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261 カネコ、シケメンを見た!
しおりを挟むえらい学者先生のところに遣いをやって事情を報せておき、ワガハイは孤児院の敷地の片隅にてカネコドームを建てて寄宿する。
えっ、孤児院の建屋で寝泊りしないの?
あー、ムリ。
だって強度不足にて床が抜けちゃうもの。
うっかりよろけて壁に当たったら大穴とか開けちゃいそうだし。
それに子どもたちの抱き枕にされるのもちょっと……
で、最初の夜からいきなり動きがあった。
静まり返った夜更けのことである。
ドスン!
という物音に続いて「ぎゃーっ!」という悲鳴が聞こえてきたもので、ワガハイはむくりと起きた。
カエルが潰れたような声がしたのは門の方だ。
「くかぁ」
大あくびにて、眠いを目をこすりつつ様子を見に行けば、門前にて地面にめり込んでいる不審者を発見した。
白目をむいてヒクヒクしている男を見下ろし、ワガハイは「念のために罠を仕掛けておいて正解だったのにゃあ」
そうなのだ。
防犯対策の一環として、勝手に門を乗り越えて敷地内に入ろうとする者あらば、すかさずペシンと叩き落とす、ゴーレムの腕を設置しておいたのである。
ちなみに腕のデザインは招きネコタイプだ。
侵入者があらわれたら、「にゃーっ」
激烈なお手アタックをお見舞いするようになっている。
捕まえた男の顔を確認するが、昼間の連中ではなかった。
一味の者か、雇われた者か。
「さて、こいつをどうするかにゃあ。尋問して目的や背後関係を吐かせるべきにゃんだろうけど、めんどうだにゃあ。とりあえず拘束しておいて、朝になったら衛士隊に引き渡すかにゃあ」
というわけでワガハイは魔法を発動する。
地と水魔法の合体技『秘技どろ団子』に封じ込めて、ついでに猿轡もかませておく。
見せしめとして門前にそのまま飾っておき「やれやれ」
ひと仕事終えたワガハイは寝床へと戻った。
〇
寄宿生活二日目。
朝になった。
昨夜の侵入者がどうなったのか確認しに行くと、どろ団子が消えていた。
転がしていった跡が地面に残っている。アレに囚われたら自力では動けないので、おそらく仲間が引き取ったのだろう。
見捨てたり、口封じをしなかったところからして、じつは意外と仲間想いだったりするのかしらん?
午前中――
ワガハイは孤児院の敷地内にある空きスペースに遊具を設置していく。
いつも寝泊りしている公園でもやっているので、地魔法でちょちょいのちょいである。
では、どうしてそんなことをしているのかといえば「子どもたちのため……」ではない。
すべてはワガハイ自身の平穏のためである。
やたらとワガハイに群がり、かまいたがる子どもたち。
まともに相手をしていたら消耗が著しく、こちらの身がもたない。ベタベタ触られたり、毛をブチブチむしられるのもイヤだ!
そこで遊具の出番となる。
子どもたちの注意をそちらに向けることで、ワガハイは助かるといった算段にて。
目論み通り、子どもたちは滑り台やジャングルジムに夢中となる。
おかげでワガハイは人心地がつけたのだけれども、そのタイミングで孤児院に馬車がやってきた。
いかにも貴族の乗り物ですといわんばかりに豪奢な造り。
とたんに子どもたちの歓声が止み、妙な緊張感が生じる。
和気あいあいとしていた空気が一変した。
どうやら招かれざる客のようである。
馭者(ぎょしゃ)が馬車の扉を開ける。
中から悠然と降りてきたのは、やたらとキラキラしている金髪の青年である。
ぱっと身には洗練された貴族の貴公子っぽい。
けど……
「いかにもイケメン風を装っているけど、よくよくみたら雰囲気だけのシケメンだにゃん」
部屋干しにて湿気った洗濯物っぽい面構えや佇まい。
そこはかとなく漂う、拭いきれぬ残念さ。
なにかいろいろとムリをしており、それがいささか……いや、かなり鼻につき、いまひとつテンションがあがらない。
そんなシケシケなメンズゆえに、シケメン。
ワガハイが率直な感想を口にすれば、これを耳にした子どもたちが一斉に「ぶふっ」と吹き出した。
でもって、このシケメンこそが修道女さんに言い寄っている、勘違い迷惑野郎であった。
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