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Category 3 : Rebellion
1 : Urgency
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遮蔽物代わりの岩や地形の起伏に隠れる兵士や車両や二足歩行戦車。小銃や機関銃を暗く見えない各々向ける。
「あとどれ位だ?」
『敵戦力到達までおよそ20分、味方の援軍は10分後と見られます』
通信機の声を聞いた兵士達が緊張と切迫に皆が顔を引き締めた。間に合うのは良いが、到着から10分で万全な準備は厳しい所もある。
突如、後方から発光。兵士の一部が振り向いた。大砲やロケット砲の発射光である事は分かり切っている。
『弾着、今!』
数十秒後、前方でまたも発光。砲弾やロケット弾の爆発光である事は知っている。だいぶ遅れて微かな発射音と爆発音が聞こえた。後方からの砲撃は休まず続く。その度に荒野に爆発が起こる。
「これでケリが着いてくれれば良いんすけどね……」
「コラッ、不吉そうに言うんじゃない」
何気ない1人の若き兵士の台詞が場に更なる緊張感をもたらした。ガチャ、と武器を構え直す音。
二足歩行戦車がそれぞれの手に抱える2丁の20ミリサブマシンガンと両肩にある100ミリ15連発ロケットランチャーが気を取り直すように、静寂の中を静かなモーター音を立てて角度を僅かに変えた。
サンタモニカ観測所から北へ約20キロメートル。居住地から大きく離れたその場所は人どころか動物の気配すら感じない。精々乾燥地に生える低い草木やサボテンがある程度だ。
そこから更に少し北へ行くと、圧倒的な存在があった。静かな乾燥地帯が一変、喧騒とする。
大量に走行するバイクの様な車両だった。暗闇に溶け込む黒い車体。タイヤが太く、滑りやすい砂の上をしっかり走る。ロケット砲やマシンガンを装備しているのが見える。何よりの特徴は、人が乗っていなかった。
バイクより小型で更に大量にあるのが犬や猫、いや、狼や豹の如き姿をした何か。これもまた漆黒で、表面が僅かな光に金属の光沢を発する。犬科か猫科か判別出来ないが、地面を駆ける姿はまさに俊敏な狼や豹だ。何故か背中に機関銃らしき筒状の物体や小型ミサイルがあった。
数が少なくて大型の車両もあった。トラックの荷台を流線型にした様な形状だったが、操縦席が見当たらない。存在を隠す黒色はこれも同じだった。
その機械達の行進を、反乱軍の偵察機が捉えていた。
「あらゆる種類の波長で試したがやはり見にくいな。簡易的なステルス素材か」
「だろうな。奇襲と機動を意識した戦力なのは間違いない。ただ奴らがこんな兵器を有していたのは知らなかったな」
偵察機から送られてくる赤外線可視化映像を見ながら通信担当の兵士達が言い合った。当然前線の味方達へ報告するのも忘れない。
「だがあのトラックみたいな奴は何だ? 無人バイクと獣もどきは分かるとして、何か運んでるのか?」
「今は分からん。幸いあれはデカくて砲撃で当たり易いだろう」
その時、映像の全体が突如明るく光った。爆発によるものだろうか。つまり味方の砲撃だ。地面から何十メートルも離れている高度からも明るすぎて発光部分が見えない。
砲撃はまだ続く。しかし、画面に映る動く数々の影は着弾地点を読み、横へずれたと思うと先程居た所で爆発、躱されてしまう。だが大型のトラックもどきの車両はそう俊敏に動けない。
そう思った次の瞬間、偵察機の映像が白で覆われた。爆炎の熱によって見えなくなったのか。映像はすぐに戻った。
砲撃の熱の跡らしき赤外線源が無かった。車両達は無事だった。
「着弾してない……撃ち落とされたのか?!」
「おい、これを」
予想外の出来事に片方が驚き、もう片方が冷静に示した。
画面端にあった赤外線源、それも人型だった。
人型の物体は手に持っている物体を偵察機側へ向け……不意に画面が暗転し、【信号無し】と表示された。
「撃ち落とされた?!」
「トランセンド・マンか!」
少なくとも夜の空の中で見える偵察機では無かったし、小銃で偵察機を撃ち落とすなんて”普通”は無理だ。
「さあ、俺達の方も来てくれ。生憎今夜はまだ食ってないんだ……」
「2人とも、ペースを上げるか?」
「はい、急ぎましょう」
「ああ」
荒野を走る3つの影。1つは威厳と自信を感じさせる女性の中性的な口調。続いたのは不安を隠し切れていない少女の声。最後は内容が一切詰まっていない最小限の少年の返事。
先頭を走る長い銀髪を風で揺らす長身の女性クラウディア。その後に続くのは、逆風に灰髪をたなびかせる少女アンジュリーナと、深い青髪を最小限だけしか揺らさない少年アダム。
先程3人は北上する反乱軍兵士達の車両を追い抜いた所だ。味方の援軍と敵勢力は10分差でこちらが早いと聞いたが、それでも心配だ。
音速を超えて走っても衝撃波は起きない。トランセンド・マンの「防壁」は彼らに掛かる”空気抵抗そのものを無くしている”のも同然だから。
同時に、超音速で走っても地面を凹ます大きな足跡は出来ない。まるで作用・反作用の法則が無いかの様だ。これもまた身体と体外の摩擦、即ち干渉を減らすという「防壁」の効果である。
5分も立たない内に3人のトランセンド・マンは丘陵を上り切った先にある鉄塔を視界に捉えていた。
「おお来たか若者達よ。それに珍しい組み合わせだな」
丁度到着していたチャックが3人を出迎えた。
「一般兵達がまだ掛かりそうだが、予定通りみたいだ。敵軍の動きは?」
「相変わらずこっちへ来とるよ。あとトランセンド・マンが2人確認されたらしい」
クラウディアが質問し、返って来た答えを聞くと普段すら鋭い顔つきを更に引き締めた。
「先生も今着いたんですか?」
「その通りだ。私は医務しか出来んが、お前達はお前達でやれる事を頑張れよ」
「はい、分かってます!」
アンジュリーナが何気なく問いを持ち掛けると、その答えを聞き、笑顔になると同時に頑張る意思が湧き出る。
「それと、少年……実戦は初めてだろ? 大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「その言葉が一番心配なんだがな……」
フラグという概念を知らないアダムは何の事かさっぱりだったが、自分から喋った。
「ハンから聞いた。敵トランセンド・マンを通常戦力へ影響を脅かさない様に足止めするのが役割だろう」
「それなら信じて良さそうだな。私は通常兵の手当てに専念する。私の仕事を増やさん様に出来るだけ抑えてくれよ」
「分かった」
やはり抑揚の無い声で返事したアダム。
移動しながら喋っていれば、四人は兵士達の居る前線へ到着した。味方基地からの砲撃による爆発が近くまで迫っている。
「よおアンジュ、それにクラウディア。今日もまた美人が二人かね」
「オイオイ、浮気は駄目だぜ。それからアダムを忘れるんじゃねえ」
「何度浮気じゃねえって言ったら分かるんだお前は」
緊張感を崩すようにロバートとルーサーが言い争った。ただこの時の周囲の兵士達は呆れる様に首を傾げた。
「あっ、ロバートさん」
「おう、嬢ちゃんの防御また期待してるぜ」
「任せて下さい!」
期待している、と言われ、アンジュリーナは自信ありげに元気良く答えた。そしてその声が場に再び緊張感をもたらす。
「アダム、私と行くぞ。アンジュ、皆を任せたぞ」
「ああ」
「はい!」
「前は任せたぞ2人とも」
アンジュリーナはチャックや兵士達と共に遮蔽物へ身を隠した。アダムは前線を飛び出たクラウディアと共に真っ暗な荒野を駆けて行く。
乾燥地帯を駆け抜ける2人のトランセンド・マン。走る度に砲撃の爆発音が近づいて来るのを感じていた。
視覚が”超越”している2人の目には遥か遠くに大量の無人車両や動物型戦闘ロボットが映っている。
「心配するな。私たちにとっては大した事は無い奴らだ。だがそれを後方の仲間達へ行かせないのが私達の仕事だぞ」
「分かっている」
静かだったので、また少し心配もあったのでクラウディアが2週間前に加わった新米へ訊いた。アダムは自分より5センチメートル高い女性の思惑の関係無しに一言で返事を済ませた。
