寄宿生物カネコ!

月芝

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239 カネコ、王城にあんぐり。

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 やってきました! エスカリオ国の王都へ。
 外壁の向こう側に広がるのは一般都民用の区画にて。
 街並みは整然としているけれども、活気があって盛況なのは辺境の城塞都市と変わらない。
 ただし、規模と人口は辺境の比じゃないけどね。
 あとなにげに坂や階段が多いけど、これはブランカグア連峰の麓にあるせいか。

 お店がたくさん軒を連ねており、見たことのない商品や食材を扱っているところもあって、ちょうど夕食時ということもあってか、旨そうなニオイを漂わせている屋台や飲食店も。
 運転席の窓を開けてスンスンとニオイを嗅げば、ぐぅと腹が鳴る。
 けれどもいまはガマン、ガマン。
 食べ歩きや観光はあとのお楽しみにとっておいて、ワガハイたちは先へと進む。

 じきに第二の壁――内壁へと到達した。
 外観は第一の壁と同じようなものだけど、こちらの方がやや高く、より小綺麗にされており、随所に様式美が顔をのぞかせているのは、この先が貴族などの高位の者らの居住区だからであろう。
 門のところでチェックを受ける。
 この奥は許可なき者は立ち入れない。一般人が立ち入ろうとおもえば、招待をされるか、事前に申し込んで先方と約束を取り付けておく必要がある。
 が、ワガハイには王印が押された召喚令状があるし、えらい学者先生にいたっては顔パスであるので、簡単なやりとりのみで通過したのだが……

「あれ? レジメ板でのチェックがなかったのにゃん」

 豪奢な屋敷が並んでおり、がらりと雰囲気が変わった街並み。
 それを横目に、ワガハイはコテンと小首をかしげた。
 聞いていた話では、王都での出入りはとても厳しくて、要所要所にレジメ板でのチェックポイントが設けられているという話だったのに。
 だが、たったいま通過した内壁のところでは、レジメ板を提示されなかったのである。
 ワガハイが不思議がっていると、えらい学者先生がにやり。

「ふふん、その様子では気づかなかったようじゃのう。知らぬうちに触れておったのじゃよ」
「うにゃ?」
「じつは門の通路の一部が丸ごとレジメ板になっておってな。そこを通れば自然と検査を受ける仕組みになっておるのじゃ」

 異常が検知されたら、通路を抜けたところで衛士隊に囲まれて、別室へと連行されて厳しい詮議を受けるハメになる。
 ようは飛行機の搭乗ゲートに設置されてある金属探知機みたいなタイプ。
 X線検査みたいなのも同時に行われるそうで、馬車や魔道車などに乗ったままでもバッチリ諸々を見透かされてしまうそうな。
 レジメ板はとっても高価だ。
 タブレットサイズでも貴重で、国内でも配備されているのは主要都市のみ。
 そんなシロモノをドーンと使うとは、なんとも贅沢なことである。
 さすがは王都の貴族街へと通じる門なだけのことはある。

 一般街とは打って変わって貴族街はしぃんと静寂に包まれている。
 個々の敷地が広いから、家の中の喧騒や明かりが通りにまで届かないせいだ。
 日が暮れた直後という時刻のこともあり、通りに人影はまばらで、行き交う馬車もほとんどない。
 かとおもえば、やたらとキラキラしており、ガヤガヤと賑わっているお宅もある。
 パーティーでもしているのであろうか?
 ハンドルを握るワガハイはキョロキョロ。
 そうしたら助手席にいるえらいが学者先生が、なにとなしに言った。

「ワシの持ち家もここにあるぞ。王城での用事が済んだら、うちに来るか? とはいっても倉庫代わりに使っているだけじゃから、たいしたもてなしはできんがのぉ」

 王都の貴族街に屋敷を持つ。
 さらりとステイタスを口にする先生だが、よくよく考えてみればなんらおかしな話でもない。
 魔法とサレーオ関連では夢中になるあまり奇行が目立つ爺さまだが、社会的地位はかなり高い。
 貴族の子息子女らがこぞって通う学園の元学長であり、現王さまの元教育係であり、魔法学の権威であり、賢人との呼び声も高く、その教えやアドバイスを貰おうとする者らがこぞって首を垂れてくるような人物なのだ。
 だから王都に屋敷のひとつやふたつ、持っていたとて当たり前といえば当たり前で。

「そういえば先生は家族はいないのかにゃあ? 屋敷にいるのかにゃあ?」
「ん、ワシか。あー、昔は女房がいたが愛想を尽かして出て行ってしまって、それっきりじゃ。子はおらん……はずだ。たぶん」
「――――――」

 ……たぶんって。
 ワガハイは内心呆れ、ジト目を向けずにはいられない。
 まぁ、それはさておき、いよいよ最後の関門である城壁が近づいてきたのだけれども、その向こうに見える城の威容というか異様に、ワガハイはあんぐり。

 ふつう、お城といえばどんなのを想像する?

 たいていが尖塔がたくさんある某夢の国にあるお城みたいなのを想像するよね。
 でもエスカリオ国の王城はちがった。
 背の高い四角い建造物の集合体にて、その姿はまるで大都会のビル群のようであった。


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