寄宿生物カネコ!

月芝

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059 カネコ、根をあげる。

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 穴倉暮らしのカネコ。
 おっさん率100%の空間にて。
 これもまた寄宿生活と言えなくもない。
 ……のかは、さておき。

 幸いなことにワガハイにはアイテムボックスがある。いざという時のために、日頃からコツコツ貯め込んだ肉があるので飢えることはない。十人程度であれば、余裕でしばらくの間はまかなえるだろう。
 飲み水は魔法で出せる。
 ついでに体から出したもんは、風と水の魔法で処理をすればいい。
 湿気や水分をとばして乾燥させれば不快なニオイも生じず。さらにワガハイの光魔法を使えば衛生面も問題ナシ。

「……というか、生活魔法のクリーンで例のフェロモンも消せないのかにゃあ?」

 えっ、消せないの。
 とっくにやってみたとのこと。
 だが並みのクリーンでは通用しなくとも、ワガハイの闇クリーン・黒のベトベトさんならばイケそうな気がする。
 だからちょいと試してみた。
 得体の知れない黒いドロドロ物体Xに呑み込まれて、モグモグされるワガハイの姿に偵察隊の一同はドン引きであったが、気にしない。

 で、キレイさっぱりしたところで表に出てみたのだけれども………………ダメでした。
 あいつら、すぐに群がってきやがんの。
 もちろんワガハイはすたこら、隠れ家へと逃げ戻った。
 ネロフォルミガのフェロモン、恐るべし。
 しかもこのフェロモンのやっかいなところは他にもある。
 それは持続時間が不明なこと。
 おっさんたちが体を張って検証実験中だが、三日以上たっても効果は続いている。
 体感的には時間が経過するほどに薄まるどころか、むしろ引き寄せる力が増しているような気がするとのことであった。

「ダメじゃん! というかワガハイ、もうキツイのにゃあ!」

 閉鎖空間に居続けることは多大なストレスを生じる。
 加えてあまりのおっさん率の高さに、ワガハイは早々に根をあげた。

「とりあえず壁の上にあがって脱出するのにゃ」

 遺跡から抜け出せたら都市には向かわず森を逃げ回り、ここより深いところに潜っては適当なヤツにアリンコどもを押しつける。いわゆる『なすりつけ行為』だ。マナー違反だが、なりふりかまってなんていられない。
 すると隊長さんが「悪いことは言わん、ヤメておけ。壁の上にはアレが出るぞ」と言った。

「アレって何にゃん?」
「白いフォルミガ……ビヤンフォルミガだ」

 ビヤンフォルミガはネロフォルミガの上位種。
 ネロフォルミガがまんま黒アリなのに対して、ビヤンフォルミガは羽根の生えた白アリである。パワーやスピードが黒いのとは段ちがい。カマキリみたいな鎌のある第四の腕を持つ。
 こいつが壁の上を見張っており、ひょいと頭でも出そうものならば、たちまち斬っ!
 そんなヤバい首狩りが常時、遺跡の上をブンブン徘徊しているそうな。
 しかも相当な数が。

 この話を聞いて、ワガハイはドキドキ。
 ふぃ~、よかったズルしなくて。
 だが、いよいよ本格的に困ったぞ。
 なにせ地には黒アリ、空には白アリ、数はワラワラ。
 場所は迷路のような遺跡内にて、地の利も敵にあり。しかもフェロモンのせいでこちらの居場所はすぐにバレてしまうときたもんだ。

 ワガハイだけならばカネコモービルで強行突破……は、ムリか。
 すぐに黒アリの死骸で通路を埋め尽くされて、立ち往生する姿が容易に想像できる。
 このままじっとしていたら、じきに冒険者ギルドも動くだろうけど。
 救助されるのを待っていたらミイラになりそう。
 もしくは気が狂うのが先か。
 現状、ジリ貧どころか、けっこう追い詰められているっぽい。

 ウンウン唸りながら、ワガハイが打開策を思案していると……

「じつはまったく策がないわけじゃない」

 隊長さんが地図を取り出し地面に広げた。
 この地図は隊長さんのとっておき、これまでの遺跡探索でコツコツ記録したもの。
 隠し通路やこの部屋のこともばっちり記載されてある。
 フム、なるほど。だから彼らは襲撃をやり過ごし、生き延びることがデキたのか。

 みんなも集まり地図を囲む。
 隊長さんが指差したのは、とある場所。
 そこは巨大な井戸のような竪穴にて、地下へと通じているらしい。
 らしい……というのは、誰もまだ潜って底の様子をちゃんと確かめていないから。
 けど隊長さんは「おそらく、フォルミガの女王・ヴァシーリサフォルミガがいるのはここだ」と言い切った。

 ヴァシーリサフォルミガは図体が大きく、貫禄たっぷりなものの戦闘力はない。女王はひたすら献上された食料をモグモグしては、ポコポコ卵を産むだけ。そして大量に産卵するには広くて安全な場所が必要となる。
 規模や地理的に合致するのは竪穴の奥のみ。
 というのが隊長さんの見解であった。
 女王を倒せば群れは止まる。

 このまま、いつくるかわからない助けを期待して、カメのように首を引っ込めているのか。
 それともみずからの手で血路を切り開き、女王の首を獲るか。

「俺たちだけだと厳しかったが、ツイてることに『ガガスメイヤ殺し』が合流してくれた。いまならやれるとおもうんだが……どうだ、おまえたち?」

 隊長さんの言葉に男たちはさして迷うことなくうなづき、不敵な笑みさえ浮かべた。
 どいつもこいつも根っからの冒険野郎にて。
 ワガハイはそんなタフガイどもにちょっと呆れつつ「やれやれ、しょうがないにゃんねえ。帰ったら全員、一杯ずつおごるにゃんよ」とにやり。


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