【THE TRANSCEND-MEN】 ー超越せし者達ー

タツマゲドン

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Category 3 : Rebellion

3 : Shock

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 ハンはロサンゼルス市中心部のビルのある一室で椅子に腰掛け、幾つもの画面が置かれたテーブルへ肘を着き、右手で頭を押さえていた。

「やはり僕が行くべきだったかも知れない……」

 ハンの能力は「電気操作」であり、これを活かし無人戦闘ロボットへ過剰電流を流す事によってロボット達を停止へ追いやる事は簡単だ。

 しかし、彼自身の戦闘指揮者という立場がそうさせない。

 2週間前の管理組織基地強襲において行動が自由だったのはその時、重大な指揮能力が必要な戦闘でもなく、また彼のトランセンド・マンとしての能力が重要であるからで、今回はその時より切羽詰まった状況でもない。最低限の戦力で消耗を抑える為の戦闘が要求される。

 元々管理軍の目的が戦力殲滅と陽動である事は分かっており、別の方向からまた攻撃を仕掛けてくるかも知れない。指揮者たるハン自身が出れば反乱軍の戦闘指揮に支障が出るかも知れない。何時の時代でも、どんな兵器やトランセンド・マン以上に指揮能力を持った人材は貴重なのだ。

「何か出来る事は……」

 テーブルの上の多数のモニターは現場からの偵察機が捉える映像が幾つも映されていた。

 発砲する両軍、前線で精一杯に食い止める味方達、次々と倒れるも数を減らす気配を見せぬまま襲い掛かる機械達、後方に果てしなく続く機械達の大群、そして、

「クラウディア、アダム、君達に懸かっている」

 4人の人物が金属の人形達の行進に囲まれている状況で戦いを繰り広げていた。

「やはりもう一人は欲しいが……」

 人材を余分に使えばかえって状況が悪化する。その事が知れているハンはひたすら脳が酷使される。

 部屋に居るのはハンだけではない。他にもオペレーターは10人程存在している。

 オペレーターの1人が呟いた。

「しかし、あのトラックのトレーラーみたいな車両は何だろうな。見た事も聞いた事もないぞ」

 聴覚が先天的に並外れたトランセンド・マンであるハンはその何気ない発言をしっかり鼓膜に捉えていた。悩みを一旦置く事にし、水を掛けられた様に急いで椅子に座り直した。

「現場へ偵察機を輸送車両らしき物を観察する様に言ってくれ」

 声は上がっていないが、早口によって上司の慌てが伝わった部下は、緊張感に満ちながら即命令を実行した。




















 トラックのトレーラーだけが自走機能を持った様な長方形の車両。長方形と言っても大まかな形状であって、空気抵抗を出来るだけ減らす様な流線形にはなってある。

 全長12メートル、幅3メートル、高さ3.5メートル、タイヤは車両の下部に隠れているのか見えない。完全自動制御式により運転席は一切無い。機関部はタイヤ同様車両下部にあると思われる。

 この車両はその大きさや重量の所為の低い機動力もあり、反乱軍の遠方砲撃によって割合では数を一番減らしている。しかし、一番数が少ないとはいえ、大量にあり、生き残っているものが多数だった。

 バイクや機械獣達と並走するトレーラーは突然減速を始めた。するとバイクや獣を避けて横へ移動。

 やがてトレーラーは機械の群れから離れ、目立たぬ様に停止した。他のトレーラーも同様に並んで停止する。

 トレーラー両側面のウイングハッチが文字通り翼の様に上へ開いた。

 中で並んでいたのは、身長180センチメートル、体重80キログラム、全身が夜空と同じ黒に塗られた炭素繊維製プレートアーマー、同じく黒く塗られた顔からは表情が一切見えない、人型戦闘ロボットだ。

 動かずぐったりとしているロボットは背中の辺りを何かで固定されているらしく荷台から少し浮いていた。これが1台につき横並びに16体、反対側にも16体、計32体。このトレーラーが2台居るだけで小隊1つ分の人数を超える。

 何の前触れもなくロボット達がだらりとした肢体を急に動かし始めた。

 背中の固定が外れ、荷台に足を着ける。側面にあったアサルトライフルや他兵装を装備した。

 荷台から降り、並ぶと既に行進中の機械達へ合流、そして同じ方向へ走り出した。




















 秒間50発、音速の10倍、左右からの銃により合計秒間100発。距離を取りながらの射撃により、アダムは相手の黒髪の男を牽制する。

 武器らしき物を何も持たない相手は掌からエネリオンを放出した。

 作用したのは地球にありふれる空気。エネリオンが空気を高周波振動させる運動エネルギーに変化する。

 非常に細かい振動は音波を引き起こす。引き起こされた音波は更なるエネリオンの効果によって方向性を与えられ、少年へ真っ直ぐ伸びる。

 音波は見えない。しかし、音波を引き起こし、ベクトルを与える為のエネリオンは感知出来る。

 この攻撃は丁度音速、つまりアダムの放つ銃弾の10分の1の速度だ。距離も離れているし、躱すには十分と言えよう。

 今度は足を通してエネリオンが地面へ送られた。音速の数倍もの速度を持った振動がアダムの足元へ進む。

 見えないのは厄介だが、それでも銃弾よりは遅い。軽く飛び上がって避ける。音の通った跡の地面に割れ目が出来上がった。

 少年から容赦なく発射され続ける銃弾は次々と男性を襲う。男性の方は冴えない不得意そうな顔で避けるが、被弾してしまう。

「ほう、アンダーソンがここまで強力だったとは。中佐が惜しむのも分かる」

 アダムに対する台詞なのは確かだが、当人には何の事か分からない。アダムに存在する僅かな数少ない「人間性」である知的好奇心が、彼を次なる行動に移していた。

「中佐? 何が惜しいのだ?」

 戦闘を忘れ、目の前の敵に問い掛けていた。

「おっと、悪い癖だった。お前が知る必要は無い」

 尋ねられた相手が笑いながらあっさりと断った。アダムは諦め切れず、内心で思索していた。

(中佐……どこかで聞いた事が……)