(うーむ、やはり無愛想な態度は変わらないか……ひょっとして私の態度が駄目なのか? それとも私が何か嫌な事でも……)「ところで……」
クラウディアが脳裏で思考を繰り広げ、話し掛けようとしたが、お構い無しにアダムが突然拳銃を腰のホルスターから2丁とも抜いた。地平線へ銃口を向け、引き金を引く。
(く、空気が読めない所は欠点だが、やるべき事はしっかりやるのは他の男共とは違うな……)
話し掛けるのを中断し、気持ちを切り替えクラウディアもアサルトライフル型の銃を持った。
トランセンド・マン達の命中率は素晴らしく、離れていても殆ど百発百中。また、一発一発が対物ライフル弾を超える威力を持つので、実質的に銃弾が発射される分だけ敵を打ち抜いているのだ。それも2人合わせて秒間200発。1秒で200体のマシン共が停止する。
「良いじゃないか。レックスから習ってるんだろう?」
今度は返事どころか反応すら一切なかった。聞こえない様に言っている筈が無いのだから無視しているとしか思えない。それだけアダムは目の前に集中していた。
冷酷、と言われても仕方のない態度はとても人間味が無さ過ぎる。だが事実なのだ。アダムは表情一つ変えずに撃ち続ける。
(本当に妙なものだ……しかし、これじゃあ殺し屋だな)
一方、大量の敵戦力は数を減らすどころか増えている様に錯覚してしまう。砲撃の音が更にうるさくなる。
何の前触れも無く少年が跳び上がった。何事かとクラウディアが周辺を見る。
アダムが立っていた地点の土砂が爆発を起こした様に噴き上げられた。そしてクラウディアは自分達以外の人の姿を1つ発見した。
闇夜と同色の戦闘スーツを着る大柄な黒目黒髪で髭を生やす男性。良く見ると、男性の右足が踏む地面が大きく凹んでいた。
男性が右拳で正拳突きを繰り出した。しかし、距離が10メートルも離れているのに当たる筈が無いだろう。2人はそう思い込んでいた。
男性が何かを企む様に不気味に笑みを浮かべた。突き出された拳の周辺の空間がレンズの様に歪んでいた。
「障壁」は効力を自在に変化出来る。耐圧、耐熱、耐電磁気、耐電磁波、何でもだ。だがトランセンド・マンは主に「外界との干渉減少」という観念的な障壁を”主に”使用している。これだけで物体、圧力、熱、電気、磁気、光線、エネリオン、大抵のものは防げる。
ここで大事なのは「障壁」は意識して自在に効果を変更出来る、という事だ。
男の腕に纏わり付くエネリオンは男の腕が分子間力強化によってそれを構成するタンパク質が鋼鉄の剣ですら傷が付かない程の強度になる。
そして腕に触れる空気との摩擦力を格段に上昇させる。強靭な腕で拳を突き出した事により、拳の軌道上にあった空気が圧縮され衝撃波が起こる。それが空気を歪ませていたのだ。
今度は、男の体表から衝撃波自体にエネリオンが送られた。
周囲に拡散される筈の衝撃波がレンズの様に一点に集中した。威力も増強され、不可視の衝撃は一直線でレーザーの如くアダムへ。
アダムの体が突如起こった衝撃で後方へ吹き飛ばされた。バコーン! という爆音が同時に聞こえた。
「アダム!」
クラウディアが反射的に腰にぶらさげたレイピアを引き抜いた。衝撃を放った男へ突撃する。
しかし、クラウディアの突進は阻止された。側頭部に強い衝撃が走ったのだ。
頭から地面に落ちるが、転がって衝撃を吸収し砂も払わずに立ち上がる。視線の先の人物に見覚えがあった。
茶目茶髪、黒髪の男性より一回り更に大きい体躯、視線と表情を隠すサングラス。ボディーガードやエージェントに似た外見は見間違えようがない。
「お前、あの時の……」
その男こそ2週間前レックスの追跡から逃れた人物だった。先程の不意打ちは認識阻害によるものか。
何時の間にかアダムがクラウディアの背後を守る様に背を向けて立っていた。黒髪の男がアダムの正面から睨む。
アダムが銃をしまい左半身を前に重心後ろ、右手を顎に左手を腹にキックボクシングの如き構えは微塵の無駄も無い。クラウディアが右手に持つレイピアを顎の高さに上げ、左手を腰に当てた姿は普段の態度も相まって高貴なイメージを漂わせる。そして2人を挟む相手が2人。
