56 / 280
056 カネコ、古代遺跡を探検する。
しおりを挟む受付のおっさんに借りた地図を頼りに最短距離を進む。
街道をはずれ、草原を突っ切り、荒れ地を爆走し、野を越え丘を越え、小川や谷をもぴょんと越え。
進路上に立ちはだかる者あらば、カネコモービルで撥ね散らかし、ときにカネコスラッシュやカネコビームで薙ぎ払う。
ずっとフルスロットル。
燃料となる魔力を惜しみなくガンガン注ぎ込み、マシンの限界に挑戦する。
そのため車体は熱を帯び、ずっとギシギシ軋みっぱなし。
動力部をになっている小さなゴーレムたちは「ぎゃあ~」と悲痛な叫び声をあげるも、ワガハイは耳をぺたんと伏せては聞こえないフリをする。
ショートカットしまくりにて、休憩なしで夜通し走り続けた。
そのかいあって夜が明ける頃には、はや目的地に到着した。
〇
森の奥でもいっとう陰影が濃い。
沼の底のように緑が淀んでいる。
青く、濃密な空気がむせ返るほど。
やや窪地になっている地形のせいであろうか。周辺からこの地へと、樹々が吐き出す何かが垂れ流されているかのよう。
そんな場所に、古代の石の都はひっそりとたたずんでいた。
古代マヤ文明の都市、カラクムル遺跡を彷彿とさせる光景は圧巻のひと言。
いまだに全貌は把握されておらず、いかにもお宝が眠っていそう。
これを前にしてワクワクしないやつは冒険者じゃない。冒険野郎どもが散々に苦労をし危険をおかしてまで、こぞって大森林の第四階層まで足を運ぶのも納得である。
たしかにここは冒険者を名乗るのならば、一度は訪れるべき場所だ。
そして一度でもこのロマンあふれる光景を目にしたら、このワクワクを知ってしまったら、きっともう退屈な日常には戻れないだろう。
植物たちの浸蝕を受けて森になかば呑み込まれているものの、古代遺跡はなおも原型を留めていた。
それを可能にしているのは、用いられている技術だ。
石で組まれた壁や床。おそらくは天然石ではあるまい。コンクリートに近い何かにて作成された人工のブロック。
灰に近いアイボリー色をしており、ブロック同士の結合部のなんと見事なことか。隙間がほとんどなく、かつキレイに加工されている。耐久性については言わずもがな。
ちなみにコンクリートの耐久年数は、ほぼ百年ぐらい。
比べものにならない。
この一点だけでも、古代遺跡の文明がいかに高度であったかがわかるというもの。
表面に積もった土埃を払って触れてみれば、その滑らかな肌触りにワガハイは目を見張る。
「うんにゃ~。森が先か、都市が先かはわかっていないらしいけど、どちらにしろすごいにゃんねえ」
遺跡を前にしてワガハイは感嘆しきりである。
だがしかし――
「でもちょっと……というか、かなりヘンにゃんねえ」
あまりにも静か過ぎるのだ。
いかに夜が明けたとはいえ、ここは第四階層である。有象無象の魔獣やヤバい虫らがゴロゴロいるような場所。
なのに、さっきからしぃんと静まり返っている。羽ばたき音や鳴き声のひとつも聞こえてきやしない。
ワガハイは警戒を強めつつ、左右を石壁に囲まれた一本道を進む。
じきに拓けた所へと出た。
丸くくり抜いたような形をしており、ここから三方へと新たな道がのびている。どうやらここはロータリー交差点に該当する場所のようだ。
「ほうほう、焚き火のあとがあるにゃん。まだ新しい……ということは、偵察隊はここを拠点に探索していたっぽいのにゃあ」
が、荷物もなければ連れてきたはずのヒッポスたちの姿もなし。
でも、目を凝らしてよくよく地面を見てみたら……
「んんん? これは重たい何かを引きずった跡かにゃん?」
それっぽい線がうっすら残っており、三方ある道のうちの一本、おそらくは遺跡の中心部へと繋がっているであろう道の奥へとのびていた。
偵察隊がここで不測の事態に見舞われたのは、まず間違いあるまい。
「う~ん、もしも何かに襲われたとしたら、ふつうは遺跡の出口の方へと向かうにゃんよねえ。
そんな暇もなくあっさり全滅した? とはさすがにちょっと考えられないにゃんねえ。ギルドが派遣した連中は、そんなにヤワじゃないはずなのにゃあ」
ガガスメイヤとの戦い。共闘したベテランのおっさん冒険者は、類人ながらも見事な立ち回りをみせていた。
そのことからして偵察隊の連中があっさり殺られたとはおもえない。
「……逃げたくても逃げられなかった、かにゃん。だとしたら……」
ワガハイは残る二本の道を見比べた。
33
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!
月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。
その数、三十九人。
そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、
ファンタジー、きたーっ!
と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと?
でも安心して下さい。
代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。
他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。
そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。
はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。
授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。
試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ!
本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。
ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。
特別な知識も技能もありゃしない。
おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、
文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。
そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。
異世界Q&A
えっ、魔法の無詠唱?
そんなの当たり前じゃん。
っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念!
えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命?
いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。
異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。
えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート?
あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。
なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。
えっ、ならばチートスキルで無双する?
それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。
神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。
ゲームやアニメとは違うから。
というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。
それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。
一発退場なので、そこんところよろしく。
「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。
こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。
ないない尽くしの異世界転移。
環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。
星クズの勇者の明日はどっちだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる