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28 戦乙女と呼ばれた騎士 Ⅰ
父は国王、母は第二妃にして元冒険者。
王族と一介の冒険者とのあり得ない婚姻、そのうえに子まで成したとあらば、ただでは済まないのが普通であろう。間違いなく火種となる。しかし私の場合はそうはならなかった。
一つには正妃であるマリル様とうちの母であるプロムが、個人的に周囲が呆れるほどに仲がいいから。それこそ本当の姉妹のように仲睦まじい。旦那である父のライガー・クロムウェルをそっちのけで、二人でいちゃいちゃしているほどに。
そんな私の母だが、私ことエイダ・クロムウェルを産むと同時に、我が子の王位継承権を早々に放棄させた。
だというのに父王もマリル様も、私を王族に留めてクロムウェル姓を名乗ることを許してくれた。他の兄姉らもそんな私を蔑視することもなく、むしろ不憫がって猫可愛がりする始末。おかげで私はスクスクと育つ。
幼少期より母から剣の手ほどきを受けて、研鑽に研鑽を重ねた結果、いつしか戦乙女とか姫騎士とか呼ばれるぐらいには強くなっていた。
そして成長するに従って容姿もどんどんと母に似てきたせいで、周囲がうるさくなってくる。小蝿のごとくたかってくる男どもが鬱陶しい。そこで私は公言する。
「自分より弱い男に興味はない」
すると今度は何を勘違いしたのか、挑戦者らがゾロゾロと現れるようになった。勝てば私が手に入ると思い込んで。
だがまるで相手にならない。不甲斐ない連中ばかりで私は、男という生き物に次第に幻滅していく。
世界に次第に瘴気が蔓延し始めて、我が国でもそこかしこでモンスターによる被害が出始めると、私は一軍を率いてコレを殲滅するを繰り返す。
本来ならば仮にも王族に籍を置く者に許される行為ではない。しかしそうも言ってられないほどに被害が急増していたのである。チカラある者が動かねば立ち行かぬほどに。
なにせ母ですらもがドレスから甲冑に身をつつみ、愛剣を手に現役復帰することを余儀なくされていたのだから。
国内の各地を転戦していたときのことだ。
辺境の村でスタンピートに遭遇する。
百や二百ぐらいならば皆で頑張ればどうにかなった。だが数が数千から万にも届こうという事態では成す術がない。次々と力尽きて倒れて行く兵士たち。斬っても斬っても敵が減らない。山津波のごとく押し寄せるモンスターたちを前にして、ついにこれまでかと覚悟を決めた時、彼が現れた。
聖なる銀の輝きを放つ剣を手に戦場を駆け抜ける男の姿に、私の視線は釘付けとなった。
一陣の風の如く吹き抜けるたびに、モンスターらの骸が転がる。
普通ならば吐き気を催すような肉片すらもが、美しく感じるほどに見事な切断面を晒す死骸たち。
聖剣の威力が凄まじいのはもちろんのこと、男の体捌き、足の運び、呼吸のとりかた、視線の動き、ボサボサの黒髪が揺れる様さえもが私を圧倒し魅了する。
「あれが……、伝説の勇者」
そこには私が理想とする剣士の姿があった。静と動、剛と柔の完全なる調和。
ほんの一瞬だけ、もしも自分の手にあの聖剣があったならば……、という考えが浮かぶもすぐに霧散した。すぐに無理だとわかってしまったから。どれほど優れた剣を手にしようとも、きっと私ではあの高みには届かない。いまはまだ……。
だから少しでも技を、その体の動きを盗もうと、彼の一挙手一投足を見逃すまいと見つめ続ける。
勇者とその仲間の男たちの登場で、どうにか窮地を救われた私たち。
戦いが終わった途端に、ガトーと名乗った勇者は豹変する。
びっくりするぐらいに腰が低い。
とても先ほどまでの勇猛果敢であった者と同一人物とは思えないほどの丁重さに、かえってこちらが戸惑うほど。むしろ供回りの連中のほうが、よほど尊大で不快だ。彼らも伊達に勇者と行動を共にしているわけではないのであろうが、私の目からすると明らかに数段以上も劣るので、どちらかというと足枷になっているように思えてならない。王国がつけた監視要員かと疑いたくなるぐらいだ。
勇者ガトーは誰に対しても同じような態度であった。
女子供どころか幼子にまでペコペコと頭を下げる。お茶を淹れてもらうたびに給仕にも丁寧に礼を述べる。いかなるときにも言葉を荒げることもなく、いつも穏やかな表情を崩さない。そのくせいざともなれば、勇者の顔となる。
最果ての地へと向かう旅の途中で我が国に立ち寄った彼らは、しばらく滞在して国難に尽力してくれた。その間中、私はずっと彼と行動を共にして、頼み込んでどうにか剣の教えを請う。
ガトーはこれまで私が剣を交えた者の誰よりも、ひと太刀を大切にしていた。
素振り一つとて気を抜くことはない。十や二十ならば誰にでも可能であろう。しかしそれが百や千、時には万さえも超える中にあって、いっさい想いが途切れることも、太刀筋が乱れることもない。その姿は神々しいまでに美しく、私は飽きることなく見惚れる。
じかに剣を交え、その重さに驚き、その筋の綺麗さに驚き、その鋭さに驚き、そこに込められた剣気に圧倒されつつも、なんとか喰らいついていく。
彼との鍛錬はきっと私の剣の道において、もっとも濃密で有意義な刻であったと思う。
だからいよいよガトーが我が国を旅立つという時、本当は彼について行きたかった。剣士としてだけでなく、一人の女の身としても。
潔く認めよう。私は彼を好いている。
でも彼に世界を守る使命があるように、私にも国を家族を仲間たちを守る使命がある。
それに彼には国元に待つ妻がいると聞いたので、この想いに蓋をすることにし、旅立つ勇者の背中を黙って見送った。
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