 相手の男が地面を蹴り凹ませたのを見たアダムは意識を外へ向けた。直線の衝撃に対し体を横へ移動、前を向き直す。

 男の掌から立て続けにエネリオン塊が放出された。あらゆる方向へばら撒かれたエネリオンはそれぞれの場所から音波を発生させ、それぞれの方向からアダムへ向けて一直線。

 あらゆる角度から同時にとなると低速でも避けるのは困難になる。軽く跳んで地面から足を離し、体の向きを地面と平行に、体軸を中心に錐もみ回転。

 直線を進む音波でなければ直撃でなくともぎりぎり掠めた程度でもダメージは大きい。エネルギーを高める為方向性を与えられている事がアダムの助けとなったのは幸いだろう。体すれすれを空気の振動が通り過ぎた。

 何とか全部回避し、着地したアダムは2丁の銃を相手へ向ける。

 だが引き金は引かなかった。目の前の男がまだ掌をこちらへ向けているのを不思議がったのだ。

 後方でトランセンド・マンによって活性化されたエネリオンを感知、直感的に振り向く。

 同時にアダムの体を強く揺さぶる衝撃が襲った。通り去った音波は、エネリオンによって反射し、あらゆる方向から来る音波が一点に集中しアダムへ瞬間的かつ局所的な衝撃を与えたのだ。

 揺られ、片膝を地面に着いた。直後、男が地面を踏み鳴らす。

 直進する音波に対し、アダムは跪いた体勢から横へ転がり避けようとする。

 エネリオン、そして音波が屈折した。

 自分へ向かって曲がった衝撃に対し、地面を転がる途中手を着いて体を空中へ跳ね上げた。

 もう一度エネリオン。音波が地面から飛び出し、空中に居るアダムを撃ち落とした。

「見事だろう? 音を侮るものじゃない」

 地面に倒れたアダムへ余裕の一声。

「我々からすれば遅いものだが、私を見てどうだ? 強力そのものだと思わないか?」
「……何が言いたい?」

 起き上がりながら銃を構えるアダム。相手はまるで躱す必要もない、とばかりに腕を広げている。

「知りたがりだな。別に意味はない、ただの自慢だ」
「それが何になる?」
「お前には分からんさ」

 男は馬鹿にする様に笑った。アダムにはどうして笑っているのか分からない。

「初の「成功作」といえど所詮はそんな事だろう。幾ら”我々”から逃れようと本質はただ制御される人民と同じだ」
「成功作? どういう意味だ?」

 アダムの好奇心は普段無口な筈の彼を駆り立てる。いつの間にか銃口を下ろしていた。

「また言ってしまったか。だが教えん」

 男の足の裏が地面を叩く。地面が揺れる。アダムが前へ踏み込んだ。

 前方へ跳び、左の銃を前に向け引き金を引く。右の銃はホルスターへ収める。

 地面を走る衝撃がエネリオンによって空気中へ放たれる。

 数発の弾丸が相手目掛けて発射。そして右手はベルトに提げられたナイフを掴んでいた。

 空気を伝わる直線的な音波が、男へ飛び込もうとしているアダムの足へ命中した。

 だが、アダムは足を突き上げられる衝撃を逆手に取った。地面に対して水平になる体の上半身を軸に、身体を縦方向に前へ回転させたのだ。

 アダムの頭が地面を向き、足が天を指した時、距離は既に2メートルも満たなかった。アダムの回転振り下ろしキックが男を襲う。

 2連続、それを相手は腕でブロックし、跳ね返り逆回転したアダムは後退し足から着地した。

 男がエネリオンを身体から足を通して地面に伝える。再び振動がアダムへ。

 着地して次の行動に移るかの様に見えたアダムだが、彼は着地の衝撃を和らげずに、足を伸ばす事による反動で再び跳び上がる。

 男が慌てて音波の進路を少年の居る空中に変更した。一方で少年は2メートル程の空中で留まった。

 音とは縦方向の振動である。高密度状態と低密度状態が短い周期で交互に繰り返す。それが鼓膜を震わせ、耳が聞こえるという訳だ。

 音が単純な高密度の空気の移動とすれば、運動エネルギーを持っている、つまり物体を動かす力がある。

 ところで、アダムは迫り来る音波を前にして、蹴りを放つ様に振り下ろした。

 音波が足へ炸裂し跳ね飛ばそうとする。アダムの体が振動する。そして音波に流される様に彼の体は更に上昇した。

 男の背後でアダムが着地し、双方が向き合った。少年は顔を引き締め、男が顔を緩めて笑う。

「面白い動きだな。直感的で見事だ」

 殺し合いにも関わらず楽しむ様な声がアダムには理解出来なかった。
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