寄宿生物カネコ!

月芝

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055 カネコ、夜を駆ける。

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 ブゥロォン、ブロロロロロロ……ギュイ~~~~ン。

 ゴーレム駆動が猛り吠え、夜の草原を突っ走っているのはカネコモービルである。
 ハンドルを握るのはひさしぶりだけど、ちゃんと動く。さすがはワガハイの作ったマシンだけのことはある。
 なんぞと自画自賛しつつ、ワガハイが一路目指していたのはメテオリト大森林の第四層にある古代遺跡だ。

「ったく、我ながら甘々なのにゃあ。でも泣く子と地頭には勝てにゃいんよねえ」

 地頭とは権力者のことである。
 あとワガハイは長いものにはまかれ、大樹の陰にはガッツリ寄りかかるタイプだ。だって、その方が楽ちんだもの。
 カネコモービルを走らせながら、思い浮かべるのはほんの二時間ほど前のこと……

  〇

 不本意な勤労を終え、自分が縄張りにしている公園の砂場に帰ったら先客がいた。
 獣人の幼子が泣きながら砂をザクザク、掻きだしているではないか。まるですべて掘り尽くし、砂場をカラにするかのような勢いにて。
 いったい何が彼をそこまで駆り立てているのか?

 しかし公園は公共の施設でみんなのモノ、大切に遊ばねばならない。乱暴狼藉なんぞはもってのほか。
 ここは夜の公園の帝王にして、立派な大人でもあるワガハイがビシっと注意してやらねば……
 というわけで、毅然とした態度にて「イタズラしちゃダメッ!」と獣人の子どもを叱った。
 すると「うっせー、バーカバーカ!」とめっちゃ砂をかけられた。
 だからワガハイも「バカって言う方がバカにゃん!」とめちゃくちゃ砂をかけ返してやった。

「ぐわはははは、三倍返しにゃん。大人の本気をにゃめんなよ」

 そうしたら子どもは「ウワ~ン」とギャン泣き。
 ワガハイの圧勝である。正義は勝つ!
 しかし間の悪いことに、ここでご近所の主婦たち三人連れが通りかかった。
 主婦たちからはジト目を向けられ「まぁ、いやだわ」「まさか児童虐待」「衛士の詰め所に報せたほうがいいのかしらん」などとヒソヒソヒソ。

 さすがにこれはマズイかもしれない。
 あわてたワガハイは泣く子をなだめすかし、いかにも仲のいい親戚のお兄さんと甥っ子が遊んでいるうちに、ついついヒートアップしちゃった風を装う。
 そのかいあってか主婦たちは通報することなく去っていった。
 無事に窮地を乗り切ったところで、残ったのは「ひっくひっく」としゃっくりをしながら、涙と鼻水で顔をズルズルにしている砂まみれの獣人の子である。

「何があったのか知らにゃいけれど、とっとと家に帰るにゃあ。きっとお母さんが心配しているにゃんよ」
「……母ちゃんはいない。男を作って出てった」

 獣人の子はグシグシ目元を拭いながら、ムスっと言った。
 おっふ、ワガハイってばいきなり地雷を踏んでしまったらしい。
 うぅ、これは気まずい。
 ワガハイは誤魔化すように「あー、だったらお父さんが心配しているかも~」と口にする。
 だが、こちらこそが真の地雷だったらしい。
 泣き止みかけていた獣人の子が、ふたたびポロポロと大粒の涙を零し始めてしまったもので、ワガハイは「しまったにゃん!」
 どうやら複雑な家庭のお子さまだったらしい。

 砂をかけ合った仲、袖すり合うも多少の縁であろう。
 ワガハイは獣人の子に、泣きながら砂場を掘っていたわけを訊ねる。
 すると獣人の子はうつむき、ぽつり。

「父ちゃんが帰ってこない」

 えー、両親そろって育児放棄かよ。
 呆れるワガハイであったが、それは早とちりであった。
 じつはこの子のお父さんってば、例の消息不明になっている偵察隊の隊長さんだったのである。
 冒険者ギルドはもうしばらく静観するようだが、人の口に戸は立てられない。
 この子は現状を知ってしまったようで、やり場のない不安や怒りを砂場にぶつけていたようだ。
 たしかに小さな胸で抱えるには、あまりにも重すぎる。
 でもって聞いてしまった以上は、「へぇ、そうなんだぁ」で済ませるわけにもいかなくて。

「はぁ~、しょうがないにゃんねえ」

 ワガハイはとりあえず獣人の子を連れて、冒険者ギルドへと向かった。
 馴染みの受付のおっさんがまだ居たので、かくかくしかじか。
 事情を説明しがてら子どもを預け、「ちょっくらワガハイが様子を見てくるのにゃあ」

「そりゃあこちらとしては助かるが……本当にいいのか?」
「べつにかまわないのにゃあ。たまにはカネコモービルを走らせてやらないと、なかの小さなゴーレムたちが拗ねるにゃんからねえ。ドライブがてら古代遺跡とやらまでひとっ走りしてくるにゃ」

 かくしてワガハイは特別に城門を開けてもらい、カネコモービルにまたがり夜の世界へと駆け出した。


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