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111 カネコ、とっておき。
しおりを挟む前方にてぽつんと光る点が、じょじょに大きくなっていく。
ダンジョンの出口だ。
ブワッと頬を打つ向かい風。
流れ込んでくる外気がちょっと生ぬるい。
ラストの直線――
うしろに続くいらぬオマケども。
できるかぎり引き離すべく、ワガハイはアクセルを全開にする。
だが操者の気持ちとは裏腹に速度はたいしてあがらず。
カネコモービルの動力を担っている、小さなゴーレムたちはがんばってくれている。
問題は足回りの方だ。
浅い階層は内部の造りが荒い。そのため床もデコボコ、車体が上下にバウンドしてはちょいちょい浮く。そのときにタイヤがキュルキュル空回り、うまく路面をとらえられないせいで、せっかくの駆動力を十全に活かせていない。
またタイヤそのものもかなり摩耗しており、かつドライブシャフト部分からも「キーキー」「カタカタ」「ギシギシ」と異音がずっと続いている。こちらもそろそろ限界っぽい。衝撃を吸収するサスペンションなんて、とっくにバカになっている。
おもうように走れないことに、ワガハイは歯噛みする。
でも、そんな走行が急に安定したもので、「にゃ?」
風が吹いていた。
ただし前からではなくて真上からだ。まるで暴れる車体をそっと床に押し当てるかのようにして。
――風魔法!
やっていたのは賢者だ。
カネコモービルの不調に気づいた彼女が、さりげなくサポートしてくれた。
おかげでしっかりタイヤが接地面を確保できた。
ゴーレム駆動が唸りをあげて、カネコモービルはギュンと加速しラストスパート!
後続の百鬼夜行をみるみる引き離していく。
〇
ブロロロォオォォォォォーン!
爆音を轟かせながら、カネコモービルがついにダンジョンより躍り出た。
明るい外に目をしばたたかせながらも、ワガハイは急ハンドルを切りながらブレーキをかける。
ぐんと横殴り気味に押し寄せる遠心力。
後輪が白煙をあげては地面を滑る。
ギギギと車体を軋ませながらの急速旋回――スピンターンだ。
これによりカネコモービルはダンジョンの出入り口に対して、正面を向く。
急停車。
ワガハイはすぐさま運転席から飛び降りる。
そんなワガハイよりも少しばかり行動が先んじていたのは、カネコモービルにロープで牽引されていた勇者さまご一行。
カネコモービルの乱暴な運転により、宙に投げ出される形となっていたが、すぐさまくるりと反転しては見事な姿勢制御にて、視線はすでにダンジョン入り口へと殺到している連中をはっしと見据えていた。
それを可能にしていたのは、またもや風魔法である。
賢者による支援だ。風の鎧をまとうことで彼らは空中でも安定していられる。
女騎士が天地をまとめて叩き斬るかのようにして剣を振った。
気合い一閃、これにより生じた巨大な飛ぶ斬撃がダンジョン入り口へと向かっていく。
魔法使いが朱の棍を突き出し高速詠唱、すると先端より炎の龍が出現してはダンジョンの入り口へと突っ込んでいく。
賢者は仲間たちをサポートしつつ、自身も攻撃を放つ。懐から取り出した青色の魔晶石を媒介にして、産み出したのは風の龍であった。
炎と風、二頭の龍は絡まりつつひとつとなりて、互いを高め合いながら進んでいく。
聖女はマリオネットを発動。勇者の四肢に光糸を接続しては、これを操り「聖光爆烈斬」を放つ。
勇者が単体で振るうよりもはるかに高火力! 聖剣の輝きもまた……
ギルド長は地面にウォーハンマーを叩きつけた。
とたんにあらわれたのは、岩造りの重機関銃の銃架のようなシロモノ。
銃座についたギルド長が「くたばりやがれ!」と引き金に指をかけるなり、ダダダダダッ!
凄まじい射出音がして、大量にばら撒かれたのは石の銃弾たち。
張られた弾幕が、出口に殺到してくる連中の行く手を阻む。
ダンジョンのスタンピードを阻止すべく、みな奥の手を出してきた。
ならばワガハイも負けてられない。
「ムムム」と額に意識と魔力を集中しては、カッと第三の目を見開く。
「カネコビーム、フルスロットルバージョンだにゃん!」
シュビビビビビビビビ~~~~~~ン。
放たれし毒々しい色味を帯びた怪光線が、空を切り裂きダンジョン内へと吸い込まれていった。
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