寄宿生物カネコ!

月芝

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269 カネコ、ひとりはみんなのために。

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 おもっていたよりも事態が切迫している。
 こうなったらすぐにでもメテオリト大森林へ向かうべきか。
 ワガハイは「う~ん」と眉間にシワを寄せ逡巡することしばし。
 はやる気持ちをグッとこらえて、先に冒険者ギルドへ顔を出すことに決めた。
 何をするにしても、まずは状況把握と正確な情報がなければ話にならない。

 いざ、やってきたら、ギルドはヒトが溢れんばかりにごった返していた。
 ダンジョンが出現した時以来の盛況ぶりである。

「稼ぎ時だから当然といえば当然だけど、みんなたくましいのにゃあ」

 行政府から臨時で依頼が多数発注されており、報酬もいいから、それに群がる冒険野郎どもが多々。
 一方で、隅に寄っては騒ぎを冷静に見つめている者らもいる。あわてる乞食はなんとやらではないが、より旨味のある大仕事が来ると睨んで待機しているのだろう。もしくは安全確保のためにここへ避難してきたか。

 冒険者ギルドは五階建てのこじゃれた洋館のホテルのようだが、幾重にも防御魔法がかけられており、下手な砦なんぞよりもよほど頑丈な造りをしている。堅牢さでは、都内でも屈指にて。それでいて城門近くに位置しているから、いざともなればすぐに動けるというメリットもある。

 そんな喧騒だが、ワガハイが姿をみせたとたんにピタリと止んだ。

 しん………………重くて息苦しい沈黙。

 どうやらこちらにも今回の騒動にカネコが一枚噛んでいるらしいとのウワサが伝わっている模様。
 周囲から向けられるのは、胡乱げな視線であったり、険しい目であったり、なかには敵意剥き出しのものまであった。
 初めてこの地にやってきた時以上の反発を感じる。
 内心でワガハイはちょっと怯むも、それでも平静を装って前へと進む。
 すると人混みは自然と左右に分かれていった。

 受付にて。

「やぁ、騒ぎを聞きつけて王都から急いで戻ってきたのにゃあ」

 声をかければ、馴染みのおっさんは「そいつはお疲れさん。にしても、これじゃあ落ち着いて土産話もできないだろう。ご覧のようなありさまでな。悪いがギルド長のところに帰還の報告がてら顔を出してきてくれ」
「わかったのにゃあ~」

 ワガハイは三本尻尾をゆらゆらさせながら、受付前を離れて階段へと。
 途中、「おい、ちょっと待てよ!」と突っかかってきた若いのがいたけれども、それは受け付けのおっさんがギロリとひとにらみで黙らせた。

  〇

「みんなの愛されマスコットであるワガハイ、ただいま戻ったのにゃあ~」

 帰還の挨拶をすれば「はぁあぁぁぁぁ……」との盛大なタメ息が返ってきた。「いてもいなくても面倒事を起こすとはな。なんて迷惑なヤツなんだ」

 ゆるふわピンク髪の山人の女性であるギルド長。
 せっかくの愛らしいご尊顔も眉間に刻まれたシワで台無し。
 ムスっとしかめっ面にて、社長イスに座っては、足をドカっと机の上に投げ出している。
 あいかわらずお行儀が悪い。

「……にしても、たしか拘束されて取り調べを受けていると聞いたんだがなぁ」
「あー、それは……襲撃の騒ぎでみんな出払ってしまったもんで、暇だから抜け出してきたのにゃあ」
「――そうか。ところで、どこまで自分が置かれた状況を理解している?」
「えっと、トライミングと敵対している集団が、ワガハイのことを連呼しながら暴れているぐらいかにゃあ。そのせいで行政府より事件への関与が疑われていると。
 取り調べ官が国家反逆罪や騒乱罪とか大袈裟なことを言っていたのにゃん」
「それなんだが、べつに大袈裟でもなんでもないぞ。このまま身の潔白を証明できなければ、十中八九、コレだな」

 ギルド長は手で首チョンパの仕草をする。
 それすなわち、斬首刑に処すということ!

「いくらなんでも酷くないかにゃあ!」
「たしかにひでえ話だ。だが戦時下なんてそんなもんだぞ。それにガス抜きをせねばならんからなぁ。大衆の不満をそらし慰撫するためには『いけにえ』が必要なんだよ」

 ひとりはみんなのために。
 みんなはひとりのために。
 キミの尊い犠牲はけっしてムダにしない。
 だから迷わず成仏してね、ポクポクチ~ン。
 体制の維持のために、人身御供にされかねないと知ってワガハイは「冗談じゃないのにゃん!」

「しかしこのままだと本当にそうなりかねんぞ。だが、それではあまりにも不憫だ。そこで、まんざら知らぬ仲でもないから、おまえさんには特別に耳寄りな情報をやろう。
 例の建国宣言をした連中だがな、どうやら第四層にある古代遺跡を根城にしているらしい。
 で、どうするよ? もしもその気があるんだったら、関所抜けを手引きしてやってもいいぞ」

 現在、手配中のワガハイは正規のルートでは壁の外へは出られない。
 それを踏まえてのギルド長からの提案なのだろうけど、なんだか手の平の上でいいように転がされているような気がする。
 とはいえ、まごまごしていたら事態は悪化するばかりにて。
 のるかそるか、じつに悩ましいところである。
 にゃ~ん。


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