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086 カネコ、ビバノンノン。
しおりを挟む壁の中がダメならば、外があるじゃない!
というわけで、ワガハイはいま外へと来ている。
目的はもちろん風呂である。
しかし入浴するだけで銀貨二枚の出費は痛い(※城門を通るには銀貨一枚が必要)。
公衆浴場が使えたら、たったの銅貨三枚なのに……シクシクシク。
「こうなったら、せめて元をとらないとやってられないのにゃあ」
鬱憤を晴らすべく、気合いを入れて自分専用の浴場を魔法でこしらえることにした。
場所は壁の外にあるテント街から、ほどなく離れたところにある小高い丘の上にて。
まず地面をならしてから、その上にドドンと建屋をおっ立てる。
土カマクラならぬ、土ドームだ。
でも、たんにお椀を引っくり返しただけの形では芸がない。
そこでネコ耳をつけて、三つの目を描き、カネコ頭っぽいデザインにしてみた。
「うん、にゃかにゃか良いではないか」
と自画自賛する。
当初は古き良き昭和の銭湯っぽいのを建てようかとおもったけど、いざやりはじめてみると、これがまぁ、とてつもなくめんどうであった。
瓦屋根とかチマチマやってられない。
外観が整えば、いよいよ屋内の作業に着手する。
地魔法にて入念に土をこねこね。カネコが存分に手足をのばせるどころか、バシャバシャ泳げるぐらいの立派な浴槽を目指す。
それってもはやプールじゃね? とのご指摘はごもっとも。
だが、そこはそれ。
たんなる長方形では愛想がないので、いろいろ試して最終的にはひょうたん型にしてみた。
小さな丸の方を浅めに、大きな丸の方を深めにしては、ふたつの間には緩やかな傾斜を設けておく。縁には段々も作った。これでどこからでもあがれるので、うっかり溺れることもないだろう。段差に腰かけのんびり半身浴なども楽しめるはず。
「そうだにゃ! ついでに露天風呂も作っておくかにゃあ」
いかにもな岩風呂のデザインにしておく。
こちらは小さめで、ひとりでしっぽり、優雅に過ごす空間にしておいた。
浴槽の次は洗い場だ。
床には石畳を敷き詰めた。排水についてももちろん配慮する。
鏡はコーティング剤を使って自作する。
たまたまのぞいた金物屋で見つけた補修材なのだが、これがとっても便利。壁や平らな板とかに塗って乾かせば、あら不思議! 表面がピカピカになるのだ。アイデア次第で使い道いろいろ。これで鏡を代用する。
シャワーはぜひとも欲しい。
でも、よくあるシャワーヘッドとフォースの可動式タイプは、カネコには少々使いづらい。なにせこちとら四つ足のネコ手なもので。
魔力そのものをうにょ~んとのばせば扱えないわけではないけれど、ここは固定式でいくことにする。
固定式は壁の高いところ、もしくは天井に大きめのシャワーヘッドを設置して、雨のようにザアザア降らす仕組み。
立ったままで浴びられるし、手が自由になるのでガシガシ体を洗えるのがメリットだ。
脱衣所は……とくにこだわりはない。適当に作っておいた。
こちらはオーソドックスな銭湯のスタイルを模した。
とたんに手を抜いたのは、カネコが服を着ていないからである。
なのに作ったのは、様式を踏襲したにすぎない
かくしてお風呂が完成したところで、浴槽にドバドバ水を注ぎ込み、仕上げに火球を放り込んではいっきに湯を沸かす。
こんな芸当ができるのは魔力量が多いカネコならではである。
〇
「はぁ~~~~~~ビバノンノン。生き返るにゃん」
転生してから初めての入浴に、ワガハイは感無量である。
喜ぶあまり年甲斐もなく「ひゃっほう」とはしゃいで泳いだりもした。
でも、風呂あがりにお湯に浮かぶ抜け毛を目にして、ちょっとへこんだ。
「う~ん、これでは入湯拒否もしょうがないのにゃあ」
いちおう湯舟につかる前にゴシゴシ体を洗ったのだけれども、それでもけっこうな量の毛が……うぅ、このまま流したら排水溝がすぐに詰まりそう。
「あれってヌルヌルして気持ち悪いのにゃあ」
前世、ダンディなナイスガイであった頃も、お風呂場とキッチンの排水溝掃除は苦痛であったものである。
いろいろライフハックとか試してみたけれど、なかなかどうして解決には至らず。
じつに悩ましい問題なのだ。
はてさて、どうしたものやら。
ワガハイが脱衣所で涼みがてらそんなことを考えていると、急に表がガヤガヤと騒がしくなって、「ちょいとお邪魔するわよ~」と入ってきたのは自警団の団長さんだった。
「やっぱりワガハイちゃんだったのね。建物がそっくりだったから、きっとそうだと思ったのよぉ」
くねくね身をよじるケツあごのおっさん。
近隣住人より「丘の上にヘンテコな建物があらわれた」との通報を受けて、パトロールがてら確認しにきたそうな。
あちこち見てまわっている団長さんは、「いいな~、いいな~」としきりにうらやましがっていたもので、ワガハイは「気に入ったのならあげるのにゃん。自警団に進呈するのにゃあ」
もちろん善意だけのことではない。
妙なテンションのままに作ったはいいけれど、一回入ったらワガハイは満足してしまった。
かといって、潰して更地に戻すのもめんどうであるし、せっかくお風呂でさっぱりしたのに余計な汗なんてかきたくない。
残しておけば気が向けばまた利用できる。
が、そうなると管理維持の問題が発生する。
その問題を丸投げするのが、この提案であった。
まずは下心ありきの申し出であった。
「本当にいいの? あとで返せとか言われても返してあげないんだからね」
「もちろん、そんなケチなことは言わないのにゃあ。ただ、たまに使わせてくれたら、それでいいのにゃあ」
飛び跳ねんばかりに喜ぶ団長さんに、ワガハイはしめしめとほくそ笑む。
でも、団長さんはひとしきり喜んでから「あっ、そういえば知ってる?」と思い出したかのように言った。
「ダンジョンが発見されたらしいわよ」
にゃんですと?
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