寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
262 / 280

262 カネコ、奸計を防ぐ。

しおりを挟む
 
 昨日の今日で、臆面もなく孤児院に顔を出したシケメン。
 キラキラの馬車で乗りつけてきたところを、ワガハイは子どもたちと物陰から様子を見ている。

「手下らの暴走は自分の預かり知らぬところである」

 との主張。
 もしくは「いたらぬ部下たちが迷惑をかけてもうしわけなかった」と謝るフリをして近づいては、「今後はこのようなことは二度と……もし、何かあったら遠慮なく自分を頼って欲しい」とかなんとか言っちゃったりして。

「けっして本意ではなかった」

 とのたまい、誠実なフリをして自分は貴女の味方ですよアピール……とか?
 手下をけしかけておいて、自分で手を差し伸べる。
 ようは自作自演だ。底の浅い企みにて、三文芝居にもほどがある。
 けれど。

「いやいやいや、さすがにそこまでツラの皮は厚くないはずだにゃあ~。もしワガハイだったら、とても恥ずかしくて人前に出られないのにゃん」
「「「「――――――」」」」

 ワガハイは「ハハハ、まさかねえ」と笑うも、子どもたちはスンと無言にて。
 どうやら子どもたちの認識では、あのシケメンはそれぐらいのことならば、平然とやりかねない輩ということらしい。
 そこでワガハイは「ちょっと心配だから様子を見てくるのにゃあ」と言って、カネコインビジブルを発動する。

 カネコインビジブルとは、カネコの豊富な魔力を惜しげもなく全身の毛に注ぎ込み、ビビビと震わせることにより、生じる光学迷彩のことである。カネコの数ある特殊能力のうちのひとつだ。
 とはいえSF作品に登場するようなカッコいいのではなくて、カメレオンやタコが保護色を変えて擬態し、周囲の景色に溶け込むようなモノ。
 しかしこれに隠形の技が組み合わされば、素人の目ぐらいならば誤魔化せちゃう。

 ワガハイの姿がにじんでぼやけ、たちまち周囲に溶けて消えたもので、子どもたちが「えっ、えぇーっ!」「消えちゃった!?」「うそっ!」とざわつく。
 それにほくそ笑みつつワガハイは素早く移動する。
 シケメンが案内された客室へと向かった。

  〇

 腐ってもシケメンは貴族である。
 だから、どれだけ迷惑だろうとも門前払いにはできない。いちおう客室には通す。薄い茶も出す。
 しかしこのシケメン、じつはやっかいなことにただの貴族ではなかった。
 よりにもよって、コイツは王都内の孤児院の運営を総括する立場にあるえらい人の身内だったりする。
 親のコネで現在の部署につき、実家の権威と父親の身分を笠に着てはふんぞり返り、裏でコソコソ悪さをしているのだ。

 ワガハイは建物内には入らず、外から客室の窓辺へと近づき、こそっと中の様子を盗み見る。
 もしもシケメンが修道女さんに不埒なマネを働こうものならば、すぐさま飛び込んでけちょんけちょんにしてやる所存にて。
 耳をピンとそば立ててはカネコイヤーを発動し、室内の音を拾う。
 すると聞こえてきたのは、こんな会話であった。

「昨夜はたいへんでしたねえ。さぞ怖かったことでしょう」とシケメン。

 何のことかわからない修道女さんは、きょとんとしつつも「はぁ」と気のない返事。
 するとそれには気づかずにシケメンは続けてこう言った。

「それにしてもドロボウもひどいことをする。よりにもよって子どもたちの生活費に手をつけるだなんて。まったくもって許せませんな」
「ドロボウ? 生活費? ???」

 さも、心配して義憤にかられているかのよう。シケメンは身振り手振りにてオーバーな仕草にて。
 だが熱弁を振るわれている修道女さんの方はチンプンカンプンだ。その顔にはありありと戸惑いが浮かんでいる。
 うーん、ふたりの会話がまるでかみ合っていない。
 けれども盗み聞きをしていたワガハイはすぐにピンときた。

「はは~ん、そういうことだったにゃんねえ」

 昨夜、孤児院に忍び込もうとしていた不審者を拘束したことについて。
 ワガハイは誰にも言ってない。いたずらに怖がらせることもないだろうとの配慮……からではなくて、たんに忘れていただけだ。
 ゆえに修道女さんは昨夜のことを何も知らない。
 なのにシケメンはそのことを知っていたばかりか、孤児院がドロボウの被害に合った前提にてベラベラと話をしている。
 これすなわちヤツが仕組んだとい証左だ。

 おおかた孤児院を困らせて、貸しを作って、高い利子をせしめようとの魂胆であろう。
 担保はもちろん修道女さんの身柄である。
 優しい彼女のことだ。「私さえガマンすれば」とか言い出しそうだし。それを見越しての奸計なのだろうけど……

「残念ながら、その企みはすでに破られているのにゃあ」

 なのにノコノコと孤児院に顔を出しては、得意気に演説ぶっているところからして、雇った側と雇われた側の間で、情報の伝達に齟齬が生じているっぽい。
 もっともそれにもワガハイが一枚噛んでいる。
 けっして意図したわけではなないけれど。

 捕まえて放置してあった賊は、仲間が回収したのか、朝になったらいなくなっていた。
 しかしワガハイの『秘技どろ団子』は、そんじょそこらの団子とはひと味ちがう。
 ムリに剥がして中身を取り出そうとしたら、たちまちボンッ!
 粘性のある泥が飛び散り、周囲にいた連中を一網打尽にしちゃうのだ。
 おそらく今頃、賊らはどこぞのアジトにて泥まみれになって、身動きを封じられていることであろう。
 それゆえに雇い主のところに失敗の報告が伝わらなかったのだ。
 いやはや、悪い事はできないものである。
 にゃっしっしっ。

「おっと、そろそろあのトンマも様子がおかしいことに気がついたっぽいのにゃあ」

 室内の方にも動きがあった。
 急に冷や汗たらたら、焦り出したシケメンが「あー、そういえば用事があったんだぁ」とかわざとらしいことを言っては腰を浮かす。
 見送ろうとする修道女さんを断っては、そそくさと退散していく。
 さすがに鈍いシケメンも、彼女の反応から計画が不首尾に終わったことを察したのであろう。

 逃げ帰ったシケメン。
 ワガハイはそのまま馬車を追跡する。
 ついでに孤児院の予算が着服されている件について、調べる所存である。


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。 その数、三十九人。 そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、 ファンタジー、きたーっ! と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと? でも安心して下さい。 代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。 他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。 そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。 はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。 授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。 試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ! 本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。 ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。 特別な知識も技能もありゃしない。 おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、 文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。 そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。 異世界Q&A えっ、魔法の無詠唱? そんなの当たり前じゃん。 っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念! えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命? いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。 異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。 えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート? あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。 なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。 えっ、ならばチートスキルで無双する? それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。 神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。 ゲームやアニメとは違うから。 というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。 それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。 一発退場なので、そこんところよろしく。 「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。 こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。 ないない尽くしの異世界転移。 環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。 星クズの勇者の明日はどっちだ。

処理中です...