 そういうと、その翼竜は声を上げて飛び去った。

 それに続いて他の翼竜達も飛びさり始め、そして一匹の翼竜が小さな竜を加えたままペコリと頭を下げて飛んで行ったのを見て、ノヴァは一つため息をついた。

「ここからだったのね……」

 と、ノヴァは呟くとロキにテレパシーを送った。

『行ったわ』

『分かった』

 列車の中からロキ達が出てくると、ロキとビート除く全員は飛び去る翼竜達を見てホッと安心したようにため息をついた。

「で?どーするつもりですかい?ロキ嬢?」

 と、バーゲンが銃を肩に担ぎつつそうロキに聞いた。

「なんだそのロキ嬢ってのは……計画に変更はない、邪魔者が出てきたみたいだがたとえ来たとしても返り討ちにするだけだ」

「……相手さんは待ち伏せしてる可能性大っすよ?」

「分かってる……あぁ!もう!めんもくさい!」

 そう言ってロキはバリバリと頭を掻くとため息をついた。

「ロキも大変だねぇ……」

「グゲェ……」

「うっさいわ!」

 と、胃のあたりを抑えるロキの悲鳴に近い叫び声が完全に翼竜のいなくなった渓谷に響くのだった。
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