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060 カネコと冒険野郎ども。
しおりを挟む入念に準備を整え、一同は隠し通路の扉のところへ集合する。
「いいか、俺の合図で扉を開けたら一斉に飛び出す。そのあとは各自手筈通りに。万が一、脱落することがあったら、無理をせず最寄りの安全地帯にすぐに避難すること。
全員、ちゃんと地図を頭に叩き込んでいるだろうな?」
安全地帯とは現在いるような場所のこと。じつは遺跡内にはちらほら似たようなエリアが存在している。
隊長さんよりしっかり覚えたかと念を押されて、ワガハイ以外のメンバー全員がうなづいた。
えっ、ワガハイはいいのかって。
あー、今回の作戦ってばワガハイの機動力が肝なんで。ワガハイは隊長さんの指示に従ってひたすら前を目指すのだ。
最終確認が済んだところで、いざ出陣!
「サン……ニィ……イチ!」
カウントダウンが終わるのと同時に、おもいきり開け放たれた扉。
すかさず通路に飛び出したのはカネコモービルである。車体の脇にしがみつく格好で隊長さんの姿もあった。
ブゥロォン、ブロロロロロロ……キュイ、キュイ~~ン、ギュギュイ~~~~ン。
唸りをあげるゴーレム駆動。
いきなりフルスロットルにて、カネコモービルが爆走を開始する。
シュルシュルシュルシュル……
走り出したカネコモービルには蔓で編んだ丈夫なヒモが結び付けられていた。隊員たちがこれに掴まっている。
偵察隊のメンバーたちの足下には小さな車輪があった。彼らが履いていたのはローラースケート。
ワガハイがアイデアを出し、地魔法が得意な者と細工が得意な者が協力しせっせと内職してこさえたモノ。スキー板やスノーボードみたいに、ブーツの上からでも着脱できるようにしており小技が光る逸品だ。
今回の作戦、成功のカギはスピードである。
敵勢に気づかれ囲まれる前に、どれだけ女王の御座に迫れるか。
そこでもっとも速度を出せるカネコモービルの出番となった。
隊長さんはナビ役で、ワガハイが仲間たちを牽引するという次第。
いささか……いや、かなり無鉄砲な特攻である。
にもかかわららず、うしろの冒険野郎どもときたら――
「ひゃっほう」
「こいつはいいや」
「楽ちん楽ちん」
「速い速い」
「アハハハハハ」
「風だ。オレたちはいま風になっている」
「楽しいなぁ、これ」
「おもしれぇえぇぇぇ」
「気に入ったぜ!」
不安定なはずのローラースケートをあっという間に使いこなしたばかりか、絶対にマネしちゃダメ! な相乗り高速移動をものともせずに、キャッキャと楽しんでいやがる。
斥候職のおっさんたちの身体能力とバランス感覚が半端ない。
だもんで、ワガハイも遠慮なくブロロンと飛ばしまくる。
「次、右」
「了解にゃ!」
隊長さんのナビに従い、ワガハイはハンドルを切った。
一行は最短距離を爆速にて目的地を目指す。
〇
「ほら、さっそくおいでなさったぜ!」
と叫んだのは誰であったか。
言葉通りにて、黒いアリンコどもがワラワラとあらわれた。
前後だけでなく、左右の壁をも越えて次々と向かってくる。
ワガハイはひたすら前だけを向き、カネコモービルを走らせることに専念するようにとあらかじめ言われている。だからその指示に従う。正面の邪魔なヤツは轢き殺し、突き進む。
かたわらでは隊長さんが「シャッ!」と気合い一閃、愛用の武器を振るっては風の刃を飛ばし、敵勢を蹴散らしている。
隊長さんは曲線のある鉈のような形状の短剣二刀流、いまは片手でのみ振るっているが、それでもかなり強い。
横合いや後方から群がる敵には、後続の仲間たちが対処する。
各々、自由が利かない体勢にもかかわらず器用に武器を操っては、黒アリ――ネロフォルミガどもを次々に屠っていく。
初動はワガハイたちが制した。
勢いはこちらにある。
黒アリどもの数は多いが、大部分がこちらの動きについてこれず、置き去りにしている。
このまま一気に行けるか?
と、おもわれたが、そう甘くはないらしい。
「上だ! 気をつけろ」
飛来したのは白アリ――ビヤンフォルミガだ。
いままでは地上のことは黒アリに任せていたのに、ここにきて介入してきた。
猛然と滑空してきたとおもったら、狙うはワガハイの首!
「うにゃーっ! めっちゃ斬れそうだにゃあーっ!」
空飛ぶ首狩りの鎌が迫る。
こんなことならオープンカータイプじゃなくて、屋根もしっかり作っておくんだったと後悔するもあとの祭り。
「ちぃいぃぃぃ、ヤラセるかよっ、おらっ」
ギィイィィィン。
刃同士がぶつかり、鎌の一撃を阻止したのは隊長さん。
だが、片手なうえに車体にしがみついているがゆえに防ぎきれない。
――かとおもわれたのだが、刃が重なった瞬間にふっと力を抜き、白アリの鎌を自分の剣の曲刃を利用して、巧みに受け流す。
突進の勢いをそがれ、バランスを崩した白アリ。
すかさずその羽根を貫いたのは、後続の仲間の槍。
羽根を壊された白アリは体勢を建て直せず、そのまま墜落し地面へと激突、グチャリ。
これに別の仲間が「あー、もったいねえ。あの鎌、いい武器になりそうなのに」と言えば、また別の仲間が「いい魔晶石も採れそうだったのになぁ」と残念がっている。
それを耳にして、ワガハイはいまさらながらに冒険者という者たちを理解したような気がした。
「そこ中央、で次は右だ」
「にゃーん」
頼もしい冒険野郎どもに守られ、カネコモービルはがむしゃらに走り続ける。
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