寄宿生物カネコ!

月芝

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085 カネコ、やんわり断られる。

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 生活魔法に分類されているクリーンを使えば、一瞬でパパっとキレイになれる。
 うっかり焼肉のタレとかを服につけても大丈夫。すぐにやれば染みにならない。
 たとえ染みになったとしても、熟練したクリーンの使い手、もしくはワガハイの闇のクリーン・黒のベトベトさんを使えばピッカピカ。

 でも、それだけじゃあ生きていけないのがヒトである。
 お風呂で羽をのばし、ビバノンノンしたい。
 それは獣人、類人、竜人、山人、森人、種族の垣根を越えてみな同じ。
 入浴――湯につかるという行為は、この世界において「いいこと」との共通認識にて。
 アニメやマンガなどの異世界ファンタジーモノだと、転生者なり転移者が持ち込むのがお約束だけれども、そうじゃない。これは元からあった文化だ。
 個人差はあれども、なんだかんだでみんなお風呂を楽しんでいる。毎日、もしくは数日おきに街の大浴場へと通っては、心身のリフレッシュをはかっている。

 ちなみに内風呂を所有している家は少数派。
 浴室を持っているのは、お貴族さまとか大商人など、一部のえらい人やお金持ちのみ。
 理由は維持するのに手間と費用がかかるから。あと浴室を設けたら、その分だけ生活スペースが減る。湿気やカビ対策など、換気の問題にもわずらわされる。火の始末やら残り湯の処分、水回りの環境も建築レベルから整えなければいけない。

 それこそ魔法でササッとやれそうだが、そう甘くはない。
 お風呂にお湯を張るには、かなりの量の水を用意しなければならない。浴槽の形状やら体積にもよるが、一般家庭サイズでもだいたい2~300リットルとされている。
 とはいえこれは満杯にまで水を張った状態だから、実際には七割ぐらいの水かさだろう。それでもけっこうな量なのには変わらないけど。
 水を温める火力も必要となる。家族で使うとなれば冷めないようにする工夫もいるだろう。
 入ったらおしまいじゃない。
 掃除もしっかりせねばならない。横着なんぞしようものならば、たちまち黒カビどもの侵略を受ける。
 とくに体の構造上、獣人と竜人はカビと相性が悪いからより注意しなければならない。
 獣人、それもより獣に近いフォルムの者は豊富な体毛ゆえに。
 竜人は全身を覆うウロコゆえに。

 ともあれ、だ。
 こちらの世界の入浴事情について、つらつらと語ってみたが、ようは本日はサービス回というやつだ。
 ワガハイの入浴シーンをノーカットで、たっぷりお贈りする所存。
 地上波のアニメ放送みたいに、光線や湯気でごまかしたりなんていうケチくさいことはしない。
 放送コードがなんぼのもんじゃい! 完全無修正でどど~んとモロ見せ。
 ありとあらゆる角度から、カネコのセクシーショットを心ゆくまで堪能してくれたまえ。

 ――というわけで、やってきました街の公衆浴場。
 ほんのり薫る湯けむり、外観はペットボトルのフタのような丸い建物にて、ちょいとこじゃれたスーパー銭湯といった感じ。
 入り口はひとつだけ、風呂はもちろん男女別である。入浴料は大人で銅貨三枚、子どもだと一枚という破格の安さ。これは疫病防止などの衛生面の観点から、行政府が支援しているがゆえに実現している。
 なにせ都市は壁に囲まれているからね。内部で伝染病が発生したら、どえらいことになるもので。

 番台さんにお金を払い、さっそくなかへと向かおうとするワガハイ。
 だがしかし――

「誠に申し訳ありませんが、お客様はご遠慮いただければと存じます」

 やんわり、入場を拒否された。

「にゃんで!?」
「いえ、その……お客さまのようなタイプはちょっと」

 なにせカネコはアムールトラほどもの図体をしている。
 はたから見れば猛獣だ。しかも似たようなのにシシガシラなる魔獣がいて、いまだにカネコと混同する無知蒙昧(むちもうまい)な輩もいる。
 この国は多民族国家だ。ちゃんと言葉が通じ、意思の疎通がデキる相手には一定の敬意を払い、各種税金さえきちんと納めれば権利を認められている。
 とはいえ、すべてが万全ではない。
 いろんな連中が集っており、いろんな価値観が混在しいるがゆえに、起こることもままある。
 今回のこともまた、そのうちのひとつ。

 ワガハイがガックリしていると、気の毒がった番台さんが「うちはムリですが、あちらなら……」と別の場所を紹介してくれたのだけれども。

「さすがにこれはあんまりだにゃーん」

 そこはヒッポスとかの使役獣専用の洗い場だった。
 ワガハイはきびすを返すと、泣きながら寝床にしている公園へと引き揚げた。
 で、あんまりにも悔しかったものだから、土カマクラを作る要領で、浴槽をちゃちゃっとこしらえて自前で風呂を準備するも。
 いざ、入ろうとしたところで――

 ピピピピピィイィィィィーッ!

 けたたましい警笛音がして「コラーっ」と獣人のお姉さんが怒鳴り込んできた。
 以前に違反切符を切られた、あの婦人警官である。

「ちょっとアナタ、いったい何を考えてるのよ? こんなところでお風呂なんて入っちゃダメでしょう」

 公序良俗に反すると、しこたま怒られた。
 にゃ~ん。


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