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237 カネコと老人の旅、九日目。
しおりを挟むワガハイが身銭を切って購入し、手ずから修理し、特別な魔晶石を与えて復活したパペット型ゴーレム・ナンバー006。
異世界モノのテンプレならば、「問おう、あなたが私の新しいマスターか?」
とか言い出しそうなものなのに……
「さっさと行ってしまったのにゃん」
「いいのぉ。ワシも聖地巡礼したい」
カネコと老人に見送られて、ナンバー006が向かったのはメテオリト大森林である。
第六層にあるサレーオの終の棲家、その裏にある墓参り。
なおえらい学者先生はサレーオ・フリークなのでお墓や家は聖地扱いらしい。
「たとえ命果て朽ちようとも、オレが忠誠を誓い仕えるのはサレーオさまだけだ。今後は墓守でもしながら、のんびり暮らすさ」
とナンバー006。
忠犬ハチ公ならぬ、忠ゴーレムっぷりに、涙腺の弱いえらい学者先生は「うんうん、あっっぱれ! ゴーレムの鑑じゃ」なんぞと感嘆しきりであったが、ワガハイは「なんだかなぁー」
ともあれ、無理矢理に引き留めたとて口達者なので、ベラベラとやかましい。
だからサレーオの隠れ家の座標を教えて、快く送り出してやったという次第である。
しかしよもや、これが後々に世界を揺るがす大騒動の引き金になろうとは、この時のワガハイたちは夢にもおもわなかった。
〇
街道を進むうちに。
北の方にうっすらと見えてきたのは、世界を隔てる壁との異名を持つ、ブランカグア連峰。
遠目には雄壮で美しい。
だが、あそこは何人をも拒む死地にて、前人未踏の領域……
王都への旅もいよいよ大詰め。
カネコモービル・エボルヴの調子もよく、この分ならば日が暮れる前には王都に到着できそうである。
「いろいろあったわりには、実のない旅だったような気がするのにゃあ~」
「たしかにのぉ。
……にしても、おまえさんの魔道車があって助かったわい。馬車だと倍はゆうにかかるからな。ヒッポスを走らせればもう少し速く到着できるが、さすがにこの歳でヒッポスを乗り継いで飛ばすのは、いささか腰と尻にこたえるからのぉ。
その点、このエボルヴは雨風どころか暑さ寒さも関係ないし、なにより快適だから体が疲れんのがいいわい。
ワシも一台欲しいところじゃが、そうなるとゴーレム駆動の燃費の悪さがネックになるから……う~ん」
エボルヴに搭載しているゴーレム駆動は、小さなゴーレムたちがせっせとベルトの上で走ることにより車輪を回している。
ようはルームランナーとかハムスターの回し車のようなモノ。
構造はシンプルにて、原理も簡単。
だから技術的に再現するのは、さしてむずかしくない。
けど惜しむらくは、小さなゴーレムたちを動かし続けるのに、相当量の魔力を注ぎ込み続けなければならないこと。
ワガハイは超生命体であるがゆえに、ありあまる魔力量を保有しているから問題ない。
が、他の下等生物……げふんげふん、失礼……もとい、一般の方々はそうはいかない。
えらい学者先生ほどの実力者でも、せいぜい半日も走らせ続けたら、ガス欠を起こしヘロヘロになってしまうだろう。魔力切れは、魔力酔いを誘発し、こうなるとしばらくはグロッキーとなってしまうのだ。
並みの者では、ろくに動かすこともできまい。
その点、技術大国であるアツァーリ製の魔道車は、いろいろと工夫がされており、一般人でも運転できるようになっているんだと。
ふん、大衆に迎合することで堕落して、性能を著しく低下させているとは、じつに嘆かわしい話である。
〇
この日は特にトラブルもなく、夕方近くに王都へ到着した。
が、城門前にはズラリと行列が……
「すごい列だにゃあ。これ全部、順番待ちかにゃあ~」
「そうじゃ。さすがに王都ともなれば、警戒が厳重じゃからのぉ。あとは少し前に起きた破人騒ぎの影響もあるから、普段よりもより厳密に審査されているせいもあるか」
破人騒ぎとは王妃暗殺未遂事件のことである。
事件の概要はこうだ。
エスカリオ国の王都には貴族の子息子女らが通う全寮制の学園がある。
頼りになる教師陣、確かな実績、充実の設備とカリキュラム、けっこう優秀にて周辺国からも王族や高位貴族の身内が、わざわざ留学にやってくるほど。
そんな学園の卒業記念パーティーの席で事件は起きた。
王弟の息子が祝いの席にて、婚約破棄騒動を起こし現場が大混乱しているどさくさにまぎれて、狙われたのが王妃さまの命。
襲撃者は、王弟のバカ息子をたぶらかした娘にて、その正体がじつは破人だったのだ。
破人どもはヒトの皮をかぶることで、レジメ板すらもあざむく変装をする。
幸いなことに王妃さまは守られて事無きを得たものの、この出来事はエスカリオ国内に激震を走らせたものである。
みんな行儀よく列に並んでいる。
だからワガハイもうしろに並ぼうとしたのだけれども。
「おまえさんはこっちじゃ」
えらい学者先生の指示に従い、行列を横目に先へと進む。
すると城門の脇に、小さな門があって、そちらには誰も並んでいなかった。
「ほれ、王都から送られてきた召喚令状があったじゃろう。それを門番に見せるがよい」
言われるままに提示したら、強面の竜人の衛士にジロリと一瞥され、「どうぞ」とあっさり通された。
どうやらこちらはVIP専用の通用門らしい。
おかげで楽ができたけど……
「みんなの視線が痛かったのにゃん」
「こればっかりはしょうがないとはいえ、いささか居たたまれないのぅ」
列を抜かして先を行く者へと向けられる厳しい目。
特典のオマケとしてたっぷりヘイトを集めて、ワガハイたちはいざ王都へと入場を果たした。
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