寄宿生物カネコ!

月芝

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122 カネコ、マーケティング戦略を練る。

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 勇者らに付き合ってダンジョンに潜ったり、えらい学者先生とふたりっきりで缶詰したり……
 気づけばこもりっぱなしにて、マスコットキャラクター化計画がすっかりおろそかになっていた。
 ワガハイがそうしている間にも事態は着々と動いている。
 商業ギルドのツバッキーくんは、ギルド関連のイベントにこまめに参加しては愛想を振りまき、女神フロディアを推すアロセラ教団の一派『女神フロディア普及委員会』はシークレットライブを開催しては、歌と踊りとハニートラップにより無垢な若者たちをたぶらかしている。

 現状をかんがみるに、ワガハイはこうにらむ。

「ここにきて支持層が明確に分かれ始めたのにゃん」

 ツバッキーくんは一般と大人向け。
 女神フロディアは大きなお友だち向け。
 では、ワガハイはどうか?
 主婦層からは掃除夫としてわりと人気がある。農家さんからも優秀な害獣駆除人として認知度はグングン上昇中。夜の公園の帝王として、お子さまたちからそれなりに人気がある……はず。

「ギルドの依頼を通じて今後も主婦層に働きかけるとして、問題は若年層にゃんねえ」

 たまにいっしょになって遊んでやっている。
 いじられキャラとしてそれなりに好評だが、仕事の合間に不定期ということもあり、訴求力は弱い。範囲も根城にしている公園を中心とした限定的なもの。
 あと忘れてはならないのが、子どもの移り気だ。あいつらは薄情である。
 よほどがっつり爪痕を残さないと、あっさり見限られる。それは変身ヒーローモノとか魔女っ娘モノとかのアニメや特撮番組が証明している。

 四クール、一年周期で新旧が切り替わるスパン。
 かつてはあれほどキャアキャア言っては夢中になって群がっていたくせに、新しいのが始まるとすぐにそちらへ乗り換える。

「やだやだ、あれ買って~」

 と、泣き喚いてせがんでいたグッズやオモチャには見向きもしなくなり、そちらも新しのを欲しがる。
 すべては番組スポンサーである玩具メーカーの策略なのだが、まんまと踊らされ喰い物にされる子どもたち。そして巷には散財させられる親御さんらの怨嗟の声が満ち充ちて……

 まぁ、それはさておき、ワガハイのことだ。
 完全に出遅れている、このままだと差が広がる一方である。
 そこで身近なところから押さえていこうと考え、ある作戦を実行しようと思い立つ。それは……

  〇

 昼下がりの公園。
 遊ぶ子どもたちで賑わっているところに、カランコロンと鳴ったのはベルの音。

「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。紙芝居がはじまるにゃんよ~」

 これこそがワガハイの作戦である。
 ちなみに紙芝居とは、絵を見せながら演者が語るひとり芝居のようなもの。
 今風でいえば『めくり芸』とか『フリップ芸』の方がわかりやすいか。

 かつて一世を風靡し子どもたちを夢中にした紙芝居。
 紙芝居屋は人気者にて、彼らが公園や神社の境内、町内の空き地などにあらわれたら、たちまち子どもたちにて黒山の人だかりとなったものである。
 そんなかつての人気者も、テレビやマンガにゲームなど娯楽の変遷にともない次第に下火となり、いまや絶滅危惧種である。だがしかし――

 子どもへの絶大な影響力、洗脳力が極めて高いのだ。
 それゆえに戦時中には『国策紙芝居』なるモノも作られ、戦意高揚に活用されていたという黒い歴史を持つ。

 じつはけっこう怖い……かもしれない紙芝居。
 えっ、いまどきのませた子どもは、紙芝居ごときにさして影響を受けたりしないよって?
 たしかにそうだろう。
 でもそれは、ワガハイが人であった世界でのこと。
 元の世界は娯楽にあふれており選び放題であった。それこそ生涯を費やしても、すべてに触れるのは不可能にて、目移りするあまり取捨選択に頭を悩ませるほどだ。
 でもこっちの世界はどうだ?

 剣と魔法のファンタジーな世界。
 転生者などが持ち込んだ知識の影響をそれなりに受けてはいるものの、テレビもなければゲームもない。
 ゆえに耐性は皆無。
 こと娯楽というジャンルにおいては、ずぶの素人といっても過言ではない。
 そこへ紙芝居を投入する。もたらされる破壊力たるや、いかほどであろうか。
 ちょっと想像もつかない。

 ワガハイの考えた作戦は二段仕掛けである。
 まずは紙芝居にて子どもたちのハートをガッチリワシ掴みにする。
 続いて自費出版にて絵本を売り出す。
 なにゆえ絵本なのかといえば、紙芝居制作の延長で作れるからだ。
 覚えてよかった転写の魔法、大活躍である。
 でもって、この絵本もまた子どもへ絶大な影響力を持ち、洗脳力が極めて高かったりする。何度も目を通すことによる刷り込み教育も期待できる。

 こうして内と外から『カネコはかわいい』『カネコは素敵』『カネコはみんなの友だち』『カネコを大切にしよう』などの意識を浸透させるのだ。

 子どもは乾いたスポンジのようにいろんなことを吸収し、あっという間に大きくなる。
 その芯には『ワガハイを尊ぶべし』という考えが刻まれており、やがては『カネコはみんなで守らなきゃ』との想いを強く抱くという遠大かつ壮大なマーケティング戦略。

「にゃははは。ワガハイの未来は明るいのにゃあ」

 ワガハイはルンルンにて、さっそく集まってきた子どもたちに紙芝居を披露した。


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