その4人を避ける様に機械の大群が横切る。4人はそれらに目もくれず、機械達もトランセンド・マン達を無視する。
「あとどれ位だ?」
『敵戦力到達までおよそ20分、味方の援軍は10分後と見られます』
通信機の声を聞いた兵士達が緊張と切迫に皆が顔を引き締めた。間に合うのは良いが、到着から10分で万全な準備は厳しい所もある。
突如、後方から発光。兵士の一部が振り向いた。大砲やロケット砲の発射光である事は分かり切っている。
『弾着、今!』
数十秒後、前方でまたも発光。砲弾やロケット弾の爆発光である事は知っている。だいぶ遅れて微かな発射音と爆発音が聞こえた。後方からの砲撃は休まず続く。その度に荒野に爆発が起こる。
「これでケリが着いてくれれば良いんすけどね……」
「コラッ、不吉そうに言うんじゃない」
何気ない1人の若き兵士の台詞が場に更なる緊張感をもたらした。ガチャ、と武器を構え直す音。
二足歩行戦車がそれぞれの手に抱える2丁の20ミリサブマシンガンと両肩にある100ミリ15連発ロケットランチャーが気を取り直すように、静寂の中を静かなモーター音を立てて角度を僅かに変えた。
サンタモニカ観測所から北へ約20キロメートル。居住地から大きく離れたその場所は人どころか動物の気配すら感じない。精々乾燥地に生える低い草木やサボテンがある程度だ。
そこから更に少し北へ行くと、圧倒的な存在があった。静かな乾燥地帯が一変、喧騒とする。
大量に走行するバイクの様な車両だった。暗闇に溶け込む黒い車体。タイヤが太く、滑りやすい砂の上をしっかり走る。ロケット砲やマシンガンを装備しているのが見える。何よりの特徴は、人が乗っていなかった。
バイクより小型で更に大量にあるのが犬や猫、いや、狼や豹の如き姿をした何か。これもまた漆黒で、表面が僅かな光に金属の光沢を発する。犬科か猫科か判別出来ないが、地面を駆ける姿はまさに俊敏な狼や豹だ。何故か背中に機関銃らしき筒状の物体や小型ミサイルがあった。
数が少なくて大型の車両もあった。トラックの荷台を流線型にした様な形状だったが、操縦席が見当たらない。存在を隠す黒色はこれも同じだった。
その機械達の行進を、反乱軍の偵察機が捉えていた。
「あらゆる種類の波長で試したがやはり見にくいな。簡易的なステルス素材か」
「だろうな。奇襲と機動を意識した戦力なのは間違いない。ただ奴らがこんな兵器を有していたのは知らなかったな」
偵察機から送られてくる赤外線可視化映像を見ながら通信担当の兵士達が言い合った。当然前線の味方達へ報告するのも忘れない。
「だがあのトラックみたいな奴は何だ? 無人バイクと獣もどきは分かるとして、何か運んでるのか?」
「今は分からん。幸いあれはデカくて砲撃で当たり易いだろう」
その時、映像の全体が突如明るく光った。爆発によるものだろうか。つまり味方の砲撃だ。地面から何十メートルも離れている高度からも明るすぎて発光部分が見えない。
砲撃はまだ続く。しかし、画面に映る動く数々の影は着弾地点を読み、横へずれたと思うと先程居た所で爆発、躱されてしまう。だが大型のトラックもどきの車両はそう俊敏に動けない。
そう思った次の瞬間、偵察機の映像が白で覆われた。爆炎の熱によって見えなくなったのか。映像はすぐに戻った。
砲撃の熱の跡らしき赤外線源が無かった。車両達は無事だった。
「着弾してない……撃ち落とされたのか?!」
「おい、これを」
予想外の出来事に片方が驚き、もう片方が冷静に示した。
画面端にあった赤外線源、それも人型だった。
人型の物体は手に持っている物体を偵察機側へ向け……不意に画面が暗転し、【信号無し】と表示された。
「撃ち落とされた?!」
「トランセンド・マンか!」
少なくとも夜の空の中で見える偵察機では無かったし、小銃で偵察機を撃ち落とすなんて”普通”は無理だ。
「さあ、俺達の方も来てくれ。生憎今夜はまだ食ってないんだ……」
「2人とも、ペースを上げるか?」
「はい、急ぎましょう」
「ああ」
