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136 弱、積木崩し
しおりを挟むありとあらゆる面においてこちらを凌駕しているメイドロボ零号。
攻略の糸口がまるで見つからない。焦るおれたち。
いまのところ芽衣がどうにか対処してくれているが、それも時間の問題だろう。すでにタヌキ娘の腹の虫がクルルルと鳴き出している。燃料切れは近い。
このままではマズイ。何か腹の足しになるものはないかと、おれは生乾きのジャケットのポケットを漁る。するとテッシュのボロクズにまみれて出てきたのは、ミルクキャンディがひとつ。パチンコ屋で相席したどこぞのおばちゃんがくれたモノ。それもかなり長いこと存在を忘れて放置してあったものだから、小袋の中でアメが半溶けして歪に変形し、ネチャネチャになっている。
いちおう芽衣に「食べるか?」と訊いたら、無言でキッとにらまれた。
◇
タヌキ娘に標準装備されている空腹爆弾のタイムリミットが刻一刻と迫っている。
耐えきれずに芽衣が狸是螺舞流武闘術の技を使ったとき。
あとに何が起こるかわからない。
「くそ、このままだとジリ貧だ。かといっておれが加勢しても足手まといにしかならないだろう。いっそのことおれが檻にでも化けてヤツを閉じ込めるか。
いや、ダメだ。それで勝利判定されるとは限らない。そればかりか強引にぶち破られる姿が容易に想像できる。割腹死とか絶対にイヤだ。どうする、どうする、どうしたら……」
何か打開策はないかと懸命に模索しているうちに、おれが目を留めたのは壁際にちょっこなんと置かれてあるネコ耳と尻尾。メイドロボの着脱式パーツ。
そいつを人質にとっての交渉というセコイ手段を検討していたら、ふと気になったのが「どうして零号はパーツ類をあそこに置いたのか」ということ。
たまたまなのか、あるいはアニマルロボット(中)の充電ポイントと同じく、ちゃんと理由があるのか。
芽衣と零号がガシガシ、ローキックの応酬に忙しい隙をついて、おっさんはこっそり壁際を差し足忍び足にて移動。
そしていざパーツのところに辿り着いてみるも、ガッカリする。
だって周辺と何らかわらないただの床なんだもの。どうやら探偵の勘がはずれたらしい。もっとも競馬予想ばりにまともに当たった試しはないけどな。
なんぞと考えながら「あー、マジでどうしよう」と頭をぼりぼり。壁にもたれたところでカチリと音がした。
壁の一部がにゅいんとせり出してきたもので、おれはびっくり!
姿を見せたのは操作パネル。
いくつかツマミやらボタンがあって、細かな文字が書かれてある。
おれは眉間にシワを寄せて、「どれどれ」とこれらを読み解く。
「えーと、なになに第一の試練の間、第二の試練の間、第三の試練の……とコレは各部屋の照明と空調のボタンかな。でもってこっちの壱号、弐号、零号ってのはアニマルロボットたちのことだろうけど、それよりも気になるのがこの『攻略難易度』ってヤツ。まさかこれって……」
リモコンが登場する以前に活躍していた、昔のテレビみたいにカチカチカチと回すダイヤルタイプの丸いツマミ。
項目は左から順に「弱」「中」「強」「凶」の四つ。
でもって現在は右端の「凶」になっている。
凶悪の凶である。おみくじの凶である。運が悪いこと、めでたくないことを意味する凶である。
おれは手元のパネルとあっちでタヌキ娘とガシガシ殺り合っているメイドロボを見比べる。
「えっ、もしかしておれたちが苦しめられているのって、このツマミのせいなの? たった少しカチカチツマミを回されたばかりにヒドイ目にあってるの?」
半信半疑ながらもおれはツマミを回し、いっきに「弱」にする。
とたんに戦闘行為をピタリとやめたメイドロボ零号。
くるりと芽衣に背を向けるなり、おれの方へとスタスタ歩くてくる。
ビクっとして警戒するも零号はおっさんにはかまわず、置いてあったネコ耳と尻尾を拾って着用。
それから足下に手をかざすと、パカンと板が開いて床下収納がお目見え。
ごちゃごちゃと雑貨が入っている様子が見て取れる。乱雑な子どものオモチャ箱のよう。
そんな中から零号が取りだしたのは積み木崩しのパーティーゲーム。
縦横三本ずつ組み上げた長方形のブロックのタワーから、参加者たちが順番に一本ずつ抜いてはふたたび上に積み重ねてゆき、最終的にタワーを倒した者の負けとなるルール。
一人ではちょっとやりたくない遊び、トップスリーにランクインする遊び。
なお残りは「一人カルタ」と「一人人生ゲーム」となっているが、これはあくまでおれ個人のランク付けである。
さきほどまでの激烈な歓迎もどこへやら。
黙々と積木タワーを完成させたネコ耳メイドロボがコテンとかわいく小首をかしげる。
「お待たせして申し訳ありません。準備が整いました。ではこれより第三の試練を始めたいと思います。ところで順番はいかがいたしましょう。ジャンケンで決めますか?」
ちなみに以下は攻略難易度についての備考である。
「弱」は、ワイワイ楽しいパーティーゲームで勝負だ!
「中」は、知恵と度胸と運にて勝機を掴め、白熱のギャンブル対決!
「強」は、お前の覚悟のほどを見せてみよ。ゴーファイト!
「凶」は、全力全開、極限、限界突破のガンガンバトル!
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