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257 カネコ、打ちのめす。
しおりを挟む肩にシシガシラを乗せたジャイアントドクロの攻撃。
腕が乱雑に振り下ろされる。
動きは緩慢にて、余裕でひょいとかわせる。
だがしかし――
ドゴォオォォォォーン!
握りこぶしが打ち下ろされた箇所が爆ぜて、クレーターが発生した。
鈍重だけど威力が半端ない!
爆風と砂煙に呑まれてワガハイは「ペッ、ペッ、ペッ、うー、口の中がジャリジャリするにゃん」
えらい学者先生も「ゲホゲホ」と咳き込む。仮面の令嬢は……取り出した扇をサッと広げて顔を庇ったもので無事だったけど、ドレスが埃まみれにされて、ちょっとムッとしている。
ジャイアントドクロの動きはややぎこちない。
おそらくだが、自分の体を持て余しているのと、司令塔であるシシガシラが上手く操れていないせいだ。
けれどもそれも時間の問題であろう。
ゆえに猶予を与えるべきではない。
ワガハイたちは無言のままうなづき合うと、各々攻撃へと移る。
土魔法を発動! えらい学者先生が岩の塊を弾丸のように飛ばしては、シシガシラを直接狙う。
しかしそれは寸前でジャイアントドクロの手により防がれた。
が、これは引っ掛けである。
連中の注意が上へと向かっているうちに、足下へと近づいたのは仮面の令嬢だ。
「シュッ!」
気合い一閃、死神の鎌のようなローキックが、ジャイアントドクロの左足はアキレス腱のあたりを蹴り抜く。
溜めと腰の入った本気の蹴りが、腓骨(ひこつ)および脛骨(けいこつ)を半ばまで粉砕する。
これによりジャイアントドクロの身が大きく傾ぐ。大きな体を支え切れなくなったのだ。ビキビキと厭な音が続く。自重により被害が拡大し、ついには木が切り倒されるがごとくボキリといった。
とんだ見かけ倒し――ではない。その証拠に先生の魔法をジャイアントドクロは防いでいる。骨密度はかなり高い。
それすなわち、仮面の令嬢の蹴りがそれだけえげつないということ。
彼女との婚約を破棄した王弟の息子の気持ちが、いまならばちょっぴりわかる。ケンカのたびにこれで尻を蹴飛ばされるのを想像するだけで、ゾッとするもの。
前に倒れてジャイアントドクロは四つん這いの格好となった。
必然的に上半身が地面に近づき、これにより肩にいるシシガシラの姿もこちらから丸見えとなったところでワガハイの出番だ。
地面に手をついている腕を伝って、いっきに駆け上がり――
「カネコラッシュだにゃん!」
説明しよう。
カネコラッシュとは、カネコパンチで対象をオラオラとタコ殴りにする技である。
精確さよりも手数で勝負! いっきに敵をボコる乱打だ。
では、この局面で、どうしてワガハイがこの技を選択したのか?
それは単純に、コイツだけは一発殴っておかないと、どうしてもワガハイの気がすまなかったからである。
散々に飲まされてきた煮え湯。
ここいらで清算しておかないと、いい加減にお腹がちゃぷちゃぷだ。
とどのつまりは私怨である。
右のストレートはかわされた。
続く左のフックはシシガシラの頬をかすめるも、やはり当たらず。
だが、これらはわざと大振りにて、あえてヤツに見せるために放ったもの。
シシガシラがこれならどうにか避けられる。
と、油断したところでズドンと右脇腹にめり込んだのは、ボディへの強烈な一撃。
肝臓を狙ったレバーブロー。
ここに一発喰らうと悶絶必至! 地獄の苦しみがどっと押し寄せることになる。
「ぐえっ」
端整な顔を歪ませるシシガシラ。
痛みのあまり体が硬直し動きが完全に止まった。
そこをワガハイは「オラオラオラオラ」
シシガシラをロープ際ならぬ、ジャイアントドクロの側頭部際へと追い込み、怒涛のラッシュ攻撃。
たまらずヤツは呪言を放って逃れようと悪あがきをするも、それを許すワガハイではない。
口に手を突っ込んで、奥歯をガタガタいわし、さらにはノドちんこをギュッギュッと絞ってやった。
恨みのこもった拳が炸裂し、シシガシラは完全にノックアウト!
これにて勝負アリ。
シシガシラが意識を失ったところで、呪言が解けたのか、ジャイアントドクロもボロボロと崩れていく
ワガハイはガッツポーズにて「エイドリアーン!」と勝利の雄叫びをあげた。
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