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130 カネコ、女神に惑わない。
しおりを挟むシークレットライブの真の姿は魔女たちのサバト!
ワガハイがそう看破するのと、ほぼ同時に――
バリバリバリ!
切り裂かれ、破かれたのはステージ上のスクリーン。
裂け目の奥にて、もぞもぞと蠢く巨大な影があり、鋭い眼光がギラリと。
「すわ、まさか本当に二次元から三次元が飛び出すのかにゃあ!?」
ワガハイは身構える。
でも、次に聞こえてきたのは「キャアァァァァーッ!」という悲鳴であった。
声をあげていたのは美姫たちである。
自分たちで散々にあおって呼び出しておいて、何で?
首をかしげるばかりのワガハイをよそに、ステージ上では演者らが泡を喰っては右往左往して逃げ惑っている。
これもまた凝った演出の類かとおもったが、どうもちがうようだ。
正真正銘のハプニングっぽい。
さなかにのそりとあらわれたのは女神さま………………ではなくって、甲羅のあるワニみたいな中型魔獣!
「にゃんだアレ?」
記憶にない魔獣だ。こんなのは冒険者ギルドの大図鑑にも載ってなかった。
すると客席の誰かがぽつりとこう言ったのを、ワガハイは小耳に挟む。
「えっ、あの甲羅と縦長な口って、もしかしてコロコロデイル?」
コロコロデイル。
手の平サイズのトカゲみたいな小動物で、背中に甲羅があるのが特徴。肉食。
ミドリカメ釣りならぬコロコロデイル釣りの屋台は子どもたちに人気。
だが、せっかく釣って帰ってもだいたいすぐ死ぬ。
ごくまれに大きくなる個体もあるらしいが、それでもせいぜい二の腕サイズのはずだけど……
すぐ死ぬはずのコロコロデイル。
面倒をみきれず、無責任な飼い主が下水道に放ったか?
あるいは小さいうちにうっかり迷い込んだのが、たまさか生き残ってスクスク成長したか?
にしたって、いくらなんでもこれは育ちすぎ!
でもってイベント主催者側も完全にイレギュラーな事態だったらしく、パニックに陥った。
ついでに遅まきながら客席の方にも混乱が伝播して、こちらもパニックとなる。
あっちもこっちもワニワニパニック!
コロコロデイルがブゥンとシッポを振る。
そのひと薙ぎにてステージはしっちゃかめっちゃか。
乱入により会場中が蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
それがいっそうコロコロデイルを興奮させては、より暴れさせるという負のスパイラルに突入する。
この緊急事態にイベント主催者側の対応は速かった。
連中ってば、我先にと逃げ出しやがった!
集めた客たちの避難誘導をするでなし、乱入者を食い止めようとするでもなし、高そうな機材をかき集めたとおもったら、一目散にすたこらさっさ。
あまりにも潔い薄情かつ逃げっぷりに、ワガハイもあんぐり。
残された客たちのみならず、コロコロデイルもしばし呆気にとられたほど。
かくしてイベント会場に残されたのは、捕食者と被食者のみとなったところで、コロコロデイルがのそりと向かったのは、もちろん客席の方であった。
なにせヤツってば肉食なもので。
〇
お肉がいっぱい!
女神の信仰に毒されて精神はいささか腐りかけているものの、肉体の方はまだまだ新鮮にて活きがいい。
コロコロデイルは嬉々として食べ放題を満喫しようと、ヨダレだらだら。
ワガハイは逃げ惑う男たちを横目に「はぁ~」と重いタメ息を吐く。
のちのちのことを考えれば、ここで男たちにはコロコロデイルの胃袋に納まってもらうほうが世のため人のためである。
腐ったミカンは早々に処分しないと他まで傷む。
とはいえ、見捨てるのも後味が悪いわけで……
「ったく、しょうがないにゃんねえ。我ながらとんだお人好しだにゃん」
ワガハイはもう一度タメ息をついてから、「ガオーッ」と大口を開けて吠えるコロコロデイルの前に敢然と立ちはだかった。
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