寄宿生物カネコ!

月芝

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071 カネコ、パトロールをする。

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 自警団の事務所は、大草原の遊牧民が使うゲルのような大きなテントであった。
 内部はしっかりしており、不自由なく生活できるように工夫がされている。

「にゃにゆえ移動式?」

 とのワガハイの疑問に答えてくれたのは、自警団の団長さん。

「いえね、以前はそれなりの小屋を建てていたんだけど、逆恨みで何度も打ち壊されたり、火をつけられたりするもんだから。いい加減、直すのもめんどうになっちゃって。
 でもこれなら安あがりだし、いざって時には撤去も楽だし、移動先で再利用も可能だからねぇ」

 あー、やっぱり逆恨みとかされちゃうんだ……
 そしていざという時というのは、戦争とかスタンピードに災害などなど。
 外の世界にはいろいろあるのだ。壁一枚を隔てた内と外では雲泥の差。高い入場料は伊達ではない。

 ……にしても物騒な職場である。
 そんな話を、サラっと口にする団長さんは森人とのこと。
 が、当人から言われてワガハイはおもわず「えっ!?」と二度見せずにはいられなかった。

 彫りの深い顔立ち、立派な口ひげ、割れたケツアゴ。
 シュッとした細い体つきの森人が多いなかにあって、この団長さんはムッキムキ。タンクトップのレザースーツに身をつつみ、だいたんに開けた胸元からはモジャモジャが……
 でもって口調から薄々察しているとおもうが、若いツバメが大好きなオネエでもある。

 こってりぎっとり、濃厚な新キャラ登場。
 さすがにもう頭打ちかとおもわれた、ワガハイ近辺のおっさん率がさらに上昇した。この分だとまだまだあがりそう。

「来てくれてうれしいわ~。歓迎するわよ、うふ」

 ケツアゴに薄っすら浮かぶ青髭。
 そいつを撫でながら言われて、ワガハイはスンとなった。

  〇

 さっそくパトロールに出ることになった。
 通常、ふたり一組で警邏しており、本日は初回ということもあり案内がてら団長さんが付き合ってくれるという。

 自警団のお仕事は簡単だ。
 テント街のバザールをぶらつき、露店の店主に「どう?」「問題とか起きてない?」なんぞと親しげに声をかけつつ、ふざけたマネをしている輩がいたら「コラッ!」と怒鳴る。
 もしもそれでもヤメなければ相手の胸倉をつかんで「てめえ、あんま調子乗ってると、ぶっ殺すぞ!」と嗜める。
 それでもダメなら、しょうがない。実力行使にてボコボコにして黙らせる。
 こう言ってはなんだか、やってることは地廻りとそう変わらない。
 ちなみに地廻りとは、盛り場を縄張りにしてはぶらぶらしているならず者のことである。

「まずは見ててちょうだい。ちょっとお手本をみせるわね」

 にこりと笑ってそう言った団長さん。
 老婆が営んでいる露店の店先で「インチキだ、金返せ」と騒いでいる輩のところへと近づいてく。
 で、いきなりボディブローをお見舞いして黙らせた。
 手順をすっ飛ばして、いきなりズドンと。
 問答無用である。荒っぽいのにもほどがある。そりゃあ逆恨みされて事務所に火をつけられるというもの。
 だが団長さんいわく。

「こんなのにいちいちかまっていたら、ここではとてもではないけどやっていけないわよ」

 だからまずは黙らせる。
 細かい話はそれからだ、という次第。
 まぁ、それも一理あるかも。郷に入りては郷に従えだ。それがここの流儀ならば、余所者のワガハイが文句を言えた義理でもないし。
 なんぞとぼんやり考えつつ、何気に見たのは老婆の露店に並ぶ品々。
 使い古されたであろう魔道具がごちゃごちゃしており、どうやらここは中古店のようだ。
 何か掘り出し物とかないかなぁ、とワガハイが何気なく目を凝らすなり、ピコン!
 鑑定が勝手に起動し、視界のすみに結果が表示されたのだけれども……

 ――不良品。
 ――すぐ壊れる。
 ――インチキ。
 ――ニセモノ。
 ――粗悪品。
 ――呪われている。
 ――インチキ。
 ――インチキ。

 ろくでもない鑑定結果ばかりが、ずらずらと。ひとつもまともな商品がありゃしない。

「うにゃあ~」とワガハイ、ドン引き。

 客がブチ切れて怒鳴り込むのも当たり前だ。
 とどのつまり、諸悪の根源は老婆の方! よくよく観察してみたら「ひぃえぇぇ」と怯えているのも、か弱い老人を演じているくさい。とんでもない因業ババアである。
 ワガハイはおずおず、この鑑定結果を団長さんに伝えた。
 すると団長さんは「あら、そうなの」とケロリ。「でもダマされるほうがマヌケなのよ。なのに自分の軽率さと見る目の無さを棚にあげて、お年寄りに乱暴狼藉なんてもってのほかよ」

 ここはそういう場所、授業料を払ったと諦めるしかない。
 そう言われたらワガハイは何も言い返せやしない。
 う~ん、ワガハイってばとんでもない魔窟に足を踏み入れてしまったのかもしれない。


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