寄宿生物カネコ!

月芝

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258 カネコ、釣られる。

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 王都で悪さをしていたシシガシラを退治した。
 ワガハイの活躍は新聞などのメディアで華々しく取り上げられて、一躍、時の人に。
 その知名度と人気は留まるところをしらず、ついには辺境のアイドルから、国を代表するトップアイドルへの道を駆けあがる。

 ……ことにはならない。
 なぜならシシガシラ騒動は市井には伏せられていたからだ。
 王さまからの厳命により緘口令が敷かれており、窃盗被害にあった商業ギルドの方にも「表沙汰にしたら、困るのはそっちだろう? 今回は大目にみてやるから黙ってろ」との脅しならぬ、通達がなされているので、そちらから情報が漏れる心配もない。

 かくして事件は人知れず闇へと葬られた。
 なお捕縛されたシシガシラは国の研究機関に引き取られた。
 生きたサンプルは貴重なんだそうで、今後は呪の研究に役立てるんだと。

 これでいちおうは一件落着なのだけれども、ナゾがひとつ残った。
 それはシシガシラがどこから王都へ入り込んだのかということ。
 王都は高い三重の壁と、ブランカグア連峰という天然の要害にて守られている。ヒトの出入りにもつねに目を光らせている。
 魔獣のタマゴぐらいならば誤魔化して持ち込むことも可能だが、シシガシラほどのサイズとなれば、そうはいかない。
 どこかに穴が開いていて、勝手に入り込んだのならば問題だし、もしも誰かが手引きをして意図的に持ち込んだとすれば大問題である。

 もっとも疑われるのは破人どもの関与だが、決めつけるのは早計だ。もしかしたら獅子身中の虫が潜んでいるのかもしれない。
 ゆえに侵入経路については、今後も秘密裏に捜査が続けられるという。

  〇

 濡れ衣が晴れたワガハイ、とたんにすることがなくなった。
 オークションの方は予定通り開催されるそうだけど、メインはワガハイが持ち込んだ月関連の品々にて、ワガハイ自身の付き添いは不要だ。
 落札されたら書類にサインをするだけである。
 だから、べつに参加する必要はない。
 ちょっと興味があったけど、えらい学者先生から「どうにも悪目立ちしそうじゃのう」といわれて、「う~ん、それもそうにゃんねえ」

 なにせワガハイときたら、アムールトラばりの大きさの上に、少々個性的な容姿にて。
 隠しきれぬ魅力とオーラ、カリスマ性、どう取り繕うとも自然と周囲の耳目を集めてしまう。
 今回のオークションには国内外からいろんな連中が参加するという。
 アツァーリの王さまのように、ワガハイそのものに興味を示す者もいるだろう。
 みなが彼のように最低限の礼節をわきまえてくれていればいいが、元老院の聴聞会の一件もある……なかには強行な手段をとる阿呆もいないとはかぎらない。

 だからオークションは運営におまかせして、ワガハイは不参加で。
 しばらくはえらい学者先生の屋敷にごやっかいになって、王都観光でもしてのんびり過ごすことに決めたのだけれども。
 どうやら天はワガハイに安らぎを与えるつもりはないらしい。
 それはワガハイが目星をつけた屋台にて、ドーナツっぽいのを買い食いしていた時のことであった。

  〇

 じーっ……

 ねっとりとからみつくような視線を感じたもので、ワガハイは「ハッ」
 気配を察し、ふり返る。
 すると視線の主と目があった。
 誰かとおもえば、小さな男の子であった。
 みすぼらしいとまではいわないが、質素な服装にて、あまり余裕のあるご家庭の子ではなさそう。
 どうやらワガハイが持つドーナツっぽいのに興味津々のようだ。

「う~ん、これはいささか食べづらいのにゃあ」

 小さな子どもに見せびらかしながら「ア~ン、もぐもぐ」と楽しめるほど、ワガハイは性悪ではない。
 そこでチョイチョイと手招きをして「いまワガハイは宿敵をぶちのめして、とっても機嫌がいいから、特別におごってやるのにゃあ~」

 呼びかけに応じ、トコトコと男の子が駆け寄ってきた。
 とおもったら、その背後の路地からぞろぞろと子どもたちが列をなしてあらわれた!
 てっきりひとりかとおもいきや、うしろに十人ばかり控えていたのだ!

 小さい男の子は、いわばルアーのようなもの。
 ほだされてうっかり手を差し伸べれば、たちまちヒーット!
 釣り上げられてしまうという仕掛けであったのだ。

「げっ、しまったのにゃん!」

 後悔するもあとの祭り。
 屋台のオヤジがクツクツ肩を震わしている。
 どうやらこれがガキどものいつもの手口のようだ。

(こんにゃろう、どう転んでも自分の損にはならないから黙っていやがったな)

 屋台のオヤジもまたしたたかにて。これが大都会の洗礼というやつか。
 ワガハイは「はぁ」と嘆息する。
 やられた。これではひとりだけにおごるわけにはいかない。

「すっかりしてやられたのにゃあ~。さすがは大都会、抜け目がないのにゃあ。まぁ、勉強代とおもって諦めるのにゃん」

 そうしたらルアー役だった男の子が指を二本立てて言った。

「孤児院にまだ仲間がいるから、ひとり二個ずつでお願いします」


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