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137 栄光なき勝利
しおりを挟む積み木崩しのパーティーゲーム。
勝負を制したのは、おれこと尾白四伯である。
タヌキ娘は疲労と空腹によって指先がぷるぷる。それに生来の思い切りの良さが裏目に出て早々に脱落した。
零号とおれの一騎討ちは白熱する。一進一退の攻防。言葉による駆け引き。水面下にてくり広げられる心理戦。わずかなミスが命取り。
それでもおれに軍配があがったのは、ズバリ経験の差である。
夜ごと高月の街を飲み歩いては、スナックのお姉さんたち相手に遊興に耽っているおっさん。じつはパーティーゲームがけっこう得意。酔いにまかせて夜の蝶たちと戯れることしょっちゅう。負けたらイッキ飲みとか隠し芸を披露する罰ゲーム。勝者にはほっぺにちゅうのご褒美。
かくして大人の社交場でただれたおっさんが辛くも勝利を掴む。
しかしそこに輝かしい栄光はなかった。
割れんばかりの拍手も称賛の声もなく、向けられるのは女子高生とメイドロボからの蔑みまじりの冷たい視線ばかり。
◇
第三の試練をクリアしたおれたちは、零号から銀色のカギを渡された。
ただしちょっと大きい。
ギターほどもある。重さもちょうどそれぐらいだろう。
「おいおい、翁の残したカギって、そのまんまかよ」
「大きいです。こんなのメジャーなゴルフ大会の副賞ぐらいでしか見たことがありません」
カギをしげしげ眺めつつ、探偵と助手が「ひねりがねえ」「安直すぎる」とぶつくさ。
ちなみに「どこのカギなんだ?」とたずねたら零号は「磨瑠房楼の敷地内の北東にある時計台のものです。文字盤の裏に専用のカギ穴があります」とすぐに教えてくれた。
このデカいカギを穴に差し込んでガチャリと回したら、いったい何が飛び出すのやら。
正直とても気になるところではある。だが残念ながらそれは探偵の仕事外のこと。
おれの仕事はあくまでカギを手に入れて依頼人に届けるまで。そこから先は猫守家の一族の問題。ヘタに野次馬根性を出して首を突っ込んだら、めちゃくちゃ面倒なことに巻き込まれかねない。
好奇心はネコをも殺すらしいし、ここは渡すモノを渡して貰うモノを貰ったらとっととおさらばしよう。
◇
ネコ耳メイドロボ零号に案内されるまま、地上へと直通しているエレベーターに乗り込む。光明庵の落とし穴からの滑り台の存在意義っていったい……。
しかもこれがただのエレベーターじゃない。一般的なケーブルを用いたものではなくて真空圧を利用したヴァキュームエレベーター。
家庭用とかで低い階層を繋ぐ小型のタイプならば、ときおりお金持ちの家とかで見かけることもあるが、余裕で複数人が乗れてなおかつ高速移動まで可能となるとちょっと聞いたことがない。
おれたちを乗せた透明な箱が、全面特殊硬化ガラス張りの管の中をするする音もなく昇っていく。動きは滑らかで震動は皆無。あまりにも静かすぎてかえって落ちつかないほど。
「ったく、大袈裟な地下施設といい、アニマルロボットたちといい、こんなシロモノを作ったのはどこのマッドなサイエンティストさまなんだよ」
「天才とバカは紙一重って本当だったんですね。紙一重と資本の最強タッグです」
地上へと向かう道中でおれと芽衣が呆れていると、零号が「さぁ」と首を傾げている。
彼女も自分の造物主のことについては何も知らないとのこと。記録の類が一切消去されており残っていないという。
ただし……。
「そういえば施設内のあちらこちらに、こんなロゴマークがあるのですが。もしかしたら何か関係があるのかもしれません」
エレベーターの操作パネル。その隅っこを指差した零号。
おれと芽衣が顔を近づけると、そこには五円玉の穴ほどの大きさしかない小さなイラストが描かれてあった。
スニーカーを履いたカメレオン。
何やら見覚えのある絵面におれと芽衣はそろって「「あっ!」」
かつて尾白探偵事務所と怪盗ワンヒールと三つ巴の変態三番勝負をくり広げた怪人がいた。
名を怪人インソールという。
改造テーザーガンや光学迷彩などの最先端技術を惜しげもなく使用し、執拗に運動女子のスニーカーの中敷きを狙う危ないド変態。
熾烈な戦いの末、やつは勝負に破れて引退したものの、すぐに怪人インソールダブルエックスとして復活。守備範囲をピチピチ女子全般に拡大して、絶賛活動中。おかげで高月でのインソールの売り上げが右肩上がりにて、販売店は素直に喜べずに苦笑いをしている。
「あのバカがどれくらい関わっているのか知らないが、なんとなくここのくだらなさも納得だな」
「盛大な悪ふざけというか、男の子特有の悪ノリというか、そんな感じを受けます」
芽衣とそんな会話をしながらも、おれが考えていたのは光明庵に飾られてあった「聚楽第」の掛け軸。
猫守翁があの動物至上主義を掲げるナゾの組織と関係があるのかないのか。
迷った末にダメ元で零号にたずねてみたら、じつにあっさり真相が判明する。
「あぁ、アレですか。あれは遊び場という意味のようですよ。聚楽という言葉には、この世の歓楽が集まる所という意味があるそうで」
えぇーっ、まさかのかんちがい!
とんちんかんな深読みとのコラボという結果に、おれはみるみる赤面。
キリリとマジメな顔をして「まさか、翁は連中と関係があるのか?」とか格好をつけていた過去の自分の姿を思い出し、たまらず両手で顔を隠す。
うぅ、こっ恥ずかしすぎる。
おっさんは人知れず心に深い傷を負った。
高月に戻ったら行きつけのバー「フェール・アン・ドゥトール」に顔を出し、マスターに慰めてもらおう。
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