荒野を走る3つの影。1つは威厳と自信を感じさせる女性の中性的な口調。続いたのは不安を隠し切れていない少女の声。最後は内容が一切詰まっていない最小限の少年の返事。
先頭を走る長い銀髪を風で揺らす長身の女性クラウディア。その後に続くのは、逆風に灰髪をたなびかせる少女アンジュリーナと、深い青髪を最小限だけしか揺らさない少年アダム。
先程3人は北上する反乱軍兵士達の車両を追い抜いた所だ。味方の援軍と敵勢力は10分差でこちらが早いと聞いたが、それでも心配だ。
音速を超えて走っても衝撃波は起きない。トランセンド・マンの「防壁」は彼らに掛かる”空気抵抗そのものを無くしている”のも同然だから。
同時に、超音速で走っても地面を凹ます大きな足跡は出来ない。まるで作用・反作用の法則が無いかの様だ。これもまた身体と体外の摩擦、即ち干渉を減らすという「防壁」の効果である。
5分も立たない内に3人のトランセンド・マンは丘陵を上り切った先にある鉄塔を視界に捉えていた。
「おお来たか若者達よ。それに珍しい組み合わせだな」
丁度到着していたチャックが3人を出迎えた。
「一般兵達がまだ掛かりそうだが、予定通りみたいだ。敵軍の動きは?」
「相変わらずこっちへ来とるよ。あとトランセンド・マンが2人確認されたらしい」
クラウディアが質問し、返って来た答えを聞くと普段すら鋭い顔つきを更に引き締めた。
「先生も今着いたんですか?」
「その通りだ。私は医務しか出来んが、お前達はお前達でやれる事を頑張れよ」
「はい、分かってます!」
アンジュリーナが何気なく問いを持ち掛けると、その答えを聞き、笑顔になると同時に頑張る意思が湧き出る。
「それと、少年……実戦は初めてだろ? 大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「その言葉が一番心配なんだがな……」
フラグという概念を知らないアダムは何の事かさっぱりだったが、自分から喋った。
「ハンから聞いた。敵トランセンド・マンを通常戦力へ影響を脅かさない様に足止めするのが役割だろう」
「それなら信じて良さそうだな。私は通常兵の手当てに専念する。私の仕事を増やさん様に出来るだけ抑えてくれよ」
「分かった」
やはり抑揚の無い声で返事したアダム。
移動しながら喋っていれば、四人は兵士達の居る前線へ到着した。味方基地からの砲撃による爆発が近くまで迫っている。
「よおアンジュ、それにクラウディア。今日もまた美人が二人かね」
「オイオイ、浮気は駄目だぜ。それからアダムを忘れるんじゃねえ」
「何度浮気じゃねえって言ったら分かるんだお前は」
緊張感を崩すようにロバートとルーサーが言い争った。ただこの時の周囲の兵士達は呆れる様に首を傾げた。
「あっ、ロバートさん」
「おう、嬢ちゃんの防御また期待してるぜ」
「任せて下さい!」
期待している、と言われ、アンジュリーナは自信ありげに元気良く答えた。そしてその声が場に再び緊張感をもたらす。
「アダム、私と行くぞ。アンジュ、皆を任せたぞ」
「ああ」
「はい!」
「前は任せたぞ2人とも」
アンジュリーナはチャックや兵士達と共に遮蔽物へ身を隠した。アダムは前線を飛び出たクラウディアと共に真っ暗な荒野を駆けて行く。
乾燥地帯を駆け抜ける2人のトランセンド・マン。走る度に砲撃の爆発音が近づいて来るのを感じていた。
視覚が”超越”している2人の目には遥か遠くに大量の無人車両や動物型戦闘ロボットが映っている。
「心配するな。私たちにとっては大した事は無い奴らだ。だがそれを後方の仲間達へ行かせないのが私達の仕事だぞ」
「分かっている」
静かだったので、また少し心配もあったのでクラウディアが2週間前に加わった新米へ訊いた。アダムは自分より5センチメートル高い女性の思惑の関係無しに一言で返事を済ませた。
(うーむ、やはり無愛想な態度は変わらないか……ひょっとして私の態度が駄目なのか? それとも私が何か嫌な事でも……)「ところで……」
クラウディアが脳裏で思考を繰り広げ、話し掛けようとしたが、お構い無しにアダムが突然拳銃を腰のホルスターから2丁とも抜いた。地平線へ銃口を向け、引き金を引く。
