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238 カネコ、宵闇の都にあんぐり。
しおりを挟む門前にて順番待ちをしている者たちから向けられる、目、目、目……
非難まじりの視線が痛い。
お尻がむずむずして、根が小市民なワガハイは胃の辺りがチクチクしちゃう。
これに耐えつつVIP専用の通用門を抜ければ、宵闇の王都が待っていた。
辺境のトライミングとはちがう……
おもいのほか整然とした街並みだ。
そこかしこから歴史の重みを感じる。
エスカリオは多民族国家で、いろんな種族のヒトたちが暮らす国。
その中枢だから、もっと雑多な雰囲気なのかとおもいきや、そんなことはなくて、むしろ古都のような風情が漂う。
さすがに王都だけあって賑やかで華がある。スケールも大きい。これと比べたらトライミングがまるで子どものようだ。
けれども、それだけじゃない。
表にこそは出ていないが、堅牢さがベースにあって、ここがたんに人々が寄り集まって暮らす場所じゃないことがうかがえる。
あと意外にも王都を守る外壁が低かった。
まぁ、低いといっても見上げるほどもあって、表面は弧を描くように反り返っており、上へとよじ登ろうとしても登れない造りとなっているけど。いわゆる武者返しというやつと同じだ。
あー、武者返しというのは、下の方はゆるやかで簡単に登れそうに見えるけど、上に向えば向かうほどに反り返りが激しくなり、登ることができない石垣のこと。
高さだけならばトライミングの半分程度だろう。
しかし厚みは倍以上もある。もちろん魔法にて補強がかけられている。
興味本位で、第三の目で鑑定してみた瞬間に、ワガハイは「ぎゃっ!」
いくつもの魔法陣が重ねがけされており、まるで精緻な幾何学模様のよう。あまりの複雑怪奇っぷりに、眺めているだけで目がチカチカしちゃう。
えらい学者先生の解説によれば、この壁の内部には衛士らの詰所やら武器庫などがあり、多数の防衛兵器も内蔵されている。有事の際には壁の上に高火力を誇る砲塔がにょきにょきっと顔を出し迎撃するそうな。
壁それ自体が砦のような役割りを果たす造りになっているんだとか。
そして王都には同様の壁があとふたつあって、それらを越えなければ王城へと辿り着けない。
宵闇の王都。
灯る明かりがまるでイルミネーションのようにて幻想的だ。
背後にそびえるブランカグア連峰ともマッチしている。
近くからでもキレイだが、遠目だとさぞや映えることであろう。
そんな街並みを眺めつつ、ワガハイがこの都に抱いた第一印象は……
「まるで大きな戦艦の甲板みたいだにゃあ~」
外壁、内壁、城壁と三層構造をしている王都内。
壁と壁の幅が広い棚田のような地形。
巨砲らが一斉に顔を出しては、ドンパチする勇姿を思い浮かべれば、合致したイメージが超弩級の戦艦の厳めしい面構えであった。
さすがは王都なだけあって、道幅は充分にあり、左側通行の交通ルールも徹底されている。
カネコモービル・エボルヴで進んでも、さして騒ぎにならないのは似たような魔道車が馬車に混じって、ちらほら走っているからか。
ちなみにこの世界で魔道車はまだまだ高級品であり、一家に一台にはほど遠い普及状況にて。
技術大国であるアツァーリでのみ製造販売されている。
それをわざわざ輸入して乗り回している時点で、持ち主の裕福さについては言わずもがなであろう。
だからであろう。
道行く人々がチラリチラリと好奇や羨望の眼差しを向けてくる。
おそらくは「いったいどこの御大尽が乗っているのかしらん?」とか考えているのにちがいあるまい。
もっとも、いまのワガハイの懐具合は微妙だけどね!
……なんてことを考えつつ、ノロノロ安全運転で進む。
「ところでこのあとはどうするのにゃあ? 時間が時間だから、どこかで一泊してから明日、城へと向かうのかにゃあ」
晩メシ時に押しかけるのは……ねえ。
寄宿生物カネコとしてアリだが、相手が王族にて場所がお城となれば、いかにワガハイとて尻込みする。
いきなり無礼討ちとかはかんべん願いたい。
なのに、えらい学者先生ときたら。
「ん? あぁ、かまわん。このまま城へ向かえ」
先生いわく。
呼びつけた側が客をもてなすのは当然のこと……らしい。
ましてや今回は辺境からわざわざ出向いてきたのだ。
ちっとぐらい失礼があったとて、怒られる筋合いはないとのこと。
「うーん、そんなもんかにゃあ~」
「そんなもんじゃ。おぬしのこれまでの働きや国への貢献度を考えれば、むしろどうして迎えを寄越さなかったのかが疑問なぐらいじゃて。
なんらやましいことがないのじゃから、堂々としておればよい」
えらい学者先生は強気だ。
だがワガハイの中身はただのおっさんである。
肩書や社会的地位というものには、めっぽう弱い。
それこそ黄門さまの印籠のごとく「ははー」とへり下ることもやぶさかではない。
というか、前世と今世を通しても王族とかいう存在と対面することは初めてなので、なんだかいまから緊張してきたかも。
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