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104 リアルベアーズ
しおりを挟むなんやかやあって、本日最終戦。
リアルベアーズ対パットンズ。
試合前に両チームそろっての整列。向かい合ってみれば、まぁ、全員が大きいこと。前後左右の厚みがうちとはおおちがい。
ボビー・チュッパチャップマンとはちがう類のがっちりぼってりマッチョ軍団。
いかにもトラック野郎の腕っぷし自慢が集ったかのような顔ぶれ。
だがしかし……。
おれは握手を交わした相手にこっそり「ひょっとして、お宅のチームってば全員がクマ?」とたずねれば、「ええ、そうなんですよ」とニカッと笑みを返す男。
ツキノワグマ、ヒグマ、マレーグマ、ハイイログマ、ホッキョクグマ、あと今日は用事があって参加していないけどパンダもチームメイトにいるそうな。
なんというドリームチーム!
っていうかチーム名そのまんま!
ちなみにハイイログマは、北米大陸の暴れん坊であるグリズリーのことで、ホッキョクグマはシロクマのことである。
リアルベアーズは完全にパワーに特化したチーム編成。
対するパットンズは草臥れたおっさんと、草臥れたおっさんに化けている草臥れた動物たちの集合体。
戦力差は圧倒的である。
おれとしては戦車に竹やりで突っ込む足軽の心境だ。
他のチームメイトたちも似たり寄ったりであろう。
ところがである。いざプレイボールとなってみれば、あらら?
これはどうしたことであろうか。おもいのほかにちゃんとした試合になっている。
もしかして強敵と戦ったことによって、自分たちの奥底に眠る野球の才能がついに覚醒したのかもしれない。
なんぞというわけではなく、たんに向こうさんがちょっとへばっているおかげ。
ひたすら三振を奪われ、守備位置にてぼんやり立っていただけ。試合時間も短かったおれたちとちがい、ちゃんと試合をこなしてきたリアルベアーズ。
特に辻子ファイターズの足を活かした攻撃には苦しめられた。最後はパワーで押し切りどうにか勝利したものの、辛勝であった。
チカラがありガタイもある。クマは足も速い。持久力とて相当だ。狙いを定めた獲物を三日三晩追いかけ続けることさえもある。
だがそれはあくまでクマという四つ足形態でのこと。
こと人間の姿に化けている現状では、本来のチカラの半分も出せやしない。
けれども人間たちはちがう。すべての動物の中でもっとも二足歩行を極め、両腕を器用に操ることに長けた生き物。
人のカラダをもっとも上手に扱える動物は人間。
当たり前のことながら、スポーツなどをいっしょにするとそのことをあらためて思い知らされる。
◇
「チェストー!」
ダサい掛け声とともに振ったバットがたまたまボールに当たる。
ピッチャーの前にボテボテと転がるボール。
ひぃひぃ懸命に走っては一塁を目指すおれとはちがって、余裕顔にてボールを拾おうとしたピッチャー。
が、もう少しでボールがグローブに収まるという寸前に、くぼみに弾かれイレギュラーバウンド。三塁側へと向かってしまう。そのくぼみはボビー・チュッパチャップマンが渾身のストレートを放ったさいの踏み込みにて出来たものであった。
グランド整備が甘かったおかげで、おれは出塁に成功。
本日初めてのヒットに「だーっ」とガッツポーズ。ノーアウト一塁という絶好の得点チャンスに俄然盛り上がる味方ベンチ。
調子にのった監督。ここで出したサインはヒットエンドラン。
投球と同時にランナーがスタート。バッターはその球を打ち、進塁を狙う。
打つのと走るのを同時に行うプレイ。ハマれは敵の守備をかき乱し、ピッチャーにプレッシャーを与え、進塁が成功する確率が高まり得点圏がより近づく。
だが打球がヘンなところに転がったり、ライナー性の当たりにてキャッチされてしまうとゲッツーとなってしまう。
ピッチャー、大きく振りかぶって投げた。
おれはダッシュして二塁を目指す。しかしバッター空振り。読まれてコースを外されたのだ。
中腰でボールを受けたキャッチャーはすぐさまセカンドに送球。なかなかいい肩をしている。
タイミング的に微妙なところ。
そこでおれはダイブしてヘッドスライディング。
キャッチャーからの送球を受けたのはベースカバーに入ったショート。
クロスプレイにてあがる土煙。
煙が晴れたとき、姿をあらわしたのは地面に顔を半ばめり込ませている尾白四伯。
じつに激しいタッチアウト。ショートを守っていた男はグリズリーが化けたもの。
うぅ、雄大なカナディアン・ロッキー山脈で育まれたパワー、おそるべし。そういえばクマは張り手が得意だったっけ……か……、ガクっ。
本日のパットンズの戦績。
三戦全敗。
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