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30 戦乙女と呼ばれた騎士 Ⅲ
遠目にみえる王都は美しい。
精緻に建造された高い城壁が、陽の光を浴びて白く輝く。
威容を誇る四方の大門を封鎖していた連中は、各国の軍勢が進軍してくるのを見た途端に、剣を抜くこともなく蜘蛛の子を散らして逃げ出す。
大門を一歩くぐった先には惨状が広がっていた。
死んだ母親に縋りついて泣いている幼子。
一切れのカビたパンを巡り殴り合っている男たち。
濁った瞳にてぼんやりと佇んでいるだけの老人。
そこかしこに腐乱した死体が無造作に転がり、酸えた不快な臭いが辺りに漂い、見かけた人々は誰もがかなりやせ細り薄汚れていた。
そこいらで火が燻り、商業地区や住宅街の半数以上が焼け落ち、廃墟と化している。
「これがかつて永遠の都と謳われた場所なのか……」
あまりの光景に私は絶句する。
世界を滅ぼしかねない瘴気。それがもたらす幾多の災禍をものともしない聖地にも等しい場所。そこを破壊したのが狂暴化したモンスターなどではなくて、人間の手であったという事実を目の前にして、私は無性に哀しくなった。
六か国による連合軍は、速やかに各陣営を強襲しこれを制圧、五人の姫たちの身柄を抑えることに成功する。
あまりの呆気なさにこちらが拍子抜けしたぐらいだ。
長引く内乱にてどの陣営もすでに疲弊し限界に達していたのだ。きちんと訓練を積んだ騎士や兵士だけならばともかく、寄せ集めの軍勢ではとても耐えられない。そうなる前にどこかと共闘するなり同盟を結ぶなりすればいいものを、互いに隙を見せまいと我を張るうちに、機を見失い結果としてズルズルと消耗する道を辿る。なんとも愚かな話だ。
もっとも激しい抵抗をみせた仮初の女王である長姫レベッカの陣営でも、三日ともたなかった。
自称女王さまは最後の最後までギャアギャアとうるさくて、「どうして勇者と自分の仲をよってたかって裂こうとするのだ!」などと意味不明の言葉を吐いていたので、不愉快なあまり、ついぶん殴って黙らせてしまった。
念のために部下に事実確認をさせてみたが、そんな事実はどこにもなかった。
彼女の完全な妄想である。
私は軍を率いて残敵や野盗紛いの輩どもを殲滅する作業に従事し治安回復に務め、各国の首脳陣らは王国の今後についての会合を開きつつ、王都の民の救済に乗り出す。
その過程での調査にて判明したのは、かつて百万を誇った都の人口が二十万を切るまでに減少していたということ。
消えた八十万のうち、半数はなんとか王都より逃げ出したのであろうが、残りは内乱の巻き添えを喰ってしまったことがわかり愕然となる。
四十万という犠牲者数は、大陸中の戦史を紐解いたところで、見たことも聞いたこともない途方もない数字であったからだ。また外部へと逃げ出した者たちも、どれだけ無事で済んでいるのかは見当もつかない。
なにせ彼らは守られた箱庭の住人なのだ。平和しか知らない温い生き物が、のうのうと暮らしていけるほど外の世界は優しくない。
この分では犠牲者数は更に増えるであろうとの予測がたち、各国の主だった者たちはみな表情を曇らせた。
会合にて五人の姫たちの身柄は拘束、終生幽閉とすることが決まる。気持ちとしては誰もが首を刎ねて、その辺に晒したいところではあったのだが、仮にも王族であるがゆえにそうもいかない。しばらく様子を見ながら再教育を施して、使い物になるようであれば今後の王国の運営を担う人材として活用するし、駄目ならば飼殺す。
そして肝心の聖剣と勇者の行方なのだが、それはすぐに判明した。
ガトーは生まれ故郷に戻っているという。だがどうやっても連絡がつかなかったということを虜囚となった者たちから聞かされた。
これを知って首脳陣らは、とりあえず連絡をとってみようということになり、その使者の一団を率いるのに私が任命された。
兄からは「報告は部下にまかせて、そのまま向こうに残って構わない」と言われる。
その際に教えてもらったのだが「勇者を取り込むこと」は密約にて禁じられているのだそうな。だが「勇者のもとに嫁ぐ」のは問題ないらしい。
ようは特定の国や権力が勇者という強大なチカラを囲うのは困るが、それらと縁を切って一個人として向き合う分には許されているということ。
だから「ただの一人の女として飛び込んでこい」と送り出された。
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