聖なる剣のルミエール

月芝

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29 戦乙女と呼ばれた騎士 Ⅱ

 
 勇者が無事に使命を果たし、ハイランド王国に帰還をしたという報告を受けてから、わずか三ヶ月ほどで大陸中に激震が走った。
 ジェニング王が弑逆されて、五人の娘たちが王位を巡って争い内乱状態に突入しているという。しかも聖剣と勇者は呆れて都を出たというではないか!
 命懸けの旅路の果てにガトーが迎えた悲惨な結末をも聞き及び、私は怒りのあまりその際に手にしていたグラスを握り潰したほどである。
 ああ、可哀想なガトー。
 あんまりではないか。妻にしろ親友にしろ不貞を働くにしたって、どうしてその組み合わせなんだ? 他にいくらでも相手はいるだろうに。よりにもよって、どうしてそこに手を出す……、親しい人間からの手痛い裏切りにあった彼の心情を慮ると、この胸が張り裂けそうになる。蓋をしていたはずの想いが溢れだしてしまう。

 そんな精神状態の最中にあって、父であるライガー・クロムウェル王から呼び出される。
 その場には王族全員が勢揃いしていた。
 ライガー王より告げられたのは、この度の事態を受けて近隣六か国は合同でハイランド王国に介入することが正式に決まったということ。すみやかに王都を制圧し、内乱を鎮めた後に各国の代表による臨時政府を設置して、安定を図るらしい。
 我が国からは兄上が軍を率いて参戦する。それに私も同行せよとのお達しであったのだが……。

「エイダよ。これまでよく頑張ってくれた。だから王国のことが落ち着いたら、お前は己の心のままに動くがよい」父からそう言われた。
「ガトーさんってば、ぼけーっとした感じの人だったから。あの手の男には面と向かってはっきりと想いを伝えなきゃだめよ」
「こっちはお母さんが頑張るから、安心して必ずモノにしてきなさい」
 マリル様からは助言を貰い、母からは檄を飛ばされた。
 兄や姉たちも口々に「行って来い」「頑張って」と応援してくれた。どうやら家族には私の気持ちなんてとっくにお見通しであったようだ。
 なんとも面映ゆいが、私はとりあえずガトーに会って、この胸の内をすべてさらけ出すことに決める。想いが通じるかどうかなんてわからない。それでも私は彼と一緒にいたいというこの気持ちからだけは、もう二度と目を逸らしたくないから。
 こうして私は兄に付き従ってハイランド王国へと行軍することとなった。



 ハイランド王国には六か国間で連絡を密にとりながら歩調を合わせ、包囲網を布くように進軍していく。
 混乱する国内情勢に憂いていた者らは、諸外国の関与もやむなしと素直に受け入れる。中央からの援助が途切れて苦境に立たされていた辺境ほど、諸手をあげて歓迎された。
 もちろん、なかには頑迷に抵抗を示す勢力もある。
 しかし実際に対峙して思ったのは、「弱い」ということ。
 まるで相手にならない。
 騎士や兵ら個人の力量はけっして悪くない。ただそれが軍隊としてまとまった途端に弱くなる。陣形、戦略、戦術、その他諸々がとにかく古い。
 我らは絶えず外敵の脅威に晒されているがゆえに、絶えず研鑽を積み続けてきた。どれほど平和な時代になろうとも、それが途絶えることはない。むしろ平和な時ほど、次の戦いに向けて備えなければならないのだから。
 だというのに、この国ではまるで時が止まっていたかのように進歩がない。
 それもそのはずだ。
 聖剣を有するがゆえにその恩恵にて瘴気の災禍から守られ、勇者を輩出するがゆえに他国から戦を仕掛けられることもない。
 
「聖剣頼みの国」

 その言葉の意味を遅まきながら実感しつつ、進軍は続く。



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