【THE TRANSCEND-MEN】 ー超越せし者達ー

タツマゲドン

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 新素粒子「エネリオン」、それは西暦二〇五〇年代もしくはそれ以前、地球管理組織が発見されたと言われている。

 名前の由来は、それがあらゆるエネルギーへ自在に変化出来る、という性質を持つ故だ。逆に、あらゆるエネルギーからエネリオンへの逆変化も起こり得る。

 宇宙空間のどこにでも存在し、それ自体に質量は存在せず、エネリオン自体が何か熱や電気といったエネルギーを持っている訳でもない。

 だが、「変換」する事で条件に合わせて他のエネルギーに変換可能であり、法則を当てはめるにおいて概念的な質量は存在する。

「まあその話は面倒だし、先端分野だからすぐに理解するのは難しいだろうし、後にしておいて、ここまでは分かったかい?」
「分かった」

 ハンの説明にアダムは顔を変えず頷いた。

 アダムが屋上で暗殺者と死闘を繰り広げてから一時間強。

 あの戦闘後、アンジュリーナはチャックに治療されて即座に回復し、少年に笑顔を見せた。アダムはトレバーから「良くやった」と抑揚の無い声で褒められた。

 その後アダムはトレバーから、たった今彼の目の前に居るハン・ヤンテイという人物を紹介され、ビルの一室で椅子に腰掛けながら、この対面する東洋人からあらゆる事を教わっている。

「そして、エネリオンは“普通の人間”には感じる事なんて出来ない。でも稀にそれを感じる事が出来る人物が居る」
「自分もそうなのか」
「その通り。エネリオンを感知し、更にはそれを吸収し、変換し、エネルギーに変える、それが出来るのが“僕ら”「トランセンド・マン」だ」
「エネルギーへ変換……具体的にはどうやるんだ?」

 トランセンド・マンは「能力」を行使する際、自動的に空間からエネリオンを吸収する。体表で吸収したエネリオンは脳へ集まり、そこで構造情報を変換する。

 ただし、変換されたエネリオンはこの時点では、まだエネルギーではない。変換されたエネリオンは作用させる身体の部位や神経の末端部へ送られる。

「ここがちょっと面倒だけど、分かりにくかったら言ってくれ」

 そう告げた東洋人は、少年が頷くのを確認し、話を再開した。

 トランセンド・マンがエネリオンを使用するにあたって、大きく分けて五つの能力がある。「速筋力増大」、「遅筋力増大」、「身体耐久力増大」、「神経速度増大」、そして「特殊能力」。

 ちなみにこれらを数値評価し、トランセンド・マンとしての能力をも測定するが、この数値を「能力値」ともいう。

 前者四つは脳で変換されたエネリオンを各身体部位に送り、意識的・無意識的両方の場合で発動出来る。具体的に変換するのは、出力増大や負荷軽減といった、主には運動エネルギーとその他。

 そして後者一つ、これは個人によって内容が変わる。エネリオンを熱に変えたり電気に変えたり、人それぞれ十人十色とでも言うべきだろう。何故そういった特殊能力が個人個人で決まるのかは判明していないが。

 話を戻せば、特殊能力は他とは違って意識的に行う能力であり、また行使する場合はエネリオンを手や足といった神経末端部に送り、そこから体外に放出。そして放出したエネリオンを作用させる対象に当てる事でエネルギーに変換される。

「と、こんな感じだけど……」
「武器を使っている者も居たが、あれもエネリオンによって強化したりしているのか?」
「ああ、何も無ければ決まった形のエネルギーにしか変換出来ない。その欠点を補うのが専用武器だ」

 すると東洋人は何処からか拳銃型の物体を取り出し、見せるなり柄を差し出すと少年に持たせた。

「この銃は使用者から送られたパターンを持たないエネリオンを吸収すると、この内部に組み込まれた特殊回路によって“銃弾”に変換する」
「銃弾?」
「具体的には、ある量のエネリオンをある速度で発射し、命中した物体を破壊するエネルギーを与える。エネリオンの加速自体にエネリオンを消費するから弾速を上げても威力は損なわれるし、下げて威力を上げても当たらない」
「待ってくれ、加速にまたエネリオンを消費する、という事だが、質量は存在しないのではなかったのか?」

