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268 カネコと弾頭ゴーレム。
しおりを挟む城塞都市トライミングには、堅牢かつ高い壁と対空防御結界がある。
だか砲撃はその壁を粉砕し、結界をも破って都市内へと侵入していた。
けれどもその場面を目撃し、ワガハイは「はぁ!?」
勢いと破壊力にまかせて押し通っているのかとおもいきや、さにあらず。
それはワガハイが衛士隊の詰所から抜け出した直後のことである。
ドンッ!
との衝突音が頭上でしたもので、おもわず「うにゃっ」と首をすぼめたのだけれども……続くはずの爆発は起きず。
「あれ? 不発なのかにゃあ」
恐るおそる音がした方へと顔を向けてみれば、そこにあったのは――
ギュルギュルギュルギュルルル……
結界の表面に張り付いては、高速回転している物体であった。
ずんぐりむっくりとした弾頭が、ドリルのように回っては、結界に穴を開けようとしているではないか!
どれだけ強い攻撃であろうとも一瞬だけの衝撃であれば、はじき返せるだけの強度が結界には備わっている。
が、あんな風に一点突破でほじくられることは、さすがに想定されてない。
キュイィィィィィン。
不意に回転音が変わった!
穴が貫通したのだ。
そこから先はあっという間のことにて。
突端をねじ込んだ弾頭がここで回転を止めたとおもったら、いきなりガチャガチャと変形を始めて人型となった。
弾頭型ゴーレム!
縁に両手をかけてはビキリバキリ、穴を強引に押し広げる。
そうして十分に通り抜けられるだけのスペースを確保したところで、ふたたびトランスフォーム!
弾頭姿となって結界を突破してしまった。
ギューンと弾頭が降ってくる。
「――って、のんびり見ている場合じゃなかったのにゃん!」
ワガハイは最寄りの路地裏へと飛び込む。
間髪入れずについさっきまでワガハイがいたところに着弾し、ドッカーン!
盛大に爆ぜた。
爆炎と爆風が一帯を呑み込む。それに巻き込まれたワガハイは「あんぎゃあぁぁぁ」
〇
「ゲホゲホゲオ、カーッ、ペッペッ」
瓦礫の下から這い出したワガハイは砂塵まみれにて、まるで灰を浴びたかのよう。
ぶるるるんと全身を振るわせ、体についた砂埃を払い落とす。
「う~、ひどい目に遭ったのにゃん」
まさかの弾頭型ゴーレムにて、しかも自爆機能付き。
設計思想がヤバすぎるだろう。攻撃特化にもほどがある!
「あんな凶悪モノ……ワガハイは造った覚えがないのにゃあ」
ということは、今回の騒動とワガハイにはやはり関係がないのか? う~ん。
首をかしげつつワガハイは周囲の状況を確認する。
爆心地を中心にして被害は散見しており、破壊の痕跡が痛々しい。
が、幸いなことにケガをした者はボチボチいるが人死までは出ていない模様。
そのことにホッと胸を撫で下ろす。
「……というか、これだけ派手にドカンドカンしているのに? ちょっと不自然だにゃん。もしかして、わざとヒト以外を、もしくはヒトがいない所を狙っているのかしらん」
被害は増え続けているけど、人的被害は皆無。
一見するとヌルイ攻撃のようにもおもえるが、はたして本当にそうであろうか?
死んだ人間は当然ながら何も言えないし、発しない。
でも生きている者たちはちがう。自分たちが遭遇した体験について、感じた恐怖を周囲へおおいに喧伝するだろう。
またケガ人や避難民が続出するので、それらの面倒をみなければならない。負担ばかりが増えていく。そうなれば不平不満も噴出するのは必定。
消耗と疲弊。
そして恐怖はたちまち伝播する。
壁も結界も頼りにならないと知った時、どれだけの都民らが冷静でいられるか。
パニックが起こったら都市防衛は内部から崩壊する。
もしもそれを狙っての砲頭型ゴーレムの攻撃だとしたら……
用兵の道は、心を攻める事を上策とし、城を攻める事を下策とする。また心を屈する戦いを上策とし、兵を以って戦う事を下策とする。
と言ったのは、え~と、たしか三国志の馬謖(ばしょく)だったっけか。
あー、馬謖についての詳細は割愛する。興味がある方は、自分で調べるように。
「ひょっとして心を狙ったのかにゃあ? だとしたらとんでもないことにゃん」
言うは易く行うは難しにて、実際に戦術レベルに取り入れて実行するのは至難である。
なのに敵勢の思惑通りに事態は推移しているっぽい。
まともに戦えばトライミング側はまず負けないだろう。単純な武力ならば辺境でも随一なのは伊達ではない。
だが、伝家の宝刀も抜かなければ、ただの棒にて。
にしてもである。
「……なんていうか、妙に手慣れている感じがするにゃんねえ」
そこはかと漂うのは、この程度の工作なんぞは朝飯前と云わんばかりの余裕。
ワガハイの脳裏にふとよぎったのはナンバー006の姿である。
そういえば、アイツってば実際に国崩しをやってのけたメンバーの生き残りだったっけか。
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