寄宿生物カネコ!

月芝

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072 カネコ、カチコミに遭う。

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 ワガハイの自警団でのお勤めは十日間である。
 その間は、壁の外で寝泊りする。いちいち戻ってたら出費がかさむからね。寝床は事務所裏の空き地に土のカマクラを作って自前で確保した。
 団長さんは「あらん、事務所を使ってくれてもいいのよぉん。それともうちにくる?」と言ってくれたけど、なんとなく身の危険を感じたので遠慮した。
 さすがにワガハイはカネコゆえに貞操は無事であろうが、ケツアゴおっさんの抱き枕とかにはされたくない。

 壁の外での暮らしは、おもったよりも快適だ。
 なんといっても物価が安い。同じ金額で串焼きが倍の量も買える。味もいい。ナゾのお肉なのにさえ目をつむれば悪くない。あとは食べ物の屋台が充実しているのも加点ポイントだ。
 マイナスなのはやはり治安の悪さ。
 パトロールに繰り出せば、毎回トラブルに遭遇する。
 たいていはケンカ程度なのだけれども、なかにはシャレにならないケースも数件あった。
 なかでも物騒だったのが、スネに傷を持つ者同士の乱闘騒ぎ。

 この世界にはレジメ板なる魔道具があり、手で触れればたちどころに個人情報を抜かれてしまう。どういった仕組みかはわからないけれど、魂レベルから情報を引き出すそうで、過去の犯罪履歴がばっちりわかってしまう。指名手配をされていたら、名前が赤文字表記になる。特殊な能力持ちでもないかぎりは、まず隠蔽できない。
 レジメ板は城門での入場審査にて使用されている。
 だから、身に覚えのある者は真っ当な手段では壁を越えられない。
 もっともそこはそれ、蛇の道はヘビ。裏技的なものもあるが、当然ながらとっても高くつく。おいそれとは利用できない。
 そこで、そういった連中はレジメ板がない僻地の村や町を拠点にしたり、城壁前のテント街なんぞで用件を済ませる。

 だからテント街にはヤバいのもちょいちょいまぎれ混んでいる。
 よりにもよって、そんなヤバい者同士が人混みのど真ん中で得物を抜いては、大立ち回りを始めたときには、さすがにワガハイもあせった。
 さいわいにも団長さんが部下を引きつれすぐに駆けつけ、当事者らが逃げたことにより事無きを得たが、まったくもって迷惑な話である。

 他には子ども絡みで厭な事件もあった。
 泣いてすがる母親を蹴り倒し、まだ年端もいかない女の子の髪の毛をつかんでは連れて行こうとするバカどもがいた。
 借金のカタに娼館に売っ払うとかなんとか。
 時代劇とかだとお馴染みのシーンだけど、じつはこれって違法。
 このエスカリオ国では、奴隷は禁止されており、人身売買も御法度である。
 よって真っ当な娼館は、ちゃんと行政府より認可を受けて営業しており、女もしくは男らと雇用契約を結んでいるし、相応の住環境も提供している。
 だがここは壁の外、認可を受けていない娼館もあって、そこで……というわけだ。

 もちろん、そんな非道を見過ごすワガハイではない。

「とうっ! 悪党ども、そこまでだにゃん」

 颯爽と登場し、「正義の鉄槌を喰らえ、カネコパ~ンチ」
 悪漢どもを叩きのめしてやった。

「ちくしょう、おぼえてやがれ!」との捨て台詞を残し、負け犬どもは去っていった。

 まとめてふん縛ってやろうとしたのだけれども、各々ちがう方へと駆けては、あっという間に人混みにまぎれて消えてしまった。
 ああいうヤツらにかぎって逃げ足だけは速いから、いやになっちゃう。

 とまぁ、こんなこともありつつ七日目の勤務を終えたワガハイは、そうそうに寝床についたのだけれども……

  〇

 パチパチという音で、ワガハイは目を覚ました。
 ないやら焦げ臭いニオイもする。
 で、何事かと土カマクラから顔をだしたら、事務所がメラメラ燃えていた。

「火事にゃん!」

 えらいこっちゃと外に飛び出せば、炎の向こうから聞こえてきたのは、キンキンという剣戟音。
 見れば燃える事務所をバックに、夜勤の団員らが敵勢と戦っているではないか。
 カチコミだ!

「にゃにゃにゃ! マズイのにゃあ。風が……このままだと他に燃え移るのにゃあ」

 ここはテント街である。
 延焼したらあっという間に一帯が火の海になりかねない。
 自警団の事務所はたまに襲撃を受けるので、隣近所とは少し距離を取っている。すぐには燃え広がらない。
 とはいえ、速やかに消火せねば危うい。
 だからワガハイは水魔法で火を消そうとしたのだけれども、それを邪魔するように飛んできたのは火矢であった。

 ワガハイはぴょんと後退してかわす。
 が、その動きに合わせて矢が軌道を変え、こちらへと向かってくるではないか。

 ――ただの矢じゃない!

 ターゲットを追尾するように細工が施されている。
 そう判断したワガハイは、こしゃくな矢をカネコスラッシュで打ち落とす。
 ふんすか、この程度は造作もない。
 だがしかし、その瞬間――

 キーンという鋭い音がして、ピカッ!

 閃光と煙が発生したもので、ワガハイは「あっ!」
 めまいとともにショック状態に襲われてしまう。どうやらシャフトの部分に、スタングレネードみたいな対人兵器が仕込まれていたらしい。
 不覚にてふらつくワガハイ。
 そこへ聞こえてきたのが「いまだ、殺れっ!」という声であった。


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