 ハンの言葉が詰まる。困ったように頭を掻き、しばらくして話を再開した。

「そこが面倒な所なんだ。簡単に言えば「疑似質量」なるものがあって、それが運動エネルギーの法則に当てはまるんだよ……すまないが、これ以上は難しいからストップさせてくれ。その内専門家にでも説明してもらう事にするよ」
「分かった」
「ええと、エネリオンやトランセンド・マンに関する認識はこれ位で良いと思うけど、質問はあるかい?」

 アダムは間を空けず即答。

「トランセンド・マンと普通の人間は何が違う?」
「良い所に気付くね。これも不明な箇所が多いが、エネリオンを感知・操作出来る以外には大した違いは無いんだ。外見は見ての通り普通の人間と同じだし、DNAだって〇・〇〇二パーセント以下の違いしか見つかっていない。身体・器官・組織・細胞の構造だって違いは無いんだ。強いて言うなら、DNAのほんの少しの違いがトランセンド・マンとしての能力を持っていると考えられているけど、詳しくは今も解明されていない」
「そうか……科学は物事を次々と解決するが、それと同時に疑問を作り出しているようだな」
「同感だね。僕には、科学の研究が最終的に何処へ行き着くなんて想像も付かない……」

 逸れた話を、ハンはここらで戻す事した。

「アダム、僕達反乱軍の事は簡単にアンジュが説明したと言っていた。どの程度の認識だ?」
「……地球管理組織の管理社会化を阻止する、と」
「もう少し深く言えば、僕らが管理社会化を恐れている一番の要因は、人類が精神を失う事だ。管理社会は確かに合理的で安全ではある。でも進歩が全く起こらない。人類は成長し、発展する。それは動物なら必ず生まれ持つ精神に起因している。でも精神は時に人類を滅ぼしかけた事すらある。それを踏まえて管理社会を実現しようとしているんだろうけど……」

 ハンが一旦言葉を切った。少年は取り込まれていた。

「ここからが大事だ。特に人類が持つ精神は人類自身の長所であり、短所である。短所を無くすのは良いが、それと引き換えに人類は長所を失ってしまう。物事は何でも表裏一体だ。二つのどちらかが突出しても欠けも成り立たない。ならば精神を持たない人間は人間と言えるのだろうか」

 少年はきょとんとしていた。その一方で聞き入っていた。

「……これは僕ら反乱軍を生んだ人物の言った言葉だよ。これこそ僕らに人間が人間たる理由だと思うんだ。僕だって人間が人間らしくあるべきには精神が不可欠だと思う。人間として生きる事。そして、弱点から逃げるんじゃなく、向き合う事……これが僕らの目的だと思ってくれ」
「人間として生きる……弱点と向き合う……」

 アダムの意識が現実から遠のいた。

 無機質な白い廊下

 ひたすら走っている。

 逃げたい――だが追われる。

 逆らう――だが鎮圧される。

 ほんの一瞬。

 現実に戻った。その時、アダムはハンの意見を受け入れていた。共感していた。

「大丈夫かい?」

 黙っていたアダムの顔色を窺っていたハンが訊いた。アダムは無言だったが、頷いて肯定を示した。

「アダム・アンダーソン、君に訊きたい。この考えを理解出来るかい?」
「ああ、出来る。受け入れられる」

 揺るぎない断言だ。

「そして頼みたい、アダム・アンダーソン。どうか僕ら反乱軍に加わり、協力してくれるだろうか? その代わり、僕ら自身君の助けにもなるよ」

 ハンは友好的な態度を変えていなかったが、口調は緩やかさが抜け引き締まっていた。

「協力したい……地球管理組織から逃げたかった。何故か覚えている。意思を拒絶した……だが、反乱軍は違う。受け入れてくれている」

 断片的な言葉だが、意志は読み取れる。

(逃げていた……アンジュは廊下に捨てられたように横たわっていたと言っていたが、恐らくこれか)
「……アダム、皆似たようなものだ。誰だって逃げたくなければこんな所には居ない、そういうものさ。それが人間だから」

 少年は黙り込んでいた。それをハンは同調してくれていると見込んだ。

「この先厳しい事は避けられないだろう。それでも僕らに加わってくれるかい? 人間としてね」
「勿論だ」

 ハンが椅子から立ち上がり、アダムに向かって右手を差し出した。アダムも立ち、同じく右手でハンの手を握る。

 アダムの心の半分は晴れていた。しかしもう半分は疑問に曇らせていた。その様子を外側から見る事は出来ない。

(どうして逃げたかったんだ?)



