寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
60 / 280

060 カネコと冒険野郎ども。

しおりを挟む
 
 入念に準備を整え、一同は隠し通路の扉のところへ集合する。

「いいか、俺の合図で扉を開けたら一斉に飛び出す。そのあとは各自手筈通りに。万が一、脱落することがあったら、無理をせず最寄りの安全地帯にすぐに避難すること。
 全員、ちゃんと地図を頭に叩き込んでいるだろうな?」

 安全地帯とは現在いるような場所のこと。じつは遺跡内にはちらほら似たようなエリアが存在している。
 隊長さんよりしっかり覚えたかと念を押されて、ワガハイ以外のメンバー全員がうなづいた。
 えっ、ワガハイはいいのかって。
 あー、今回の作戦ってばワガハイの機動力が肝なんで。ワガハイは隊長さんの指示に従ってひたすら前を目指すのだ。

 最終確認が済んだところで、いざ出陣!

「サン……ニィ……イチ!」

 カウントダウンが終わるのと同時に、おもいきり開け放たれた扉。
 すかさず通路に飛び出したのはカネコモービルである。車体の脇にしがみつく格好で隊長さんの姿もあった。

 ブゥロォン、ブロロロロロロ……キュイ、キュイ~~ン、ギュギュイ~~~~ン。

 唸りをあげるゴーレム駆動。
 いきなりフルスロットルにて、カネコモービルが爆走を開始する。

 シュルシュルシュルシュル……

 走り出したカネコモービルには蔓で編んだ丈夫なヒモが結び付けられていた。隊員たちがこれに掴まっている。
 偵察隊のメンバーたちの足下には小さな車輪があった。彼らが履いていたのはローラースケート。
 ワガハイがアイデアを出し、地魔法が得意な者と細工が得意な者が協力しせっせと内職してこさえたモノ。スキー板やスノーボードみたいに、ブーツの上からでも着脱できるようにしており小技が光る逸品だ。

 今回の作戦、成功のカギはスピードである。
 敵勢に気づかれ囲まれる前に、どれだけ女王の御座に迫れるか。
 そこでもっとも速度を出せるカネコモービルの出番となった。
 隊長さんはナビ役で、ワガハイが仲間たちを牽引するという次第。

 いささか……いや、かなり無鉄砲な特攻である。
 にもかかわららず、うしろの冒険野郎どもときたら――

「ひゃっほう」
「こいつはいいや」
「楽ちん楽ちん」
「速い速い」
「アハハハハハ」
「風だ。オレたちはいま風になっている」
「楽しいなぁ、これ」
「おもしれぇえぇぇぇ」
「気に入ったぜ!」

 不安定なはずのローラースケートをあっという間に使いこなしたばかりか、絶対にマネしちゃダメ! な相乗り高速移動をものともせずに、キャッキャと楽しんでいやがる。
 斥候職のおっさんたちの身体能力とバランス感覚が半端ない。
 だもんで、ワガハイも遠慮なくブロロンと飛ばしまくる。

「次、右」
「了解にゃ!」

 隊長さんのナビに従い、ワガハイはハンドルを切った。
 一行は最短距離を爆速にて目的地を目指す。

  〇

「ほら、さっそくおいでなさったぜ!」

 と叫んだのは誰であったか。
 言葉通りにて、黒いアリンコどもがワラワラとあらわれた。
 前後だけでなく、左右の壁をも越えて次々と向かってくる。
 ワガハイはひたすら前だけを向き、カネコモービルを走らせることに専念するようにとあらかじめ言われている。だからその指示に従う。正面の邪魔なヤツは轢き殺し、突き進む。
 かたわらでは隊長さんが「シャッ!」と気合い一閃、愛用の武器を振るっては風の刃を飛ばし、敵勢を蹴散らしている。
 隊長さんは曲線のある鉈のような形状の短剣二刀流、いまは片手でのみ振るっているが、それでもかなり強い。

 横合いや後方から群がる敵には、後続の仲間たちが対処する。
 各々、自由が利かない体勢にもかかわらず器用に武器を操っては、黒アリ――ネロフォルミガどもを次々に屠っていく。

 初動はワガハイたちが制した。
 勢いはこちらにある。
 黒アリどもの数は多いが、大部分がこちらの動きについてこれず、置き去りにしている。
 このまま一気に行けるか?
 と、おもわれたが、そう甘くはないらしい。

「上だ! 気をつけろ」

 飛来したのは白アリ――ビヤンフォルミガだ。
 いままでは地上のことは黒アリに任せていたのに、ここにきて介入してきた。
 猛然と滑空してきたとおもったら、狙うはワガハイの首!

「うにゃーっ! めっちゃ斬れそうだにゃあーっ!」

 空飛ぶ首狩りの鎌が迫る。
 こんなことならオープンカータイプじゃなくて、屋根もしっかり作っておくんだったと後悔するもあとの祭り。

「ちぃいぃぃぃ、ヤラセるかよっ、おらっ」

 ギィイィィィン。

 刃同士がぶつかり、鎌の一撃を阻止したのは隊長さん。
 だが、片手なうえに車体にしがみついているがゆえに防ぎきれない。
 ――かとおもわれたのだが、刃が重なった瞬間にふっと力を抜き、白アリの鎌を自分の剣の曲刃を利用して、巧みに受け流す。
 突進の勢いをそがれ、バランスを崩した白アリ。
 すかさずその羽根を貫いたのは、後続の仲間の槍。
 羽根を壊された白アリは体勢を建て直せず、そのまま墜落し地面へと激突、グチャリ。

 これに別の仲間が「あー、もったいねえ。あの鎌、いい武器になりそうなのに」と言えば、また別の仲間が「いい魔晶石も採れそうだったのになぁ」と残念がっている。
 それを耳にして、ワガハイはいまさらながらに冒険者という者たちを理解したような気がした。

「そこ中央、で次は右だ」
「にゃーん」

 頼もしい冒険野郎どもに守られ、カネコモービルはがむしゃらに走り続ける。


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。 その数、三十九人。 そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、 ファンタジー、きたーっ! と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと? でも安心して下さい。 代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。 他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。 そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。 はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。 授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。 試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ! 本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。 ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。 特別な知識も技能もありゃしない。 おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、 文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。 そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。 異世界Q&A えっ、魔法の無詠唱? そんなの当たり前じゃん。 っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念! えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命? いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。 異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。 えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート? あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。 なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。 えっ、ならばチートスキルで無双する? それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。 神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。 ゲームやアニメとは違うから。 というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。 それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。 一発退場なので、そこんところよろしく。 「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。 こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。 ないない尽くしの異世界転移。 環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。 星クズの勇者の明日はどっちだ。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...