おじろよんぱく、何者?

月芝

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061 探偵来校

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 ここのところ金運のヤツがめっぽう調子がいい。
 なにせ奈良の一件にて気前よく報酬がドーン、懐がおおいに潤う。尾白探偵事務所始まって以来の好景気到来。
 おかげで来月の家賃に頭を悩ませることもなく、飲み屋のツケも片づき、未払いだった芽衣のバイト代もキレイに清算。
 戻ってきて早々に特上うなぎにもありつけた。
 が、上がれば下がるのが運気。
 予兆はあった。
 うなぎを喰らった翌朝のこと。
 事務所の入り口前に不審な白い箱が置いてあった。ご丁寧にリボンまでかけてある。
 メッセージカードが添えてあり、あけてみればこんなことが書かれてあった。

『尾白探偵へ。快気祝いです。いずれまたお会いしましょう。あなたのワンヒールより』

 怪盗ワンヒール。
 覆面に白のタキシード、マントをはためかせ、予告状を送りつけては、マンガやアニメに登場する怪盗ばりに華麗な手口で獲物をかっさらう。
 変装の名人で、すらりとした容姿に渋い声で話していたとおもったら、魅惑の未亡人になったりもして、性別正体ともに不明。高月の夜を駆ける怪人。
 ただし変態だ。
 なにせヤツが狙うのは見目麗しい女性の使用済みハイヒール、その片方ばかりなのだから。
 だというのになぜだかファンサイトまであって、アクセス数および会員数はぐんぐんうなぎ登りどころか、滝を登って竜になりそうな勢い。
 まったくもって、世の中いろいろまちがっている。そして腹立たしいことに我が尾白探偵事務所はヤツに三連敗中。
 ちなみに白箱の中身はワインレッドのハイヒール、その右側だけだった。

「クツを片っぽだけもらっておれにどうしろと? いや、左右そろってても困るけど」

 おれはぶつぶつ文句を言いながら、迷惑な快気祝いを事務所のゴミ箱に放り込んだ。

  ◇

 そんなことがあった翌日だったか翌々日だったか。
 芽衣から「はいこれ、綾ちゃん先生から」と渡されたのはかわいい便箋。
 こんなシロモノをもらったら、誰だってドキリとするだろう。だって、ハートマークのシールで封がしてあるんだもの。しかも宛名などが直筆。
 相手は高月東高校で一番人気の女教師だという。
 性格温厚のおっとり美人で、生徒たちからとっても慕われているそうな。
 だからドキドキしながら封を切ったら中身は学校からのお知らせ。
 芽衣のことでぜひ一度お会いしてうんぬんかんぬん。

「なんだよもーっ、まぎらわしいマネすんじゃねーよ! ちくしょう、男心をもてあそびやがって」

 おっさん、ソファーにてジタバタ。
 この胸のモヤモヤ。
 例えるならば女子から呼び出されて、「ひょっとして告白されちゃうの」と期待しつつもすまし顔で出向いたら、手紙を差し出されて「これ、だれそれくんに渡しておいて」と言われちゃうぐらいのモヤモヤ。もしくは同パターンのバレンタインデー版。
 おもいのほか精神にダメージを負ったおれは、その夜、馴染みのバーでマスター相手におおいにクダをまく。「なんだかなぁ」
 見かけも中身も男前な中年マスターは、そんなおれの絡み酒にもイヤな顔ひとつすることなく、やさしく付き合ってくれた。
 マスター、超愛してる! わたしはあんたみたいな大人になりたい!

  ◇

 で、召喚状にあった日時、約束の時間に間に合うように高月東高校へとやってきたものの、校門のところでいきなり止められた。

「ちょっと待て。そこの不審者」

 声をかけてきたのはガタイのいい野郎。
 肌黒、角刈り、赤ジャージにてどこからどうみて体育教師な体育教師。
 居丈高にて高圧的な態度。生徒の手前、そういう態度に徹してるのならばたいしたものだが、いきなり来訪者を不審者呼ばわりはさすがにちょっと……。
 おれはカチンときたものの、ここは大人な態度にてさらりと受け流しつつ、召喚状を提示しようとジャケットの内ポケットに手を入れる。
 が、それをとり出すことはできなかった。
 いきなり「動くな!」と一喝されて、腕をねじりあげられてしまったからだ。
 まさかの暴力教師! いまどき?
 困惑しつつも誤解を解こうとするが、相手がまるで聞く耳を持たない。

「おのれ、殺らせはせんぞ! 大切な生徒たちは俺が守る」

 やたらと鼻息荒く、ひとりで盛り上がっている。
 どうにもヘンだとおもったら、わかった。この野郎、ウシだ。ウシが化けていやがる。
 だからか、思い込みが激しく、走り出したら一直線。
 けれどもいきなりそんなウシ野郎に突っ込まれたこっちは、いい迷惑!

「ふざけんな、誰が不審者だ! おれは綾さんから呼ばれたからこうしてわざわざ」
「なに? よりにもよって芝生先生の名前を騙るだなんて。おのれ、光瀬さんだけでは飽き足らず彼女まで毒牙にかけようというのか。なんという破廉恥クソ野郎、貴様、もう容赦せんぞ。柔道六段の技の冴えをとくと味わえ」

 六段といえば黒帯以上。つまりけっこう強い。とくにこのようにがっつり組み合った状態となれば柔道の独壇場。
 あとどうしてここでマッド女医光瀬の名前が出てくる?
 このままでは埒が明かないので、おれは愛用のパカパカガラケーを取りだし芽衣に連絡をつけようとした。
 が、その瞬間、ぐりん。
 視界が一回転して「アーッ!」


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