(く、空気が読めない所は欠点だが、やるべき事はしっかりやるのは他の男共とは違うな……)
話し掛けるのを中断し、気持ちを切り替えクラウディアもアサルトライフル型の銃を持った。
トランセンド・マン達の命中率は素晴らしく、離れていても殆ど百発百中。また、一発一発が対物ライフル弾を超える威力を持つので、実質的に銃弾が発射される分だけ敵を打ち抜いているのだ。それも2人合わせて秒間200発。1秒で200体のマシン共が停止する。
「良いじゃないか。レックスから習ってるんだろう?」
今度は返事どころか反応すら一切なかった。聞こえない様に言っている筈が無いのだから無視しているとしか思えない。それだけアダムは目の前に集中していた。
冷酷、と言われても仕方のない態度はとても人間味が無さ過ぎる。だが事実なのだ。アダムは表情一つ変えずに撃ち続ける。
(本当に妙なものだ……しかし、これじゃあ殺し屋だな)
一方、大量の敵戦力は数を減らすどころか増えている様に錯覚してしまう。砲撃の音が更にうるさくなる。
何の前触れも無く少年が跳び上がった。何事かとクラウディアが周辺を見る。
アダムが立っていた地点の土砂が爆発を起こした様に噴き上げられた。そしてクラウディアは自分達以外の人の姿を1つ発見した。
闇夜と同色の戦闘スーツを着る大柄な黒目黒髪で髭を生やす男性。良く見ると、男性の右足が踏む地面が大きく凹んでいた。
男性が右拳で正拳突きを繰り出した。しかし、距離が10メートルも離れているのに当たる筈が無いだろう。2人はそう思い込んでいた。
男性が何かを企む様に不気味に笑みを浮かべた。突き出された拳の周辺の空間がレンズの様に歪んでいた。
「障壁」は効力を自在に変化出来る。耐圧、耐熱、耐電磁気、耐電磁波、何でもだ。だがトランセンド・マンは主に「外界との干渉減少」という観念的な障壁を”主に”使用している。これだけで物体、圧力、熱、電気、磁気、光線、エネリオン、大抵のものは防げる。
ここで大事なのは「障壁」は意識して自在に効果を変更出来る、という事だ。
男の腕に纏わり付くエネリオンは男の腕が分子間力強化によってそれを構成するタンパク質が鋼鉄の剣ですら傷が付かない程の強度になる。
そして腕に触れる空気との摩擦力を格段に上昇させる。強靭な腕で拳を突き出した事により、拳の軌道上にあった空気が圧縮され衝撃波が起こる。それが空気を歪ませていたのだ。
今度は、男の体表から衝撃波自体にエネリオンが送られた。
周囲に拡散される筈の衝撃波がレンズの様に一点に集中した。威力も増強され、不可視の衝撃は一直線でレーザーの如くアダムへ。
アダムの体が突如起こった衝撃で後方へ吹き飛ばされた。バコーン! という爆音が同時に聞こえた。
「アダム!」
クラウディアが反射的に腰にぶらさげたレイピアを引き抜いた。衝撃を放った男へ突撃する。
しかし、クラウディアの突進は阻止された。側頭部に強い衝撃が走ったのだ。
頭から地面に落ちるが、転がって衝撃を吸収し砂も払わずに立ち上がる。視線の先の人物に見覚えがあった。
茶目茶髪、黒髪の男性より一回り更に大きい体躯、視線と表情を隠すサングラス。ボディーガードやエージェントに似た外見は見間違えようがない。
「お前、あの時の……」
その男こそ2週間前レックスの追跡から逃れた人物だった。先程の不意打ちは認識阻害によるものか。
何時の間にかアダムがクラウディアの背後を守る様に背を向けて立っていた。黒髪の男がアダムの正面から睨む。
アダムが銃をしまい左半身を前に重心後ろ、右手を顎に左手を腹にキックボクシングの如き構えは微塵の無駄も無い。クラウディアが右手に持つレイピアを顎の高さに上げ、左手を腰に当てた姿は普段の態度も相まって高貴なイメージを漂わせる。そして2人を挟む相手が2人。
その4人を避ける様に機械の大群が横切る。4人はそれらに目もくれず、機械達もトランセンド・マン達を無視する。
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