おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
91 / 1,029

091 畳の国

しおりを挟む
 
「あのぅ、洲本さん」
「なに、綾ちゃん」
「その、みんなの気持ちはありがたいんだけど、これはちょっと先生困っちゃうかなぁ……って」

 校内の廊下を歩く芝生綾教諭、その足下には例のピンクのスニーカーの姿がある。「これも事件解決のため、ぜひご協力を」と校長から泣きつかれて、しぶしぶ履いている。だがおもいのほかに使い勝手がよく、ちょっと気に入りつつもある。
 そんな芝生綾を三方より囲みがっちり警護しているのは女子高生三人組。
 尾白探偵事務所の助手であるタヌキ娘こと洲本芽衣すもとめい、金髪リーゼントに長いスカートという気合いの入った格好のヘビ娘こと白妙幸しろたえみゆき、文学少女風なメガネ女子の真人間である山崎美和子やまざきみわこ
 芽衣から事情を聞いた友人二人はすぐさま協力を申し出、現在に至る。
 しかし今回の件に関して動いている面々は他にも大勢いる。
「綾ちゃん先生に、ちょっといいところを見せたい」と張り切る体力と筋肉自慢の運動部の男子および、怪人インソールの被害に憤慨している運動部女子一同も「ぶっ殺す!」とこぞって参加。自警団を結成。校内に不審人物がいないか目を光らせている。
 こうなると教師たちも黙ってはいない。赤ジャージの体育教師にして、その正体は黒ウシである田島健介たじまけんすけも竹刀片手に校内を練り歩く。他にも有志たちが当番で見回りを敢行。
 いつになく物々しい雰囲気となった校内。朝から空気がピリピリしている。そんな緊張が伝わるのか一般生徒たちの表情もどこかかたくな。
 渦中にいる芝生綾はずっと恐縮しっぱなしで弱り顔。
 あんまりにも困ってしまい「いっそのことさっさと盗んでくれないかしら」とつぶやくほど。

  ◇

 授業中、ほとんどの生徒たちは教室にいる。
 当然ながら校内は静寂の空間と化す。
 廊下を見慣れない人物が歩いているだけで足音が響き、とても目立つ。
 かといって休み時間になればわらわら生徒たちがあふれて、衆人の目にさらされる。
 若人あふれる高校は、誰の目にも見咎められずに自由に行動するのは存外ムズカシイ場所。
 怪人インソールの手口は不明。気づいたときにはやられている。
 変装の名人なのか、はたまた気配を消すのに長けているのか。
 どのような手段でもって獲物をかっさらうのかがわからない以上、こうやって芝生綾に張りついているしかない。
 事前に三人娘が協議したときに「だったら職員室の金庫にでも放り込んでおけば楽勝じゃね?」とタエちゃんが口にするも、ミワちゃんが「いいえ、逆に危険よ。床とか壁をぶち抜いてこっそり中身だけ抜かれるかもしれないわ。アニメとかマンガじゃ定番だもの」と異論を唱える。

「いやいやいや、さすがにスニーカーの中敷きをパクるだけのために、そこまではしないだろう。あっはっはっ」

 と笑った三人だけど、チラリと「ヤツならばやりかねん」との不安が脳裏をかすめたので、手堅く身辺警護でいくことにした。
 ようは隙を与えなければいい。つねにこうやって張りついてたら、さしもの怪人とて悪さは出来まいと考えた次第である。

 一限目、二限目が終わるも何も起こらない。
 やがてお昼休憩になり、校内の空気がいっきに弛緩。
 しかし芽衣たちは油断しない。それこそトイレにもつき添って個室の前で陣取り、「それはかんにんして!」と綾ちゃん先生に泣きつかれてもヤメないほどに、がっちりガード。

 そろそろ昼休憩が終わるという時間になって、四人が団子になって廊下を歩いていると、前方にてガラリと引き戸が勢いよく開いた。
 こけつまろびつ、出てきたのは一人の女生徒。
 やたらと狼狽しており、「どうしたの?」と綾ちゃん先生がたずねれば、「あ、あれ」と怯えた様子で室内を指差す。
 そこは茶道部の茶室。
 座敷の奥で倒れている女生徒の姿、しかも頭から血を流しているっぽい!
 教師たるもの、もしも生徒に何かあれば真っ先に駆けつけるもの。
 だから綾ちゃん先生は、すぐさま室内へと飛び込む。
 芽衣たちもあわてて続く。
 そして倒れている生徒に声をかけようとして、ビクリ。
 だってそれは制服を着たマネキンだったのだもの。
 困惑する女教師。タエちゃん、ミワちゃんも目をぱちくり。
 しかし芽衣はハッとなり、自分たちの足下を見た。
 ここは茶室ゆえに床は畳敷き。緊急事態にも関わらず無意識のうちにクツを脱いでいる自分たち。畳の国で生まれ育ったがゆえに染みついた習性を逆手にとられた。

「しまった!」

 気づいたときには、ピンクのスニーカーから中敷きは抜かれており、それを手に持ち茶室の入り口にたつ女生徒の姿が。
 信じがたいのはその姿が、四人が見ている前でじょじょに薄れてゆき、ついには景色に溶け込むようにして消えてしまったこと。それこそ本物のカメレオンのように。
 芽衣とタエちゃんがあわてて追いかけるも、すでにあとの祭り。廊下に飛び出したがそれっぽい姿はどこにも見当たらなかった。
 この様子にミワちゃんがぼそり。「すごい……。アレって光学迷彩ってやつかな」

 光学迷彩。
 簡単にいえば透明化して周りから見えなくなる技術のこと。ステルス迷彩とも呼ばれる。自然界ではカメレオンやタコなどの擬態が有名。

 怪人インソールは動物が化けた者ではない。
 それはこの前の秘密会合のときに、四伯おじさんが確認しているからまちがいない
 だということは、先ほどのあれは正真正銘、本物の超ハイテク技術だということ。
 まんまと中敷きを盗まれたことよりも、しようもないことに最新技術を惜しげもなく投入してくる相手の本気度合いに驚愕しつつ、芽衣はしみじみ思わずにはいられなかった。

「よかった。横着して職員室の金庫にしまわなくて」


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記

月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』 でも店を切り盛りしているのは、女子高生!? 九坂家の末っ子・千花であった。 なにせ家族がちっとも頼りにならない! 祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。 あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。 ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。 そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と 店と家を守る決意をした。 けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。 類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。 ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。 そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって…… 祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か? 千花の細腕繁盛記。 いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。 伯天堂へようこそ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...