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124 カネコ、物議をかもす。
しおりを挟む『怪奇! 教会が黒いベトベトさんに覆われて大パニック事件』
『お魚連続窃盗事件、真犯人はおまえだ! の巻』
……に続く三度目の邂逅。
偶然も続けば必然となる。
取り調べ室にて――
机を挟み対峙する取り調べ官と寄宿生物カネコ。
パリッとした制服の襟元を直しながら、取り調べ官がギロリ。
「さすがに今度ばかりは言い逃れはできんぞ」
後ろ足にて首のあたりをゲシゲシ。
気だるそうに掻きながらワガハイは「ふぁ~」とあくびする。
「あ~はいはい。ところで昼飯は何かにゃん。ワガハイ、できれば丼物を所望するのにゃあ。取り調べ室といえば、なんといっても丼にかぎるのにゃん」
これまでの流れならば、お次は思い込みの激しい取り調べ官がトンチンカンな珍推理を披露するのだけれども、今回はちがった。
バンっと机の上に置かれたのは、大判の紙の束。ワガハイの作った紙芝居『カネコの大冒険――立志編――』および製作途中である『カネコの大冒険――激闘編――』だ。しょっ引かれた際に没収されたもの。
だが、これがどうした?
ワガハイがきょとんとしていたら、取り調べ官は紙芝居をめくりながら言った。
「なかなかよくデキている。いかにも子ども受けしそうな内容だ。だがな……これを無許可でおおっぴらにやったのはさすがにマズかったな」
「ん? 紙芝居をするのにいちいち役所に届け出なければいけにゃいのかにゃあ」
「紙芝居が……というよりも、人を集めて何かをする場合には必要だ。それに大勢の思想を誘導することこそが問題なのだ」
「思想を誘導って……そんなの大袈裟だにゃあ。それに似たようなことなら、ツバッキーくんも女神フロディアのところもやっているのにゃあ」
ワガハイが「にゃあにゃあ」文句を言えば、取り調べ官は肩をすくめる。
「商業ギルドはその都度、事前にちゃんとイベントの計画書を届け出て承認を得ている。
アロセラ教団の一派『女神フロディア普及委員会』のシークレットライブとやらは……、あくまで地下でひっそりとだ」
商業ギルドの法務部が味方についているツバッキーくんは、各種手続きをとって合法的に活動をしている。
女神フロディアのシンパの方は極めて限定的ながらも、非合法かつ信仰による侵攻となるので当局も警戒を強めている。
が、敵もさるもの。
こっそりとゲリラ的に活動を続けており、なかなかシッポを掴ませない。畑の害獣であるグリモグばりに地下に潜っては暗躍を続けている。当局とのイタチごっこが続いているのが現状だ。
で、ワガハイなのだが無許可の闇営業を白昼の公園で堂々とやっていた。モロ出しである。
しかもまだ耐性の乏しい子ども相手にという点が、極めて悪質にて。
そりゃあ、さすがに捕まるわ。
という話である。
「ぶっちゃけ、今回の件は上層部の方でかなり物議をかもした。さすがにお咎めなしの無罪放免とはいかんぞ」
「にゃ!?」
「……というか、すでに結論はでている。だからこれは取り調べではない。通達の場なのだ。だから日帰りだし食事もナシだ。茶と菓子もでんぞ。ざんねんだったな」
「にゃ、にゃんだと……そんなご無体にゃあ~」
「そして肝心の今回の件に対する処罰だが、まず紙芝居は没収となる」
「にゃにゃっ!」
「それから今後、紙芝居を続けるつもりならば事前審査を受けること。つまりは検閲の上の許可制だな。もちろん不適切な内容と判断されたら却下される。これは絶対だ」
「にゃにゃにゃっ!」
「さらにいらぬ騒動を起こした罰として、ワガハイには奉仕刑として『下水道の清掃活動』を命じる。なおこれを不服とするのならば代わりに罰金を払うのもアリだが、この場合は金貨百二十枚を納付することになる。以上だ」
「にゃにゃにゃにゃにゃあぁーっ!」
マーケティング戦略の一環として始めた紙芝居。
好評を博し、シメシメとほくそ笑んでいたのも束の間のこと。
当局に拘束されてお叱りを受けたばかりか、罰としてボランティア活動をさせられることになってしまった。
ちなみに寄宿生物のプライドにかけて、身銭を切るという選択はありえない。
にしても、どうしてこうなった?
愕然としているワガハイ。
その耳元で取り調べ官がささやく。
「この紙芝居だがな……じつは似たような物ならばすでに存在している。その上で普及していないということは……まぁ、そういうことだ」
ワガハイはカッと大きく目を見開く。
存在しているのに世間に広まっていないということは、そうなるように働きかけている者がいるということ。
大衆の首根っこを抑え込み、無用な火種があればすかさず踏み消してはあれこれ規制し、社会全体の流れをも統制するほどの力を持つ。
それすなわち……
転生者がいて、転移者もいるこの世界。
いろんな知識や技術が持ち込まれ混在しているなかにあって、わりと簡単に再現できる紙芝居が見当たらなかった理由。
どうやらワガハイは気づかぬうちにトラの尾をムギュッと踏んでいたようである。
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