寄宿生物カネコ!

月芝

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218 カネコと老人の旅、二日目。

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 初日に滞在するつもりだった宿が改装中につき、そこの名物料理を喰い損ねたばかりか、街で一番人気のない宿に泊まるハメになったワガハイとえらい学者先生。
 部屋、料理、サービス……すべてがイマイチ、納得のワーストワンっぷりを堪能したもので、翌朝には誰よりも先に出立する。
 ある程度宿から離れたところで「二度と泊まるかボケ!」「とっとと潰れちまえ!」との悪態をつきつつ、ワガハイたちはまだヒトの姿もまばらな門を通って、街の外へと。

 街からちょっと離れたところで、アイテムボックスからカネコモービル・エボルヴを取り出し、乗車。
 ブロン、ブロンとゴーレム駆動の調子を確かめ、問題がなかったので出発進行!

「初日からケチがついたのにゃん」
「まったくじゃ。あれなら野宿の方がマシじゃったな」

 ハンドルをにぎるワガハイはぶつくさ。
 助手席に座るえらい学者先生も憤懣やるかたなしといった様子にて。
 ふたりしてしばらく、あの宿の悪口を言い合いながら走らせる。
 朝靄煙るこの時間帯ならば、まだ街道を渡る者はまばらにて、気にせずアクセルを踏めるのだ。

 ブロロロロ……

 風を切り、後方へと流れていく景色。
 じきに靄も晴れてきて、周囲が明るくなってきた。
 視界も良好にて、前方に人影もなし。
 だからワガハイはいっそうカネコモービル・エボルヴをかっ飛ばす。

「さっさと次へ行って、今度こそ旅の醍醐味を楽しむのにゃあ~」
「おうとも。ならば、この先にある渓谷の橋を渡ってすぐのところに、腕のいい職人を多数抱えた酒の蔵元がおるぞ。寝かせるほどに味がよくなる酒でなぁ。おまえさんはアイテムボックスに余裕があるんじゃから、樽ごと買うがええ」
「ほうほう、寝かせるほどに旨くなるのかにゃあ。だったらアイテムボックス内で熟成を進めたら、いいのにゃあ~」
「おぉ! そんなことが出来るのか? そいつはいい話を聞いた。じゃったら酒樽はワシが買うてやるから、保管を頼む」
「お安い御用だにゃあ。そのかわり……」
「みなまで言うな。わかっておるわい。『タダ酒を飲ませろ』と言うんじゃろ? もちろんじゃとも」
「やったにゃ! タダ酒最高!」

 寄宿生物カネコは、他人の銭で飲み食いすることが大好き。
 おかげでワガハイの機嫌はすっかり良くなった。
 だがしかし、それも長くは続かなかった。
 なぜなら……

  〇

 キキーッ!

 かん高い音を響かせては急ブレーキにて停車する。

「んなっ!?」
「ぬ! なんと、橋が落ちとるではないか」

 渓谷にかかる橋が落ちており、封鎖されていた。
 番をしていた者に「いったい何があった?」とえらい学者先生が訊ねたら「あー、ケラケラの連中のせいだよ。群れで通りかかった時にやられちまった」との返答。

 ケラケラの連中とは、ケラケラノドンの群れのことである。
 ケラケラノドンは、プテラノドンそっくりの魔獣。
 鳴き声がケラケラしており、これがたいそう耳障りにて。
 凶暴で、群れで襲撃してくる。
 雑食で肉は筋ばっており固く臭みもあって、焼こうが煮ようが喰えたものではない。肥料として刻んで畑にまいたら、せっかくの作物が枯れる。
 糞害も迷惑だ。まとめてボタボタ降ってくるのだが、酸性にて放置していたら建物の屋根とかに穴があく。
 素材としても使えず、魔晶石はスズメの涙ほどのクズ石だ。
 いいとこなしの嫌われ者である。

 ケラケラノドンの群れがたまたま通りがかったおりに、ボタボタとやったらしい。
 気づいて橋番の者らが慌てて洗おうとするも、運悪く吊り橋を支える要の箇所が浸蝕されてしまっており、ブツンと……

「というわけで、復旧までにはしばらくかかるぞ。最低でも三日はかかる。急ぐのなら迂回路もあるが、旧道で整備されていないし、治安もあまりよくないから、あんまりオススメはしない」

 橋番の言葉に、ワガハイとえらい学者先生は顔を見合わせ「どうしよう」「はて、どうしたものやら」

 ルートはふたつ。
 渓谷沿いを東に向かって上流域にある別の橋を使うルートと、西に向かって森を抜けた先の下流域から浅瀬を渡るルートと。

「ふーん、どっちが速いのかにゃあ?」
「距離的には西じゃな」

 東のルートだと倍以上、時間がかかるとのこと。
 ならば一択であろう。
 というわけで、ワガハイたちは西の森の方へと向かった。

 ほどなくして森が見えてきた。
 メテオリト大森林に馴れている身からすれば、なんの変哲もないおとなしい森である。
 だからさして用心することもなく踏み込んだのだけれども……

「うっ、急に霧が出てきたのにゃあ」
「これでは速度が出せんな。それどころか下手に動くと迷いかねん」

 カネコモービル・エボルヴならば障害物を気にせずに突き進むことが可能。
 だがここはメテオリト大森林とはちがうのだ。
 国から任命された領主が管理している地。
 当然ながら森もまたその地域の共有財産にて。
 これを勝手に伐採したり、荒らしたりすれば、罰則の対象となる。

 どうしたものかと悩んでいるうちにも、霧はますます濃くなっていき、ついには視界のすべてが白に占有されてしまった。
 身動きが取れなくなったワガハイたちは、霧の中で立ち往生する。

 しかし、捨てる神あれば拾う神あり。

 ワガハイたちが困っていると、ヘッドライトで照らされた木陰の奥からひょっこり姿をあらわしたのは、ひとりの娘さん。
 いかにも純朴な村のカントリーガールといった彼女。「お困りですか?」と親切にも声をかけてきてくれたのである。
 地元の村人と遭遇してラッキーとワガハイはよろこぶ。
 けど、えらい学者先生はしきりに「はて」と小首をかしげては「この森に村なんぞあったかのぉ」とつぶやいていた。

 ワガハイたちは娘さんのご厚意により、霧が晴れるまで村でごやっかいになることにした。


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