寄宿生物カネコ!

月芝

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185 カネコと真夜中の散歩者。後編

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 ヒュンヒュン、ヒュンヒュンヒュン、ヒュンヒュンヒュンヒュン……

 ひとつがふたつに、ふたつがよっつに。
 倍々に増えていく小型のブーメラン。
 逃げ回っているうちに、ちょっとした小魚の群れのようになっていた。

「うんにゃー、いい加減、しつこいのにゃーっ!」

 とはいえ、ここは貴族の邸宅が集まる高級住宅地のど真ん中。
 カネコビームで一掃するわけにはいかないので、逃げながら魔法で迎撃する。

「火は……火事が怖いからダメ、ここは無難に風でいくにゃん」

 小型のブーメランの群れの進路上に渦巻き状の空気の流れ――旋風を放つ。これにより乱気流が飛行の邪魔をして、あわよくば同士討ちを狙う。
 だがしかし……

 突如として目の前にあらわれた旋風に対して、小型のブーメランの群れは散開してひょいと躱したのである。
 でもって、旋風をやり過ごしたとおもったら今度は各々で、ワガハイを追走し始めた。

「!? 魔力に反応している。だったらカネコスラッシュならどうかにゃ!」

 と、やってみたけれども、こちらもダメであった。ひょいひょい軽快に避ける避ける。
 やたらとフットワークが軽い敵の武器にワガハイは「えー」
 一度ターゲットをロックオンしたら、あとは自動でどこまでも追尾するだけでもやっかいなのに、回避機能まで。数が増えた件については、実際には増えたのではなくて重なっていたのが分離しただけみたいだけど。
 暗殺者の得物があまりにも高性能過ぎる!

「――っ! このままだとせっかくゲットしたサラサラヘアーが刈りこまれてしまうのにゃあ~」

 それはイヤだ。
 だからワガハイは屋根の上から地面へと飛び降り、着地と同時に土魔法を発動する。
 肉球越しに大地に浸透した魔力に呼応して、モコモコと盛り上がった土が形造ったのは、土カマクラならぬ、土ドームだ。
 でも、たんにお椀を引っくり返しただけの形では芸がないので、ネコ耳をつけて、三つの目を描き、カネコ頭っぽいデザインとなっている。ワガハイが野営をするときにはお馴染みのモノにて、これならば瞬時に作成できる。

 ドス、ドスドス、ドスドスドスドス……

 土の壁に次々と突き立つ小型のブーメランたち。
 やっかいな相手への対処にワガハイが思いついたのがコレ。
 闇魔法にて黒のベトベトさんを召喚してもよかったのだけれども、毎度毎度それでは芸がない。
 というわけで、やってみたら存外うまくいった。
 が、「さすがワガハイ!」なんぞと自画自賛している暇はない。
 なぜならこちらがあたふたしているうちに、影の薄い侵入者がふたたび壁に張りついては、お嬢さまの部屋へと向かっていたからである。

 そこでワガハイは水と土魔法の複合技を発動する。怪人八号の騒動のおりにも大活躍した『秘技どろ団子』だ。
 あの時は直径2メートルほどの大玉だったけど、今回は小玉サイズにて。
 これを次々に放っては素早い相手を牽制がてら封殺する。ちょっとでもかすれば、たちまちかたまって壁にくっついて身動きがとれなくなるという寸法だ。

 べちゃり、べちゃり、べちゃり、べちゃべちゃ。

 飛んでくるどろ団子たち。
 スルスル壁を這いまわってはイモリのような動きにて避け続ける侵入者。

 夜陰の下でも映える淡い青色と白色のコントラスト、華やかな外観を誇る屋敷が、みるみるどろだらけになっていく。
 あとで掃除がたいへんそうだけど、それは黒のベトベトさんにお願いするとして――

「これでチェックメイトだにゃん!」

 ビシっと決め台詞。じつは一度、言ってみたかった。
 でも、いざ言ってみたらけっこう恥ずかしかったもので、ワガハイはモジモジしちゃう。
 合図により壁にへばりついていたどろたちが、うにょうにょと動き出しては一斉に侵入者へと襲いかかった。
 これぞ『秘技どろ団子バージョン2』だ。遠隔操作により、どろ団子およびどろそのものをも操っては敵を捕縛する。
 ぐにゃりと変形したどろ団子同士が合体しては、ドームとなって敵を封じ込め、逃げ場を失くしたところで、ギュギュっと。相手をおにぎりの具のように包み込んでしまうのだ。

 さしもの手練れもこれには参ったらしくて、ついにお縄となった。
 ワガハイは「ふぅ」とひと息つく。
 けれども相手の正体を確かめようとしたところで「にゃにゃにゃんと!?」
 捕まえたはずの相手はどこにもいない。代わりに残っていたのは衣類のみ。
 まだどこぞに潜んでいるかもしれないので、念のために周囲を確認してみたが、さすがに撤退したようでホッとするも。

「まさか空蝉の術まで使いこなすとは……マジもんの忍者だにゃあ。老舗のアングラ組織の草、おそるべし」

 しかもそんな危ないのが、普段は何食わぬ顔をしてそこいらを歩いている。
 すぐ身近に潜む脅威にワガハイは戦慄を禁じ得ない。


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