寄宿生物カネコ!

月芝

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110 カネコの百鬼夜行。

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 ワガハイと女騎士がメンチキを撃破したのに遅れることわずか。
 塞がっていた通路の復旧作業も完了した。
 だから、勇者一行はすぐに脱出を再開しようとしたのだけれども、その時のことである。

 ぺッ、ポコン。

 不意にマヌケな音が鳴った。
 騒乱の場にはあまりにもそぐわない気の抜けた音にて、おもわずワガハイは「へ?」
 みなもきょとんとする。
 でも、そのうち聖女が大きく目を見開き「あ、あれ……」と、わなわな指差したのは天井の方。
 釣られてみんなもそっちを向いたら、目に飛び込んできたのは中央付近が大きくへこんでいる天井の姿であった。

 なんとな~くイヤな予感がしたワガハイたちは、すぐさま壁際に退避する。
 さっきまで殴り合っていた怪獣どもも頭上の異変を察知したらしく、ササッと離れる。
 直後のことである。
 天井がズドンと抜け落ちた、崩落だ。
 それもかつてない規模で、いまいる広間を埋め尽くさんほどの勢いで大量の土砂や瓦礫が降り注ぐ。

「うにゃーっ! このままだと生き埋めだにゃん」
「げっ、さすがにこれはマズイ! とっととずらかるぞ」

 ギルド長に急かされ、ワガハイはカネコモービルを発車する。
 勇者一行はすぐにその場を離れ、地上へと向かった。

  〇

 三、二、一階層にどうにか辿り着く。
 途中、階段が崩れて断絶しており危なかったものの、賢者が機転を利かせて氷の橋をかけてくれたことで乗り切れた。
 あと出口まではもうちょっと……なのだけれども。
 後方をチラっとふり返り、ワガハイは言った。

「にゃあ~、このまま出口に向かったら、かなりマズイことになるのでは?」

 その問いに対して一同は「……」無言である。
 なにがマズイのかって、それは背後からドタドタついてくる大量の魔獣やらダンジョンイーターたちである。

 コアを奪われて弱っているところを、食い散らかされて穴あきだらけにされるは、ドタンバタンと激しく暴れられるはと、散々なダンジョン。
 とっくに死に体にて、そろそろ限界を迎えそう。
 いわば沈む寸前のドロ船である。
 このまま内部に留まっていたら、潰れて死ぬか、生き埋めにされるか、はたまた最期にあらわれるという黒穴に呑み込まれて、異世界に旅立つことになっちゃうかもしれない。
 行先はダンジョンみたいな超生命体が蠢く世界だ。きっとヒロインもモフモフもありはしないだろう。あるとしたら果てなき闘争のみ。
 激ハードモード確定にて、そんなのは絶対にイヤッ!

 と、考えるのはワガハイたちだけではなかったらしい。みんな同じだった。
 だから、我先にと出口に向けて必死に逃げているのだ。その姿はさながら百鬼夜行のごとし。
 もしもこのまま引き連れて脱出したら、スタンピードが発生する。
 でもって、ダンジョンのある台地にはいま、多数の冒険者らや商人などが集まっており、臨時のテント街も広がっているわけで。
 そんなところで大量の湧きが起こったら……ねえ?

「……いちおう、さっき言珠で地上には報せを入れてあるが」

 とは、ギルド長。
 言珠は通信用の魔道具。
 大きさはビー玉ぐらいにて、対となる玉同士で遠距離通信が可能だ。
 ちゃんと冒険者ギルドの出張所に通達済みとのこと。
 そのわりにギルド長が微妙な表情をしているのは、冒険者らが素直に避難勧告に従うとは思っていないから。
 多数の魔獣を引き連れてあらわれるということは、いちいちダンジョン深くに潜らなくても、獲物が向こうからわんさかやってくるということ。
 ピンチをチャンスと考えるポジティブシンキングな冒険者は少なくない。
 辺境で活動しているようなタフな連中は、とくにその傾向が強いのだ。

 ギルド長の予想では「半分ぐらい残ってるんじゃねえかなぁ。あっ、でも日和見連中も入れたら、もうちょっと多いかも」

 けっこうな数だ。
 それなら一致団結してことに当たれば、スタンピードも恐るるに足らず。
 と言いたいところだが、まとまりのない集団なんぞは頼りにならない。
 あと今回の一件、観方をかえたら『性質の悪いなすりつけ行為』と捉えられかねない危険性を孕んでいる。
 これが通常のダンジョンアタックにて起きたことならば、さほど問題視されなかっただろうけど、勇者一行の横槍にてごり押しをした末の結果なのだ。

 もとより不満噴出のところに、なすりつけ行為なんて加わったら、非難轟々となるのは確実であろう。それこそ暴動が起きかねない。
 それでもまだ勇者たちはいいさ。
 都合が悪くなったら自慢の飛行船でさっさと逃げればいいんだもの。
 でも、あとに残されるギルド長とワガハイはどうなる?
 ただでさえ迷惑をこうむっているというのに、勇者一行の尻ぬぐいまでさせられるのなんて真っ平ごめんである。
 というわけで……

「こうなったらしゃーねえ。ダンジョンから脱出したら、すぐさま反転して最大火力で仕掛けるぞ。少しでも数を減らすんだ。おまえたちもしっかりやれよ。じゃないとダンジョンコアは没収して、補償に当てるからな」

 ギルド長から凄まれて、みなコクコクうなづいたところで、いよいよ出口が見えてきた。


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