「アダム」

 背中でその声を聞いた。

「戻ってこい」

 どうすれば良い?



 誰もこの疑問には答えてくれない。




















 アダムがハンと共にビルの一室から出て来ると、廊下には見慣れた人物達の姿があった。

「おっ、話済んだか。その調子だと良い事でもあったか」

 一番先にハンの姿を認め、馴れ馴れしく話し掛けた、ボサボサな長い茶髪で体格の良い男性は、隣の少年へ目をやった。

「元気? 俺はリョウ・エドワーズ。なあ、これ食うか?」

 リョウは初対面のアダムにもフレンドリーに話し掛け、手に抱えていた紙の包みの一つを、アダムに有無を言わせる前に手渡した。

「スペアリブ、美味えぞ。特に脂肪が良いんだ。直火だから油が適度に落ちてるし、スパイスや焦げも良い。女のケツみたいなもんだ、大き過ぎても小さ過ぎてもダメで……」

 リョウの語りはここで中断された。背後から、細く綺麗な白い手からのチョップが、リョウの頭を叩いたのだ。

「誰の尻だって?」
「別にお前のとは言ってない。お前はなんでそんなデケえんだよ」

 リョウは後ろから自分を叩いた銀髪長身の女性の体つきを見ながら言い返した。服の上からでも分かる大きさの胸と尻、引き締まったウエスト、そして……

 ガシッ!

「お前は何で何時もそんな事ばかり考える? そうしないと生きていけないのか?」
「おいおい、拳骨はねえだろ、少しは加減しろ。ジョークは生きがいだぜ。呼吸しなきゃ生きていけないのと同じだ」
「かといって初対面の者に冗談、しかも下ネタなんて言うか? ついでにセクハラだぞ」
「生憎ルールとやらに従うのは嫌いでね。そうじゃなきゃ反乱軍なんて入らねえよ」

 口論する二人を呆然と見守るその他。その中の一人の少女がアダムへ寄って来た。

「あの銀髪の人はクラウディアさんだよ。何時もリョウさんとあんな感じなの」
「……」

 少女、アンジュリーナが苦笑気味に説明するが、アダムは目を開いたまま何も言わない。その風景に呆れているのか、それとも違うのかは分からないが。

 喧嘩する二人に黒髪の白人青年が肩を落としながら、気だるい声で仲裁に入った。

「二人ともまたしょうもない事で揉めるなよ。夫婦喧嘩は人前でやらんでくれや」
「誰が夫婦だ!」
「こんな男とセットにするな!」

 ところが冗談を利かせた台詞は、二人を止めるどころか黒髪のラテン系青年をも喧嘩に巻き込んだ。
「あの人がレックスさん。毎回三人はあんな感じだけど……」
「……」

 アンジュリーナが何時もの事のように呆れて言い、アダムはまたも黙っている。

「レックス、本当に毎度ご苦労さんとしか言えないよ……」

 隣でハンの嘆き。そして、目の前の光景を指し、少年へ向けて言う。

「本当はもっと居るけど、他は今の所不在かな。そういやストーン先生やトレバーも居ないな……まあ良いや、改めて紹介しよう。これが反乱軍だ」
「……」

 少年はまだ口を開かない。

 気付けば、口論していた三人は知らぬ間に笑い合っていた。その中には罵倒する言葉もたまに混じっていたが、和やかなムードがそれを凌駕する。

「……大丈夫、私達は必ずアダム君を受け入れるから」

 アンジュリーナが隣から落ち着いた声で言った。アダムは何も返事をしなかったが、少女からは固い表情が幾らか和らいだようにも見えた。

「それより、食えよスペアリブ。ブリトーもあるぞ。俺が全部金出したんだぜ」
「あっ、さっきまで金払いたくないとか言ってたくせに」
「言っとくが、お前が稼げたのは俺が一人でちゃんと仕事してたからだからな」

 リョウが得意げに提案し、クラウディアとレックスが乗っかる。こうして三人の若者は言葉の乱闘を再開した。

 罵倒の掛け合いを気にせず、アダムは言われた通り渡された包みの中の肉を一齧り。

「……美味い」(脂肪が丁度良い。塩やソースやスパイスの味付けも合っている。歯ごたえもあるし……)

 一人味の世界に取り込まれ、連鎖反応の如く肉を食い続けるアダム。

 それを見て一番嬉しそうに微笑んだのは、アンジュリーナだった。
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