寄宿生物カネコ!

月芝

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084 名探偵カネコ、犯人はおまえだ!

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 現場百ぺん――と、サスペンスドラマの帝王が言っていた。
 犯人は現場に戻る――と、サスペンスドラマの女王が言っていた。
 捜査は足で稼ぐもんだ――と、サスペンスドラマの名脇役も言っていた。

 本放送、再放送、再々放送……などなど、視聴した作品は数知れず。
 門前の小僧もなんとやら。
 惜しまれつつも、二時間サスペンスドラマの定期放送枠は消滅してしまったが、そのスピリッツはワガハイのなかにも脈々と受け継がれている。

 名探偵カネコ、華麗に参上。
 そのスーパーな灰色の脳細胞でもって、どんな難事件もたちどころに丸っと解決してみせようとも。

「ふふん、魚ドロボウを突き止め、明日の朝刊の一面をワガハイが飾るのにゃん」

 そうなのだ。じつはこっちの世界にも新聞があったのだ。
 とはいえ、さすがに元の世界のボリュームや規模に比べたらかなり小ぶりにて、せいぜいタウン情報誌みたいなモノだけど。
 それでも都市内での購読率はかなり高い。
 辺境という土地柄、周囲の動向や情報には、みんなつねに注意を払っている。
 取材を受けて掲載されれば、これ以上ない宣伝となろう。
 しかもタダだ。

 これによりますます高まる名声。
 あまりにも高まり過ぎて、ついにはワガハイの活躍をモデルにした『名探偵カネコ、お堀の魚影』が舞台化され、それが大評判となり『名探偵カネコ、迷宮の丁字路』『名探偵カネコ、屋台街の亡霊』と次々にシリーズ化し、いつしかこの舞台が若手俳優の登竜門となるのだ。

 そして主演オーディションにて、審査員のひとりとして参加しているワガハイは、前途有望な若人たちを前にしてこう言うのだ。

「お肉もいいけど、魚もね。青魚のDHAはコレステロールを軽減させるだけでなく、頭もよくなるのにゃあ~」

 そんなワガハイに若手男優たちはキラキラした瞳を向けて「はい、勉強になります」と元気のいい返事をし、若手女優たちは「ワガハイ、素敵! かっこいい!」と瞳にハートマークを浮かべることであろう。

 フムフム、なかなか悪くないのではなかろうか?
 キャラクターグッズ関連では大きく遅れをとったものの、舞台などを中心としたメディア方面ならば、まだまだ挽回できるはず!
 我ながらグッドアイデアである。
 ワガハイは「にゃんにゃん」スキップをしながら、お堀へとやってきた。
 さっそく調査を開始する。

「カネコアイ、発動だにゃん」

 三つのジト目を総動員し、周辺をじ~~と凝視する。
 カネコアイは視野広く、遠近両用にて暗闇でもバッチリ。
 これと同時に鑑定能力も起動し、犯行の痕跡が残されていないかを探る。
 ペカーとブラックライトっぽいのも照射し現場をウロチョロすれば、見た目と気分だけはいっぱしの鑑識だ。

 だが懸命な捜索にもかかわらず、事件解決に繋がるとおぼしき手がかりはどこにも見当たらない。

「う~ん、足跡はいっぱいあるけど、どれが誰のかわからないのにゃあ」

 ずっと中腰にて、地面を眺めていたせいか体が固まった。
 だから「う~ん」と背伸びをしては、腰まわりをほぐしてやりつつ、ふと見上げた先にてワガハイは奇妙なモノを発見した。

「ん? にゃんだあれ」

 ぱっと見には何もないようだけれど、カネコアイにて見てみたら上空に薄っすら網のようなものがかかっている。よほど視力がいいか、意識しないかぎりは見過ごすほどの線の細さは、まるでクモの糸のよう。
 ワガハイがぽかんと空のクモの巣を見上げていたら、たまさか通りがかった漁業関係者が「あー、あれか。あれは結界だ。空からの魔獣の侵入を防ぐためのもんさ。ほら、城壁のところどころに小さな塔が建ってるだろう。あれがそのためのからくりさ」と教えてくれた。

 なるほど、城壁と対空結界で都市は守られていると。
 いろいろと考えられていることに、ワガハイは感心しつつも「んんん?」
 よくよく見てみると違和感のあるところが一ヶ所ある。

「うにゃ? あれってもしかして穴が開いてるのでは……」

 これに驚いたのが、親切な漁業関係者さん。

「えっ! 本当か。だとしたらえらいこっちゃ」

 結界にほころびがあるということは、そこから空の魔獣が出入り自由だということ。
 その証拠に、ほら。

 小さな黒い影がどこからともなくやってきたとおもったら急降下を開始して、穴を通り抜けちゃった。
 影の正体はガラケーというトリの魔獣である。
 見た目はまんまカラスだけど、飛行速度がワシとかタカぐらいもあった。

 ギューンと滑空してきたガラケーは、そのままお堀めがけて一直線。
 で、水面ギリギリのところまで近づくなり、パッと翻っては勢いのままに天高く舞い上がっていく。
 その足にはゲットしたばかりのお魚の姿があった。ぴちぴちぴち。
 真犯人は怪盗ガラケー!


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